十三章エピローグ
本日で十三章も終わりとなります。
ここまでの応援、ありがとうございました!
アルグランド帝国の首都星には、暗雲が広がっていた。
天候をコントロールされている惑星では、定期的に雨が降る。
今日はその日だった。
陰鬱とした雰囲気が広がっているが、それは天候だけが理由ではなかった。
首都星に住む人々は、建物の中である話題で盛り上がっている。
「征伐軍が負けたって本当か?」
「六百万隻の大軍団が、一領主に負けるかね?」
「相手はバンフィールド公爵だったか?」
首都星の人々にとっては、帝国を怒らせた地方領主が戦争で消えるだけ――一般人からすれば、日常の中の些細な出来事だった。
だが、結果は敗北。
首都星の人々には動揺が広がっていた。
「バンフィールド公爵と言えば、剣聖を斬り殺した人だったよな?」
「戦争で剣の腕が役に立つものかな?」
「有能な騎士がいるとは聞いたが、まさかここまでとは思わなかった」
「それよりも、これからどうなる?」
「バンフィールド公爵は、帝国に攻め込んでくるだろうか?」
「そんなことよりも、覇王国や他の国だ。今回の敗北を知って、」
首都星にいれば安全に暮らせる――そう思っていた人々が、不安を抱え始めていた。
◇
宮殿に戻ってきたクレオは、謁見の間にてバグラーダを前に顔を上げることが出来ずにいた。
「も、申し訳ありません。で、ですが、提出した資料に目を通して頂ければ、今回の戦いが不慮の事故により敗北したとご理解頂けるはずです」
クレオにも言い分があった。
大艦隊を率いて敗北した原因だが、実質的な指揮官であるハンプソンのミス――とは言い切れないが、途中で自軍を離れて勝手に行動したのは事実だ。
これを理由に、自分の責任を少しでも軽くする考えだった。
黙って資料を確認していたバグラーダが、目を見開いて震えていた。
そして、クレオに話しかける。
「この後は?」
「え?」
「だから、バンフィールド家の艦隊と決戦を挑んだ後だ。アンノーンの艦隊が出現したのは理解したが、この後は何が起きた?」
座っていた椅子から腰を上げて、興奮した様子のバグラーダは資料に釘付けだった。
クレオは顔を上げて頭を振る。
「そ、その後は、撤退したので詳しい情報がありません。きっと、バンフィールドが外法を使用したのです。卑劣な奴らです」
自分たちは敵の卑怯な手により負けた、というシナリオを話す。
しかし、バグラーダはクレオの嘘を見抜いていた。
「――情けない」
「皇帝陛下?」
「お前がもう少しの間、現場に留まっていれば結果が確認できたのだ。せっかく、手がかりを見つけたのに、これでは何の情報も得られない」
バグラーダは、アンノーンの艦隊に対して心当たりがあるようだった。
クレオが問う。
「アンノーンの情報をお持ちなのですか? 奴らは一体何者なのですか?」
バグラーダはクレオの話に答えなかった。
額に手を当てて考え込みながら、クレオの今後について話をする。
「無様に負けたお前は、本来であれば処刑するはずだったが――まだ、利用価値はあるか」
利用価値があると言われたのは腹立たしいが、まだ望があると知ってクレオは手を握りしめる。
「機会を頂ければ、今度こそバンフィールドを倒してご覧に入れます! 今回の戦いで、奴らは疲弊しています。何卒、第二陣に俺を加えて下さい!」
バンフィールド家に侵攻する第二陣に志願するクレオだったが、バグラーダは頭を振る。
「第二陣はすぐに出さないよ。そもそも、バンフィールド家だけに関わっている余裕がなくなってしまったからね」
「――覇王国をはじめとする周辺国ですか?」
バンフィールド家と征伐軍が争っている最中に、周辺国が帝国に侵攻を開始した。
これに対抗するため、帝国軍も忙しい。
「そうだ。しばらくは、こちらから手が出せないね。お前にも、他の戦場に出て頑張ってもらう必要がある」
他の戦場に送られることになったクレオは、それを聞いて眉根を寄せる。
「今度こそ、期待に応えて見せます」
「――期待しているよ、クレオ」
◇
その頃。
覇王国の軍勢は、帝国の国境を越えて進軍を続けていた。
艦隊を率いるのは、銀髪ロングの女性である。
黒い軍服に身を包んだ女性は、アリューナに代わって全軍の指揮を執っていた。
その横には、今回の侵攻を裏から助けた人物も立っている。
男装の麗人であるマリオン・セラ・オルグレンだった。
子爵家出身の彼女がこの場にいる理由は、リアムの命令で覇王国の侵攻に協力しているためだ。
銀髪の女性は腕を組みながら、バンフィールド家が勝利したという報告を聞いて満足そうに頷いていた。
「流石は帝国最強のバンフィールド家だ。勝つとは思っていたが、ここまで完璧に勝てるとは思っていなかった」
征伐軍を相手に消耗すると予想していたが、結果だけを見ればバンフィールド家は余裕すら感じられる。
マリオンも驚いていた。
「先輩がここまで戦上手だとは思いませんでしたよ。まぁ、ほとんどはクラウス殿の手柄でしょうけどね」
帝国最強の騎士は伊達ではない、とマリオンが感心していると銀髪の女性が言う。
「それは違うな。リアム殿の器量がなければ、クラウス殿ほどの騎士もしたがっていない」
「そういうものですかね?」
「そういうものだ。――さて、我々も約束通り、帝国軍をすり減らすとしよう」
侵攻してきた覇王国軍を相手にするため、帝国の増援艦隊が目の前に迫ってきていた。
銀髪の女性に、オペレーターたちが言う。
「覇王様、敵艦隊がこちらに接近してきます!」
銀髪の女性――覇王はニヤリと笑いながら右手を前に出す。
「滅ぼせ!」
◇
バンフィールド家の本星。
その空を飛ぶのは、健在であることを見せつける総旗艦のアルゴスだ。
凱旋のために宇宙戦艦が艦列を整え、機動騎士を飛ばして軍事力を領民たちに見せつけている。
「ここまですれば、馬鹿なデモを起こす領民たちも減るだろうな」
ブリッジから本星の景色を見下ろす俺は、我が軍の威圧感を前に領民たちが萎縮する光景が見えていた。
きっと、今後は馬鹿なデモを控えるはずだ――多分。
俺は上機嫌で両手を広げる。
「終わってみれば完全勝利だったな。まぁ、俺が負けるなどあり得ないから、こうなったのは必然だが」
案内人の加護がある俺が負けるはずない! と思いつつ、案内人に頼ってばかりでは駄目だとも思う。
今回の戦いで、少しでも俺の頑張りが結果に結びついていたら嬉しく思う。
ただ、第三者から見れば俺はよほどの自信家らしい。
ユリーシアが呆れかえっている。
「本当に勝ってしまうから凄いですよね。これでは文句も言えませんし」
「俺が負けると思っていたのか?」
「あの数を相手に勝てると言い切れるのは、リアム様かクラウス殿くらいですよ。それよりも、勝ったんですから私の側室候補から、候補を外して下さいよ!」
約束をした覚えがないのに、候補を外せと言ってくる。
「――いっそ側室から除外してもいいんだが?」
悪戯心でそう言ってやると、ユリーシアがフラフラと俺にしがみついてきた。
ハイライトの消えた目で、泣きながらすがりついてくる。
「今からだと人生の軌道修正も出来ないんですよ! ここで私を捨てるんですか? リアム様の鬼! 悪魔!」
「は、離せ! 人聞きの悪い事ばかり言いやがって! それに、部下たちが見ているだろうが!」
俺たちのやり取りを聞いていた周囲の軍人たちは、苦笑しているじゃないか。
せっかく悪徳領主としてイメージが出来つつあったのに、お前のせいで情けない領主に見えるだろうが!
「候補なら外してやるよ! 今後はアレだ――側室内定な」
「内定とか外して側室にしてよぉぉぉ!!」
ほぼ決定という扱いにしてやったのに、これを嫌がるとは欲張りな奴だ。
「あ、いけない。そういえば、日課のお祈りの時間だ。――というわけで、俺は部屋に戻るから一人にしろ」
逃げるようにブリッジを去る俺は、日課のお祈りへと向かう。
今日も――いや、今日は特に、案内人に感謝の祈りを捧げよう。
この完全勝利もきっと、裏で案内人が俺に手を貸してくれたはずだ。
だから、今日は念入りに感謝するとしよう。
エレンたちも呼び出した方がいいだろうか?
◇
ファラバルがリアムに負けた――この事実を知った案内人は、岩と砂ばかりの惑星で途方に暮れていた。
「ファラバルほどの存在に勝つって何だよ! 私より格上の相手だぞ――それに勝つって、もうリアムは人間じゃないだろ!!」
自分よりも邪悪で、世界に悪い影響を与えていたのがファラバルだ。
そんなファラバルが、リアムに負けるとは想像もしていなかった。
いや、心の中ではちょっとだけ「もしかして、万が一にもリアムが勝ってしまうかも?」という不安はあった。
しかし、自分よりも強いファラバルが負けるとは思えなかった。
思っていなかったのに。
「私は頑張ったのに! コソコソと負のエネルギーを集め、この日のために持てる全てを出し切るまでクレオを応援したのに!」
毎度のように首都星で負のエネルギーを集め、色んな戦場を渡り歩いていた。
憎しみ、悲しみ、怒り、恨み――様々な負の感情を集め、呪いの類いも合わせて今回の戦いに注ぎ込んだ。
それなのに、いくら頑張ってもリアムに勝てない。
案内人は涙を拭う。
「もう諦めた方がいいのかな? リアムなんて放置して、どこか他の世界で、人を不幸にして力を蓄えようかな?」
疲れ果てた案内人は、都会を離れて田舎でスローライフを送ろう! みたいな事を考え始めていた。
「へへっ、そうしよう。今までのように派手に不幸を振りまけなくてもいい。コツコツと丁寧に人を不幸にして、それを楽しもう」
小さな事に幸せを見いだせるようになりたい、というノリである。
もう、リアムと関わるのを止めよう――そんな決意をすると、何やらお腹の辺りに刺すような痛みを感じる。
「っ! またお腹が痛む。これもリアムの影響か? はぁ、もうこんな世界から離れて、別の世界に行くために準備を――」
気が滅入って気弱な発言が目立つ案内人だったが、右手でお腹を押さえると違和感を覚える。
「――何かおかしいな? お腹の中で何かが暴れているような――ひっ!?」
悲鳴を上げると、案内人は痛みが寄り激しくなったのを感じた。
何かがお腹の中に集まっている。
それは――リアムからの感謝の気持ちだった。
そこには当然のように、領民たちや世界樹――星々の感謝も合わさっており、案内人は体中から冷や汗が流れ出ていた。
「な、なんで!? どうして――私は何もしていな――はっ!?」
ここで一つだけ心当たりを思い出した。
それは、陰ながらリアムを守っていた犬の霊だった。
これまで何度も邪魔をされたため、腹いせに食べてしまった。
そんな犬の霊は、リアムとの縁がある――犬の霊を目印に、感謝の気持ちが案内人を目指して集まってくるわけだ。
「す、すぐに吐き出さないと――ぐはっ!!」
吐き出そうとする前に、案内人のお腹が膨れ上がっていく。
「や、止めて! 誰か助けてぇぇぇ!!」
そのまま大きく風船のように膨らんでいくと――弾けると同時に、眉間にしわ寄せて激怒している犬が現われた。
歯をむき出しにしている犬だが、その口には黒い靄をまとったロープのようなものを噛みしめている。
それは、案内人の臓器的な何かだ。
「お、お前はぁぁぁ!!」
案内人が右手を伸ばすが、あまりの出来事に体の方は消え去ってしまう。
帽子だけとなった案内人は、小さな手を伸ばす。
「犬ぅぅぅ!! お前だけはぁぁぁ!!」
激しい痛みにのたうち回りながら、案内人は犬を睨み付けていた。
犬の方だが――口から臓物をペッと吐き出すと、それらは黒い煙となり消えていく。
案内人の腹の中で散々暴れ回ってスッキリしたのか、ニヤリと笑いながらスキップでもするような軽い足取りで犬の霊が近付いてくる。
「え、嘘。今は駄目。いやぁぁぁ!!」
犬は口を大きく開けて、案内人に噛みついた。
◇
犬の霊が去った後。
案内人の体――帽子は、ボロボロにされていた。
一部は噛み切られており、犬に悪戯された後の姿になっている。
案内人はゆっくりと立ち上がる。
「――許さない。絶対に許せるものか」
案内人は、ここまで虚仮にされて引き下がれるほど落ちぶれてはいない。
というか、我慢できるほど大人ではなかった。
「あの犬ころも――飼い主だったリアムも――必ず地獄を見せてやる」
田舎でスローライフでも楽しもうと思っていた案内人の姿はそこになく、激しい怒りのオーラを全身から滲ませていた。
「手始めは首都星に向かおう。あそこで傷を癒しつつ、リアムを地獄に落とす計画を練る。今度こそ――今度こそリアムに地獄を見せてやるのだ!!」
ブライアン(´;ω;`) 「――側室が一人もいないのに、その候補すら内定止まりで辛いです。ハーレムを築くって言ったのに、リアム様の嘘吐き!!」
若木ちゃん(*´艸`) 「案内人さんが苦しむ姿、苗木ちゃんだ~いすき」
ブライアン(*´ω`*) 「それにしても、今回の宣伝は大変でしたね。星間からは【俺は星間国家の悪徳領主! 6巻】と【あたしは星間国家の英雄騎士! 1巻】が先月に発売となりました」
若木ちゃん(*´罒`*) 「モブせかからは【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 11巻】と【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 1巻】が先月発売されたものね。どちらも好調らしいから、これは苗木ちゃんの宣伝効果の影響ね」
ブライアン( *¯ ꒳¯*)ノシ 「これにてしばしのお別れでございますが、今後もWeb版と書籍版をよろしくお願いいたしますぞ。それでは皆様、次回は14章でお目にかかりましょう」
十三章はいかがだったでしょうか?
年末年始に書きながら投稿していましたが、やはり今回は発売する書籍が四作品もあってあとがきを書くのが大変でしたw
十三章はこれにて終わりになりますが、次回の十四章は現在未定となっております。
書籍が四つもあると、流石にすぐに書きます! は難しいです(汗)
また、下部からこの作品に対する評価が行えるようになっています。
気軽に点を付けてもらえればと思います。
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それでは、今後も応援よろしくお願いいたします。