ブチギレ立香ちゃんの漂白世界旅   作:白白明け

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投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
少しづつですが書いていきますので、気長に待ってくれて頂けると嬉しいです。

願わくばみなさまの暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m






立香ちゃんは救われた!

汎人類史 対 中国異聞帯。

 

 

互いの世界の滅亡を掛けた戦いは、驚くことに咸陽に辿り着く前に最終決戦(クライマックス)を向かえることとなる。

 

 

「聞いて驚き、見て感涙せよ。この大地に朕が降り立った。即ち之が天命である!」

 

立香達が咸陽に向けてシャドウ・ボーダーを走らせている最中にその軍勢は現れた。

人ではない機械兵‐傀儡兵を率いる者もまた人ではない。‐否、彼の者こそがこの異聞帯(せかい)に置ける唯一の人である。

 

唯一神としてではなく唯一人として世界に君臨する天子が何故、鉄の聖躯を捨てて創り上げた生身の身体で立香達の前に現れたかを語る為、時間を少し巻き戻そう。

 

それは始皇帝が立香が情報収集を行った村を”衛星落とし”にて滅ぼした時の事。

 

数時間前の出来事だった。

 

 

 

中国異聞帯の王‐始皇帝は話の分かる善き王だった。民の繁栄を宿命として自らに課し生き続けること数世紀。国は富み、民は安寧を約束されている。始皇帝の執政の元で世界は統一され、喰うに困らず病は無く、故に争いも無くなった世界に置いて、たとえ異世界からやってきた敵である立香達に自国の情報を漏らす者がいたとしても始皇帝は気にも留めなかった。

 

元より民たちから”敵”という概念を消し去ったのは始皇帝本人である。無知は罪でなく安寧の為に必要なものである。

 

故に”咸陽”に”驪山”という国の要の情報を立香達‐カルデアに伝えた民が居たとしても、善君たる始皇帝は民を罰することはない。己が治世の在り方に疑問を覚えることも無く淡々と情報として収集するのみである。

 

ただし、立香達、中でも暗殺者‐荊軻から情報を与えられたことは、許されざる事だった。

 

村の人々に立香達から与えられた者。荊軻が月夜に詠んだ詩。それは始皇帝が禁忌として数世紀前に根絶した”儒”。即ち世界を破滅に導く人の知。一度(ひとたび)、目覚めれば癌細胞の如くに増殖し世界を蝕む疫病に対し始皇帝は一刻の猶予も慈悲も与えはしなかった。

 

愛すべき民たちと守るべき村々の上に天命‐この異聞帯にかかる帯‐衛星軌道上に設置された長城の一部を落とすことに迷いはない。

 

「無知は罪ではない。知を積み上げることが罪となる。重なる罪は大罪となり世界を滅ぼすだろう。利己がある限り人は欲望に打ち勝てない。それに耐えうる真人は唯一、朕のみである」

 

故に”儒”の芽は摘ままれねばならないものだった。

 

此処にダ・ヴィンチの警告は真実のものとなり立香手の届かない場所で立香に良くしてくれた誰か達は死んでいく。

 

それは仕方のない事だ。どうしようもない事だった。だから、始皇帝の心は揺るがない。

 

愛すべき民と守るべき村々を滅することに幾ばくかの痛みは覚えるが、之は世界に恒久的な繁栄と平穏を齎す為に何度も行ってきた天命が故に眉一つ動くことはなかった。

 

だから、始皇帝の心を動かしたのは村々の滅亡という小さすぎることでは無く、もっと大きくて、そして、ちっぽけなことだった。

 

天より下る天命。衛星落としを見上げながら、これから滅ぶ村人たちは膝を折り始皇帝に祈りを捧げていた。慈悲を求めるものも居た。眠るような死しか知らないから突然死の意味も解らない者たちが多く居た。兎も角として、天を仰ぎ見ることしかできない者達の中に‐彼は居た。

 

少年は墜ちてくる星を前に涙を流していた。

始皇帝により失われるモノの大きさに涙を流し、奪われるモノの尊さに悔し気に歯を見せていた。

 

死とは終わりだ。其処に少年が焦がれた”自由”は無い。あるいは死という自由すら始皇帝に奪われた気がして、悔しくて仕方がなかった。

 

けれど、何も出来ない自分の弱さに絶望し、他の大人たちと同じように膝を屈さずに最後まで天を睨みつけることが出来たのは”自由”を教えてくれた人が居たからだった。

 

 

 

『怒りたいなら怒っていい。許せないなら許さなくていい。許すことが大切だっていう人がいるけれど、怒ることは滑稽と言われるけれど、そんなことは関係ないよ。いつからかな。いつから人は、他人の目からでしか自分を見れなくなったのかな。そりゃ、他人の気持ちは大事だよ』

 

 

 

それは酒の席で語られた子供の駄々の様に我儘な理屈で、理性的なモノでは無くて、滑稽だと笑われて然るべきもので、全人類が彼女と同じになってしまえば世界は三日で終わってしまうだろう。

 

『でもそれ以上に、君は君の心を自由にしていいんだよ』

 

それでもその言葉には少年を想う気持ちが溢れていたから、そう笑う彼女の笑顔が少年の眼には空に浮かぶ太陽や月や星よりも美しいものに映ったから、だから、彼は天に向かい吼えたのだ。

大人たちに止められても止めずに、口を塞ぐ指を噛み千切りながら、天に向かい吼えた。

 

「■■■■■■!」

 

それは天子たる始皇帝を貶める言葉だった。

 

そして、自由を唄う詩だった。

 

 

その詩を聞いて始皇帝は既にカメラへと変わっている目を見開き愕然とする。無知であるが故に死に怯えることなく死する筈の民たちは”儒教”に晒され恐怖を覚えてしまった。故に一瞬で全てを終わらせる衛星落としは始皇帝の慈悲であった。光に包まれ彼らは一瞬で蒸発して失せる。其処に少しの恐怖は有っても痛みはない。

 

その筈だったのに‐心を痛め泣いている者がいた。そして、その者は死の間際に天に祈ることはなく(おのれ)を呪った。

自由の賛歌を唄いながら、己が生まれた世界を呪った。

それは聞き間違いようのない天の統治の敗北であり、故に荒野と化した村々を見下ろしながら始皇帝は知らねばならないと理解する。

 

もう二度と目の前で起きた痛々しい惨劇を繰り返さない為に始皇帝は藤丸立香という個を理解しなければならないと決意した。

 

そこから先の始皇帝の動きは迅速だった。元より一つ決めれば国家総動員が彼の国の強みである。全ての工程は一時間の内に終えられた。

始皇帝は手始めに身を隠していたコヤンスカヤを見つけ出し捕らえた。この異聞帯にいる限り始皇帝の天眼からは逃れられないと言った芥ヒナコの言葉に偽りはなくコヤンスカヤは驚くほどあっさりと囚われの身になった。自分の身に降りかかるだろう拷問に内心、戦々恐々としたコヤンスカヤだったが、始皇帝が口にしたのは意外にも商談だった。

 

始皇帝が所望する商品は藤丸立香の情報。それも既に芥ヒナコから得ている人類救済のグランド・オーダー、カルデアでの藤丸立香ではなく”今の立香”の情報。料金はコヤンスカヤがちょろまかした傀儡兵五十ダース。

 

その商談を断れる筈もなくコヤンスカヤはロシア異聞帯での情報を始皇帝に提供した。

 

その中で始皇帝は立香に率いられる6人の英霊(ヒト)と妄執の果てに神の如き獣となった皇帝(ヒト)の戦いをみた。

 

それは世界の命運を賭けた戦いだった。互いが互いの世界を滅ぼすと決めながら拳を握り殴り合う、余りにも非文化然とした人間性のぶつかり合いだった。

その戦いに始皇帝は目を奪われる。

 

「‐‐‐‐うむ、(あっぱれ)だ」

 

始皇帝はその戦いを肯定した。

 

「星の命運を賭け、世界を一つの盤として見た時、殴り合い(これ)ほど分かり易い決着が他にあろうか。のう、衛兵長よ。朕が今、考えていることがわかるか」

 

「天の御心は私如きには理解の及ばないものでしょう。しかし、陛下の傍で150年に渡り仕えていた身から言わせていただくのなら、本当に宜しいのですか?」

 

善哉(よい)。朕はこの決着を善きものとする。芥の話の全てを信じるのなら、決着はこうして付けるべきである」

 

「驪山では既に百名の冬眠英雄を解凍する準備が終わっています。私がこうして戻ってきたのも、それを陛下に伝え直接の命を賜る為。この戦いの勝敗は既に付いているのですよ?」

 

「であればこそ、朕は世界に向けて問い質す。朕の治世を袋小路とし剪定したことは間違いであったと。…そして、何よりこの者の言葉には朕としても同意せざる得ないぞ」

 

始皇帝は拳を握る立香を想う。

 

「編纂事象の地球に居座る上で、どちらの『(ひと)』がより相応しいか……これは人と人との殴り合いで決めるべきこと。握った拳を振り下ろす先が無いなど、有っていい筈がない」

 

「では、芥ヒナコとの約束は反故にするのですか?」

 

「否。朕は約束は違えんぞ。星詠み(カルデア)には総力を持って対処する。その中に絶対的力である朕自身も含むというだけのこと。…衛兵長。よもや朕が負けると思っているのか?」

 

「まさか。陛下は絶対にして完全。たとえ生身で相対そうとも負ける筈がありません」

 

「で、あれば何の問題もないぞ」

 

「確かに」

 

偉大なる皇帝(ツァーリ)とちっぽけな人間(マスター)の世界の命運を賭けた戦いを見た。

 

予想を覆し最後に拳を天に掲げていたのは人間だった。その光景に真人たる始皇帝は目を奪われた。

 

「汎人類の民草よ誇れ。其方らの代表は朕と雌雄を決するに値する英傑(ひと)である」

 

その一念を持って、持てる利の大半を捨てることを理と呼びながら、やはり人である衛兵長には始皇帝の御心を推し量ることは出来なかった。

 

確約された勝利を手放すことは機械であるなら有り得ない判断。‐そう考えて、衛兵長は何を馬鹿なと聖躯(せいく)を前に膝を折る。

 

「全ては陛下の御心のままに」

 

「うむ」

 

始皇帝は鉄の聖躯を持ちながら機械ではない。心を持つ人であり真人である。

 

故にこの不合理も言ってしまえば簡単だ。言葉にするには幼稚に過ぎるが、戦いをみて始皇帝は立夏ちゃんのファンになっていた。

 

偉大なる皇帝(ツァーリ)·イヴァン雷帝が蒸気王·バベッジと戦い彼らの旅路に敬意を抱いたように、始皇帝もまた本来なら見る筈の無かった異なる異聞の戦いを見て藤丸立香という人間に敬意を抱いた。

 

 

故に訪れた対決を前に始皇帝は傀儡兵の大群を率いながらもそれらを使うことを良しとしない。

 

これは世界の命運を賭けた人間同士の戦いである。

 

「故に鉄の聖躯を捨て朕は立つ。感涙し拝謁せよ。今、其方らは世界の王の前にいる」

 

始皇帝は全てを語った。戦う理由と意志を語り、対等に大地に立つ矜持を語った。

 

それを受けての立香の反応はクスリと小さく笑うことだった。

 

アハハと笑う。

ウフフと嗤う。

キャハハと哂う。

 

「意味わかんないかも。支離滅裂なんだよ。ねえ、始皇帝さん。私のロシア異聞帯での戦いを見て、まるで物語を読んで登場人物の気持ちを理解した気になるのは、楽しいよね?」

 

それは始皇帝を前にして許されざる嘲笑でありながら、歓喜にも満ちていた笑い。

 

「わかるよ。そして…私は嬉しいの!」

 

相反する感情の渦巻くままに立香は笑う。

 

「だから愛して!恋しいの!貴方は人で!自分の世界を守る為に私の前に立ってくれているよ!どこかの負け犬とは大違いなんだよ!アハ、アハハ、アハハ!嗚呼(ああ)、ようやく私は…救われるんだね!」

 

始皇帝‐中国異聞帯の王である自分を前に嬌声を上げる時点で分かっていたことだが、この少女は何処が壊れていた。

 

そして、それで良いのだと始皇帝は思う。

 

世界の命運の責任。天下万民の運命を背負い立てる人‐真人は(おのれ)唯一人(ただひとり)

 

その判断に間違いはなく‐只人(ただびと)でありながら世界の命運を背負い立つ少女は壊れてしまっている。

その姿を美しく思い、哀しく思い、救いたいとも思うからこそ始皇帝はこうして彼女の前に立ったのだ。

 

「其方の藻掻き苦しむ旅路はもう終わらせよう。其方も、其方の仲間たちも朕の世で安息せよ。芥より全ては聞いている」

 

始皇帝は優しき王である。

故に敵である立香達すら救うと明言する。

 

始皇帝の後ろに後光が輝き救いの光が立香を照らす。

 

「喜べ!汝が救われる時は来た!人の世界の命運は朕が任されよう!」

 

それに対して立香は光に手を伸ばす。

その光は始皇帝の光でなく天に唯一輝く太陽(ほし)の光。

ではなく太陽の光に消え霞んでいる昼間の星々の光。

眼に見えないが確かに存在するか細いそれを掴みながら立香は言う。

 

「それは嫌かも!世界を救うのは美少女マスター☆立香ちゃんとその愉快な仲間たちなんだから!傲慢にも、ねっ!」

 

人よ。誇れ。人であることを。

何処かで誰かが言った言葉を吠えながら、か細き光は世界を照らす。

 

そう信じる。

 

 

世界の命運を戦い。

 

始まりの大将戦。

 

始皇帝 対 藤丸立香。

 

いざ、尋常に始め。

 

 

 

クリプターを一人倒した。次はどうする?

  • 少しだけ後悔する
  • 女の子とは友達になる
  • 男の子とは友達になる
  • 激怒する

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