高専は進学校としても優れています
鈴木 康司さん
国立感染症研究所 インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター 研究員
感染症研究の最前線で活躍する鈴木康司さん(所属先提供)
経 歴
2004年 長岡高専 物質工学科 卒業
2006年 長岡高専 専攻科 物質工学専攻 修了
2008年 新潟大学大学院 医歯学総合研究科医科学専攻 修士(医科学)修了
2011年 同大学院 医歯学総合研究科 地域疾病制御医学専攻、博士(医学)取得
同年~2013年 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所(現:動物衛生研究部門)農研機構特別研究員(ポスドク)
2013年より 国立感染症研究所 所属
私にとって専攻科が最適だった理由
──中学生の頃から生物系や医学方面を目指していたのですか?
その頃は今のような仕事に就くとは想像もしませんでした。ただ、理科や技術の科目は好きで、理工系に進みたいという希望はありました。そこで中学の技術の先生に相談したところ高専を勧められました。化学実験が好きで物質工学科にしましたが、入学当初もまだ生物系に進むとは思っていませんでした。
──ウイルスの研究に携わるきっかけは?
物質工学科には「材料工学コース」と「生物応用コース」の2つがあります。4年生でコース選択をする際に、バイオテクノロジーが面白そうだと思い、生物応用コースを選びました。そして当時、新任だった分子生物学の先生の研究室に所属しました。
一方、私は新潟市の出身で5年間、寮生活を送りました。長期休みには寮が閉まるので、卒業研究のために新潟から通うのは、それなりに大変です。そこで、たまたま指導教官の先生が、新潟大学の公衆衛生学教室の先生と知り合いだったので、夏休みの間、一時的に新潟大学で実験させてもらうことになりました。そこでウイルス研究に出合いました。
──大学の学部編入ではなく、専攻科に進学した理由は?
私は高専の専攻科を経て、修士課程から新潟大学の医歯学総合研究科に進みました。専攻科は大学院をターゲットとした進学システムとして非常に優れていると思います。というのも、医師を目指す人が通う医学部はありますが、私のように医学系研究者を目指した場合、該当する学部はありません。高専でそのまま専攻科に進学し、大学の学部卒と同様に学士を取得できることで、ストレートに大学院に進学できました。
大学で学部生の様子を見る機会もありましたが、学部から大学院に進学するタイミングで鞍替えをするのは、労力を要するだろうと思います。卒業研究を行いながら、大学院入試の勉強時間を確保するのは、同じ学部から進学する場合でも大変です。その点、高専は、就職するにしても、進学するにしても進路をサポートしてくれる環境だと感じました。
──現在はどのようなお仕事をされているのですか?
主にインフルエンザに関する業務に携わっています。例えば、季節性インフルエンザのワクチンを毎年用意するため、海外から輸入したワクチン候補株を増やし、ワクチン製造所に配布しています。他にも、高病原性鳥インフルエンザが国内で発生し、そのウイルスが新たな変異株である場合は、プレパンデミックワクチン※に向けた準備を進めます。
※プレパンデミックワクチン:新型インフルエンザが大流行(パンデミック)を起こす前に鳥や、鳥から感染した人(患者)から分離されたウイルスをもとに製造されるワクチン。
2016年には、兵庫で分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスをもとに、新たなワクチン候補株「NIID-001」を開発しました。開発した株は世界保健機構(WHO)のホームページにワクチン候補株として掲載されています。実際の作業では、ウイルスの作製や動物実験にも携わり、獣医師と一緒に研究を進めています。
人との縁で導かれたキャリア
──仕事をする中で、高専の出身で良かったと思うことは?
一つは、早いうちから実験に慣れてきたことです。現在も実験で薬品を扱う機会が多いため、有機化学や無機化学の基礎知識は、薬品の管理面でも役立ちます。また、一見関係ないように思えた物理化学の知識も、論文を読む際に必要になることも。高専で化学の基礎を一通り、身に着けておいたことが手がかりとなって、自分の専門から少し離れた分野にもひるまずに済みます。
──勉学以外でも高専で培ったことはありますか?
ハンドボール部に所属し、部活も頑張っていたので、先輩や後輩、週末には社会人のOBとも接する機会がありました。5年間同じクラスで過ごした同級生、寮で寝食を共にした仲間も含め、今でも続く人間関係を築けたことは良かったです。高専には、年齢や専門性など、さまざまな人が集まります。その中で、自然と人とコミュニケーションスキルも磨かれます。現在も仕事を進める上で、研究チームや同じ分野の研究者とのコミュニケーションを大切にしています。
──学生の皆さんにメッセージをお願いします。
自分の意志や信念を持つことも、もちろん大事ですが、自分を見てくれている人の助言にも耳を傾けてください。今の私があるのは、自分を見てきてくれた先生や上司、同僚など周囲の人たちのおかげです。進路というものは、自分の意志だけではなく、人との縁やタイミングによって決まるところも大きいと思います。ぜひ、高専でいろいろな人との出会いを大切にしてください。
【取材・文】堀川 晃菜(長岡高専2007年卒)