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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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狂喜の始まり

惑星連盟軍は必死の思いで私が乗っている旗艦にダメージを与える事は出来たが、状況は改善していない。

むしろ状況は悪化の一途をたどっている。


彼らの司令部は混乱の極みにあった。


頭を抱える参謀が「もうだめだ・・・」とつぶやいている。

集結させた残存艦隊で決戦を挑むべきだと主張する司令官も居る。

中には地球軍に対して降伏するべきだと、降伏工作を始めようとしている参謀も居る。



その様子を、私は艦橋で感じていた。


既に私は不可視化した大量のドローンを敵艦隊に送り込み、艦内に侵入させておいたのだ。

だが、それだけではない。


惑星連盟の星々にも、私は不可視化したドローンを転送していた。

そうして、この世の全てを私は観察していた。



(ああ、彼らは今、必死に戦っている。


決して勝てないであろう敵に対して、勇気を持って、絶望しながら、神に祈りながら、生きたいと強く願いながら、必死に戦っている・・・。


憎しみの炎を心に宿した軍人が、壊れかけた主砲にしがみつき必死に反撃している。

家族の写真が入ったペンダントを握り締めた軍人が、誰も居ない廊下で泣き喚いている。

腕を失い、足を失い、辺りに己の血を撒き散らした軍人が、ケラケラと甲高い声で笑っている。


彼らは全員が必死に生き、人生を謳歌している。


その結果が、「これ」だ。


「これ」が君達の・・・、そして先ほどの男の覚悟の結果なのだ・・・)


私は己の右腕を掲げた。


掲げられた細い右腕には大きな破片が突き刺さり、破片は反対側に突き抜けていた。

傷口からは心臓の鼓動に合わせて大量の血が流れ出ている。


傷口から流れ出る血が、地球軍の真っ白な軍服を赤く染めていく。

そして上着もズボンも赤く染まり、徐々に私の足元に血だまりが作られていく。


(ナノマシーンを使えば簡単に止血できるが・・・、・・・私はしたくない・・・。

流れ出た量と同量の血を作り出し、血を流し続けよう・・・。


・・・あああああぁぁ・・・、・・・痛い・・・、・・・苦しい・・・、・・・寒い・・・。

これが・・・、君達の想いなのか・・・)



掲げた右腕から暖かい血がポタポタと顔に滴る。

そして数滴の血が口の中に滴り、じんわりと鉄の味が広がっていく。


口内に滴った血を、私は舌をクチュクチュと動かしてじっくり味わう。

そして私は「彼らの感情が詰まった己の血」を柔らかい舌でじっくりと味わい、彼らの想いを感じとった。



「あああ!! 感じる!!


彼らの突き刺さる様な憎しみを!!

彼らの燃える様な怒りを!!

彼らの凍える様な恐怖を!!

彼らの暗黒の如き悲しみを!!


血の味と共に、私の心の中に彼らが土足で入ってくる!!


まさに彼らは戦っている!! 必死に戦っている!!


あああ!! 死なないで欲しい!!

美しい君達よ!! 誇り高い君達よ!! 穢れの無い君達よ!!


どうか! どうか!! この戦いで死なないでくれ!!

君達の一瞬一瞬全てが! 私の心を惹きつけて離さないんだ!!


あああああ!! しかし!! 私には出来ない!!

全力で戦う君達相手に手を抜くなんて!! そんな無粋な事出来ない!!


私は持てる全ての力を出して! 君達と戦わなくてはならない!!

それが君達を更に!! 更に輝かせる!! 美しさに磨きをかける!!


どうか! どうか! この絶望的状況を生き抜いてくれ!!

どうか! どうか! 必死の覚悟で死ぬまで戦ってくれ!!


叶う事なら!! 私も!! 私も君達と共に歩みたい!!


君達と肩を並べ! 強敵に立ち向かいたい!!

共に育ち! 共に愛し合い! 共に死にたい!!


だが出来ない!! 私には出来ないんだ!!

それは大量の純水に一滴の汚水を混ぜる様な行為だから!!


私の力が私を守り! そして私を閉じ込めている!!


この右腕の痛み! これこそが君達の想いの結果だ!!

決して超えられないはずの壁を越えた!! 君達の想いの結晶なんだ!!


なんて素晴らしいんだ!!

この瞬間! この空間! 私以外の全てが全力で輝いている!


頭が吹き飛んだ軍人も!

胴体が千切れた参謀も!

分子レベルまで分解された総司令も!

私の死を願う連盟の人々も!

地上で自決した神官達も!

私の勝利を願う新人類達も!


君達は全てが愛おしい!!


もっと近くで感じたい!!

もちろん! もちろん!! それが叶わぬ夢だという事は分かっている!

そんな無粋な事をしては! 美しい君達が穢れてしまう事も分かっている! 理解しているんだ!!



それでも!! いつか!! いつか!! もっと近くで君達を感じさせて欲しい!!」




腕から流れ落ちる私の血が薄暗い艦橋を満たし、司令室は赤い水の溜まったプールの様になっていた。

血は私の膝にまで達する量であり、旗艦の砲撃に合わせてタプンタプンと血面は揺れる。


そんな赤く、鉄臭いプールの中央で、真っ赤な制服を身にまとった私は踊っている。


私がターンをするたびに、飛び散った血が壁や天井に新しい模様を作り出す。

コンソールやディスプレイは既に私の血で赤く染まり、怪しく輝いている。


私は踊りながら、己の右手に突き刺さっていた破片を引き抜く。

その瞬間、私は歓喜とも、悲鳴とも取れる絶叫を発した。


そして私の右手からは、これまでにない勢いで血が噴き出す。

穴の開いた長袖の隙間から、綺麗なピンク色の肉が垣間見える。

その肉の先には、穢れを知らない純白の骨が見える。


私は恍惚の表情を浮かべ、うっとりと血を噴き出す己の右腕を見つめると、またもや激しく踊り、歌い始める。


私の血によって朱に染まったディスプレイは、次々に宇宙の塵となっていく連盟戦艦の姿を映し出している。


連盟戦艦が沈むたび、私は己の血を口に含み、己の血を、そして彼らの想いを存分に味わった。

そして赤く染まった顔に天使のような微笑を浮かべ、祝福とも、呪いともとれる言葉を囁く。


私は微笑を浮かべたまま、そして歌うように囁きながら、狂った様に踊り続けた。


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