「ワシントンに電話する気か!」と怒られた
階段を下り切ると、また1枚の鉄扉があった。上の扉と同じ要領で開錠すると、左右に部屋が広がる。100坪ほどの、シェルターというには豪華な指揮所が現れた。
左手前がメインルームの指揮室で、東京23区を模ったCG地図ボードが数十mにおよび表示されていた。所々に設けられたテレビ画面には、都内の主要道路のライブ映像などが映し出されている。
作戦中に指揮室で見るライブ映像は、陸上自衛隊の中央野外通信群が派遣されて映像を送るというのが、映画などでもおなじみのイメージだろう。だが、平時から有事の際に戦車等の車輌をどう都内に展開するかを考えるため、ライブ映像を取得しているらしい。これは軍事的な意義だけでなく、災害派遣にも応用されていると考えられる。
指揮室の奥には、豪華なつくりの部屋があった。木目調の調度から、ここが大臣級以上の執務室であることはすぐわかったという。そして机の上には、赤い電話がポツンと置いてある。なるほど、そこは内閣総理大臣の専用室だったのだ。
舞い上がった軍事ジャーナリスト氏が、深い椅子に座って、赤い電話に手を伸ばすと、幹部が「ワシントンに掛かってしまう!」とその手を払った。そしてあらためて、「何も触るな」と厳重注意を受けてしまったのだ。
総理が国民に呼びかけるための本格設備
次に入ったのは、この指揮所で一番大きく、施設の最後尾にあったプレスルームだった。つくりはテレビでよく見る記者会見場と変わらない。白いスクリーンの前に演台が一つ。それに向かってパイプ椅子が約50脚が整然と並んでいた。各マスコミの代表を呼び、内閣総理大臣がテレビカメラに向かって演説するためだという。
当然というべきか、テレビ用のプロ仕様のカメラがすでに備え付けられていた。もし本職のテレビ局員がやってこられなければ、自衛隊では第301映像写真中隊くらいしか、こんな本格的な機材は使いこなせないだろうとは軍事ジャーナリスト氏の推測だ。
秘密基地への潜入体験は、ものの5分程度で終わった。だが、東京の地下にSF映画さながらの施設が実在していたことは、やはり大きな衝撃だったという。
「だが冷静に考えてみれば、こうした施設の存在は国家の防衛には欠かせないものであって、『あって当たり前』なのかもしれない」と軍事ジャーナリスト氏は話す。