もう時期に2020年が終わる。やり残したことがあるんじゃないかと自分に問いかけて、愚かしくも投稿させて頂きます。
みなさまの暇つぶしになれば幸いです(._.)
新たなる旅路を
《……繰り返す。我、汎人類史の魔術師。次の座標にどうか合流を―――こちらはバルトアンデルス。
ロシア異聞帯での戦いから数日後、立香はマシュと共に“漂白”された世界を歩いていた。白い大地。不気味なほどに澄み切る青空の下には、世界の“漂白”に取り残された建物が残っていた。
以前は人が暮らしていただろう建物がまるで前衛的芸術作品のような不可思議な形で残されている。“形が欠けた”としか言い表せない建物に立香とマシュは踏み込んだ。
「まるで、違う惑星のようです」
マシュの言葉に立香は頷く。世界は“漂白”され、地球は異聞帯以外に
「どうやら此処では何人かの生存者が数日、数週間。いえ、数か月は暮らしていたようですね。先輩」
ペットボトルや缶詰の数々。何度も修理を試みたであろう通信機の残骸。床に転がる人々が暮らしていた名残の中から、立香は幼年向けの人形らしきものを拾い上げる。それは生存者の中には小さな子供もいた証。そして、今は持ち主を失った人形のビーズの瞳が立香をじっと見つめていた。
“許せない”。“許してはならない”。‐そんな声が立香の頭に響く。
“許せない”。“許してはならない”。‐ああ、その通りだと立香は嗤う。
理不尽に奪われた。唐突に世界は断絶した。この人形の持ち主であった子供に“罪”はあったのか?明日を信じて眠る子供から明日を取り上げる権利が彼らにはあったのか?‐答えは出ない。‐
立香はその確信を抱きながら、マシュに問いかける。
「ねえ、マシュ。私は間違っているのかな。私の
「…先輩」
「許すことが大切だって言う人がいるの。クリプター達にも理由があったんだっていうの。うん。そうかもね。彼らは私と違って凄い魔術師だから、きっと人類を裏切った頭のいい理由を十も百も並べ立ててくれる筈なんだよ。…でも、それが許す理由にはならないよね」
立香は嗤う。憎しみと怒りの混じる顔で嗤う。それを見ながらマシュは思う。
大好きな先輩にこんな顔をさせているのは自分なのだと理解する。‐立香とマシュではクリプター達を見る視点が違う。立香にとってクリプター達は突然現れた敵でしかない。
しかし、マシュにとっては立香と同じく“先輩”と呼ぶべき存在。
クリプター‐元Aチームの魔術師たち。マシュもまた元々はAチームに配属されていたデミ・サーヴァンだ。確かに彼らとマシュとの交流は薄かった。けれど、零ではないし、マシュを気にかけてくれる人たちも確かに存在していた。‐それは立香も知っている。立香は滅茶苦茶に見えるが勤勉だ。“優秀な立香ちゃん”を自称する彼女は努力を怠らない。その努力の中には敵への理解も当然の如くに含まれる。
カルデアに残されたデータベースの中で立香はマシュに好意的だったクリプター達の姿を見た。かつてのマシュはその好意を優しさだとは受け取っていなかったが、今のマシュならば彼らの行動が善意からのものであったことを理解しているだろう
だから、マシュは立香の前で口に出してしまったのだ。
‐“彼らにも何か理由があったのかもしれない”と。
「…あは、困らせて、ごめんね。でも、言っておかなきゃ、いけないことだから、言っちゃった」
マシュは自分に向けられる立香の哀し気な笑顔をみた。マシュは胸が締め付けられる痛みを感じた。
“この立香”は
“優しい彼女”と“この立香の考え”は交われない。けれどもこの
「私はマシュが、大好きなんだよ」
「私もです。先輩は私にとって大切な人です」
人はすれ違う生き物だ。そのズレを“気遣い”や“思いやり”と言うもので埋めながら生きている。けれど、決定的に分かり合えない者は存在するし、どれだけ相手を想おうと避けられない決別は存在する。“この立香”と“優しいマシュ”が最後にどうなってしまうかは天才である彼女にもわからないことだけれど、とりあえず言わなければいけないことがあるとダ・ヴィンチは可愛らしい声で通信機越しに二人に伝える。
《二人とも、そろそろ時間だよ。そして、私たちが観測していることも忘れないでいてくれると嬉しいな》
立香とのイチャイチャラブラブを観測機越しにシャドウ・ボーダーの皆に見られていたと気付いたマシュは顔を赤くして、そんなマシュを見て立香は笑った。
ロシア異聞帯を後にしたシャドウ・ボーダーは航海の最中に届いた通信に応え、航路を定めた。向かう先は‐
ロンドンの時計塔。エジプトのアトラス院に並ぶ魔術世界に置ける三大組織の一つ。北海に隠された神代の島‐最古の魔術棟‐
その実態は世界を彷徨う“異世界の海”に西暦以前に建てられた魔術棟だという。神秘のテクスチャを貼りながら移動する大地はまるで“独立した特異点”だとホームズは評した。
そして、そんな彷徨海バルトアンデルスだからこそ世界の“漂白化”を逃れ、未だ存在している可能性は高くあった。
故にカルデアは届いた通信は彷徨海バルトアンデルスからのものであると判断。残された汎人類史の英知を集結させるため、指定された海域に向かうこととなる。
ただ現在の地点から指定された海域へ向かう為には“北欧異聞帯”と称する第二異聞帯区域を越えねばならずマシュと立香による“漂白化”より取りこぼされた区域の捜索終了後、シャドウ・ボーダーは二度目の虚数潜航を行うこととなった。
ただし今回は異聞帯の調査・攻略は後回しでいい。北欧異聞帯を越え彷徨海にたどり着くことが第一の目的。そう決めたのはダ・ヴィンチとホームズ。そして、ゴルドルフ。彷徨海にたどり着けばサーヴァント召喚に必要なエネルギーが手に入る。そうすれば戦力の増強と共に
現カルデアの頭脳であるダ・ヴィンチとホームズの二人。そして現所長であるゴルドルフはロシア異聞帯で
立香は頑張っている。独断での単独行動の全ては戦える者が戦うべきだという判断の元の行動。ダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダーの制御の為に離れる訳にはいかない。ホームズはそのシャドウ・ボーダーを守らなければならない。‐だから、私が戦うんだと拳を握る立香の思いを二人は理解している。だが、しかし、それとこれとは別の問題。否、戦えるのが立香しかいないというのなら尚更に彼らは立香を失う訳にはいかない。だから、立香の単独行動は許してはいけないと‐ロシア異聞帯での戦いを終えた後に二人は立香にお説教をした。
因みにその際、勘だけはいい立香は何やら不穏な空気を感じたが、ダ・ヴィンチからのお風呂の誘いがあるとそれも忘れて着いて行って簡単に捕まった。そして、立香を助けようと勝手に飛び出した森長可はホームズの“バリツ”に沈んだ。ダ・ヴィンチを狙った森長可を後ろから奇襲するとか流石に探偵は汚い。
そんなどうでもいい攻防の末、立香はダ・ヴィンチとホームズの二人から三時間に及ぶお説教を受けた。立香は反省した。‐問題は其処からだった。立香は確かに反省をした。シャドウ・ボーダーからの通信を無視した事、マシュを泣かせてしまった事を深く反省して、ゴルドルフを含む全職員の前で頭を下げて謝った。だが、しかし、続く言葉があった。
“同じ状況になった時、私は同じ選択をする”と立香は言った。握った拳を解かない意思を示した立香はダ・ヴィンチとホームズを大いに困らせる。立香の気持ちも分かってしまうから、困るのだ。
立香の
幸いにして立香の隣に立ち、立香を止める役割を果たせる人物が一人は居た。‐マシュだ。デミ・サーヴァントである彼女は既に力を取り戻している。以前の様に“聖騎士ギャラハッド”の加護を宿した状態ではないが、ダ・ヴィンチの造り上げた“霊基外骨格オルテナウス”を装着することで前線に出られるだけの力は取り戻している。以降、立香のストッパーとしてマシュを共に立たせることをダ・ヴィンチとホームズはゴルドルフに進言し、ゴルドルフもそれを許可した。
ただ、それだけでは不安だと零したゴルドルフの言葉にダ・ヴィンチもホームズも頷く。
確かにマシュは立香を危険から遠ざける為に役割を果たしてくれるだろう。しかし、いざとなればマスターの立香の意思を尊重するのがマシュという少女だ。たとえ今の立香とマシュのクリプター達への考えが少しだけズレていたとしてもその根底が変わることはないだろう。
だから、マシュの他にも立香のストッパーとなる者が必要だった。
二人は立香のサーヴァント達に接触を試みた。立香は自分に力を貸してくれるサーヴァント達を何故か明かしたがらなかったが、ダ・ヴィンチが一夜を一緒の布団で寝ることを提案すると“わーい!”と喜んで二人の前で全員を現界させた。
二人は立香のサーヴァント達に、シャドウ・ボーダーにいる間は自分たちが
唯一、ダ・ヴィンチとホームズの話に理解を示した
此処にきてロシア異聞帯で
それが新しい
こうしてカルデアの頭脳二人の提案。そしてゴルドルフの決定によりシャドウ・ボーダーは彷徨海への到達を第一目標として、北欧異聞帯を駆け抜けることに決めた。
それは正史‐辿る道筋は少しだけ違うが彼らがそう選択することは必然だった。
“ロシア異聞帯での戦いを終えた後、彷徨海よりの通信を受けてシャドウ・ボーダーは北欧異聞帯を横断する決断をし、戦いを避けて指定された海域を目指す”。‐結果、それは叶わずに終わり、立香たちは北欧異聞帯での戦いを強いられることになる。
その運命を変えたのはやはり立香だった。
北欧異聞帯を越える為に行われた二度目の虚数潜航。第二航海の最中、突如、船内に鳴り響くレーダー音が虚数空間を進んでいるシャドウ・ボーダーに
「ありゃ、衝突事故かな?ダ・ヴィンチちゃんの運転は完璧だから、きっと相手のわき見運転だね!」
「待て。待て、待て。待てぇ!虚数空間に…な、な、なにが存在するというんだ!?」
軽口を叩く立香と慌てるゴルドルフという最早見慣れた光景にどこか安心感を抱きながらも、現状が安心を許さない状況であることは明確だった。
あらゆる物体が存在しえない虚数空間でシャドウ・ボーダーが何かにぶつかった。
次いでダ・ヴィンチからの報告が飛んでくる。
《うーん。ボーダーに積まれたソナー、魔術的・霊的なレーダーにもさっぱりだ。何がぶつかったのかは分からない。けど、さっきからボーダーの進みが
それを聞いて立香は敵じゃないのかな?と思った。それを支持するようにマシュは“何処かほんのりとあたたかいようななにか”を感じると伝えてくる。
現状、シャドウ・ボーダーを押す何かが敵かは分からない。けれど、ゴルドルフは最悪の事態を想定しながら所長としての決断を下す。
「敵だ。こういう時は最悪を想定するべきなのだ!マシュ君の感じる心地良さも悪魔の常套手段だ!悪魔というものは最初は優しいんだよ!」
敏腕美人秘書‐コヤンスカヤに騙された太っちょ紳士‐ゴルドルフのその言葉には誰もが頷いてしまう説得力がある。
「私は私の理性に従う!いいかね諸君、断じて冒険野郎なんかにはなりたくないが!この場合、緊急浮上が最善なのは私にだって分かる!カルデア所長権限により、命令する!虚数潜航艇シャドウ・ボーダー、全力で緊急浮上を行え!」
危険も伴う緊急浮上。そのゴルドルフの決断にダ・ヴィンチもホームズも賛同する。マシュが感じるという心地よさだけでは何か分からないものが味方とは言い切れない。ダ・ヴィンチの“眼”にも映らない何かがシャドウ・ボーダーの傍にいることは確定的である以上、まずはその未知から距離を取るというゴルドルフの判断は正しい。
立香もそれを受け入れる。ゴルドルフが第一に考える“全員の安全”は立香も第一にしたいと思うことだ。
‐だから、ゴルドルフの決断に待ったを賭けて運命を変えたのは立香ではない。立香ではなく“この立香”が居たからこそ存在した
意味が不明だった。唐突に表れた彼の存在も、彼の行動も、立香にだって分からないことだったから、全員が固まってしまった。ただダ・ヴィンチだけは彼がシャドウ・ボーダーの
《私の船に何をするつもりかな!
美少女の可愛い怒声にライダーは一切の怯みを見せることなく堂々とした余裕たっぷりの態度で笑う。
「なあに、悪いようにはせんさ。ただ俺もそこの嬢ちゃんと同じ意見でな。
傍若無人な振る舞いを見せるライダーはそれでも勝手を起こす前に立香に許可を求めてきた。当然だ。彼はもう二度と立香を裏切らない。いや、二度とではない。
そんな信用も信頼もするべきではない彼の言葉を立香は再び信じてみせる。
その立香の決断にホームズは呆れ、ダ・ヴィンチは顔を覆い、マシュは崩れ落ちた。“優秀な立香ちゃん”を自称するこの立香に唯一、誰も庇うことが出来ない汚点があるとすればそれはこのサーヴァントとの関係性に他ならない。
立香とライダーは共に戦い。共に勝利し。そして、何度も立香はライダーに裏切られてきた。
そんなこと繰り返すこと十数回。オルレアンで、セプテムで、オケアノスで、ロンドンで、北米で、キャメロットで、バビロニアで、新宿で、下総国で、そして
“許すことが大切だ”‐誰かが言った言葉は、他でもない
「ゴルドルフさん。緊急浮上は止めて、あの人に任せてみませんか?」
「な、何を言っているのかわかっているのかね!?其処に居るサーヴァントが何者なのかは私でも知っている、何故英霊の座に居るのかも分からないロクデナシではないか!そんな男をこの状況で信じろと言うのか!?」
「はい。たぶん大丈夫ですよ。だって私のライダーの幸運はEXなんですよ?あは、幸運Eしかなさそうなゴルドルフさんとは違って!」
「ぐぅ、その歪んだ笑みの原型はそのサーヴァントの
ゴルドルフの言葉に返す言葉がダ・ヴィンチを含めたカルデア職員には無い。確かに彼は無垢な少女が使役していい
だが、しかし、立香はあの場所で彼と出会ってしまったのだ。
人理修復の旅地の第一歩‐オルレアンに挑むためにカルデアで行われた初めての英霊召喚。その場所で初めての召喚に驚き尻もちを着いた立香を見下ろしながら、彼は言った。
『サーヴァント、ライダーだ。まあ、よろしく頼むぜ』
それが立香の初めて見た英雄の姿だった。
以降、立香はライダーと共に人理修復の旅路に挑み今に至る。
そんな彼が信じろと言う。‐ならば、立香は信じてみよう。
「大丈夫ですよ。だって世界を救わなきゃ、奪うモノもないもん。そうでしょ、ライダー」
「ははっ、違いねぇ。なあに、心配するな。船に関しちゃ、俺は嘘は言わないさ。この船を押す、これは
ライダーの言葉にゴルドルフは驚いた。
「な、このまま虚数空間を進み北欧異聞帯を越えられると言うのか!…ダ・ヴィンチ技術顧問!そんなことが本当に可能なのか!?」
《…正直、ノーと言いたいけどね。うん。この出力で彼の腕なら、可能かもしれないな。彼はロクデナシでも
「そ、そうか。…よし、わかった。
「はっはっはっ、いい答えだ!」
こうしてライダーがシャドウ・ボーダーの舵を取る。“この立香”でなければ有り得なかった展開により、シャドウ・ボーダーは北欧異聞帯を越え彷徨海へと辿り着くこととなる。
これにより日曜日を嫌う少女が日曜日を迎える時は先送りにされ、その結果がどうなるのかはまだ分からない。事態は混乱し、予定調和は壊れた。未来は見えずに、運命はまだ確定していなかった。
北欧異聞帯は先送りにさせて頂きます。
理由は物語の構想当初、自分のカルデアがまだインド異聞帯で止まっていたので実は戦乙女様をラスボスにしようと考えていたんですよね。
クリプターを一人倒した。次はどうする?
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少しだけ後悔する
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女の子とは友達になる
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男の子とは友達になる
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激怒する