闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
「きょ、今日は早めに就寝させてもらいまーす」
『お休みなさい』
夕食を終えた後で、今朝から挙動不審気味だった命が
「……後はお願いします」
「ああ。気をつけて」
次に、ベルとリリ、ヴェルフが
食器を片付け終え、テーブルを拭くと、暇つぶしに本を数冊持ってくる。
「……これだよな。ヘスティア様が読んでおけと言っていた
今朝、バイトに向かおうとしていたヘスティア様に捕まり、読んでおけと命じられた本を手に取る。黒い表紙には、白で炎の輪のようなものが描かれており、輪の中にタイトルが書かれていた。
「さて、と……」
ページを捲り、本を読み進めていく。
竜に挑み、打ち倒した2人の王と魔女の話。
己の命を犠牲にしながら、怪物から姫を救った騎士の話。
神々に挑むという使命を成し遂げ、世界を救った英雄の話。
他にも短い話はあったが、メインはこの3つであった。
「そう言えば、この本の著者は誰なんだ?……ああ、お前達だったのか」
本を読み終え、後付けに目を向けると、懐かしい人達の名が書かれていた。
「ただいまー」
裏表紙を閉じたところで、ヘスティア様がバイトから帰ってきた。
「おかえりなさい」
「あれ?グレイ君しかいない……ベル君達はお風呂かい?それとももう寝ちゃった?」
「ちょっと待っててください。夜食を作りがてら話しますから」
台所に向かい、夜食を作りながらベル達のことを話す。
「……というわけなんです。どうぞ」
「ふ~ん、わかった。詳しいことは命君達が帰ってきてから聞くよ。いただきます」
ヘスティア様は手を合わせ、夜食を口に運んでいく。俺はヘスティア様と向かい合うように座り、
「……ごちそうさま~」
「はい。食器は洗っておきますね」
「うん」
食器を洗って拭き、棚に戻す。
「グレイ君、これを読んだね?」
「ええ」
「じゃあ、君の感想が聞きたいな。大なり小なりこの物語に関わっていた、当事者の感想を」
「概ね満足ですが、そうですね……強いて言えば、この『騎士』の強さはもっと誇張表現すべきだと思いました」
「へぇ、そんなに強かったんだ。この『騎士』君は」
「そりゃあもう。満身創痍で理性と片腕、大盾を失ってなお凄まじい強さでしたし、死ぬ時は仁王立ちでしたから」
「うわぁ……むしろよく倒せたね、グレイ君」
正直、あの時の俺は運が味方しなければ負けていただろう。
運よく相手が大盾と片腕、理性を失って満身創痍でなければ、瀕死の状態に追い込まれたことで『赤い涙石の指輪』の効果が発動して俺の攻撃力が上がっていなければ、俺は手も足も出ないまま瞬殺されただろう。
「それにしても、ベル君達遅いね。何処で何をしてるんだろ」
「言われてみればそうですね」
時計を確認し、ベル達の心配をしていると、扉が勢いよく開く音とともにヴェルフ達が転がり込んできた。
「サポーター君!ヴェルフ君!命君!何があったんだい!?ベル君は!?」
「実は……」
息を整えたリリは、命が挙動不審だった理由や、ベルがいない理由を話した。
都市の南東区画こと夜の街──いわゆる歓楽街に、同郷の人物と似た人を目撃したという情報を得た千草が命にそれを話し、真偽を確かめに向かったらしい。しかし、ベルがはぐれたことに気づいて探していたが、アマゾネス達が『兎』を追い回すという騒動が発生。アマゾネス達が撤収した頃を見計らい、相手に目をつけられる前に急いで引き上げて今に至ったそうだ。
「命、非常に言いづらいんだが……そういうことはまずギルドで聞くべきじゃなかったのか?」
「……」
焦りからそこまで考えが至っていなかったのだろう、命は床に手をつき、がっくりと項垂れる。
「皆様、申し訳ありません。自分のせいで、ベル殿がっ……!」
「いや、大丈夫だろう。持ち前の足の速さで逃げ延びるなり物陰に身を潜めるなりしていれば、ベルは無事だろうさ」
あとは、『
アマゾネスの恐ろしさを俺は身を以て知っている。
昔、モンスターの群れを殲滅したところを偶然通りがかったアマゾネスの集団に見つかり、命がけの逃走も虚しく数の暴力で取り囲まれ、そのままお持ち帰りされたことがある。そして食われそうになったところで『貴女方の中で1番強いのは誰ですか?どうせ食われるのなら、1番強い女性をご所望したい』と言ったら自分が1番だと争い始めたので、こっそり逃げることができた。
「グレイ君!?顔が真っ青で全身が震えているよ!?」
「なんでもありません。アマゾネスの集団に追いかけられたことを思い出して震えているだけですから、ご安心ください」
「安心できる要素が見当たりません!!」
「そういえば命、その知り合いの名前と種族は?」
「春姫という、
「わかった。明日聞いてこよう」
翌朝、ギルドの面談用ボックス。
「【イシュタル・ファミリア】。歓楽街を勢力圏に置く
エイナさんから受け取った大型の資料の頁をめくっていく。
構成員の多くはアマゾネスで、男女比は1対9。都市南東部に位置する第3区画で娼館街を営み、日毎夜毎叩き出される利益は歓楽街全体収入の4割以上を占める。中でも戦闘員のアマゾネスは
そして、件の春姫という
「……団員の
【ファミリア】の
「それはそうとエイナさん……なんでそんなに俺と距離を取るんですか?」
部屋の隅に椅子を寄せて座るエイナさんに声をかけると、ジロリと睨まれた。
「
「心の底からごめんなさい」
椅子から降り、深々と土下座をすることで誠意を見せる。これで駄目だったら今度食事を奢るなりしよう。
「……顔を上げてください。グレイさんが全裸でダンジョンに潜ってしまったのは神ヘスティアの借金のせいらしいのは知ってますから。但し!次はありませんからね!わかりましたか?」
「イエス、マム」
エイナさんの言葉に俺は素早く立ち上がり、敬礼ポーズをとる。
彼女も溜まっていたストレスを発散できたのか、大きく息を吐いた。
「グレイさん、実は、【イシュタル・ファミリア】に関する妙な話があるんです」
部屋の隅から椅子を持ってきたエイナさんの許可を得て座ると、彼女はある話を切り出してきた。
5年前、【イシュタル・ファミリア】と敵対していた複数の派閥がギルドに報告されている公式のLv.より、遥かに団員達の力が上回っていると糾弾したらしい。ギルドはこれに応じて調査を入れ、神イシュタルも主だった
結果は白。不正どころか、ギルドに報告されていたものと一切違いはなかった。神イシュタルは訴えた派閥とギルドに訴え返し、
そして、
「実に妙だな」
「はい。あまりに鮮やかな展開と予定調和ぶりから、神イシュタルの手の平で踊らされたような気がするんです」
派閥の強さ、薄気味悪さを訴えるエイナさんは、【イシュタル・ファミリア】と関わらないほうが良いと釘を刺してきた。
エイナさんとグレイのシーンは飛び蹴り→マウントとってオラオラにしようと思ったのですが、仮にも公務員的な役職にあるエイナさんがそれをするのは駄目だと思い、変更しました。