みなさまの暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m
月下の元で立香と対峙した芥ヒナコは決して立香を侮らない。
秦良玉が討ち取られて大勢は一対三。
眼前に居る立香を守るように立つ二人の
そして、背後で蘭陵王と対峙する森長可。
(なら、蘭陵王を喰らうか?ふざけるな。どう考えてもそれは悪手でしょう)
この状況下でそんな隙を立香が与えてくれるとは芥ヒナコは考えない。目の前に居るのは三流以下の魔術師。しかし、経験だけで言うなら一級品。
「…面倒ね。逃げようかしら」
芥ヒナコは不意に立香から視線を外し、月を見上げる。その隙を付けと言わんばかりのあからさまな態度に武則天と荊軻は動きを止めてしまった。それが‐悪手だった。
もし、この時に武則天と荊軻が虞美人の首を刎ねる為に武器を振るって居たのなら、決着はあまりにあっけなく付いていただろう。
しかし、だからと言って二人を責めることは出来ない。見事なのは芥ヒナコの計略。彼女は戦いを宣言する前の会話から今に至るまで、彼が到着するまでの時間を稼いでみせた。
不意に月を見上げた芥ヒナコ。まさかそれに釣られて視線を敵から外す訳にも行かない三人の
立香は芥ヒナコの視線に素直に釣られて、月を見上げて、月より飛来する異形の影を見た。
「ッ!?ふーやーちゃん!荊軻さん!”緊急回避”!」
立香の手の甲にある令呪が輝く。頭が理解するよりも早く動く身体に従い荊軻はその場から飛び退き、武則天は立香と共に闇に紛れた。
次いで轟く大地を割る轟音。‐否。
果たしてどれ程の技量があればそんな真似が出来るのか、月よりの来訪者は大地を割れども其処に一切の音を鳴らしはしなかった。
無音による暗殺術。それを成した武人が
「…見事。よもや我の不意の一撃を持ってしても首一つ刈れぬとは…」
無音の破壊。
「…むぅ、ふーやーちゃん。見破られているんだよ」
「なんと、妾の雲隠れを容易く看破するとは、あやつはなかなかやるのじゃ」
居場所がバレているのでは仕方がないと姿を現した立香はその異形の徒をまじまじと見る。
見上げる程の巨躯。四つの腕に四本の脚。一見するとギリシャ神話に登場する半人半馬の種族であるケンタウロスにも見えるがそうでは無いのだろう。
立香はその姿を見ながらに微笑み問いかけた。
「アハ、おっきくて厳つくて格好いいね。ねぇ、素敵な貴方の名前は何て言うの?」
「我が名は会稽零‐
「項羽様に色目を使うなッ!」
‐…そうであったな。其方がある限り我は会稽零式に
月下の元で威風堂々とそう名乗りを上げた項羽に立香は驚く。
芥ヒナコが語っていた項羽の姿が人ではなく異形であったことは別にいい。差別主義者ではない立香ちゃんは人を見た目で判断しないし、何らな獣姦もいけるくちだ。前に新宿のアヴェンジャーことヘシアン・ロボに性的な意味で襲い掛かって返り討ちに遭い、食事的な意味で食べられそうになったことがある。
故に驚いた理由は別にある。
「妻、ねぇ。私の記憶が確かなら、虞美人は項羽の
言葉の最後を尻すぼみ気味に消しながら、立香は芥ヒナコと項羽を見る。その二人の背後では既に森長可と蘭陵王が打ち合っている。
戦いの時間はあまりないと考えてい良いだろう。長引かせてしまえば異変に気が付いたシャドウ・ボーダーの面々がやってきてしまう。
実は立香にとってそれは歓迎すべきことではないのだ。
(芥ヒナコの姿が擬態だったとしても、一見すれば物静かな文科系美少女だったんだよ。…マシュとは、仲が良かったのかな?)
立香の疑問には答えが出ない。代わりに浮かぶのは哀し気な顔を浮かべながらマシュが自分に対して絞り出した言葉。
”クリプターの方たちにも、何か理由があったのかも知れません”
ああ、その通りだった。少なくとも芥ヒナコには汎人類史を敵に回しても戦う理由が存在してしまっていたことを”この立香”は認めよう。
「共に死ぬと言うパイセンの言葉が、タダの独り善がりで有ればよかった」
月下の元、森長可と蘭陵王の剣戟がなる。
その祭囃子を聞きながら、立香は世界を越えて出会ってしまった二人を睨みつける。
芥ヒナコと会稽零式。
否、虞美人と項羽。なんだそれは、ふざけている。それを引き裂く自分は正しく悪役では無いかと立香は笑う。
その笑みに芥ヒナコは怪訝な顔を浮かべる。
「…お前は、何を言っているの?」
「ただの
「チッ、誰が
「なのに!」
立香のあんまりな言葉にキレた芥ヒナコの言葉を遮ったのは、他ならない立香の叫びだった。
月下の元で剣戟が鳴る。それを祭囃子として立香はまるで踊るように”怒り”を表す。それに呆気に取られる荊軻とは違い、武則天には立香の気持ちが良く分かった。
誰にも語らず。故に誰にも理解されていなかった。
立香自身が一番恐れていた事態が起きてしまっていた。
「”お前に私の気持ちは理解できない”?
立香にはわかる。多くの
汎人類史の虞美人と異聞帯の項羽。
出会う筈の無かった二人の出会いがどれ程の奇跡かを理解できる。そして、其処に紡がれた”愛”が真実のモノであると理解しよう。
項羽と共に出来るだけ長い時間を過ごして、共に滅びたいと言う
「そこに愛はあったんだ!それは愛であったんだ!そう呼ばなければ許されない感情が確かに存在していたの!凄いよ!パイセンはかっこいいな!」
優秀なる復讐者である立香ちゃんが一番恐れていた事態。それはクリプター達に共感してしまうこと。
端的に言おう。
立香は芥ヒナコの叶わぬ恋を応援したくなってしまった。
混乱する頭でそれに気が付き思いのままに叫んで、その直後に絶望しそうになった立香を、だからこそ武則天は「おろかものー!」と可愛らしく言いながら殴り飛ばした。
「なっ!?武則天!何をしている!」
「…サーヴァントがマスターを殴り飛ばした?お前たち、本当になんなの?」
「…我が演算能力を持っても理解不能である」
武則天の突然の暴挙に敵である芥ヒナコと項羽だけでなく味方である荊軻も驚く。
しかし、武則天は悪びれる様子もなく殴り飛ばした立香を見ながらに言う。
「マスター、ちょっとは頭が冷えたかの?」
「…うん。ありがとうなんだよ」
立香はそう言いながら立ち上がる。その姿は泥に塗れ、着ていたカルデア戦闘服は所々が破れてボロボロだったが、身体には不思議なほど傷がない。
何故なら武則天の拳にもまた立香への愛が込められていたからだ。愛は痛いが傷つかない。
「やると決めた。ならば、やるのみなのじゃ。そうであろう、マスター」
「うん。そうだよね。ふーやーちゃん」
例え芥ヒナコ‐虞美人がどれ程に素晴らしく素敵に立香の眼に映ったとしても、もはやそれは関係のない事だ。
クリプター達と対立する道を立香は選んだ。
ならば後は武則天の言うように”ヤル”のみなのだ。
「私は怒り。私は嘆き。私は恨み。私は、私の世界を取り戻す為に戦うんだから、誰にも邪魔なんてさせないんだから。勿論、自分自身にもね!」
立香は拳を天に突き上げて高らかに叫ぶ。それは余りに単純であり、原初の頃から変わらない人間が戦う理由。
だからこそ人間は何時からかソレを声高に叫ぶことを忘れてしまった。
「私はお前たちに怒っているんだ!烈火の如くにね!だから、力を貸してよ!ノッブさん!」
その声に応え魔王信長は三度、異聞の地に顕現した。
そこから先の戦い。シャドウ・ボーダーの面々が気が付きやって来るまで続いた二人の魔王の戦いを事細かく記すことは残念ながら出来ない。
何故なら、立香でさえ二人の戦いを目の前で見続けることは出来ず、戦闘開始から三十秒で武則天と荊軻に抱えられてその場から逃げ出さなければならない状況になり、傍で戦っていた森長可と蘭陵王は戦いの余波で吹き飛んだ。
唯一、戦いが止まるまでの間、見ていた虞美人が語る事をしない以上、それは仕方のない事だった。
故に結果だけを記す。
その日、山が一夜にして消えた。
そして、立香たちはシャドウ・ボーダーに乗り中国異聞帯の王‐始皇帝のいる咸陽へと向かう事となった。
感想は嬉しく励みになります(^^)
クリプターを一人倒した。次はどうする?
-
少しだけ後悔する
-
女の子とは友達になる
-
男の子とは友達になる
-
激怒する