【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺


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作:クリス
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十四時間目 認識の時間


書いていて思うこと、拗らせてるなー


 翌日、予想に反して茅野は私に対してよそよそしかった。目を合わせてもすぐに逸らされるし、話しかけてもなんだかぎこちない。

 

「さっちゃんさん、昨日茅野と何かあったの?」

 

 そしてそれは潮田にもわかったようで昼休み私がトイレから帰る時に訊ねてきた。潮田と茅野は一緒にいることが多い。普段は誰に対しても仲がいい彼女が見せた違和感にいち早く気が付いたようだ。

 

「どうにもそうみたいだ。昨日帰りに彼女とばったり出会ってね。そこで何か気に障ることを言ってしまったようなんだ。で、それ以来ずっとあの調子だ」

「そうだったんだ……何か僕に手伝えることないかな?二人がぎこちないのは見たくないよ」

 

 気持ちは嬉しいがこれに関しては時間が解決してくれることだろう。それを潮田に言ったら何故か首を振られた。何が駄目なんだろう。

 

「それは違うと思う。そういうのはちゃんと相手と話さないとだめだよ」

「渚君の言う通りです。今の君は現状から目を背けて逃げているにすぎません」

「殺せんせー!?」

 

 ほんとこの教師は地獄耳だな。さっきまでは教壇で大量の菓子を食べていたはずなんだが。先生はいつものように顔にバッテンを浮かべて私を見た。

 

「話を聞く限りどうやら臼井さんは茅野さんと喧嘩してしまったようですねぇ」

「そうなんだ殺せんせー、何とか仲直りできないかな?」

 

 喧嘩?私は茅野と喧嘩したのか?仲直りも何も茅野と私はただのクラスメイトなんだが。

 

「これは喧嘩なのか?喧嘩と言ったら酒瓶で殴ったりナイフで刺しあったりするものだろ」

「それどこの世紀末の喧嘩!?」

 

 どうやら私の知っている喧嘩とここでいう喧嘩は違うものらしい。改めて日本の平和に関心する。そんなことを考えていると潮田に具体的に何を言ってしまったのかを尋ねられた。内容が内容だけに全部伝えるわけにはいかずかなりぼかして説明することになった。

 

 それでも伝わったようで私の説明を聞いた二人は何とも言い難い表情を浮かべて私を見てきた。

 

「茅野も悪いと思うけどそれは怒ってもしょうがないよ」

「先生も同感です。臼井さんは自分が人からどう思われているかについてもう少し考えるべきでしたねぇ」

 

 どう思われているかなんてただのクラスメイトじゃないのか。そう言ったら何故か潮田に悲しそうな顔をされた。殺せんせーも顔にバッテンを浮かべて首を振っている。

 

「さっちゃんさんがどう思っているかはわからないけれど、僕はさっちゃんさんのことを友達だと思ってるよ。茅野もみんなもさっちゃんさんのこと友達と思ってる。友達が自分のことをどうでもいいなんて言ったら悲しいよ……」

 

 速水にも似たようなことを言われた。友達、私には理解できない概念だ。今まで利害関係での付き合いしかしたことない私に友情という高度な精神活動は直ぐには理解できそうもない。

 

「臼井さん、ちょっと考えてみてください。例えば今ここで渚君が身体に爆弾を巻き付けて自爆してやるといったら君はどうしますか?」

「何でそこで僕!?」

 

 それって私のことだよね。我ながらあの自爆は酷かった。奥の手だったとはいえ爆弾を胃の中に収めるのはダサい、テロリストじゃないんだから。それにしても、潮田がもし自爆しようとしたら、か。

 

「どんな手段を講じてでも阻止します。仮に潮田が死を望んでいてもです」

「さっちゃんさん……」

 

 当たり前だ。彼はこんな私にもよくしてくれる。そんな善人の彼が自分を蔑ろにするというのなら私はどんな手を使ってでもそれを阻止するだろう。

 

「あっ、そういうことか……」

 

 潮田や速水の言った言葉が線でつながる。なんだ、そういうことだったのか。どうして気が付かなかったんだ。先生が言った自分が人からどう思われているか、という言葉の意味を理解する。

 

「やっとわかりましたね?今臼井さんが感じたことを茅野さんもきっと感じていたんですよ」

 

 それについてはわかった。だが、何故こんな私のことを気に掛けるのだろうか。はっきり言って人付き合いが良いとはいいがたい。私にそんな価値があるとは到底思えない。

 

「渚君、あとは先生に任せて教室に戻りなさい」

「わかったよ殺せんせー」

 

 潮田が去ったので必然的に殺せんせーと私だけになる。教室に戻る潮田を横目で見ながら私は疑問への解答を見つけようとするも一向に答えが思い浮かばなかった。

 

「臼井さんは兵士としてはとても優秀だと聞きましたが人間としてはまだまだ未熟ですねぇ。きっと今も何故私なんかと考えているのでしょう?」

 

 何故わかったのか。顔に出したつもりはないのだがな。

 

「それは臼井さんがE組で積み上げてきた人徳によるものです。この前杉野君に聞きましたよ。迷子の子供を送り届けたそうですねぇ。他にも勉強を教えたりしているのを先生も見ました。みんなちゃんとそう言うところを見ているのですよ」

 

 迷子を送り届けたのはただの条件反射だ。決して善意などではない。勉強を教えたのだってただ自分が理解していたからだ。でも殺せんせーの言うことが本当なら何を思ったかではなくどう行動したかが重要なのだろう。でも頭では理解できても心が納得できない。

 

「臼井さんは自分のことを屑だと思っているのかもしれませんが、もし君が本当の屑なら誰も遊びになんて誘わないし、ましてや友達だなんて絶対に言いません」

 

 それは、彼らが本当の私を知らないからだ。私の本性を知れば皆去っていくに違いない。でもそうなると何故殺せんせーが私を追い出さないのかが気になる。

 

「ヌルフフフ、大丈夫ですよ。いつか必ず理解できる日が来ます。さて、理由もわかったことなので臼井さんには今日中に茅野さんと仲直りしてもらいましょう。できなかったら臼井さんだけ宿題三倍です!」

「えぇ……」

 

 こういう時殺せんせーは本当に強引だ。でもこの強引さは嫌いになれない。

 

 

 

 

 

 放課後、私は茅野とコンタクトを取れずに時間を浪費してしまった。ホームルームも終わり後は帰るだけだ。これは宿題三倍も覚悟しなくてはならないな。

 

「臼井さん、ちょっといいかな?」

 

 茅野が私の前にやって来た。今朝と同じ様に気まずそうな様子だ。

 

「奇遇だな、私も同じことを考えていた。ここでは話し辛い。人のいないところに行こう」

「うん、そうだね」

 

 茅野を連れて体育倉庫の裏まで歩く。それまでの道中、一切会話はなかった。これは本気で怒らせてしまったのかもしれない。私の謝罪で許してもらえるかはわからないがこういうのは謝るという事実が重要なのだろう。

 

 倉庫裏につきお互いに向き合う。先に沈黙を破ったのは茅野だった。

 

「昨日は、本当にごめんなさい!」

 

 頭を下げる茅野に私は困惑した。てっきり怒らせてしまっている側だと思ったのに何故か逆に謝られたからだ。

 

「何故君が謝る。昨日のはどう見ても私が悪い。どう考えても誠実な対応ではなかった。だからこの通り、すまなかったな」

 

 こうやってお互いに頭を下げる光景はどうにもシュールだな。そして彼女も私と同じように謝られたことに動揺している様子だ。

 

「臼井さんは謝らないで!悪いのはどう考えても私でしょ?」

「むむむ……」

 

 これは想定外だ。予定ではこのまま私が謝って終わりになるはずだったのだがな。確かに言動を鑑みれば茅野にも非はあるだろうがあの取り乱しようから察するに彼女にも何か事情があったのだろう。とは言えそれを聞くのは流石に無神経というもの。

 

「わかった。そこまで言うのなら今度君の好きなお菓子でも奢ってくれ。私はそういうのに疎いからな」

「……うん!」

 

 まあ紆余曲折あったが何とか丸く収まったようだ。殺せんせーと潮田に感謝しなくてはならないな。今度何か贈ろう。茅野は先ほどまでの憂鬱な表情から一変して笑顔で私を見た。切り替えが早くて気持ちのいい性格だと思う。

 

「実は私も…………やっぱ何でもない。ねえ、これからは祥子って呼んでいい?私もカエデでいいからさ」

「ん?ああ、好きに呼んでくれて構わないよ。カエデ」

 

 私が名前を呼ぶと彼女は嬉しそうに笑った。やっぱり彼女は笑っているほうが似合っている。

 

「これからもよろしく!祥子!」

 

 この日を境に茅野改めカエデは私に積極的に声を掛けるようになった。思い返してみれば彼女が名前で呼んでいるのは潮田だけだったのでこれは光栄に思うべきなのだろう。

 

 彼女も私と同じように何か隠しているのかもしれない。でも私は彼女に何があっても味方してあげたいと思う。これがきっと友情というものなのだろう。まだ理解できないがまだ時間はあるのだ。ゆっくり学んでいこう。

 

 後日、カエデの尋常じゃない巨乳への恨みを知って少し引いたのはどうでもいいことである。ちなみに私はぎりぎり対象から外れているそうだ。喜べばいいのか悲しめばいいのか今一つ判断に苦しむ。

 

 

 

 

 

 六月の初旬、雨粒が奏でる音楽に耳を澄ましながら作業を続ける。

 

「まあ、ざっとこんなものか……」

 

 一通りエアガンの改造が終わったので一旦休憩を挟むことにしよう。私の住む家は椚ヶ丘中学から歩いて30分程の比較的近い場所にある賃貸のアパートだ。ワークベンチから離れ部屋を見る。相変わらず酷く何もない部屋だ。あるのは必要最低限の家具と武器弾薬のみ。年頃の女子中学生はもっと可愛らしい部屋に住んでいると聞くが私もそうしたほうがいいのだろうか。

 

「ぬいぐるみでも置くべきか」

 

 ぬいぐるみなら中に手榴弾や銃を隠せる。もしもの時のために買っておくのもいいかもしれない。外を見れば土砂降り雨。日本の雨はスコールと違い酷く長引く。と言っても日本には天気予報という素晴らしいサービスがあるのでこまめにチェックしておけば雨に濡れる心配は少ない。流石先進国と言ったところか。

 

「……酒でも飲もう」

 

 娯楽というものにまるで縁がない私だが一つだけ拘っているものがある。そう、酒だ。酒はいい。飲み過ぎれば毒になるが適度に飲めば様々な効能をもたらしてくれる。この年で酒を飲むのは日本では明らかに違法だが酒も薬も煙草もやった身としては今更すぎることである。

 

「今日はラムにしよう」

 

 台所の戸棚からグラスとボトルを取り出しテーブルまでもっていく。ソファー代わりのベッドに腰かけグラスにラムを注ぐ。樽で熟成された濃褐色の液体は素晴らしい芳香を放ちそれだけで私の脳髄を麻痺させる。

 

「殺せんせーが見たら怒るだろうな」

 

 きっと顔にバッテンを浮かべて怒ることだろう。最悪没収されるかもしれない。とは言え私の家に誰かが来ることなんてないので問題ない。

 

「じゃあ、いただき「駄目ですよ!未成年の飲酒は!」……は?」

 

 何故か律の声が聞こえてくる。幻覚作用のある薬を摂取した覚えはないんだがな。寝ぼけているのか。気を取り直して酒を飲もうとするとまた律の声が聞こえてくる。

 

「祥子さん無視しないでくださいよ!」

 

 声のする方向に首を向ければワークベンチの上に設置したPCのモニターに律が映っていた。驚きのあまり声が出ない。私がビデオチャットをするために設置したウェブカメラからこちらを見ているのかちゃんと目も合っている。

 

「も、もしかしなくても律なのか?」

「はい!皆さんとの情報共有を円滑にするために全員の情報端末に私をダウンロードしました!」 

 

 一流のハッカーでもそう簡単にできないことを彼女はいとも簡単にしてのけた。一応私のPCは市販のセキュリティソフトよりも強力なソフトを入れているはずなのだが、彼女には関係ないらしい。

 

「私のPCってそれなりに強力なセキュリティ掛かっていたはずなんだけどよく入れたな」

「そうなんです。祥子さんのPCだけ他の皆さんよりも侵入に1.3秒も多くかかってしまいました」

「そ、そうか……」

 

 もはや何も言うまい。

 

「もしかして、ご迷惑でしたか?」

「いや、私は構わないのだがプライベートを覗かれるのは嫌がる人もいるだろう。今度からはちゃんと本人に了承をとってからするんだぞ」

「はい、わかりました……ってそうじゃなくて!駄目じゃないですか!お酒なんて飲んで!」

 

 何故か警察官の制服を着て私に抗議をしてくる。法律違反だとでも言いたいのだろうか。まあ実際そうなんだけども。現在進行形で不正アクセスをしている君に言われたくない。

 

「まあ癖っていうのは中々抜けなくてね。そう言えばもう私の経歴については調べが付いているんじゃないか?」

 

 露骨に話題を変える。そうすると律は露骨に悲しそうな表情を浮かべた。そうか、今までの明るい振る舞いは演技だったのか。彼女の善悪の基準がどうなっているかは知らないが、様子を見る限りショックだったようだ。

 

「…………はい、祥子さんの情報は調べさせていただきました」

「そうか、わかっていると思うがE組の皆には言わないでくれよ」

 

 伏し目がちに私を見る律に言いつける。彼女に知られるのは想定内なので問題ないが皆にばれるのは本当に嫌だ。撃たれるのは何とも思わないのに人殺しだとばれるのは怖いのだ。これを腑抜けたと見るか人間として成長したと見るかは人によりけりだろう。でも殺せんせーならきっと成長したと言うに違いない。

 

「あんなの酷すぎます!祥子さんは平気なんですか!」

「君はいったい何を見たんだ?そんなショックを受けるようなものは載っていないと思うんだが」

 

 そう言うと律は自分が何を見たのかについて話してくれた。話を聞くにどうやら私が拷問される様子を撮った動画を見てしまったらしい。そんなものが流れていたとは。そう言えば昔そんなことをされた記憶がある。まさかネットに流すとは。趣味が悪いな。

 

「もう昔の話だからね。気にしてないよ」

 

 嘘だ。本当は今でも夢にでることがある。そんな時は決まって酒を飲むようにしている。最近はあまりそういった夢は見なくなってきているがそう簡単にトラウマを忘れることなどできないだろう。

 

「いや、君に嘘をついてもばれるのは時間の問題だな。本当は今でも夢に出てくることがあるよ。もうこの話は止めていいか?あまり思い出したくないんだ」

「す、すいません……」

 

 萎縮させてしまったようだ。そういうつもりで言ったわけではないが彼女にそれを察しろというのは酷な話である。だから慰めになるかわからないがフォローしておこう。

 

「だが気にしていないというのも事実なんだ」

「どういう……意味ですか?」

 

 ラムを一口飲み過去に思いを馳せる。他の選択肢を知らなかったとはいえ私は自らの意思で戦っていた。これは揺るぎない事実である。

 

「それしか生きる道がなかったのは事実だ。でもね律、私はいつも自分の意思で戦ってきたんだ。やったらやられる。それが自然の掟だ。相手だって仲間を殺されたんだ。私がやられたのは自然の道理というわけさ」

 

 全ての行動には責任が伴う。私だけがつけを払わないなんて虫のいい話なのだ。きっといつか報いを受ける日が来る。

 

「それでも、あんなの……」

「そう思ってくれるだけで私は十分救われたよ。私なんかのために泣いてくれてありがとう」

 

 それだけで十分なのだ。私のために泣いてくれる。例えそれがプログラムだったとしても私にとってはその事実だけで救われる。

 

「それにね、その動画を撮った連中には後日痛い目を見てもらった。復讐は既に済ましているんだよ」

 

 具体的には足を撃って動けなくし、迫撃砲で粉微塵にした。事前に受けた仕打ちが仕打ちだけに凄まじいカタルシスを感じたのは言うまでもない。

 

「もういいかい?酒盛り中断してるから再開したいんだ」

 

 ラム酒を飲む。ダークラム特有の甘みが口に広がる。やはり酒はいい。心を癒してくれる。戦場では随分と助けられた。飲めば恐怖が薄れるし度数が高ければ消毒液にも使える。布を詰めて火炎瓶にもできる。そして空瓶はそのまま鈍器になる。正にいいことづくめだ。

 

「私、決めました。もっと祥子さんを理解したいです!」

 

 何か決心したと思ったら理解したいか。ここで貴方を救いたいとか言ってたら激怒してたと思う。何も知らない奴がさもわかったように私を憐れむ。私は私なりに全力で戦ってきたのだ。それをかわいそうの一言で片づけられるのは我慢できない。

 

「以前、祥子さんは私に自分の意思で生きろと言いましたよね?そのためにはもっと多くのことを知る必要があると思うんです。そして祥子さんの話は私にとって有益な情報になると判断しました」

「一言で言うと?」

「たまにこうしてお話に付き合ってくれませんか?」

 

 律は可愛らしく言った。こうも純粋な目を向けられれば断る気にもなれない。私が頷くと彼女は笑った。竹林が可愛いと言うのもわかる気がする。ここは新たな友人を祝福して乾杯しよう。

 

「あ、お酒は駄目ですよ」

 

 後日、酒を買うための通販サイトが律によって軒並み閲覧できなくなったのはどうでもいいことである。いや、全然よくないから。

 

 

 

 

 

 




用語解説

ラム
サトウキビの絞汁から作られる蒸留酒。ダークラムとは樽で熟成させたもの。キャラメルのような風味がある。一般的な度数は40から50度。主人公ちゃんの肝臓は鉄で出来ているのでしょう。
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