やはり俺の相棒が劣等生なのはまちがっている。   作:読多裏闇

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バス編が3話も続くと流石にまずいと思ったからやった。後悔をしていない。

と言うわけでバス編下です。


九校戦編9

 

 

「・・・結局何がしたかったんだ?会長は。」

 

 バス前での強制連行により会長の隣に座らされて(本来そこに座る予定だった市原先輩は通路に敷設されていた補助シートをわざわざ出して座っている)サマードレスの感想やら、外で待っていた間魔法を使いっぱなしだった件でのお説教も含めて散々玩具にされたあげく、追い出された経緯などを聞かれ配慮が足りなかったかもしれない、と頭を下げられたり。

 暇つぶしの玩具にされるわどこかの副会長に睨まれるわで既にゲッソリである。

 八幡もうおうち帰りたい。・・・帰っても小町も水波も居ないんだった・・・詰んでたわ。

 で、当の本人である会長はというと夢の中である。

 そう、散々人で遊んだあげく疲れて寝てしまったのである。子供かよ・・・。

 まぁ、結果として解放はされたから良しとするか。

 俺は早々に撤退を決め、バスの後方へ移動しようと移動中にそれは起きた。

 

「危ない!!」

 

 なんだ・・・?言い方の切羽詰まり方が尋常じゃない。

 叫び主の視線の先を追うと反対車線に走る自動車がブロック塀を乗り越え空高く舞い上がる光景が広がっていた。ちょっ!!マジかよ。

 対向車線から乗り上げて飛んできているため、進行方向には俺達のバスがある。このままでは直撃コースである以上間違いなく危険だ。本来ならば。

 まぁ不幸中の幸い、ここには魔法技能師が多数いる。対処を間違わなければ大惨事には・・・。

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

 

 洒落にならなくなってきた。元々洒落にしては笑えない部類だったが。

 本来、”魔法を使う”とは何らかの対象の情報を書き換えることで、現実世界の事象がその情報の状態に置き換えられていく、という現象を引き起こす事を指す。

 言わば魔法師は世界の情報という名のプログラムを書き換えて、プログラム通りに動いていた現実世界の理を故意に変更する力を持つ、世界から見たらハッカーの様な存在だ。

 ここで問題なのはそのハッカーのプログラム書き換えは基本的に1つの対象に対して一人のみであることだ。

 考えてみて欲しい。何かを動かすプログラムの微調整を多人数が思い思いの方法で書き換えたとする。それも、お互いに連携を取らずに。そんなことをすればどうなるかは考えるまでもない。プログラムがまともに動かなくなるのだ。

 魔法にも似たような性質がある。同じ対象に複数の人間が同系統の魔法を作用させたり、魔法の処理が終わっていないものに同じ様な魔法をかけると本来かかっていた魔法もあとからかけた魔法も効力が薄くなり、本来の働きをしなかったり、事象改変そのものが作用しなかったりする。状況的な類似点から擬似的なキャストジャミングなどと言われている。

 一応、物体の事象を書き換える力が強い人間が無理やり押し通して魔法を作用させる事も出来るが、それこそ圧倒的な差がないと話にならないし、ひとりならまだしも複数人で魔法の掛け合いが始まったら手に負えない。 なにせその人数分の干渉力を力業で吹き飛ばさなければならないからだ。

 

 現在進行形でこっちに転がってきている車だった物はそういった地獄絵図が完成していた。

 パニックを起こした生徒がどうにか車を止めようと魔法を使い、互いに干渉しあってろくに働かず、魔法が使いにくい空間だけを生成して車はほぼ何も作用されずそのまま突っ込んでくる。はっきり言ってヤバ過ぎる。

 せめてもの救いはとりあえず対処には時間がある事。いや、正確には”作って貰った時間”だが今のうちに動かないと本格的に詰む。

 まずは・・・。

 

「雫、魔法のキャンセルだ。」

 

 あえて雫の視界を塞ぐように立って次の手を準備しつつ説得する。

 

「え、でも・・・。」

 

「話してる時間がないんだ。頼む!」

 

「わ、分かった。」

 

 雫が魔法をキャンセルし始める。

 ふぅ、これでかなり楽になる。

 魔法の事象干渉は魔法資質が高いほど高くなりやすい。このバスには魔法師社会において日本の高校生の上澄みが乗ってる。そいつらがよってたかって魔法をぶつけているものに事象干渉で勝て、とか無理ゲーだ。深雪でも手を焼く案件レベルだろう。

 雫が抜けた分だけでもかなり状況は楽になった。俺も仕事が減るしな。

 さて、そろそろ・・・。

 

「八幡さん!!」

 

 向こうもまとまったか。

 

「あいよ。深雪、3秒後だ。」

 

 そう言いつつ圧縮してあったサイオンをバスの中にいる魔法を今行使している奴らに叩きつける。完全ではないが大ざっぱな術式解体(グラムデモリッション)をぶつけ、一時的に魔法を定義破綻させとりあえず黙らせる。

 後は残ったサイオンの嵐、本来なら時間とともになくなっていくものだがそんなことを言っている暇がない。 車はまだまだ元気にこっちに突っ込んできてるからな。

 達也がどうやらサイオン吹き飛ばそうとしているが、それ、軍事機密指定の魔法だろうが。

 現状魔法を妨げているのは事象干渉が無いただのサイオンの嵐と中途半端に定義されて放置されたサイオン情報体。

 事象干渉は消したため領域干渉はない、ならば後は車にへばりついた無用なサイオンを吹き飛ばすだけだ。

 オレはCADの引き金を引く。

 

 

 

 

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~摩利side~

 

 

 

「危ない!!」

 

 その叫び声と共に始まった交通事故騒動は混乱を極めていた。

 突然の事にパニックになった何人かが魔法を放ち車の周囲は魔法の相克が発生し続けている為、有効な魔法を撃つことを封じられている。

 現状に有効な魔法は私にはない。魔法のキャンセルを呼びかけるものの、アドバイスを聞く余裕があるならそもそも魔法を無秩序に撃ったりはしない。

 そうなると現状を対処できる人間は少ない。

 

「十文字、押し切れるか?」

 

「防御だけなら可能だが、サイオンの嵐が酷すぎる。

 消火までは無理だ。」

 

 火事も併発している自動車を防御したとしても、近距離で火災や爆発が起きれば二次災害は必至だ。

 

「私が火を!」

 

 その司波の提案に十文字が頷く。

 とは言え、このサイオンの嵐でまともに魔法が使えるのか?

 

「八幡さん!!」

 

 比企谷?

 このタイミングで比企谷を呼ぶ理由が分からず比企谷の方を見ると恐ろしい量のサイオンが特定の生徒に向けて発射される。術式解体か!!

 

「あいよ。深雪、3秒後だ。」

 

 まるで呼ばれる事が分かっていたかのような会話で目的だけを言い合う。そして拳銃タイプのCADを自動車へ向け放ったのは”壁”だった。

 自動車へ向けて発射された壁は無秩序に散ったサイオンを押しのけるように進み、車をも貫いた。結果として生み出されたのは余分なサイオンが押しのけられた空間。事象改変が行われる前のような、”魔法を使う上では全く問題がない空間”だった。

 いきなり壁が出てきたときには何かと思ったが、あれはサイオンで出来た壁なのだろう。それで余剰なサイオンを押しのけることで無秩序のサイオン流を押しやって魔法が撃てる環境を無理矢理作ったわけだ。

 まるで消しゴムのようだな。

 そして、示し合わせたように司波が魔法を撃ち消火を行う。車の温度を常温に下げ、生存は絶望的ではあるが運転手を殺さない魔法選択は非常に鮮やかな手際だ。十文字も車体を停止させる壁を使って車を強制停止、こうして交通事故は未然に防がれた。

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 事故が防がれて少し時間をおき、現在は事故状況を保存するためにエンジニアチームが事故車両の撮影などを行っている。こちらはその間に真由美が生徒の統率をはかってる状況だ。

 

「十文字君、ありがとう。いつもながら見事な手際ね。」

 

「いや、消火が迅速だったから、止めるのに集中出来た。

 それに、あの状態であれば俺でなくとも対処が可能な状態だった。出来ることをやっただけに過ぎない。」

 

 確かに、魔法はクリーンな状態で発動できていたが、あの質量物を切迫した状態で止める胆力を持っているのが普通だと考えるのはどうかと思うぞ十文字。

 

「それでもよ、おかげでバスは無傷なんだから。

 それに深雪さん、すばらしい魔法だったわ。」

 

「光栄です、会長。ですが、無理な魔法行使にならなかったのは、八幡さんが阻害している魔法式を消し去ってくださったからです。

 そうでなければどんな無理な魔法行使になるか、自分でも少し怖いです。

 八幡さん、ありがとうございました。」

 

「いや、今回の一番の功労者は市原先輩だからな?

 バスが減速魔法で止まってなかったらぶつかるのほぼ確定だったからな?」

 

 ・・・気が付かなかった。

 確かに、あのスピードのバスが停車するのにブレーキだけでは難しい。補う形で減速魔法が働いていたのは間違いないだろう。

 だが、あの切迫した状況でそれを理解出来る才能は末恐ろしいものだった。

 

 その後は真っ先に状況を引っ掻き回した花音を叱責したことを含め全体的に反省会が開始。周りも司波を称える声や森崎を励ます声などが響く。

 だが、どうにも真由美の表情が優れない。何かを懸念しているような表情で後ろの席を見ている。なんだ?

 声をかけようと思ったところで真由美が動いた。

 

「八幡君大丈夫?さっきから顔色が悪いわ。」

 

 最初は心配するにしても何故ここまで深刻な表情をしているのか疑問に感じたが、比企谷の先程の行動を思い起こして考えの甘さに後悔した。

 恐らくは、同じ無系統魔法を使用するが故の気付きだったのだろう。私は無系統魔法への造詣が深くないし、普段、使用する機会も滅多にない。だが、それを”異常に使用することの危険性”は魔法に携わる人間として理解している。

 そもそも、体内サイオンは現代魔法において重要視されない。

 何故ならば無系統魔法の様に体内のサイオンをそのまま使うのでも無い限りは起動式を立ち上げる以外で使用されないものだからだ。

 現代における魔法は高速化が進み魔法を行使するスピードが1秒を切る。そして、基本的に体内サイオンが消費されるのはその魔法を撃つための処理に当たる部分であり、昔のような長い詠唱があるわけではない為サイオンを消費し続ける時間が短い。

 起動式自体のサイオン消費は微々たるものであり、継続的に消費する状態は所謂常駐型魔法くらいのものだ。そして、前述の通り常駐型魔法はサイオン効率も悪くあまり好んで使う人間は少ない。何より高速化された現代魔法においては、もう一回同じ魔法を行使し直した方が速く効率も良い場面の方が多い。

 だからこそ、考えが及ばなかった。

 術式解体ですら一発で並の魔法師の一日の消費量に匹敵するサイオン消費量と真由美は言っていた。なら、”自動車一台を覆い尽くすのに必要なサイオン量”はどれくらいになるか。

 ・・・背筋に寒いものが感じられた。

 

 

 

 

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~真由美side~

 

 

 最初の感想は感動。

 その後の印象は驚愕。

 時間をおいて考察を始めた段階でそれは疑惑と焦燥感に変わる。

 それが八幡君の魔法を見た私の心の推移。

 

 今の私の心はしっちゃかめっちゃかで正直まともに思考がまとまってる自覚はない。それ程までに衝撃的な出来事だった。交通事故騒動が終わって、その後の対応をした記憶はあるものの、どこか事務的で生徒会長としての体裁をなんとか整わせたに過ぎない物だった。

 状況の変化に心がまるで追いついていない。いえ、正確には、八幡君の魔法に驚きすぎて他のことが手についていない感じだ。

 言い方に語弊はあるけど、ただ事故が起きただけだったら恐らくは私は取り乱すことも、まして、"生徒会長として統率をとることをリンちゃんに促される”様な失態も犯さなかったでしょう。

 それ程までに八幡君の魔法は凄かった。凄くて、びっくりして、何より怖かった。

 最初の多人数を同時に狙い撃つ術式解体はどちらかと言えば私の使うサイオン粒子塊射出に近いものだけれど、私のように起動式を狙い撃ちして構築を阻害するのではなく魔法式その物を吹き飛ばしていたため圧力は桁違い。

 本来の全て吹き飛ばすものに比べて確実性は欠けるものの術者を乱して魔法を維持できなくさせる、という方針で魔法を停止させている。

 私のをスナイパーライフルだとしたら、術式解体は大砲。今やったのは散弾って所かしらね?

 これに関してはかなりのレアスキルではあるものの再現可能な人間は居なくはない。術式解体が使える術者なら十二分に可能性があるレベルのもの。

 問題はこの次。

 あの壁はサイオンで出来た壁。それも、事象改変に付随されたサイオン情報体を押しのけるほどの圧力をかけても形状を維持できる強度を持った壁。

 それを車にぶつけることで箒で掃くように不要なサイオン情報体を除去する。その性質は”吹き飛ばす”というよりは"押しのける”に近いもの。

 ちょっと十文字君の魔力防壁に近いものを感じたけれど、事象改変を伴わない魔法処理はイデアを経由しないので、自分のサイオンでまかなわないといけない点からも魔法師の負担は段違い。

 私だったら壁の生成すらままならないわね。

 だからこそ、純粋にすごいと思った。そしてその行程のレベルの高さに驚き、その異常さに戦慄を覚えた。

 そして、問わなければいけない。いえ、場合によっては責任を取らなければならない事にもなりうる。

 今回の事件、起こった事象におけるそのほとんどの責任を下級生に押し付けてしまった。それは私達の命を彼らに背負わせてしまったのと同義。

 それによって起こってしまった問題を私は知る義務がある。

 だからこそ問いかけた。なのに・・・。

 

「・・・ただの乗り物酔いっすよ。

 さっきの事故で派手に揺れましたんでそのせいですかね?」

 

 あぁ、もう!この子は!

 ちょっとくらい素直にものを言う事出来ないの!?

 

「さっきの魔法、ものすごい量のサイオンが使われてたわよね?それに術式解体も何度も使ってた。

 並の魔法師だったら魔法力枯渇で魔法師生命に影響が出かねないレベルよ。

 大丈夫なの?」

 

 ごまかしも嘘も許さない。

 そう、目で訴えると視線がおろおろし始める。この期に及んでまだ誤魔化すのね・・・。

 再度追求を強めようと思っていたところ、周りが静かになっている事に気が付いた。流石に生徒会長がわざわざ下級生を追求していたら目立つわよね・・・。

 まぁでもこれは結果オーライ。この件では逃がすわけにはいかないもの。

 

「心配なさらなくても大丈夫です、会長。」

 

「深雪さん?」

 

 そういえば八幡君に何かあれば真っ先に気が付いて世話を焼きそうな子が全く動いて無かったわね。

 ・・・きっちり隣に座って世話をいつでも焼けるようにスタンバイしてるけど。

 

「八幡さんは魔法発動の効率化が非常に上手く、通常の魔法師よりも少ないサイオン消費量で魔法を撃てるのです。それに加えて魔法操作技術も卓越しておりますから無属性魔法でも必要最低限でかつ無駄の一切無い魔法が放てます。

 ですので、あの程度のこと八幡さんのお力を持ってすれば造作もない・・・。」

 

「おい、俺がチート人間みたいになってるだろうが!

 流石にあんだけサイオン使ったら疲れくらいはするっての!・・・あ、やべ。」

 

 深雪さんの言うことは多分嘘じゃないみたいだし、そこは一安心だけど・・・語るに落ちたおバカさんが釣れたわね。さぁ、どう料理してくれようかしら?

 

「成る程ねぇ。

 深雪さん?八幡君の事、介抱お願いね。それはもう盛大に。

なにせ、凄 い 乗 り 物 酔 い で、体調が悪いらしいから。」

 

「はい!?・・・あ、いや、確かにすげー疲れてますけど2,3時間寝れば問題な・・・。」

 

「お任せ下さい会長。」

 

 心配させた罰よ。盛大に世話を焼かれるが良いわ。

 

 

 




 バス編の大筋は終わったよ。
 まだ降りてないけどな・・・。

 バスから降りるのも下手くそなのかよって煽られる日も近そうです。読多裏闇です。
 一応バス編下をお送りしてています。とりあえずこの後はさくっと終わらせて次にいくつもりだったんですが、なんかちらっと書きたいことを今思いついた次第です(←良いですか、こうやって唐突に文章が増加して亀速度になるんですよ。テストに出ません。

 思いつきは面白くなりそうなら組み入れますが状況次第ですね。(などと、このパターンで思い付いたもの全て叩き込んでいる作者が供述しており、余罪の追求を(ry

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