【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺


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作:クリス
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三十二時間目 ルールの時間


書いていて思うこと、※ウイルス盛られてます


「さて、敵のお出ましか」

 

 五階展望フロア、通路の向こう側から足音が近づいてくる。数は二人、拳銃のスライドを引く音が聞こえる。接敵までまだ時間はある。マリーンマグナムのストックを右肩に乗せ、シェルキャディからビーンバッグ弾を二発手に取り、なるべく音を立てないようローディングゲートからマガジンに込めていく。

 

 どうして階段を昇る前にリロードしなかったのかと反省する。やはり疲労により意識が散漫になっているな。ウイルスに加えガスも吸ったのだから仕方ないと思うがやはり腑抜けていると言わざるを得ない。

 

「気づいてくれるなよ……」

 

 一発目を込める。続いて二発目、慎重にシェルをローディングゲートに運ぼうとする。が、すんでのところで手が震えショットシェルを落としてしまう。ウイルスに加え麻酔ガスまで吸い込んでしまった私は、端的に言うと猛烈に疲れていた。つまらないミスに思わず舌打ちする。

 

「おい、誰かいるぞ!」

 

 気付かれた。仕方ない腹を括るか。ダッシュし敵との距離を詰める。コンタクト!こちらに走ってくる二人の男、手にはサプレッサー付きの中型拳銃。場所は円形の展望フロア、通路は狭く遮蔽物もない。つまり先に撃ったほうが勝つ。

 

「おい!止まれ!!」

 

 走る勢いを利用して膝立ちでスライディングする。構える前に射線をずらされたせいで男は混乱しているようだ。フロントサイトを右の男の頭部に合わせ発砲、くぐもった音と共にビーンバッグ弾が額に命中、頭を押さえ倒れ込む。

 

「く、このアマ!!」

 

 私が次弾を装填し引金を引くのともう一人の男が発砲するのはほぼ同時だった。胸にビーンバッグ弾を喰らい呻き声をあげる男を視認。すぐさま立ち上がり次弾を装填。男と目が合った。

 

「眠ってな!」

 

 発砲。ビーンバッグ弾が男の頬に命中、白い歯をまき散らしながら仰向けに倒れた。すぐさま立ち上がり周囲を警戒。増援はないようだ。マリーンマグナムの残弾は残り二発。再装填の必要あり、ストックを右肩に乗せ装填を再開する。

 

「う、い、いてぇ……」

 

 始めに撃ったほうの男の意識が残ってたようだ。私は再装填の姿勢のまま右手で腰のホルスターからP226を引き抜くと、額をおさえ立ち上がろうとする男に近づき銃口を向けた。床にはマカロフ、右足で蹴り飛ばし取れないようにする。

 

「動くな」

「ひ、う、撃たないでくれ!」

 

 今更命乞いか。殺すからには殺される覚悟がなくてはならない。それは命を賭ける者として守らなくてはならない絶対の掟。誰であろうと違えることは許されない。わざとらしく撃鉄を起こせばそれだけで男は震えあがった。

 

「た、頼む!命だけは!」

 

 落ち着いてきたのか脇腹に鈍い痛みを感じるのに気が付いた。どうやら被弾したらしい。とは言え男たちの持っていた拳銃は9mm口径のマカロフ、行動に支障はない。

 

「半端な覚悟でこっちの世界に踏み込んだのは失敗だったな。代償はでかいぞ」

「ひ、ひぃいい!!?」

 

 後は引金を引くだけ、そうすればシアーを介してハンマーが解放、撃針、プライマーへと伝わりガンパウダーに引火、燃焼ガスによって9mmのジャケテッドホローポイント弾が銃身を通り抜け男の頭蓋骨を貫通、弾頭がマッシュルーミングを起こし脳を滅茶苦茶に破壊する。

 

「さようなら」

 

 いつもやって来たこと、今更なんの躊躇もない。引金にかけた指に力を込める。

 

「こ、殺さないでくれぇ!子供がいるんだ!」

 

 涙を流し懇願する男、初めて人を殺した時の記憶がフラッシュバックする。何を迷う必要がある。こいつは私を殺そうとしたんだ。そう思っていたはずなのに、私は何故かいつまでたっても引金を引けなかった。

 

「ああもう!」

「ガッ!?」

 

 左脚でミドルキックを放つ。鉄板入りのつま先が男の頭部を強打した。泡を吹いて男は倒れ伏す。これでしばらくは起きないだろう。

 

「子供に感謝するんだな!」

 

 P226をホルスターに戻し今度こそマリーンマグナムの装填を始める。

 

「くそ、マガジンが一本壊れた」

 

 銃弾が当たったのだろう。ボディーアーマーに括り付けていたMP9のマガジンポーチの一つに穴が開いていた。どうりで衝撃が少ないと思った。そう思いながらマリーンマグナムの装填を終え再び展望フロアを歩きだす。

 

「ッ!?」

 

 背後に悪寒を感じ飛びのく。マリーンマグナムを構えつつ振り向けば大柄の男が立っていた。いったいつの間に背後に忍び寄ったというんだ。危なかった。きっとここで離れていなければ死んでいた。思わず冷や汗を流す。

 

「俺の気配に気付くとは中々やるようだぬな」

「ん?」

 

 金髪のコーカソイド、身長は180cm後半、ジャケットの上からでもわかる筋肉に鋭い眼光。そして滲み出る気配。こいつ間違いなく強い。きっとあのガス使いと同じく雇われた殺し屋か何かだろう。それにしてもこいつ何か変なこと言わなかったか?

 

「歴戦の強者だと聞いて期待していたが……とんだ青二才でがっかりしたぬ。所詮は女子供、期待した俺が馬鹿だったぬ」

「ほざいてろ、丸腰で何ができる。それと青二才は女には使わないぞ」

「それは良いことを聞いたぬ。感謝するぞ小娘」

 

 軽口を叩きあうが警戒は怠らない。マリーンマグナムを突きつけているというのに男はまるで意に介していないのだ。先ほどの男たちは恐らく威力偵察、その結果私が非致死性弾しか使わないと踏んだのだろう。

 

「それに……誰が丸腰と言ったぬ」

 

 そう言ってニヤリと笑い男は窓ガラスに近づいた。そして右手を窓ガラスに押さえつけ力を込める。

 

「ほう……」

 

耳障りな音と共に右手を中心に窓ガラスに大きな罅が入った。なるほど、そういうことか。武器を持っていなかったのではない。こいつ自身が武器なのだ。

 

「覚束ない足取り、不規則な呼吸、どうやらお主もウイルスにやられているようだぬな。悪いことは言わん。おとなしく降参するぬ」

「武士の情けとでも言いたいのか?グラップラー気取りの殺し屋風情が。というかさっきからぬ付けすぎなんだよ!」

 

 丸腰というのも驚いたが、もっと驚いたのはこいつ、さっきから言葉の端にいちいちぬを付けているのだ。お陰でシリアスな雰囲気が台無しである。笑わなかった私を褒めてほしいくらいだ。

 

「ぬを付けるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ。かっこよさそうだから試してみたぬ」

「あっそ」

 

 猛烈にどうでもよかった。重要なのはこいつが敵で私はこいつを倒す必要があるということだけ。彼我の距離は凡そ3m、ビーンバッグ弾では威力が足りないし装填中にやられる。サイドアームを引き抜いても同じ結果になるだろう。必然的に格闘戦を強いられる。私はマリーンマグナムとバリスティックシールドを床に捨てファインティングポーズを取った。

 

「ふ、それでいい。いい加減暗殺ばかりで退屈していたぬ。弱ったお主如きでは腕試しにもならないだろうが……まあいい、かかってくるがいいぬ」

 

 私が気付かなければあの握力で簡単に捻りつぶされていた。絶対に掴まれてはいけない。睨みあう私達、男も口ではああいっていたが私に対し警戒しているのだろう。動きがないまま緊張の糸だけが張りつめていく。

 

「では、いざ尋常に勝「ほら受け取れ」ぬわっ!?」

 

 男が仕掛ける正にその瞬間、私はボディーアーマーに引っかけていたMk3攻撃手榴弾を男に放り投げた。誰だっていきなり手榴弾を投げつけられたらパニックになる。烏間先生だってそうだったんだ。目の前の男の行動が滅茶苦茶になる。その瞬間を逃さず急接近、ベルトのホルダーからPR-24トンファーバトンを引き抜き思い切り振り被る。

 

「しまっ!?」

 

 もう遅い、男が行動するよりも早く私のトンファーが男の側頭部に叩き込まれた。硬質のポリカーボネートと私の腕力、その威力は推して知るべし。男は血を流しながら床に叩きつけられた。

 

「ひ、卑怯だぬ……」

「知るか。お前と正面から戦って勝てると思うほど私は自信家じゃないんだよ」

 

 軽く見積もって脳震盪、頭蓋骨骨折のダブルパンチだ。最早まともに立つことすらできないだろう。それでも意識を保っているのは凄いと言わざるを得ない。一応倒れたとはいえ油断はできない。ここはアレを使わせてもらおう。

 

「お前はきっと正々堂々と勝負がしたかったんだろう。でもな」

 

 ホルスターからテーザーX2を引き抜き電源を入れる。レーザーサイトが示す光点を男の胴体に合わせた。男の顔が引きつる。

 

「誰が付き合うか」

 

 引金を引く。圧縮空気によって放たれたワイヤー付き電極が男に突き刺さる。その瞬間スパーク音と共に高電圧の電流が流れた。本来なら発射と共にテーザーのシリアル番号が記載された紙片が飛び散るようになっているがこれは改造済み、そのような心配はない。

 

「───ッ!!?」

 

 声にならない悲鳴をあげ男は痙攣する。私はたっぷり10秒間電気を流したのち引金から手を離した。頭部強打に加え高電圧の電撃、耐えられる人間がいるのなら見てみたいものだ。私は泡を吹きながら痙攣する男を見ながらそう思った。

 

「場数が違うんだよ。場数が」

 

 累積戦闘時間だけで見れば私は大ベテランと言ってもいい。こいつもまともに戦えばきっと苦戦しただろう。だが、相手が悪かった。久しぶりの戦闘による興奮状態に身を任せて私は既に意識を失っている男に吐き捨てた。虚しいだけだった。

 

「さて、行くか」

 

 一息つきたいところだが時間がない。私は倒した3人を拘束した後、床に投げ捨てたバリスティックシールドとマリーンマグナム、Mk3を拾い再び行動を開始した。

 

 

 

 

 

「ここを上がれば6階か……」

 

 六階はテラスラウンジになっており中では大爆音の電子音楽と共に馬鹿共が馬鹿騒ぎをしている。ドラッグや酒は事実上の治外法権となっており中は正にソドムと言うべき光景だという。私も人のことは言えないが快楽目的でやるのは理解できない。そんなものはまやかしでしかないからだ。

 

 皆は既にこちらに向かっているとのことだが正直言って来てほしくなかった。彼らは強い。きっと大抵の障害は退けることができるだろう。でも、本物の悪意を前にして彼らが立ち向かえるのか、私にはわからない。

 

 学生と殺し屋を兼業している以上、何を今更と言えなくもない。だけど、彼等には暗殺教室の優しい殺意だけで終わってほしい。本物の殺意なんて知る必要なんてない。上から目線なのは百も承知している。でも彼等には今のままでいてほしかった。

 

「さて、どう突破するかな……」

 

 7階に行くための扉には警備が配置されてる。強行突破してもいいがその場合治療薬を入手したあと戻るのが非常に困難になるだろう。パニックを起こす手段もあるが民間人に被害出すのは論外だ。私はテロリストではない。

 

 律に頼んで停電を起こさせるのも考えたがこうも立て続けに停電が起これば流石に怪しまれる。それに暗闇を移動したところで七階へ続く扉の前には警備員がいる。あいつをどうにかしない限り私は先に進めないだろう。

 

「ここで止まっていても仕方がない」

 

 覚悟を決めて六階に足を踏み入れる。周囲を警戒、屋内からは馬鹿でかい音量の雑音のような音楽が流れている。正直言って耳障りでしかない。入口の横に待機し中を覗く。ダンスホールでは多数の男女が狂ったみたいに踊っていて煙草とドラッグと酒と香水の混ざり合った退廃的な臭いが立ち込めていた。しかもよく見れば私と大して変わりない年齢の者もいる始末。まったく世も末だな。そうだ、ボヤ騒ぎでも起こそう。

 

「さて、ソドムの民に灸でもすえるとするか」

 

 ボディーアーマーからM18発煙手榴弾を取り出す。安全レバーを握りしめピンを引き抜く。そして床に転がすように投げた。爆音の音楽のせいで誰も手榴弾に気が付く様子はない。そして1.2秒後、M201A1点火装置が作動、発煙剤が燃焼し赤色の煙を放出する。

 

「うわっ!なんだこれ!?」

「誰だよ発煙筒焚いた馬鹿!おいスタッフ!!」

 

 見る見るうちに騒ぎが広がっていく。今のうちに行こう。ヘッドセットを再び耳にはめ、反対側にある裏口に向かってダッシュする。

 

「律、扉の先には誰もいないな?」

「はい、先ほど騒ぎがあった場所へ向かって行くのを確認しました」

 

 ならいい。裏口の扉は施錠されていて鍵がなければ裏口からしかあけられない。だが問題はない。私はポーチからバンプキーと呼ばれる特殊なピッキングツールを取り出し鍵穴に突っ込む。当然このままでは鍵は回せない。私はテーザーX2を取り出しバンプキーの持ち手を叩く。

 

「なぁ、お前何してんの?」

 

 背後から声、心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥る。鍵を開けることに夢中で気が付かなかった。首だけ後ろに回し声の主を確認する。

 

「あ、意外と可愛い……それに、その恰好……なに?映画の撮影?」

 

 年齢は10代後半と言ったところの帽子を被った軽薄そうな男子がカクテルの入ったグラスを持ち立っていた。こんな所で民間人に見つかるとは思わなかった。武器らしきものは持っていない。仕方ないここは脅そう。私は律に聞かれないようにヘッドセットを引き抜いた。そして腰のホルスターからP226を引き抜き振り向き様に構えた。

 

「動くな」

「え、ちょ、なんだよいきなり」

「いいから黙ってろ。今忙しいんだ。お前に付き合っている暇はない」

 

 銃を突きつけられているというのに男は怯えるどころかその死んだ目を輝かせ私に詰め寄ってきた。意味が分からん。銃が見えないのか?

 

「え、うそ、マジ!?マジで本物なの!?すっげー!!もしかしてCIAとか?それともKGBか!?」

「それを言うならFSBだろ……」

 

 何だコイツ……私は予想外の反応に非常に困惑した。もう面倒だ。私はP226を仕舞い再びバンプキーの持ち手をテーザーのグリップで叩いた。すると何やら手ごたえを感じる。

 

「ビンゴ」

 

 ものの数秒で解錠完了。そのままバンプキーを回してロックを解除する。後は中に入って目の前の7階へ続く階段に潜り込むだけだ。私はテーザーをコンバットハイポジションで構えつつ扉の取っ手に手をかける。

 

「マジで本物じゃん……やべー超パネェ!糞つまんねえ夏休みだと思ってたけど捨てたもんじゃなかった!!な、なんか手伝えることあるか!?」

 

 ああ、本当に鬱陶しい……

 

「おい」

「え、なにって、うぉっ!?」

 

 これ以上こいつに騒がれると流石にばれる。とは言えここで気絶させるわけにもいかない。私は仕方なく男を左手で拘束しそのまま内部に侵入、七階へと脚を運んだ。

 

 

 

 

 

 階段を昇る道中、私は未だにこの男と一緒にいた。下手に拘束を解くと何をするかわかったものではない。気絶させて転がしてもいいが見つかると不味い。

 

「なぁなぁ、何の任務で来たんだ?マフィアの取引の調査?それとも政治家の抹殺とか?教えてくれよ」

「黙れ」

「な、なんか手伝えることないか?俺の親父超有名な司会者なんだ。君もきっと知ってるぜ。絶対力になれるって!ねえ、歳は?名前は?あ、俺ユウジな」

「う、うぜぇ……」

 

 思わず普段なら使わない言葉が口から出るくらいにこの男はうるさかった。というかこいつ酒臭いな、絶対酔ってるだろ。

 

「じゃ、じゃあせめてこの腕だけでも解いてほしいなあって……」

「はぁ……わかったいいだろう。ただし騒ぐなよ」

 

 正直言って話すのも面倒だった。とは言え何だか妙に協力的なので私は男改めユウジの拘束を解くことにした。首を絞めないようにはしていたとはいえ私の腕力に挟まれるのは苦しかったらしく首をさすっていた。

 

「名前くらい教えてくれたっていいだろ?な、頼むよ」

 

 もう面倒だ。少しは情報を与えてやろう。戦闘の疲れもあったのだろう。遂に私は度重なるユウジの追求に心が折れた。

 

「はぁ……臼井祥子だ」

「祥子ちゃんっていうのかー、よろしくな!」

 

 JHPをダブルタップで叩きこんでやりたい、そう思った私はきっと悪くない。

 




用語解説

マカロフ
ソ連が第二次世界大戦後に開発した9X18mm弾を使用する自動拳銃、ぶっちゃけドイツのワルサーppのパクリ。

ジャケテッドホローポイント弾
先端部分まで銅などで覆ったホローポイント弾。やや貫通力が高い。

M18
米軍が制式採用している発煙手榴弾、色とりどり揃えております。

FSB
ロシア連邦保安庁、KGBの後身組織、マジでおっかないらしい。

バンプキー
鍵を使わずに解錠するために鍵に特殊な加工を施した道具。本当に差し込んで叩くだけで開くので色々ヤバイ。

JHP
ジャケテッドホローポイントの略語
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