2024.04.27
# ジェンダー

“焚書”とさえ話題になった『トランスジェンダーになりたい少女たち』を性同一性障害治療の第一人者が解説

週刊現代 プロフィール

「ジェンダー肯定ケア」の身体治療は慎重にするべきだ

本書には、全米教育協会(NEA)が「子供の性自認を肯定しないと、取りかえしのつかない影響が出かねません。健全な人間関係を築き、それを維持する能力の発達が阻害される可能性があります」と警告を発しているとの記述がある。

また、世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)は「保健医療専門家は性別違和を抱える個人に対し、性自認を肯定し、そのアイデンティティを表現するための別の選択肢を探し、性別違和を軽減するための医療的処置について決定することで助力できる」としている。

これらの指針から、米国では医療従事者に対して、「ジェンダー肯定ケア」が推奨されている。

 

その医療的処置は3つに分けられる。1つ目が精神科治療。2つ目は思春期ブロッカーやテストステロン製剤などのホルモン療法。3つ目が手術(女性から男性になろうとするケースでは、乳房切除術や子宮卵巣摘出術、陰茎形成術など)となる。

そこで次に2の内容を検証したい。「ジェンダー肯定ケア」について、針間氏が見解を述べる。

「確かに個人の性自認の揺らぎなどの悩みは肯定し、受けとめなくてはいけないのは前提です。ただ、精神科医の立場から言えば、性別違和の背景には人間関係の悩みなど、いろいろな要因が関わっていることも多い。特に思春期における性自認は、学校や友人、家庭の悩みなどに影響を受けやすく、思春期前の子どもの性自認が変わりうるというのは、医学的なデータもあります。

なので、本人の性自認を肯定しつつも、実際に何が原因で悩んでいて、どのようにして解消すればいいのかをまず考えるべき。性自認だけを根拠に、健康上のリスクの可能性も指摘されている思春期ブロッカーの投与をいきなり開始するのは拙速。この点に関しては著者に賛同できます」

米国の連邦レベルでは「ジェンダー肯定ケア」が安全かつ効果的だとされている。しかし、「不適切な治療で性別移行に誘導された」などの理由で訴訟が頻発したことで州レベルでは、未成年者への薬物療法や手術を禁止する法律が成立している州も複数あるという。

欧州では思春期ブロッカーの使用見直しの動きも起きている。イングランドの国民保健サービス(NHS)は今年3月、「効果や安全性を示す科学的な裏付けが不十分」とし、思春期ブロッカーの新規投与を停止した。

スウェーデンでも2022年、政府が未成年者に関するガイドラインを発表し、薬物投与や手術について大幅に制限されることになった。その他にフィンランド、ノルウェー、デンマークなどでも「ジェンダー肯定ケア」の見直しの動きが始まっているという。

針間氏の見解は、これらの欧米諸国との動きに沿うものだと言えるだろう。

後編記事『「性別違和の背景にはいろいろな悩みがある」...“議論紛糾の書”では語られなかった「日本のトランスジェンダー事情」』では、針間氏の経験に基づいた日本の事例など紹介する。

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