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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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親子喧嘩

 エドワードの側付であるナタは、その光景を前に震えていた。


 殴り飛ばされたエドワードもそうだが、殴った相手がリアムだったからだ。


「このようなこと、今までに一度もなかったのに」


 これまでリアムは、エドワードが悪さをしても一度も叱りつけなかった。


 それなのに、今日に限っては陸戦隊と共に乗り込んできて、エドワードを殴り飛ばしたではないか。


 オフィス街に娯楽施設を用意したのはまずい。


 リアムが怒るのも仕方がないが、ここまで激怒するとは想像していなかった。


 それはエドワードも同じだったのだろう。


 立ち上がっても膝が笑っていた。


 殴られた故か、それとも恐怖からか、ナタにも判断が難しい。


(両方? とにかく、エドワード様を守らないと)


 すぐに動こうとしたナタだったが、背後から手が伸びて拘束された。


 口も手で塞がれてしまう。


「んっ!?」


 驚いて振り返ると、そこにいたのは同族だった。


 仮面を着けた女だ。


 彼女の名前は【クナイ】であり、リアムから直々に名を頂いた存在だ。


「悪いがお前を近付けさせるわけにはいかないな」


 同族とはいえ、ナタはエドワードのためだけに存在している。


 エドワードがリアムを裏切れと言えば、それを実行してしまえるように育てられた。


 そのような同族を、クナイは面倒に思ったのだろう。


 口を塞いでいた手が離れると、ナタはクナイに問う。


「エドワード様が危険です」


 自分は命を捨ててでも守るよう育てられたのに、と険しい視線をクナイへと向けた。


 クナイは興味もなさそうにしている。


「エドワード様のためにも関わるな。これはお二人の問題だ」


「で、でも」


「いいから見ていろ」


 クナイに拘束されて身動きの取れないナタは、命令に従うしかなかった。


 震えているエドワードを見ていたリアムが口を開く。


「殴られて怯えるくらいなら迷惑をかけるな、この馬鹿息子が。騒ぎたいなら他所でやれ」


 震えているエドワードに戦意がないと気付くと、リアムはやる気をなくして背中を向けた。


 そのまま陸戦隊の兵士たちに指示を出す。


「エドを屋敷に連れて行け。後はロゼッタに任せればいい」


「よろしいのですか?」


「よろしいも何もあるか。これ以上はどうしようもないからな」


 一発殴ってスッキリしたのか、リアムはもう今回の件は終わったことだと認識しているようだった。


「さて、面倒だが片付けをするか。この建物も吹き飛ばしておきたいからな」


 エドワードが用意した娯楽施設は、この場所に相応しくないため吹き飛ばして更地にするらしい。


 武力を持って乗り込んできたリアムに、威勢の良い若者たちは口を閉じて震えているだけだ。


 さっさと嵐が過ぎ去ってほしいと願っているようだ。


 そんな中、エドワードが怒りに震えていた。


 手を握りしめ、奥歯を噛みしめ、険しい視線をリアムに向けていた。


「駄目です、エドワード様!」


 ナタが声を張り上げた時には遅かった。


 エドワードは左手に装着した趣味の悪い腕輪を起動し、空間魔法の魔法陣が出現する。


 そこから飛び出した刀を掴んだ。


「今更――今になって――父親面しやがって!!」


 エレンに厳しく育てられたとはいえ、エドワードは周囲にかしずかれていた存在だ。


 これまで馬鹿などと煽られたこともなければ、冷たくあしらわれた経験もない。


 それがエドワードの自尊心を深く傷付けたのだろう。


 怒りに任せて、エドワードは武器を手に取ってしまった。


 その行動には、クナイも危機感を覚えていた。


「さすがにここまでするとは予想外だったな。――これはまずいかもしれないぞ」


 まるでナタを煽るような、わざとらしい台詞だった。


 しかし、言われたナタはゾッとする。


 エドワードはリアムと親子関係だが、同時に一閃流で見ればエレンの弟子――つまり、リアムとは祖父と孫の関係だ。


 また、リアムは一閃流関連には非常に厳しいことで有名だ。


 息子とはいえ、武器を向けた孫弟子に恩情をかけるとは思えなかった。


「エドワード様!」


 ナタの叫び声が、ロビーに空しく響き渡った。



 振り返ったリアムの姿を見るエドワードは、全身が恐怖で震えていた。


(落ち着け。落ち着け、僕。相手は人間だ。父上だって人間だぞ)


 これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきたリアムだが、その功績をエドワードは伝え聞くばかりで実際に向かい会ったことがない。


 だから不用意に武器を手にしたわけだが、エレンに鍛えられた実力は本物だった。


 だからすぐに気付いてしまった。


 自分と相手の間には、越えられない大きな壁がある、と。


 リアムは武器を手に取ったのに震えているエドワードを見て、深いため息を吐いていた。


「――お前は大人でもなければ、子供でもないな。ただのガキだよ」


 リアムの視線は、既にエドワードに何も期待していないように見えた。


 それがエドワードには「存在価値の否定」に感じられた。


「何だよ、その目。そんなに僕が期待外れなのかよ!」


 父の期待を裏切り、もう何も期待されなくなった――という絶望感に襲われた。


 同時に、今まで自分に大した興味も持っていなかった癖に、という苛立ちも感じていた。


 エレンに鍛えられたエドワードが、教えられた通りに一閃を放つ。


 神速の斬撃がリアムに襲いかかるも、本人は数センチほど移動して避けてしまう。


「一閃は及第点だが配慮が足りないな」


 床には斬撃の跡が出現した。


 周囲から見れば、何が起きたのか意味不明だったろう。


 ただ、リアムはお気に召さないようだ。


「俺に一閃を放った意味を理解しているのか? エレンが何も教えていないとは思わないが、知らなかったとしても許されないぞ」


 リアムの視線が険しくなると、エドワードは心の中で恐怖心がこれでもかと叫んでいた。


 逃げろ、逃げろ、惨めでもいいから逃げ出せ、と。


 ただ、心の隅で思っていた。


(怒っていても僕は跡取りだ。殺されはしないさ)


 父親に対する甘えを抱いていた。


 リアムはそんなエドワードに、急接近すると――そのまま拳を顔面に叩き込んだ。


 エドワードは吹き飛ばされ、壁に衝突するとそのままぶち抜いた。


 最初は何が起きたのか理解できなかったが、すぐに激痛が全身を駆け巡った。


(今の一撃は僕を殺すつもりだった!?)


 あまりの衝撃に、エドワードは立てずにうずくまっていた。


 そして口から血を吐き出した。


(痛い。苦しい。駄目だ。このままだと死んじゃう)


 エドワードが痛みに苦しんでいると、リアムが瓦礫を踏みながら近付いてくる。


「俺が直々に相手をしてやる」


 リアムの放つ怒気に、エドワードは自分の認識が間違っていたと知る。



 エレンが現場にたどり着いた時には、既に騒ぎが起きていた。


 装甲車から話し声が聞こえてくる。


 着飾った令嬢が、高官と思われる父親と通信で会話をしていた。


『リアム様に無礼な態度を取るとは何事だ!!』

「だって、普段着で出歩くとは思わないじゃない!!」


 令嬢が泣きじゃくっていたが、無視して通り過ぎたエレンは近くにいた兵士に声をかけて状況を確認する。


「ししょ――リアム様は中に?」


 最初は訝かしんだ兵士だったが、エレンだと気付くと敬礼をした。


「は、はい! 今はエドワード様に折檻をしているそうです」


 エレンはそれを聞いて額に手を当てる。


「遅かったか」


 すぐに駆け出して建物の内部に突入すると、そこにいたのは刀を持ったエドワードだった。


 素手のリアムに追い回されながら、無様に泣きながら一閃を放っていた。


「来るなぁぁぁ!!」


 だが、リアムは無表情でエドワードを追いかけ、そして近付くと拳を容赦なく叩き込んでいた。


「この糞ガキが!」


 頭部に振り下ろされた拳の一撃に、エドワードは床に沈められた。


 その姿を見て、エレンは胸が締め付けられる。


 可愛い弟分が泣いているのもあるが、不出来とはいっても自分の弟子だ。


(私が守らなくては、師匠がエドを殺してしまう)


 それだけは防がなければと考え、拳を振り上げたリアムの前に飛び出してエドワードを庇った。


「ぐっ!?」


 リアムの拳を受けて、吹き飛ぶエレンはそのまま地面を転がるも受け身を取って素早く起き上がった。


 突然現われたエレンに驚きもしないリアムは、前髪をかきあげる。


「戻っていたのか」


「――はい。騎士としての役目を放棄して申し訳ありません。ですが、剣士として戻らねばならないと判断しました。エドの件も含めて、謝罪させて頂きます」


 エレンがその場で土下座をすると、後ろでは駆け込んできたナタがエドワードを抱き起こしていた。


「エドワード様!」


 ナタに抱き起こされたエドワードは、リアムの前で土下座をするエレンを見て泣いているようだ。


 自分がエレンを無様に土下座させたと思っているのだろう。


「――師匠、ごめんなさい。僕が、僕が余計なことをしたから」


 グズグズと泣き出すエドワードに、エレンは動かないまま声をかける。


「謝罪は私にではなく、師匠に――お父上に行いなさい。あなたは、まだお父上に謝っていないのでしょう?」


 泣いて逃げ回ったエドワードは、まだリアムに謝罪をしていないのだとエレンは思っていた。


 実際に当たっていた。


 エレンが前に出たため拳を降ろしたリアムは、エドワードの顔を黙って見ていた。


 エドワードは、ナタに抱きつきながら謝罪をする。


「ごめん――なさい」


 それを聞いて、リアムは小さくため息を吐いていた。


「この馬鹿息子が。さっさと戻るぞ」


 屋敷に戻るぞ――リアムの言葉で、全てが終わろうとしていた。


 だが、エレンは急に悪寒がして飛び起きた。


 そのまま自然と刀の柄に手が伸びると、リアムの方もゆっくりと振り返る。


 リアムはエレンたちを庇うように、乱入者の前に立った。


「――凜鳳」


 呼ばれた相手は眉間に皺を寄せている。


「一閃流に親子の情を持ち込むとか、兄弟子は随分と甘くなったよね」


 禍々しい気配を放つ凜鳳は、その体に返り血の跡があった。


ブライアン∑(´゜ω゜`;)「このまま親子喧嘩で終わると思っていたのに!? ……何やらもう一騒動ありそうで辛いです」

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