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ゲームの遺伝子解析記録 番外編①~「ゲームゲノム」はこうして作られる!~

いつも「ゲームゲノム」をご覧いただき、ありがとうございます!そして、このnote『ゲームの遺伝子解析記録』をお読みいただいている皆さんも、改めて御礼を申し上げます。この連載では、番組本編では惜しくも入らなかった要素や企画に込めたディレクターたちの思いをつづったものになっています。ゲーマー的な表現になりますが、“追加DLC(ダウンロードコンテンツ)”としてお楽しみいただければと思います。あ、挨拶が遅れました…「ゲームゲノム」の総合演出を務めております、ディレクターの平元慎一郎です。今回は、【番外編~「ゲームゲノム」はこうして作られる!~】と題しまして、これまで放送された各回における制作の裏側を、総合演出としての目線でお伝えできたらと考えています。

この記事を執筆している時点では、全くお約束できないことで大変恐縮なのですが、過去の放送回を再放送することが今後あるかもしれず…その折に本記事を読んでおいていただけると、(番組の内容でお伝えしたいメッセージを受け取っていただきたい気持ちが一番なのは大前提として)ちょっとした表現―特に“プレイ映像”の見方が少しだけ「へぇ~」となるかもしれません。そして、これまでの放送回を録画いただいている素敵すぎる視聴者の皆さんは、照らし合わせて…“答え合わせ”ではないですが、そういった楽しみ方もご提供できたら、と筆を手に取った次第です。ざっくり言えば我々の「こだわりポイント」だったり「苦労したんすよ~」的なことだったりで本筋とは違うというか…本来は番組をご覧いただくことが我々の本懐ではあるのですが、お時間があれば是非お読みいただけるとうれしいです。

Episode 1 孤独と生命~ワンダと巨像/人喰いの大鷲トリコ~ (初回放送:2022年10月5日)

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この回で取り上げた『人いの大鷲トリコ』は、とある理由で不思議な遺跡が立ち並ぶ谷に一人さらわれた少年が、トリコという生物と出会い、協力しながら脱出を図るアドベンチャーゲーム。その特徴は、一緒に冒険していくトリコという生物の可愛かわいさ、そして生命としてのリアルさです。それを視聴者の皆さんにもゲームとしての面白さと一緒にお伝えしたいと不肖平元がディレクションをしました。

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ゲームの序盤では、プレイヤーである主人公・少年とトリコは互いを警戒してるわけなんですが、様々な仕掛けが施された谷から脱出するには互いの得手不得手を補い合う必要があります。巨大な体を持つトリコには通れない扉を開けるためには、プレイヤーである少年が裏道を通って扉を開けるスイッチを見つけたり…。はたまた少年では絶対に飛び越えられない崩落した橋を飛び越えるには、トリコの高い跳躍力を生かし、少年を背に載せてジャンプしてもらう…といった具体です。ただし、プレイヤーが操作できるのは、あくまで少年のみ。トリコに何かをしてほしいときには、少年を動かして行きたい方向に誘導したり、声をかけて“なんとなく”の指示を出す(もちろんお互いの言葉は分からないので、すぐに言うことは聞いてくれません)といったことを繰り返していきます。

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こうした“トリコというNPCと協力をしていく”というプレイ体験が本作の醍醐味だいごみです。(「NPC」とはNon Player Characterの略称で、プレイヤーが操作しないキャラクターのことです)。最近当たり前になって久しいワードを使うなら、AIであるトリコとコミュニケーションを取る、そんなゲームなんですが…物語が進むにつれてとてもトリコ=AIだなんて思えなくなってきます。もう、本当に愛おしくなってくるんです、トリコが。助けてくれれば「ありがとう」と思うし、トリコが傷つくと「絶対に助けてやるからな!」と心から思う…。それはストーリーの展開でドラマチックな出来事が起こり、感情移入をしていく、ということもそうなのですが、やはりトリコが本物の生き物に感じられるようにデザインされているからです。風になびく羽毛、ウルルとした瞳、犬や猫、鳥が行うような動物的仕草の数々―。本作を手掛けたゲームクリエイターの上田文人さんは番組の中でこう語られていました。

「トリコの存在感が(このゲームの)全てなんです。」

その意味するところは、先ほど一端を説明したプレイ体験にひもづくわけなんですが、実はそのリアルさを極限まで高める仕組みがゲームデザインされていました。それが“トリコの興味レベル”です。

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これは、トリコがフィールド内にある様々なオブジェクトに“興味レベル”というパラメーターが設定されていて、それらが常に変化していくことでトリコの何気ない行動が変化する、というもの。ちょっと説明が難しいんですが、そういうことでして…事前の取材でこの概念を知っていた私は、上田さんに「スタジオ収録で“興味レベル”の話を是非ともしてください!」とご相談していました。すると、上田さんは次のように説明してくださいました。

「実際の動物がそうであるんですけど、ステージ内にいろんなものが配置されてますよね。鳥が飛んで行ったり、蝶があったりとか、もっというと主人公の少年もそうなんですけど、それらにトリコの興味レベルっていうのが設定されていて、例えば、鳥だと“レベル4”とかが例えば入ってたとして、その状態で主人公が“レベル2”とかだと、鳥の方に興味が行ってしまう。だけど主人公がそこで、例えば高いところから飛び降りて、着地して大きな音だしたりすると“レベル2”が“レベル6”とかになるんで、トリコが振り返ってみてくれるとか。」

「ほえーなるほど~」と私はスタジオで興奮していました。(あと、上田さんはすごくお話が上手だなぁ、と。)と同時に、「ちょっと待てよ。これめちゃくちゃ面白い話として撮れたけど、上田さんの説明を生かすには、今の説明通りのプレイ映像でもってして表現しないと番組で伝わらないのでは…?でもそれって可能なんだっけ?」

というわけでスタジオ収録のあとの編集で“追撮”を行うことになったわけなんですが、これが思った通り、いや思った以上に難しい!というのも、上田さんがデザインしたこの仕様は、あくまでトリコを自然に、リアルな生き物として表現するためのもので、我々に簡単に解析できるアルゴリズムでもないですし、そもそも“意図して再現する”なんていうことを想定してないわけです(その“意図しない動きやタイミング”こそ、このトリコのリアルな表現につながるしん髄)。ですから、編集室に入ってから、この“トリコの興味レベル”の話を生かそうと決めてから、どこの場面(フィールド)だと該当プレイが撮れるかを探すところから改めて精査しました。ここでその任を受けてくださったのが今回の編集マン・岡本皓司さん。大のゲーム好きということもあって「僕、見つけておきますよ。ってか何なら必ず良い感じに撮っておきます」と何とも力強い御言葉…(番組自体の編集や構成論でもおんぶにだっこだったのに…)。

大変恥ずかしく情けない話で恐縮なのですが、レギュラー放送に向けて、総合演出である平元は、自分の担当回だけでなく、既に第2回・第3回…と別の放送回のVTRの試写やスタジオ収録の準備などで超バタバタ状態でした。「ありがとうございます!でも撮れそうな場所を発見できたら、自分で撮影しますので!」とお伝えした翌日…「平元さん、こんな感じでどうでしょう?」と岡本さん。……撮れてる!上田さんの説明の通りに“トリコが少年以外のもの(今回だと鳥)に興味を持っている状態で、少年が高いところからジャンプして興味レベルがアップし、トリコがこっちを見てくれる”という奇跡のカット(言い過ぎでしょうか…)!

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なんと岡本さんは、該当箇所を見つけるために改めて冒頭からプレイし、「ここなら…」という場所を見つけて、実に30回以上トライしてくださったのです。本作をプレイしたことがある人なら分かると思いますが、

 ⓪トリコが画角に入っている状態で
⇒①ランダムで現れる鳥を待ち
⇒②トリコが鳥に興味を持って首を動かして追っている感じを確認してから⇒③高所からジャンプして着地音を出す
⇒④トリコが少年に興味を持って振り返る(これも絶対じゃない)
⇒⑤目線が移動する少年を見つめるトリコを画角に収める(ように右スティックでカメラワークする)
というのは中々どうして骨の折れる作業です。岡本さんと本作の魅力やすごさを絶対に伝えよう、と編集初日に誓い合った志が一つ実現できた瞬間だったと感じています。

似たようなカットは、「Episode 4 究極の達成感~DARK SOULS~ (初回放送:2022年10月26日)」でも。

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ファンから“死にゲー”の金字塔と呼ばれ愛される本作の魅力を紐解く中で、まずは番組序盤でアクションゲームとしての比類の難しさと、それを克服して得られる達成感の数々をご紹介しました。その1つとしてプレイヤーに立ちはだかる“囲まれて死”…そこでこんなナレーションが流れます。

「ある建物の中に入ったところ、複数の敵を発見。一旦、引き返してみると今度は後ろからも敵が。挟み撃ちされ、さらに上からも攻撃が。あっという間に死んでしまった。」

映像上は結果的にそういう状況に追い込まれているように見えますが(もちろん普通にプレイしているとよく見る光景ではあります)、もちろんこれも担当した西田ディレクターが狙って撮影しています。本人いわく、「流れるように敵に囲まれ、きちんと追い込まれた結果引き返すも、後ろにも敵がいるように前通ってきた道で敵を倒しておかず、弓矢を放ってくる敵がどこにいるかを見せるために死に切る前に、橋の上を見上げるカメラワークをしてから死ぬ。これを1カットで表現したかった」んだそうです。

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西田ディレクターの細かい“ダクソあるある”への愛と執念は、何気ない雑魚敵(で何を選ぶか)や番組では全く触れられないプレイ中の装備品に至るまで感じることができます(って、感じることができるのは本作のファンだけなんですが…)。

と、こんな風に「ゲームゲノム」ではディレクターはもちろんのこと、編集マンも一緒になって、構成にばっちり当てはまるプレイ映像やファンだけ気づいてくれそうなカットを丁寧に撮影していくのが肝になってきます。他にも印象的な現場があったのでご紹介します。今度はスタジオ収録で感じたディレクターの用意周到な準備について。

Episode 6 ひらめきで歴史を作る~ロマンシング サガ2~ (初回放送:2022年11月9日)

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『ロマンシング サガ2』は1993年に発売されたRPGの名作。『サガ』は、当時『FF』や『ドラクエ』が日本のRPG業界をけん引する中、少し変化球のような、玄人好みのテイストで人気を博したシリーズです。『ロマサガ2』では、一国の皇帝を主人公に、平和を乱す“七英雄”と呼ばれるボスたちを倒しながら、世に平和を取り戻していく―という物語です。本作の特徴は何と言っても番組の副題にもなっている“ひらめき”。その輝きが困難な道を切り開いていくゲームシステムのなんと奥深いことか!例えば、ずばり「閃きシステム」。これは戦闘中に、キャラクターが通常の技を繰り出す際に、ランダムで(後述しますが厳密にはランダムではないところがミソ)新たなに強力な技を閃いて繰り出したり、はたまた敵の厄介な特殊攻撃を回避する“見切り”を発動したりするシステムです。そのときキャラクターの頭上に現れる電球は、まさに希望の光!ピンチな状況で形勢を一気に逆転する可能性を秘めた「閃きシステム」は、さながら漫画の主人公が覚醒するワンシーンかのような驚きとカタルシスがあります。

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と、このあたりの醍醐味は、ぜひ担当した中村ディレクターのnoteを読んでいただければと思います。

さて、そんな『ロマサガ2』のスタジオ収録の一幕。「ゲームゲノム」では、VTRや出演者の皆さんによるクロストーク以外にも実際にMCやゲストがゲームを遊ぶ演出を少しだけ入れています(制作班では「プレイルーム」と呼んでいます)。これは「ゲームは遊んでなんぼだよね」という番組のスタンスや「このゲーム、こういうシーンで盛り上がるんです!」といったことをお伝えしたい意図があるのですが、『ロマサガ2』回でもMCの三浦大知さんとゲストの金子ノブアキさんが強敵に立ち向かうシーンをご紹介しました。用意したのは、本作で強敵として立ちはだかるボス・七英雄の一人「ノエル」。このバトルで、先述した「閃きシステム」の醍醐味だいごみを視聴者に感じてもらうのが目的でした。

画像 三浦大知さん 金子ノブアキさん
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その中で次のような目標と条件を満たす撮影を目指したのです。
(前提として収録時間に限りがあるので、各回のプレイルームもドキドキしながら撮っています)
①ゲーム後半・屈指の強敵とされる「ノエル第二形態(怒り)」を倒す
②本作の特徴である「閃きシステム」が発動される瞬間が見たい
③強い敵に何とか勝った、というドラマチックなシーンにしたい

実は①だけを実現するのは、そう難しいことじゃないんです。なぜならキャラクターを十分に育てておいて、強いパーティーのセーブデータで挑めば高い確率で勝てるからです。でも、そうしたらまず③が叶わない。つまり歯ごたえのないバトルで勝ってもうれしくないよね、ということです。さらに②を撮影するのも運任せにできません。なぜなら新たな技や回避術「見切り」の“閃き”には、偶然のように見えて実は緻密なアルゴリズムが組み込まれているからです。このことについて、番組内で本作を手掛けたゲームクリエイター・河津秋敏さんはこう語っていました。

「2回切る攻撃を使ってると、3回切る攻撃を覚えたり。もっとたくさん切る攻撃を覚えたりとか、プレイヤーがやってることに応じてひらめきやすい。そういう意味でのリアリティーっていうのは常に考えていて。単純に本当に偶然だとゲームとして成立しないんですね。そこはちゃんとある程度プレイヤーがコントロールしていけるように、狙っていけるような仕組みになってます。」

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そう、“閃き”は多少狙えるようにできているゲームシステムなのです…!そこで、中村ディレクターは先ほど説明した条件を満たすために、こんなセーブデータを用意したそうです。

  • 即全滅せず、それでいて苦戦する塩梅を何度も探って、ちょうど良い強さのパーティーを作る

  • ノエルは剣の攻撃が強力で、瞬く間に形成不利になる可能性も考慮し、剣攻撃に耐性のある防具も選別

  • 収録時間の制限を考えて、体術や大剣などのキャラに強力な技を習得させ、大ダメージを狙えるようにしておく

  • 閃きがバトル中に起きるよう、武器の熟練度は上げるが、技自体はまだ閃いていない状態にしておく(一度閃いた技は、その後再び閃くことはないため)

  • 同じ理由でノエルが使う技への回避術「見切り」は閃いていない状態で臨む

  • 弓が得意な「イーリス」と槍が得意な「インペリアルガード」をパーティーに加え、新たな技を閃きやすくする(実はキャラごとに閃き適性=“技の閃きやすさ”というのが決まっている)

こうして準備万端で臨んだプレイルームでの収録。あとは、狙っているような劇的な展開になるよう、テレビの神様が微笑んでくれるのを祈るのみ…。ちなみに「ゲームの神様」は横で収録の様子を満面の笑みで見守ってくださいました(河津秋敏さんはファンから親しみを込めて“河津神”と呼ばれています)。そして、結果は…ご覧の通り。

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画像 金子ノブアキさん

見事、ノエルの強力な技に対する回避術「見切り」を閃き、ギリギリのところで大勝利!少年のように喜ぶ金子さんの姿がとっても印象的でした。この舞台裏には、中村ディレクターがこの状況を作り出すために入念に準備した“精緻なセーブデータ”の存在があったのです…。ここで「もしノエルに勝てなかったらどうするつもりだったの?」と思った皆さん!実は、本作には“継承システム”といって、パーティーが全滅すると次の皇帝を選ぶことになり物語が進んでいく仕組みがあります。これまでの皇帝が閃いた技も引き継がれるという、まさに歴史を感じるゲームシステムでもあり、番組でも章立てしてご紹介しました。もしお二人がバトルに負けていたら…この“継承システム”の振りとして構成する、というプランも中村ディレクターにはあったそうです。

と、思い出していけば「ゲームの番組ならではのこだわりポイント」は山のようにあるのですが、本当にキリがないのでこのあたりにしておこうと思います。『ゲームゲノム』は、扱う作品を知らない、プレイしたことがない人にもその魅力や奥深さを伝えることを一つの目標にしていますが、一方で作品を愛している方々が「それそれ」とか「なるほど」と気づいてもらうような番組作りも目指しています。もちろんそれは各回で掲げているテーマ(我々はそれを“ゲームゲノム”と呼んでいます)や出演者の方々のクロストークの中での気づきが第一ではあるのですが、VTRの映像やスタジオセットに飾ってある小道具、選曲に至るまで“ゲームゲノム・イースターエッグ”を散りばめています。これまでの放送も、終盤のラインナップの中でも是非そうした部分にも注目してもらえるとうれしいです。

ここまで記事を読んでいただいた皆さん、ありがとうございました!次回も番外編。番組オリジナルテーマ曲「Game Genome Dreams」について。その魅力や作曲を手掛けてくださったコンポーザー・下村陽子さんとのレコーディングの裏側などをお伝えできればと思います。

画像 次回もお楽しみに

ディレクター 平元慎一郎

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