みなさまの暇つぶしになれば幸いです(^^)
立香ちゃんは全速前進DA!
”儒教”という教えがある。それは古代中国に起こった思想に基づく教えであり、四書五経を経典とする。それは汎人類史において発生から2000年以上に渡り、東アジア各国できわめて強い影響力を持った。
立香にはその教えの素晴らしさを説くことが残念ながら出来ない。‐”良い事を言っている”のだろうと言う事は理解できるが、具体的にどこが凄いのかは説明できない。現代に生きる平凡な若者からすれば”儒教”という教えは残念にすぎるが、
だが、しかし‐その儒教の巻き起こり。つまり紀元前の中国において”儒教”という教えがどういう存在であったのかは、最近は”優秀な”という冠が煽りに聞こえてしまう立香でも想像するに容易いことだ。
きっとその時代の儒教は民草にとって”良い事をいっている”様に聞こえて、質の悪いことに今よりも洗練されていなかった。それが為政者にとってどれほど邪魔な存在であったかは想像する必要もない。‐故に古代中国の為政者。つまるところの”始皇帝”は「愚かな学者らは古い本を持ち出して喚き合うだけで、目の前の政治の邪魔をする」と儒教を弾圧するに至った。
そして、その執政が後に2000年以上に渡り行われたのなら、民草は”文字”も”詩”もあるいは”自由”さえも失ってしまうのだという事実を立香たちは中国異聞帯に入り直ぐに知った。
第二の異聞帯‐中国異聞帯は前回のロシア異聞帯と比べ者にならない位に人類が生きるには適した環境下にあった。温暖な気候。豊穣の大地。そんな世界で暮らせるのなら、そこで生きる者達の気質もまた温厚なものになる。虚数空間から突然現れた立香たちに初めは驚き警戒しながらも、話し合いに応じてくれたその地で暮らす人々の話を聞けば、此処にはロシアとは違い危険な魔物の類もおらず精々が畑を荒らす猪や野犬が出る程度だという。
この異聞の人々はその平和な世界の中で田畑を耕し、麦を育て、穏やかに暮らしているという。”病”は無く。”飢え”も無く。故に”争い”も無い。都に住まう”天子”の執政により全ての民の平穏な暮らしは約束されているのだという。
第二の異聞帯‐中国異聞帯に踏み込みある程度の情報収集を終えたカルデア一同はシャドウ・ボーダーの操舵室兼司令室で今後の方針について話し合っていた。
司令官席に座るゴルドルフは唸るばかりで話を進めないので、仕方無くホームズが音頭を取る。
「さて、諸君。この異聞帯に於ける敵の居場所が判明した。その上での我々の方針についてだが…まあ、私の考えは最後でいいだろう。何か意見のある人は挙手を」
「はーい!」
「予想通りの元気な声だ。それでは藤丸君。君の意見を聞こうか」
「あいつらは咸陽って所に居るんでしょ?なら、やる事は決まっているんだよ!咸陽に向けて全速前進DA!」
「そうだね。兵は神速を貴ぶべきと言う君の意見には一理ある。だが…そうだな。君の―
「ふーやーちゃんも私を支持してくれているんだよ!」
霊体化を解かない武則天の闊達な声で「妾を差し置いて帝を名乗るとか、おっろかものー!」という声が部屋に響いた。
武則天の真似をして胸を張りドヤ顔を浮かべる立香の姿は可愛らしくマシュは思わず頭を撫でたくてウズウズしたが、名探偵たるホームズはその雰囲気に呑まれずにため息を付いた。
「…やはりロシアでバベッジ卿を失ったのは大きかったな」
立香のサーヴァント達の中にストッパーが居ないことを嘆いたホームズだったが、すぐに気持ちを切り替る。
そして、この時の為に召喚したサーヴァントの方に顔を向けた。
「マスターはこう言っているが、君たちはどう思う?」
ホームズの問いかけに赤と白の鎧を纏った―
「マスターの言うように敵の居場所はわかってんだ。殴り込み以外は無ぇだろうが。一番槍は俺が頂くぜ」
もう一人の英霊‐筋骨隆々の肉体を拘束具で縛った―
「圧制者を許せぬと猛る者、全てが我が友である。その歩みを止めることは許されることでなく我が全力を持って助力せん。今すぐ行こうではないか」
「わーい。二人も一緒に全速前進DA☆」
二人の言動にホームズは頭を抱えたくなる。
流石はこの立香が召喚した英雄‐思考回路がこの立香と似通っていた。
ストッパーとして召喚した筈の英霊たちがまさかのブースターだったことに対して、ホームズから立香と共に召喚を担当した人物へと非難の視線を向けられた。
ダ・ヴィンチは小さく舌を出しながら片眼を瞑り自分の頭を小突く。
「てへぺろ☆」
天使の様に可愛い。
「………すまない。後は君だけが頼りだ」
ホームズの最後の希望‐今回の異聞帯で召喚された英霊‐叛逆三銃士の最後の一人‐―
「マスター。そして、お前たちも逸る気持ちは分かるが落ち着け。帝の暗殺は容易いことではない。私が言うのだから間違いない。まずは、”自分の考えは最後でいい”と勿体ぶっている奴の考えを聞こう」
荊軻の言葉に、猛る三人は荊軻が言うのなら仕方がないと直ぐに飛び出そうとしていた姿勢を直す。
暴れ馬が暴れない内に作戦を伝えろと言う荊軻の視線を受けてホームズは了解したと頷く。
マスターである立夏の意思を尊重したいと考えるホームズだが、行き過ぎれば彼女は一人で走り始めてしまうので加減が難しい。
今回はこの辺が限界だと考えホームズは明晰な頭脳を持って考えた作戦を伝える。
ゴルドルフはそれでいいのだと言う態度で偉そうに頷いている。
「まず初めに直ぐに動き出すべきだと言う意見には私も賛成だ。だが、しかし、安易に動くには状況が不明すぎる。敵の本拠地は分かっているが、逆に言えばわかっているのはそれくらいだ」
ロシア異聞帯では離れていても見えた異聞帯の要である空想樹がこの中国異聞帯では見当たらない事。そして、はるか上空にある”帯”のような何か。加えて、咸陽と思われる場所に浮かぶ汎人類の技術では有り得ない巨大な建造物。
安易に動くのは危険だと言うホームズには百利ある。
その事には頷かざる得ない立香は、しかし、と声をあげる。
「私はコヤンスカヤが言っていたことが気になるよ。あいつ、放っておいたらこの異聞帯の人たちに絶対酷い事する。早く倒した方がいいよ」
この異聞帯で暮らす人々‐立香たちが情報収集の為に触れ合った農村の民たちは優しく良い人たちだった。
たとえこの異聞帯が消滅すれば消えてしまう‐立香たちが消してしまう人々だとしても理不尽に苦しむ姿は見たくないと立香は言う。
その言葉にホームズは同意する。
その気持ちすら失ってしまえば、その時こそ立香は本当に壊れてしまうのだろう‐故に君の気持ちは分かっていると言いながら、何もしない訳ではないと伝える。
「先ほど危険があると言ったが、手掛かりが咸陽しかないのなら向かわない訳にもいかない。だが、全員で向かうにはリスクが大きすぎる。だから、私は二面作戦を提案しよう」
ホームズの言葉に待ったをかけたのはずっと黙ったままでいたゴルドルフだった。
「ま、待ちたまえ。古来より戦力の分散は愚策だろう!それに戦力を分けると言う事は、こ、このシャドウ・ボーダーの防衛が完全でなくなってしまうではないか!」
「この世に完全なものなどありませんよ。それにゴルドルフ氏、我々が敵より優れている点は何だと考えますか?」
「それは勿論、シャドウ・ボーダー。後は…この小娘の存在だろう」
ゴルドルフは立香を見た。
「ええ、そうです。単身で5騎の英霊を使役するマスター。はっきり言って反則だ。その上、今回は更に三騎の英霊の召喚に成功している。そこに私やダ・ヴィンチ、マシュ君を含めて、サーヴァントを戦力として見るなら我々は敵より優位に立っていると考えていい。無論、ロシアの
総勢十一騎の英霊。数だけ見ても圧倒的で質も最高と言っていい面々だと胸を張れる。故に戦力を分散し情報収集と侵攻を同時に行うべきだというホームズは言う。ゴルドルフは身の安全に不安を感じながらも、最終的にはホームズを支持した。
「はいはいはい!なら、咸陽には私が向かうね!ホームズ達は情報収集をよろしく!」
「うん。それは駄目だ」
「えー?なんで?適材適所だよ!」
「確かに君が戦闘に適していることはロシアで証明された。しかし、私はロシアで君が暴走したことを忘れてはいないぞ」
ホームズは実に良い顔でそう言った。
立香は目を逸らすしかなかった。
「それに君を動かすと言う事は同時に5騎のサーヴァントたちを動かすことにもなる。攻めると言ってもまずは偵察。戦力が偏り過ぎる。まずは、そうだな。私とモードレッド、スパルタクスの三人で咸陽までの道のりを見てこよう。立香君は村でダ・ヴィンチと共に情報収集に励んでいてくれたまえ」
「うぅ………ダメ?」
「駄目」
「………ぜったいダメ?」
「絶対駄目」
「ホームズの鬼!意地悪!有能な指揮官!」
「はっはっは、耳が心地いいな。では、早速出かける準備に取りかかろう。ダ・ヴィンチ。通信機の準備は?」
「もちろん、出来ているさ」
こうして当面の方針は決定し、立香にはお留守番の任務が課せられた。不貞腐れた立香をマシュが慰める光景を経て、物語は進み始める。
中国異聞帯でのカルデアの方針‐ホームズの二面作戦はその時点で取ることの出来た行動としては一番良いものだった。
この異聞帯の人々の為にコヤンスカヤを放置することは出来ず、解明できない謎を多く抱えた状態で、戦力を無駄にしない作戦。
少なくともこの時点でホームズに異をとなることの出来る戦略家はシャドウ・ボーダーには乗っていなかった。
だから、コレは不運という他にないのだが‐立香たちは見誤った。
見誤ったものはまだ見ぬ敵。
中国異聞の王‐始皇帝。
敵のクリプター‐芥ヒナコ。
二人の事では、無論ない。
ホームズは言葉にしないだけでまだ見ぬ敵の事すら考えに入っている。ホームズはロシア異聞帯の王‐イヴァン雷帝を”例外”として上げたが、この中国異聞帯の王が偉大なる皇帝と並び立つ存在である可能性があることも当然の如く理解していた。全てはゴルドルフを納得させるための方便。そんな方便を使ってまで、リスクに見合った見返りがあると考え抜いた末の二面作戦。‐故に、先の文字は取り消そう。
ホームズは何も見誤ってなどいなかった。ただそれが、敵も同じであったということだけだった。
クリプターを一人倒した。次はどうする?
-
少しだけ後悔する
-
女の子とは友達になる
-
男の子とは友達になる
-
激怒する