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「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」 作者:しまもん(なろう版)
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戦闘開始

正直言って、私は困惑していた。


(既に地球軍は解体されているのに、何故地球軍の艦隊が太陽系を包囲しているのだろうか?

ひょっとしたら、他の星で生きていた地球人が地球に帰ってきたのだろうか?


・・・にしても数が多すぎる。

それに戦艦で帰ってくる必要なんか無いだろう)


まあ、うじうじと悩んでいても仕方ない。

私はじっと目を凝らして太陽系の果てを直接見る事にした。

そこには巨大な艦隊が、見事な陣形を組んで展開しているではないか。


(・・・やはり、これは地球軍の戦艦だ。

黄昏の時代に入る直前の時期に作られた地球軍の戦艦に間違いない。


・・・ん?


よく見ると、装甲に描かれた識別マークが地球軍の物ではない・・・?

これは・・・、確か・・・、データが残っていたはず・・・。


・・・ああ、惑星連盟か。

まだ存在していたんだな)


記録によると、敗走に敗走を重ねて宇宙の果ての小さな基地に逃げ込んだという記録を最後に消息が途絶えていた。

てっきり壊滅していたと思っていたが、どうやら今も頑張っている様だ。


耳を済ませて無線を傍受すると、彼らの使用言語は惑星連盟が共通語として利用していた言語だった。

これであの艦隊は惑星連盟の物である事が判明した。


(しかし・・・、一体何をしに来たんだろうか?

地球観光でもする為に来たのだろうか?


・・・にしては全員が殺気立っているし、そもそも戦艦に乗って観光には来ないだろう)


普通回線の傍受だけでは細部まで解らなかったので、もう少し耳を澄ませて秘密回線も聞いてみた。

その結果、彼らが地球に復讐に来たということが判明する。


彼らは大量の兵器を使って地球を破壊しようとしているのだ。

それだけ、恨みが積もっていたのだろう。


彼らの気持ちは理解出来なくも無いが・・・、それは困る。


そもそも、私が産まれたのは黄昏の時代に入ってから大分経った時代だ。

今更、遠い遠い昔の因縁をつけられても対処が出来ない。


しかし彼らは攻撃準備を進めている。

このままでは地球は宇宙の塵となってしまうだろう。


私だけが住んでいるなら地球が吹き飛んでも特に問題は無いが、地上には愛すべき新人類が居る。

新人類にとってはまさに寝耳に水といった滅亡だろう。

私としても、観察対象が居なくなっては人生に張り合いがなくなってしまうので、可能な限り攻撃は阻止したい。


そのためには彼らと戦う必要がある。

しかし、そこには大きな問題があるのだ。


大きな問題・・・それは私は産まれてこの方、「戦争の経験が無い」・・・というよりも「他人と争った経験が無い」という事だ。

産まれて一度だって喧嘩をしたことがないし、討論すらもしたことが無い。


それを平和主義というのは簡単だろうが、単に争わなくとも生きて来られたからに過ぎない。

家の中でじっとしていだけで人生を送ることが出来たのだ。


隣人とも会話どころか挨拶の一つもしたこと無いのがその証明となるだろう。

そんな私が戦う・・・、それも何かを守るために戦うというのは、中々に難しい。


そもそも、私には戦力が無い。

一応、地球軍の戦艦の図面は残されているが、それは黄昏の時代に入ってから一度も更新されていない太古の昔に描かれた図面だ。


そもそも兵器というのは良く言えば「安定した技術」、悪く言えば「枯れた技術」を使って開発される事が多い。

つまり、この戦艦は作られた当時から見ても、安定していて枯れ果てた技術で作られていたことになる。


軽くシュミレーションしてみたが、この戦艦の演算能力は相当低い。

多分、数万隻程度なら演算能力を合計しても、私の暗算より遅いだろう。


惑星連盟も地球軍の戦艦を使っているが、外見を見る限りでは色々と改造している可能性が高い。

という事は、何の改造もしていないノーマル状態の戦艦では勝てないかもしれない。



そして戦力以外にも問題はある。

一番の問題は作戦だ。


一体どういった作戦を実行すればいいのだろうか?

知識としては備わっているが、実際試したことが無い。


数秒間考えてみたが、浮かんでくるアイディアはどれも現実性に乏しい物ばかりだった。


(・・・仕方ない、ここは王道的な作戦で行こう。

そもそも戦争の経験が無い私が複雑な作戦を考える事など不可能だ。


やはり一番現実的なのは、圧倒的な物量で反撃することだろう)


そして私は、人工島の生産システムを使って宇宙戦艦の量産を開始する。



(最初は図面通りの戦艦を量産すれば良いだろう。

実際戦ってから相手の戦力を調べて、その度、図面を更新していけばいい。


一応、生産する数は相手の10倍程度でいいだろうか?


・・・正直、さっぱり分からない・・・。


まあ、この戦いは勝利する必要性は全く無い戦いだ。

いっそ、連盟艦隊がこちらの数に驚いて撤退してくれるならば、それはそれで良い。


別に、私は彼らを殺したいわけではないのだから。


・・・しかし・・・、こんな旧式戦艦で本当に良いのだろうか?


本当にさっぱり分からないが、地球を見捨てる事も出来ない)


私の指示に従って人工島は大量の戦艦を建造し、出来立てホヤホヤの戦艦が最前線に転送されていく。


そんな様子を眺めながら、私はため息をついた。



「まあ、不本意ではあるが、・・・ど素人の戦いを始める事にしよう」






「敵戦力が出現しました! 敵総数!! 我が方の約10倍!!」


惑星連盟艦隊で一番大きな戦艦の司令部に、レーダー担当者の悲鳴に似た声が響く。

その報告を受け、参謀や司令官達は苦虫を噛みしめたような顔をする。



「くっ・・・、地球軍は・・・、未だこれほどの戦力を持っていたのか・・・・」

「どういうことだ! 地球人は地球に引きこもっているから戦力は既に無かったはずではないのか!?」


「こうなっては最早どうにもならん! 攻撃を開始するべきだ!」

「待て! 相手の戦力が大きすぎる! 一度後退し、態勢を立て直すべきだ!!」

「そんな余裕がどこにある! 敵に背を向けた瞬間に全滅してしまうわ!!」


参謀や司令官達は怒鳴り声に近い言い争いを繰り返す。


当初の予想では、


「地球軍は貧弱であり、その防衛力は惑星連盟軍にとって障害にはならない」


という物だった。



しかし目の前にはこちらをはるかに上回る戦力が展開されている。

作戦の大前提が狂ったのだ。

司令部は蜂の巣を突いたかのような騒ぎになっていた。


その様子を総司令官はじっと眺め、鶴の一声を発する。


「最早ここまできたら引き下がるわけにはいかない!!

どうやら敵艦は全て改造されていないノーマル戦艦の様だ!

全員一丸となってこれを突破する!!」


その言葉に全員が固まった。


未だ敵からの攻撃は無い。

司令部には「もしかしたら撤退出来るかもしれない」という淡い期待があったのだ。

そんな期待も、今の命令で消し飛んだ。


艦隊は総司令の命令に従い、全力で地球軍に攻撃を開始する。

地球軍艦隊も、それに呼応するように反撃を開始する。


10倍の敵に対して無謀にも攻撃を仕掛ける・・・。

この時、大半の軍人は後悔していた。


ああ、地球なんか来るんじゃなかった。

先祖の言っていたことは本当だったのだ。

眠るトラを起こすべきではなかった・・・。



勇ましく攻撃を続ける連盟艦隊ではあったが、軍人達の殆どが己の行いを後悔し、死を覚悟していた。


・・・しかし、その覚悟は無駄になった。


戦闘が開始されるや否や、地球軍の戦艦は次々に撃破され、宇宙の塵となっていった。

そして惑星連盟艦隊に損失は未だ無い。

地球軍の攻撃を連盟戦艦は全てはじき返し、装甲には傷すらついていないのだ。


一方で地球艦隊は既に壊滅寸前だ。

連盟戦艦の攻撃が当たると地球戦艦は風船が割れるかのように簡単に沈んでいく。


地球戦艦は速度も遅く、まともに回避行動も取れていない。

それに地球艦隊の陣形もひどいものだった。

まるで素人が指揮をしているかのごとく、地球艦隊は右往左往している。


この現状に軍人達は歓喜する。


「やはり!! 地球軍なんぞ恐れるに足らず!!」

「ずっと引きこもっているからこうなるんだ!! 我等の恨み!思い知れ!」


「やった! また沈んだぞ!」

「今のは俺が当てたんだ! これで俺は英雄だ!!」


そして司令部にも、戦果に安堵した声が漏れる。


「やれやれ、どうなる事かと思ったが、大した事無かったな」

「やはり予想通りであったか。地球軍も弱体化している様だ」


「流石は総司令だ。一瞬で敵戦力を見極めるとは」

「しっかし、あの陣形を見たか? あんな下手な陣形初めて見るぞ」

「もし士官学校であんな艦隊機動をしたら、即追放だな」


司令部に集まっている参謀や司令官達はやっと柔らかい表情になった。


味方艦隊からは次々に戦果が報告される。

その全てが敵艦撃沈という華々しい戦果だった。


そんな報告を受け、司令部では祝賀会の話題が持ち上がるほどだった。


「まさか、ここまで簡単に攻略できるとは思いませんでしたな」

「そうですな。これは祝いの席も盛大なものとなるでしょう」


「我が方は損害軽微・・・というよりも皆無。一方地球軍は一隻残らず撃沈。これは歴史に残る大勝利ですな」

「ということは総司令の名前も歴史に残るわけだ。ああ、俺が総司令だったなら一気に有名人だったのに」

「ははは、貴様が総司令では戦わずに撤退していたかも知れんぞ?」

「確かに!俺が総司令だったら即座に撤退しているな!はははは」


その時、彼らは勝利を確信していた。

その思い上がりが判断を鈍らせる。


そして、彼らは貴重な、己の命の様に貴重な時間を浪費してしまったのだった。


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