2024.04.27
# ジェンダー

“焚書”とさえ話題になった『トランスジェンダーになりたい少女たち』を性同一性障害治療の第一人者が解説

米国で議論を呼んだノンフィクション『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』が4月、産経新聞出版から発行され、波紋を呼んでいる。

発売直前に「原著の内容はトランスジェンダー当事者への差別を煽る」として、書籍の出版中止を求め、発行元の産経新聞出版や複数の書店に放火予告までされるなど、大騒動に発展。一部の大手書店の店頭には置かれず、ネット上では「言論弾圧だ」との声も上がった。

本書の監訳者であり、精神科医の岩波明氏はあとがきで「現在のトランスジェンダーの問題は、差別と少数者の権利擁護の側面ばかりがクローズアップされているが、本来は医療の問題だ」と述べているように、これまでは精神医学や性科学の側面から扱われることが少なかった。

そこで今回は、本書の内容に関して性別不合(性同一性障害)の治療に多く携わる精神科医の針間克己氏はこの問題をどう捉えているのか、詳しい話を聞いた。

表紙が中身とかけ離れている

本書は、ジャーナリストのアビゲイル・シュライアーが、トランスジェンダーになりたがっている少女とその親やトランス当事者のインフルエンサー、心理学者や精神科医などの医療従事者に取材した上で、ここ20年間の米国社会で起きている「トランスジェンダー問題」を批判的に論じていく内容となっている。

トランスジェンダーとは「出生時の身体的性別と自身で認識する性(性自認)が一致していない人」を指す。日本では長い間、トランスジェンダーの中で医療施設に受診した際の診断名として「性同一性障害」(Gender Identity Disorder、GID)という用語が使われてきたが、「病気や障害ではなく医療を必要とする状態」と考えるような動きが広まり、世界的には現在使われていない。

 

その代わりに、トランスジェンダーを精神医学的に取り扱う場合は「性別違和」(Gender Dysphoria)、世界保健機関(WHO)による国際的な疾病分類(International Classification of Diseases、ICD)では、「性別不合」(Gender Incongruence)の名称が使われる予定だ(日本では現在ICD-11への移行準備中のため、「性別不合」(性同一性障害)という表現が現状では一般的に使用されている)。

著者の主張は多岐にわたるため、今回は2つの論点に絞り、検証していきたい。

1.SNS(TikTok、Instagram、Tumblrなど)のトランスジェンダー・インフルエンサーなどの影響を受け、男性を自認する10代女性が急増している。これまでは性別違和に悩まされている人々はわずかで、ほぼ男性だったという研究があるため、現在起きている現象(感染)は一過性にすぎない。これらの少女を救うためには、健康を害する恐れのあるホルモン治療や手術ではなく、「スマートフォンやインターネットの制限」「田舎での生活」「親が権威を保つこと」などが重要。
2. 性別違和を抱える個人の性自認を肯定することを前提に治療を行なう(「ジェンダー肯定ケア」)が徹底されており、「思春期ブロッカー」(第二次性徴を遅らせるために科学的閉経を誘発させる薬)を安易に投与する実態がある。その影響で、少女が正常な骨密度の成長抑制と骨粗鬆症のリスク増大、性機能不全、脳の発達阻害などの健康上の危機にさらされてしまう。

これらの内容を検証する前に、針間氏は「表紙が誤解を招く」と指摘する。

「表紙に描かれている女の子は、私の主観ですが4、5歳に見えて、お腹あたりに穴が空いている。これは女児の子宮、卵巣が取られているという解釈ができます。しかし、この本で問題にしているのは10代少女に思春期ブロッカーを使用することについてです。『親が子どもを保護する義務』をよりアピールするためかもしれませんが、事実と異なることを表紙にするのは、中身を読む前に誤った印象を与えてしまいます」(針間氏、以下同)

海外の否定派からも「この表紙は少女を将来の母親として捉える保守的な本書の内容と対応している」との批判がある。

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