十四章プロローグ
仕事が終わらないまま年末年始に突入しましたが、年内に更新という活動報告にも書いたので遅れましたが更新を再開することにしました。
今章は19時に更新を行います。
バンフィールド家の本星【ハイドラ】には、俺【リアム・セラ・バンフィールド】が招集した刀鍛冶の集団が存在する。
一閃流は刀を使用する流派だ。
その刀を本星で用意させるため、確かな技術を持つ職人たちを招いた。
最高の環境を用意して刀を作らせているのだが――。
「使い心地は以前と同じだな。完璧な仕上げだと思うが――お前たちの顔を見ると違うのだろうな」
屋敷に用意された謁見の間には、刀鍛冶の責任者たちが揃って俺の前で膝をついている。
集団のトップが悔しそうな顔をしていた。
「ご依頼通りに修復作業に取りかかりました。ですが、我らの技ではなく刀自身が修復したとしか思えません。リアム様――不敬を承知で問わせて頂きます。その刀をどこで手に入れたのですか?」
俺が一番大事にしている刀は、かつて帝国を荒らし回ったゴアズ宇宙海賊団が所持していた骨董品になる。
ファラバルとかいう存在との斬り合いで欠けてしまったのだが、職人集団曰く刀自ら再生したそうだ。
随分と不思議な刀である。
鞘から抜いて刃を見れば、綺麗に磨き上げられて鏡のようだった。
「宇宙海賊を滅ぼした際に手に入れた刀だ。出所が不明のままだったのでずっと無名にしてきたが、そこまで不思議な刀ならば名を付けてやるのもいいか?」
これまで俺を支えてきてくれた愛刀だからな。
どんな名前にしようか考えていると、職人たちが顔を見合わせてから俺に申し出る。
「恐れながら、その肩の金属を確認したところ僅か数グラムの未知の金属を確認致しました。数グラムとは言え、世には害を及ぼす金属は多いのです。リアム様が腰に提げるのはお止めになった方がよろしいかと思います」
調べられない未知の金属があるので、危険だから今後は使うなと言い出した。
俺の身を案じての提案だろうが、聞く気はない。
「害を及ぼすならこれまでいくらでも機会はあった。無事であるのだから気にする必要はない。それにしても謎の多い刀だ。このままずっと無名というのも――いや、いっそ無名こそが名前でもいいのか?」
俺は心の中で刀に問い掛ける。
……お前の本当の名前は何なのだろうな、と。
刀を鞘にしまった俺は、集まった職人集団を高座から見下ろしながら言う。
「よくやった。褒美を用意してあるから受け取るといい」
職人集団との謁見が終わった。
彼らは最後まで心配したような顔をしていたが、俺がこの刀を手放すことはない。
何しろこの刀は――。
「案内人からのプレゼントだからな。今後も大事に使うとするさ」
――俺を見守ってくれる案内人からの贈り物なのだから。
一人微笑んでいると、謁見の間にブライアンが駆け込んできた。
「リアム様、大変でございますぞ!!」
非常事態だと言って強引に乗り込んできたブライアンの顔を見て、俺は小さくため息を吐いた。
どうせ大した用事ではないのに、こいつが騒いでいるだけだろう、と思ってだ。
「今度は何だ? 宇宙海賊共が数十万規模で攻め込んできたか? それとも帝国軍が少ない戦力を振り絞って百万隻を用意したか?」
投げやりな態度の俺を見て、ブライアンが泣きながら抗議してくる。
「お家の一大事でございますぞ! エドワード様が――」
俺はブライアンに顔を向けた。
「エドワードがどうした?」
◇
リアムの一番弟子である【エレン・セラ・タイラー】は、赤髪をポニーテールにした女性騎士である。
騎士という恰好をしているが、その本質は一閃流の剣士だ。
リアムに騎士としての役割を求められたので、それに応えているに過ぎない。
そんなエレンには【エドワード・セラ・バンフィールド】という弟子がいた。
バンフィールド家の時期当主候補であり、リアムとロゼッタの第一子である。
見た目は十歳前後。
生まれてから何十年と過ぎているのだが、この世界では幼い子供である。
金髪碧眼――ロゼッタの血を濃く受け継いだエドワードは、エレンから見ても美少年に見えた。
普段から鍛えているため体付きもたくましい。
ただ、最近はわがままに磨きがかかっていた。
「鍛練の時間に遅刻をするとは何事ですか? エド、あなたは一閃流の剣士として自覚が足りません」
エレンがエドワードを叱ると、本人は興味がなさそうに欠伸をする。
昨晩も夜遅くまで遊んでいたのだろう。
「そうは言いますけど、俺だって忙しいんですよ。一閃流の修行ばかりしていられませんよ」
随分と生意気になってしまったエドワードだが、その言い分も正しい。
リアムの跡を継ぐとなれば、エドワードは領主となる身だ。
武術ばかりにかまけていい立場ではなかった。
エレンは呆れてため息を吐く。
「あなたのお父上であり、私の師匠は幼い頃から勉強と一閃流の鍛練を両立していましたよ。加えて政務までこなされていたのです」
エドワードはリアムの話が出ると、途端に不機嫌になった。
「父上は父上で、俺は俺ですよ」
ふて腐れるエドワードを見て、エレンもハッとした。
(師匠と比べるのはこの子には酷だったわね)
リアムが幼い頃に麒麟児と呼ばれ、本星にて名君扱いを受けていたのは非凡な人物だったからに他ならない。
比べる相手が悪すぎた。
「――そうでしたね。あなたはあなたですよ、エド。ただし! それが遅刻をしていい理由にはなりません。そもそも、寝不足のようですが昨晩は何をしていたのですか?」
問われたエドワードは、エレンから顔を背けたまま言い難そうにする。
「それは――友達を部屋に呼んでゲームとかですよ」
「遊んで寝不足になるとは、自身の立場に自覚が足りない証拠です。遊ぶなとは言いませんが、もっと節度を持ちなさい」
「そうやって師匠はいつも俺を叱りますよね。言っておきますけど、この屋敷で俺をそんな風に叱れるのは、師匠以外では母上くらいですよ」
「だから気を遣えと? 言いましたよね? 私はあなたのお父上から厳しく鍛えるように言われている、と。そんな調子では、お父上に叱ってもらうことになりますよ」
エレンからすればリアムというのは厳しい師匠だった。
優しくもあるが、時に恐ろしい――その当時の記憶があるため、自分が叱るよりも効果的であると思っていた。
だが、エドワードは違う。
「父上は俺を叱りませんよ。悪さをしても理由を聞いて、今後は注意しろと言うだけですからね。――どうせ、俺に興味がないんですよ」
「またそんなことを言って」
エドワードは父から愛されているという自覚がなかった。
「どうせ俺は無能な二代目ですよ」
自分に才能がないと言い出すエドワードに、エレンが屈んで視線を合わせた。
「一閃を身に着けた剣士が、自分を卑下するものではありませんよ。その年齢で一閃を身に着けたのですから、エドには確かな才能があります。自信を持ちなさい」
エドワードはエレンに見つめられ、顔を赤くしてから逸らした。
「領主がいくら剣の腕が達者でも意味がありませんよ。大事なのは統治する能力ですからね。きっと俺は――父上の跡を継いだら馬鹿な二代目と言われますよ」
リアムの統治時代が良すぎると、比べられるエドワードはたまったものではない。
何かにつけてリアムという存在がエドワードには重くのしかかっていた。
だからだろう。
本音ではないのに、口に出して言ってしまう。
「いっそ俺は父上とは反対に悪名を轟かせましょうか? 悪徳領主としてこの宇宙の歴史に名を残してやりますよ」
それを聞いたエレンが視線を険しくした。
「お父上の名を貶めるつもりですか?」
「っ!」
緊張した顔をするエドワードだったが、この場にリアムが現われた。
足音がしたので二人が振り返ると、どうやら会話を聞いていたらしい。
エレンがしまったと血の気が引いた顔をするのだが、リアムの表情は嬉しそうだった。
声も弾んでいる。
「悪徳領主とは大きく出たな」
硬直したエドが、リアムに怯えて震えていた。
名君と呼ばれたリアムに、この手の冗談が通じるとは思っていなかったのだろう。
だが、リアムは興味深そうにエドワードを見ている。
「ロゼッタに似ていると思ったが、確かにお前の中には俺の血が流れているようだな」
「――え?」
この人は何を言っているんだろう? そんな顔をするエドワードに、リアムがアドバイスを送る。
「悪徳領主の道は厳しいぞ。お前がやり遂げられるか見物だな」
「あ、はい」
とりあえず返事をしたエドワードから視線を外したリアムは、エレンの方に顔を向けた。
「エレン、エドの教育は順調か?」
エレンはリアムを前に立ち上がって姿勢を正した。
「は、はい! 既に一閃を習得しております。ただ、基礎の部分で足りないところが多く、一人前とはなりませんが」
基礎が足りないと聞いても、リアムはあまり気にした様子がなかった。
それよりも一閃を放てるという部分が気になったらしい。
「俺よりも習得が早いな。だが、基礎ならば日頃から積み上げるだけだな。一人前になったら、エドにも立派な刀を用意してやろう。それまで励めよ」
そう言ってリアムは去って行く。
エドワードに見つめられるエレンは、複雑な顔をしながら言う。
「それでは今日の鍛練を始めましょうか」
「師匠――父上って本当に怒るのかな? 今の話で怒らないって、相当だと思うけど?」
悪徳領主になりたいと言って怒らないどころか、楽しみと言い出す。
エレンはリアムの悪癖に頭を悩ませる。
(師匠は時々、悪ぶることがなければ完璧なのに――まぁ、あの悪癖も師匠の魅力の一つなのですけど)
◇
エドの日頃の態度に問題があるとして、ブライアンから報告を受けた。
だが、あの子が悪徳領主を目指しているとは思わなかった。
「まさか中身は俺の血が強いとは思わなかったな」
俺と同じ悪徳領主の道を目指すとは――あの子の手本となるように心がけるのも悪くない気がしてきたぞ。
「親子二代で悪党とは、俺の領民たちも運がないな。まぁ、馬鹿げた理由でデモをする阿呆共だから仕方がない。精々俺とエドに苦しめられるといい」
俺は軽い足取りで執務室に向かうのだった。
◇
エドワードたちのやり取りを物陰で見ていた女性がいた。
一閃流の剣士である【皐月凜鳳】だ。
紺色の長い髪は風が吹くとサラサラと広がっていた。
桜色の瞳はリアムたちを凝視している。
長刀を持った凜鳳は、先程のリアムたちの会話を耳にしていた。
リアムがエドワードを褒めて刀を用意してやろう云々の場面だ。
親子であっても師弟関係にないため、リアムはエドワードを甘やかしているように見えた。
一閃流の剣士であれば微笑ましい光景に見えただろうが――今の凜鳳は険しい表情をしていた。
血走った目でエドワードとエレンを見ている。
「――弱い奴は一閃流に必要ないんだよ」
ブライアン(〃´ω`〃)ゞ「本日より14章が更新となります! 今章も是非ともお楽しみください」