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ゲームの遺伝子解析記録vol.3 『逆転裁判』

はじめまして。「ゲームゲノム」第3回を担当しました、ディレクターの西尾と申します。
まずは、放送をご覧いただいたみなさま、本当にありがとうございました!

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シリーズ1作目からの愛好家・松本幸四郎さん、本田翼さん、ゲームクリエイターの巧舟たくみ しゅうさんが出演。

この7月まで初任地・岡山にいて、8月に東京のドラマチームに異動したものの、ドラマではなくゲームの番組を作っている…と少々ややこしいプロフィールです。というのも、10月からシリーズ化したこの「ゲームゲノム」は、全国から「この作品をこんなテーマで扱いたい」という提案を募って組まれたチームで、全国津々浦々、多種多様なディレクターたちが各回を制作しています。

NHKに入局して4年と少し。まさか職場で「なるほどくんが…」「ミツルギの…」「トノサマンが…」という会話が大まじめに繰り広げられるなんて、誰が想像したでしょうか。大好きな作品で番組を制作する喜びと、大好きだからこその末恐ろしさを抱えながら、この数か月を過ごしてきました。

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真っ青なスーツとギザギザアタマがトレードマークの主人公・なるほどくん。2001年に発売されたゲームボーイアドバンス版映像より。

『逆転裁判』は、新米弁護士・成歩堂なるほどう龍一(通称なるほどくん)となって、無実の罪を着せられた依頼人を助けるゲームです。依頼人はなぜか圧倒的不利な人たちばかり。現場の調査や関係者への聞き込みで証拠を集め、審理を“逆転”していく快感がたまりません。舞台は法廷で主人公は弁護士ですが、法律などトクベツな知識は一切必要ないミステリーのゲームです。

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ライバルの検事・ミツルギ。深紅のスーツと首元のヒラヒラがトレードマーク。現在はリメイク版もあり、大画面でも楽しめる。

私と『逆転裁判』の出会いは、たしか小学生の頃だったと記憶しています。4歳上の姉が遊んでいたものを借りたのが最初でした。

強烈に残った印象は、「怖い!!!」

小学生の自分にとっては現場写真や事件の回想がとにかく怖かったのです(特に『逆転裁判2』第3話「逆転サーカス」の現場写真は強く印象に残り、夜思い出しては震え上がってふとんにすっぽりもぐっていました)。そんな思いをしながらもやめられなかった。なぜならとにかく「オモシロイ」から!

続きをやりたくてやりたくて仕方しかたがない。何よりも「自分で謎を解く」オモシロさのトリコになってしまいました。見つけた手がかりから導く「もしかしてこういうことじゃないか?」という推理。それが当たっていたときの喜びと、推理を進めるうちにたどり着いた意外な真実への驚きがたまらないのです。

たとえば、放送でもご紹介した湖の上での殺人事件(『逆転裁判』第4話「逆転、そしてサヨナラ」)。銃声だと思っていたものが実は違う音だったとか、事件の“目撃”者は実はわざと作り出されていたとか、逆転につぐ逆転の数々に、重要参考人が飼っているオウムを尋問するという衝撃展開も…(コレもゾッとしました)。何度も間違えて、つまずいて、行き詰まりながらも、すべての点が鮮やかに線で結ばれ、真実にたどり着いたときの「驚き」と「なるほど」!「異議あり!」が決まって音楽が消えたときの気持ちよさは、プレイした方にはきっとわかっていただけると思います。

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ムジュンを“つきつける”際の決めゼリフ「異議あり!」。推理が当たっていると、音楽が消えて審理が展開する。

開発者のたくみしゅうさんは、『逆転裁判』を作るにあたってご自身が大好きなミステリーのオモシロさを“体感”できるゲームを作りたい、と思っていたそうです。美しく解き明かされる真相に、アッと驚く大どんでん返し。それを傍観者として見る“読者”から、物語の中に入り込み自分で謎を解く“プレイヤー”へと、ミステリー体験の幅を広げた画期的な作品でした。

ゼッタイに言いたい本作のオモシロさ、もう1つ言わせてください。登場人物が「もれなく」「全員」魅力的!なのです。

毎回殺人事件が起き、真犯人は犯罪を隠蔽、さらには無実の人間が有罪にされようかという深刻きわまりない事態の中でも、どこか現実離れして、ポップな印象を受けます。それはひとえに、登場人物1人1人の個性が成せるワザです。29分という短い放送尺ではとても入りきらない、レギュラー出演のメインキャラクターはもちろんのこと、各話ゲストすべての、本当にすべての人物が、(名前も含め)個性にあふれています。そんな彼らが織りなす人間ドラマが、オモシロくないわけがない。

この強烈な世界観・キャラクターの個性には単なるオモシロさ以上の理由があると、今回巧さんにお話を伺ってわかりました。1つは老若男女誰もが楽しく遊べるように、そして何年たっても色あせないように、一切の生々しさや時事性・社会性というものを取り払い、浮世離れした世界観であること。もう1つは、ミステリーはどうしても登場人物が多くなってしまうので、「この人誰だっけ?」を防ぎ、推理に集中できるようにすること。この2点を考えて仕組まれていたことだったのです。たしかに「なるほどくん」も「イトノコ刑事※」も1回聞いたら忘れ(られ)ない強烈な印象を植えつけてくれますし、殺人事件を扱いながらもイヤな印象はうすく、小学生でも楽しく遊ぶことができました。

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毎回の事件捜査を担当する刑事で、本名は「糸鋸いとのこぎり圭介」。イトノコと略されるのは不本意だが、みんなに略されてしまう。
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作中でヤングに絶大な人気の特撮ヒーロー「大江戸戦士トノサマン」。手にしている武器は「トノサマン・スピアー」。

さて、今回の番組を作るにあたり、人生最大級に緊張する出来事がありました。それは、開発者・巧舟さんその人に「こんなテーマで『逆転裁判』の魅力を伝える番組を作りたいんです!」と思いの丈をぶつける最初の打ち合わせです。

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スタジオで話す巧舟さん。『逆転裁判』シリーズの生みの親。

巧舟さん。これまで何度となく、ゲームをクリアしたあとのエンドクレジットで、バン!と表示されるお名前を拝見していた、アコガレの、伝説の、ネス湖のネッシー、いや、ひょうたん湖のヒョッシーのような…誤解をおそれずに言えば、私にとって「巧舟」とはもはや“概念”だったのです。アポイントを取ったときは「巧さんって実在するんだ…」なんてすっとぼけたことを考えたりもしていました。とにかく、そんな人に会うだけならまだしも、その人の作品に対してああだこうだ自分の考えを述べに参上するわけですから、想像するだけで胃がキュッとなるのはおわかりいただけるのではないでしょうか。

前日の夜はあんまり眠れず、カプコン本社の最寄りである大阪・北浜駅には何時間も前に着き、暑さでもうろうとしながら入った川沿いのイケてるカフェで空きっ腹にアイスコーヒーをガブ飲みした結果、もともと痛かった胃をさらに追いこむことになってしまいました。

打ち合わせの参加者は、巧さん始め『逆転裁判』開発チームのみなさんと広報チーム含めた6人・対・私と「ゲームゲノム」総合ディレクター平元(この日が初対面)の2人。・・・・口の中はもうカラカラです。あんなにアイスコーヒー飲んだのに。岡山から持参したおまんじゅうを渡すタイミングすらつかみかねてウロウロ。法廷で追い詰められたなるほどくんよろしく、目は泳ぎ冷や汗をかきながら早口にまくしたてる私の話を、みなさんやさしく「うん、うん」と聞いてくださいました。

初めて会った巧さんはとても気さくで物腰柔らかで、何よりもご自分の“コトバ”を持っている…このとき、私の頭にパッと浮かんだ印象は、“コトバの魔術師”。20年の長きにわたってたくさんの人を魅了してきたシナリオ、セリフの数々の源泉にふれたような気がして、感無量でした。

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巧さんが打ち合わせにみずから持参してくれた資料。

ところで、「ゲームゲノム」という番組は作品をいくつかのキーワードで章立てて、その魅力を紐解ひもといていくというつくりになっています。私も『逆転裁判』を紐解ひもとく4つのキーワードを考えてプレゼンしたところ、最後の1つが巧さんから「作り手としての自分の考えとは違う」という指摘を受けました。胃が痛い。胃が痛い!

そこからは何度かメールのやりとりをしながら再考を重ね(巧さん、いつも丁寧なお返事をくださって本当にありがとうございました)、たどり着いたのが今回番組でテーマとして掲げた「逆転はミステリー」。コトバというのはフシギなもので、1つでいろんな意味を持たせることができます。このテーマも、一見よくわからないかもしれませんが、さまざまに解釈できるコトバです。

画像 スタジオのようす
今回テーマに掲げた「逆転はミステリー」。
  • まずストレートに、『逆転裁判』は「ミステリー(=推理)ゲーム」であること。

  • 「ミステリー(=推理)作品」のおもしろさは、「アッと驚く大どんでん返し(=逆転)」にあること。

  • “逆転”という現象の気持ちよさがもつフシギ(=ミステリー)を紐解(ひもと)くこと。
    など、など。

「一発逆転のチャンス」とか「逆転サヨナラホームラン」とか、“逆転”には人々を魅了してやまないフシギな力がある。「逆転はミステリー」というテーマを掲げて『逆転裁判』のゲームゲノムを解剖していくことで、そのフシギ(=ミステリー)に迫れるのではないか?そんなココロを、このコトバに込めて、謎解き“風”に番組を進行してみました。

画像 出演者のみなさん

松本幸四郎さん、本田翼さん、巧さん、3者3様のコタエ。

「逆転するかもしれない、その希望を力に勇気をもらえる」

「ピンチになる前に一回逃げましょうという考えもあるけれど、逆転していく快感を味わいたい」

「人生でイチバン楽しいのは、逆転」

いま、逆境に立つすべての人へのエールであり、困難に立ち向かうすべての人の背中を少しだけ押すような、そんなステキなコタエでした。番組をご覧になったみなさんにも、「自分ならどんなコタエを出すだろうか」と考えていただけたらとてもうれしいです。

収録のあと、巧さんがこんなことを話してくれました。

僕たちが作ったものって、実は50%なんですね。
みなさんに遊んでもらうことで100%になって、そこでゲームは完成する。
作り手として、僕はいつもルールやシステム、シナリオを理屈で考えて組み立てているのですが、
それをどう解釈するかは遊び手のみなさんしだい。
100人が遊べば、100通りの『逆転裁判』が生まれるんです。

最初の打ち合わせで「違う」と言われたことも、遊び手としての自分が受け取った『逆転裁判』である。番組を通して巧さんが改めてこんな風に感じられたというのがとてもうれしくて、ちょっぴり泣きました。

そしてこの言葉は、私たち番組制作者にもそのまま当てはまることです。

私たちが作ったものは、実は50%なんです。視聴者のみなさんに見てもらうことで100%になって、そこで番組は完成する。「ゲームゲノム」はこれからも全力の“50%”をお届けします。ぜひご覧いただき、この番組を100%にしていただけたらうれしいです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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「ゲームゲノム」第3回は、2022年10月26日23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信をしています。

画像 NHKプラスでの見逃し配信はここをクリック

ディレクター 西尾 友希

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