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極悪令嬢に憧れた俺が極悪令嬢系Vtuberやったら伝説になってた 作者:rito
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#1女神様はとんでもないものを盗んでいきました。

初めてVtuberモノを書いてみました。作者はあまりVtuberの配信を観ませんが切り抜きはたまに視聴する系です。


段々と増えていく同接とチャンネル登録数に比例するように、俺の胸中には後悔の念が積み重なっていた。

とりあえず時間に鳴ったから配信を開始したはいいものの、未だに勇気が出ないせいでマイクのミュートは解除できていない。

流石に数分間も無言だと視聴者も異常を感じ取ったのか、チャット欄では心配する書き込みと急かすような書き込みが増えている。


うぅ、なんでこんなことになったのだろう……。

最初は極悪令嬢に転生して破滅フラグを叩き折りながらスローライフを送りたかっただけなのに。

俺は現実逃避をするかのように、過去に思いを馳せたーー。



ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー



俺の仕事は総菜センターで働く20歳独身の冴えない会社員で起床時間は6時30分。朝食を食べ、仕事の準備をして、家を出るのは7時20分。そして朝の8時から夕方5時まで働き、また、10時30分には寝床に入る。夜の時間には趣味である推しのVtuber配信を視聴し、それが終わればラノベを読んだり、ゲームしたりアニメを観るのが日課だ。


2024年12月4日の誕生日の夜、夢に女神様が出てきて「そなたの願いを叶えよう」って言ってきたから「極悪令嬢に転生して破滅フラグを叩き折りながらスローライフしたい!」って願ってみた。

当時の俺は悪役令嬢モノにハマっていたのだ。

別に変態ではない、誰だって美少女になりたいとかイケメンになりたいとかそんな願望はあるだろう。

そんな訳で、気がついたら資産家の一人娘として生を受けた。自分でも唐突だと思う。


ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー


今世の名前は江崎彩葉、死も恐れない5歳児だ。

転生した当初はTS転生なんて状況についていけなかったが流石に5年もすると受け入れられるもので、今では可愛いクマのぬいぐるみ片手に女友達と遊べるまでになった。創作やアニメでよくある精神年齢がー性別がーなんて特に抵抗はない。

そう、俺は流水のような心ですべて受け入れるのだ、あるがままに。


「いろはちゃん、クマさんはかいじゅうとたたかわないよ」


「ん、大丈夫だよ。最後はクマが勝つからね」


「だいじょうぶじゃないよぉ~」


なに、人形遊びとはクマと怪獣を戦わせるものではないのか!?

心に従うままに遊んでいると次第に俺の周囲には女友達が1人、また1人と減っていった。

どうやらクマのぬいぐるみと怪獣の決闘で怪獣が勝たないのが問題らしい。知らんけど。

別に人形遊びなんだからどっちが勝ってもいいじゃないか!


そんな幼少期を経て俺は早々に小学校へ入学、そして特に何もなく問題無く卒業した。

ここで問題が一つ。

俺は「極悪令嬢になって破滅フラグを叩き折りながらスローライフを送りたい!」と願って転生してきた。しかし現状はちやほやどころか友達ゼロ人ボッチ生活である。


どうしてこうなった。どうしてこうなったんだ!


人生2週目ならチート状態で無双できると思っていた。

例えば2週目なのを生かして子役デビューとか、あらゆる芸能事に精通しているとか。

しかし現実はどうだ。

習い事をするわけでもなく毎日ダラダラと生きて、かと言って特に特技があるわけでも才能に恵まれているわけでもない。友達100人どころか1人だって怪しいところだ。


中学校入学を目前にして俺は気づいてしまった。

もしかして今世も無駄に時が過ぎていくだけではと……?

このままではいけない、良くなさ過ぎる。

俺は、中学デビューしてちやほやされながらクラスの人気者になるぞ……!


そう決意して、3年が、過ぎたッ!


「明日は高校の入学式」


中学3年、なんの成果も得られませんでしたッ!

中学デビューなんて決意しておきながら、いつかきっと何かが起こると毎日期待して。そんな期待だけ胸に俺は遂に高校入学を迎えようとしていた。

そう、心構えだけは一人前。

無為に生きないために変わろうと危機感をピンピンに察知しながら、しかし何も実行せず今日(こんにち)

何時だって人は心の中でごちゃごちゃ思う癖に、いざ実行はせずご立派に焦燥感だけ募らせる。

都合良く生きたいと転生しても、根性もどこまでも残酷な無慈悲な世界のシステムも変わらず。


俺は高校入学を迎えたのだった!


ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー


入学式を終えて、最初のHR。

これからの高校生活を良くしていきたいと思うのであれば、ここは無難にこなさなければならない。

クラスメイトとの初顔合わせで最初にやることと言えば、もちろん。


「え~……み、みにゃさっ……みなさん!」


「先生、1番大事な時に初っ端で噛むってどんだけ緊張してるんっすか。も~」


まだ顔も名前も知らない生徒たちから突っ込みが入った瞬間、緊張していたクラスの空気が和らいだ。


「ごめんみんな、初めての担任だからちょっと緊張しちゃって……え~私の名前は石井智子です。今日から一年間、よろしくお願いします……ふ、ふぅ、最後まで言えた」


「先思いやられますなぁ~」


担任としては心配だが、先に先生が恥をかいてくれたおかげで、クラスの雰囲気は悪くないと言える。


話を聞くと、今までは副担任ばかりで、こうして担任を務めるのは初めてとのことで、微妙な空回り具合も納得だった。


「……まあ、私の自己紹介はこの辺にしておいて、今度は皆さんの自己紹介とかしてもらいましょうか!」


え゛。


「じゃあ名簿順にお願いしたいと思います。えーとまずは……桑原くんから」


まっ、マジで!?


「俺から? あー、俺は桑原龍也。サッカー部入部する予定です。……そうだな、趣味はーー」


俺が固まっている間にも周りの自己紹介はどんどん進んでいく。

匿名の相手ならいざ知らず相手は毎日顔を合わせることになるクラスメイトなんだぞ、そんなの慎重にならないはずがない!


そのうえ自己紹介は一対一ではなく一対多、つまりはみんなに見られるという覚悟も必要になってくる。


「次は私ね。堀田茜って言います。趣味は友達とどこかに遊びに行くことかなー。特技はギター。いやめちゃくちゃ上手いから、マジだよ」


やり始めたのは最近だろー、とか噓つけー、とか楽しげな野次が飛んでいる。それに笑いながらエアギターで答える堀田さん。強い。強すぎる。俺が同じようなことをしたって絶対にこうにはならない。コミュ力とそれに伴った人脈の為せる技だ。


「えー、じゃあ次、江崎さんお願いします。」


えっ、この流れで俺?

こんな盛り上がった状態から??

む。無理無理……こんなの。しかしいつまでも喋らず座っているわけにもいかない。


とりあえず立つだけ立とうとして、


「ッ!?」


いきなり椅子に引き戻された。な、なんだ!? 新手のイジメか!?


盛大に焦りながら背後を見るが、後ろの席の人も俺と同様に驚いていた。そのまま下に視線を落とす。

……どうやらスカートが椅子の溝に引っかかってしまっていたらしい。


「え、と……」


後ろの女子生徒に軽く頭を下げると、引っかかっていた部分に苦戦しながらもなんとか外して今度こそ立ち上がる。案の定と言うべきか、周囲からは妙な注目を集めてしまっていた。


「江崎彩葉……です。えっと、趣味は読書と音楽鑑賞で……特技は……特にない、です。その、よろしくお願いします……」


それでも勇気を振り絞り、詰まり詰まりになりながらもなんとか言い終える。

周囲から送られてくる、申し訳程度の小さく疎らな拍手に涙が出そうだ。


席に座り、劣等感と重圧に押しつぶされている間にも自己紹介は淡々と続いていく。


「じゃあ次は僕だね。櫨山慎吾、中学では野球してました。好きなことは友達と遊びに行くこととカラオケかな。この学校、うちの中学から来てる人少ないから友達たくさん作りたいなって思ってます。LINE、Twitter、インスタとか大歓迎だから、よろしくね」


「しんごくーん、私と交換しよー」


「えー私もー」


「今度野球部身に行こうぜ!」


つ、つぇえええええ。

後ろの席の櫨山くんがあまりにもコミュ力強すぎて眩しいぜ。

俺の自己紹介なんて前座にもならない、本当のカーストトップってものを見せつけられた気分だ。キャーキャー喧しい女子と同じに思われるのが嫌で、頑なに後ろを振り向かないが分かる。

ヤツはそのサラサラの黒髪に甘いマスクをニコニコとさせながらクラスの立ち位置を既に確立しているのだ。おまけにどこの有名人だよってばかりに周囲に手を振っていることだろう。教室で手を振る意味がわからん、全く理解できない。


劣等感と重圧に押しつぶされそうになりながらも、自己紹介はその後も恙無く行われていく。結局クラスで一番印象の薄い自己紹介をしたのは俺だろう、自分でもそう思う。

そして石井先生から細かい説明がされて、本日は解散。

俺は教科書で随分と重くなった鞄を抱えるようにして持った。


「あ、江崎さん!」


「ッ!?」


「声を掛けてきたのは、櫨山くんだ。


「……な……なん……なんでひゅか……?」


「実はこの後みんなで親睦会やろうって話しててよかったら江崎さんも……」


「ミッ……ミンナデシンボクカイ……!?」


「ご、ごめん。親睦会参加するの嫌いだった?」


「あう、えと、今日は、そのぉ……」


(うわ~どうしよう友達作るチャンスだけどいきなり初対面の大人数で親睦会なんてコミュ障にはハードル高すぎるでも友達はほしいしどうする……)


「ああ、もしかしてこの後用事とかあったのかな? 引き止めちゃってごめんね」


「あっ……いや……ダイジョウブデス……サヨウナラ……」


同級生相手にどもって気を使われて最後は敬語ではないサヨウナラ。

あまりにも滲めじゃありゃせんか?

ここで間違っても櫨山君に逆ギレしないようにしましょう。

彼は徹頭徹尾此方を気遣ってくれていますし、返事を返せないでいるとわざわざ逃げ道を作って帰してくれるのですから。

こんな非の打ち所がないツヨツヨコミュ力なかなかいませんよ。しいて彼の落ち度を言えば俺のようなザコザココミュ障の俺に声を掛けたという点だろう。


まあ、そんなこんなで俺の入学式は呆気なく幕を閉じた。

一生に一度、転生して二度。今後大きく左右する入学式はやはりまたしても気持ちとは裏腹に何も出来ずに、終わったのだった。


ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー◇ーー


「ただいまー……」


って言っても返事はないんですけどね。

帰ってきたらまずパソコンを起動させる。そしてその間に制服から部屋着に着替えを済ませて、俺は日課となったネットサーフィンに勤しむ。

学校では喋らずに家じゃ四六時中パソコンカタカタカチカチ。ヤッホー最高の青春だぜ~!

日中のネットニュースを適当に流し見して、そんなフォロワーのいないTwitterに「帰宅なう」とだけ呟いておく。

リアルの友達がいなくてもネットではたくさんいる!なんて都合のいい話があるわでもなく、やはりこちらでも友人と呼べるような相手はいない。せいぜいたまにゲームやアニメについて一言二言リプライを飛ばし合う程度の浅い関係だ。

ある程度のルーティンを終えると次はソシャゲのログインボーナスやスタミナを消費しながら、片手間に適当なまとめサイトをこれまた適当にタイトルだけ見てリンクを何度も飛んでいく。

気になったタイトルの記事を斜め読みしながら、そして幾つか目かのサイトでひときわ目を引くタイトルを見つけた。


『【流行の兆し】今期話題のバーチャルユーチューバーとは!?


「あぁ、もうそんな時期か」


最近忘れがちだが俺は転生者である。

そしてこの世界は流行りの異世界でもなければラノベチックな現代異能力バトルの世界ではない、ごくごく普通の世界である。

とはいえ前世と何から何まで同じというわけではなく、聞き慣れた有名人に混じって知らない有名人がいたり、逆に超大御所の存在が消えていたりするので、ここは前世の平行世界と俺は解釈している。


で、大事なのはここから。

現在は2017年である。

そして俺の前世は2024年までカウントされていた。

つまり俺の転生はTS転生はTS転生でも、その中の一ジャンル『逆行TS転生』だったわけだ。


いや、逆行したなら未来知識でもっと上手く立ち回れよって気持ちは分かる。俺もWEB小説、アニメを観る時今もツッコむもん。けどさ、この世界は類似した並行世界なんだ。宇宙人はいても地球人を守る宇宙人はいないしFPSはあるのに超有名SF映画だない、何なら戦国時代の武将は全員女で信長は信奈と呼ばれていた世界だ。

そんな世界で未来知識使って俺TUEEEE‼とか出来っこないって、5歳の頃にそういうのは卒業しましたよ。


ーー閑話休題。


2017年といえばオタクにとっては忘れられないVtuber黎明期だ。

今まで日の目を見なかったVtuberは年末のとある出来事をキッカケに爆発的な勢いで普及していった。

そして今世に於いてもVtuberは問題なく存在している。

ただし親分と呼ばれた彼女の姿はなく、その位置には代わりのVtuberがいて現在も第一戦で戦い続けている、

もしも年末にアレが起きなくても今までの経験則から言って、歴史は大なり小なり似たような道筋を辿るように出来ているのでVtuberは多分ここから一気に流行っていくと思う。


今のうちに先行投資でもして後方古参ファン面する準備でもしようかなぁ……

まあ、まだ4月なのでしばらくは放置でいいだろう。

そんなことを考えながら俺はまた別のまとめサイトに目を通すのだった

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