全てはクラウスの手の中
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バンフィールド家の艦隊に捕捉され、捕らえられたクレオは牢の中にいた。
とは言え、腐ってもアルグランド帝国の皇太子である。
牢屋の中だろうと快適に過ごさせるため、高価な調度品などが置かれた部屋を用意されている。
給仕のためにメイドも用意されており、苦しい生活を送っているわけではない。
クレオが椅子に座っていると、そばにあるテーブルに給仕のメイドが飲み物を置いた。
メイドの格好をしているが、騎士として鍛えられているのだろう。
メイドを人質にとって――など、クレオの実力では難しそうだった。
飲み物の入ったコップを受け取ったクレオは、中身を飲み干すと呟く。
「――まさか、逃げた先にクラウス殿がいるとは思わなかった。かつてのクラウス殿は
ファラバルに乗っ取られた艦隊から逃げ出したクレオだったが、短距離ワープを繰り返した先に待っていたのがクラウスの艦隊だった。
鉄格子でなく、ガラスを張って逃げられないようにした部屋の向こう側。
そこに立つクラウスを見て、クレオは僅かに手が震えていた。
無表情で自分を見下ろす何の変哲もない男――だが、その正体は、リアムが信頼するバンフィールド家最強の騎士である。
帝国全体でも一、二を争うとされた男だ。
――冴えない男だろうとも、この帝国でリアムと同じくらい危ない男である。
強がって余裕の態度を見せているが、クレオの背中には嫌な汗が流れていた。
クラウスは小さなため息を吐いていた。
それがクレオには、まるで自身の強がりを見抜かれたような気がして恥ずかしかった。
同時に悔しく思う。
クレオは最後の望みをかけて、クラウスに提案する。
「貴殿が寝返ってくれるのなら、帝国は最大級の待遇を約束しよう。リアムではなく、この俺に仕えてみないか?」
成功するとは思っていない提案だが、クラウスの返事は予想通りだった。
「寝返るつもりはありません。既に、当家にて特別な待遇で雇われておりますからね。それに、この場で裏切るような人間を皇太子殿下は信用しないでしょう?」
貴殿ならば別だ! とは、クレオも即答できなかった。
そうして声を出せずにいると、クラウスが今後について話をする。
「――リアム様が我々の艦隊に合流しました。皇太子殿下の扱いについては、これから直接協議するとのことです」
「そ、そうか」
ついにその時がやって来た。
クレオも覚悟はしているつもりだったが、体が震えてくる。
(どのような責め苦が待っているのか? リアム――お前はきっと、俺を許しはしないのだろうな)
あれだけ尽くされておきながら、クレオはリアムを裏切った。
当然、命はないだろうと考えている。
◇
クラウスは激しい胃痛に悩まされていた。
その原因は――。
「本星の防衛ばかりか、クレオを捕らえた功績まで手にするとは――クラウス殿は思っていたよりも欲張りな方ですね」
微笑んでいるティアだが、瞳のハイライトは消えていた。
「い、いや、これはその、偶然でして」
まぐれだと言えば、今度は陽気なマリーがクラウスに笑いかけてくる。
しかし、その目は血走っていた。
「偶然だろうと功績でしてよ! ――もっと誇らしくしてはいかがかしら?」
二人の騎士に殺気を放たれるクラウスは、胃が痛くて仕方がなかった。
そんなクラウスのそばには、ニヤニヤしたチェンシーが立っている。
何故か知らないが、クラウスを「好き」と言って守ってくれる騎士だ。
しかし、その正体はティアやマリーに劣らない問題児である。
「クラウスに手柄を奪われたのが悔しいのかしら? 情けない人たち」
チェンシーのあからさまな挑発に対して、ティアとマリーが無表情になると武器の柄に手をかけようとする。
その様子を見ていたエマ・ロッドマン――ナンバーフォーが、慌てて止めに入った。
「皆さん、落ち着いて下さいよ!!」
何とか止めようとするエマを見ていると、クラウスは少しばかり胃の痛みから解放された気分になる。
(問題児ばかりじゃなくて良かった。本当に良かった)
嬉しさから涙が出そうになっていると、我関せずと言う態度だったエレンが背筋を伸ばす。
それから数秒して、リアムが入室してきた。
「全員、よく戦ってくれた」
素っ気ない礼を言うリアムは、部屋に入るとソファーに座って皆にも座るようにジャスチャーをする。
クラウスが腰を下ろすと、早速クレオの処遇について尋ねる。
「リアム様、皇太子殿下の扱いについてですが――」
その話題を振られたリアムは、一瞬だけ妙な顔をしてから――クラウスに尋ねる。
「お前ならどうする?」
「私ですか? この場合、リアム様が何を望まれるかが重要です。徹底抗戦をお続けになるなら、処刑した後に遺体を帝国へ返還となります。交渉するならば、条件を出して身柄を返還することになるでしょう」
結局、リアムが何を目指すかでクレオの扱いが変わってくる。
ティアはクレオの扱いについて、思うところがあるのか意見を述べてくる。
「ここまで領内を荒らした責任者ですからね。相応の報いを受けてもらわなければ、納得しない者たちが出てきます」
征伐軍がバンフィールド家の領内を荒らし回ったのは事実である。
それを実行させたクレオには、相応の報いを! というのが大半の意見だろう。
しかし、リアムの意見は違うらしい。
「無能な働き者が皇太子というのは、俺にとっては都合がいい。返還したところで、帝国で処罰されるだろうが――身柄の引き渡しについて交渉に入れ」
クレオを無傷のまま送り返せという命令に、マリーが慌てて確認する。
「リアム様はそれでよろしいのですか!? 奴は、リアム様を裏切った大罪人ですわよ!」
リアムはそれを聞いても平然としていた。
「そうだな。別に処刑してもいいが――生き残った方が、面白いと思っただけだ」
「で、ですが」
納得できないマリーたちを黙らせるためか、リアムは違う話題を出す。
「それよりも、ティアとマリーの活躍は見事だった。約束通り、本星に戻ったらナンバーズ入りを正式に発表する」
ナンバーズ加入が内定すると、ティアとマリーが目をむいた。
そして、すぐにリアムの前に出て膝をついて頭を垂れる。
「このクリスティアナ、更なる忠誠を誓います!」
「今後もリアム様のために励みますわ!」
その様子を見て、リアムは投げやりな態度を取る。
「じゃあ、今後も頑張れよ」
面倒な話が終わったと思ったのか、リアムが退出しようとするのでクラウスが慌てて追いかける。
◇
廊下に出ると、俺の斜め後ろをクラウスがついてくる。
どうやら、俺のクレオへの扱いが疑問だったらしい。
「リアム様、本当に皇太子殿下を返還してよろしいのですか?」
「交渉材料に利用すればいい。腐っても皇太子の身柄ともなれば、帝国も相応の条件を出すしかないからな」
周囲には護衛の騎士たちが、俺たちから数メートルの距離を取って歩いていた。
俺たちの会話を邪魔する者はいない。
クラウスはアゴに手を当てている。
「実利を得るのも大事ではありますが、バンフィールド家は皇太子殿下に腹を立てている者たちも大勢います。厳しい処置を求める者たちも出るでしょう」
「だろうな。俺も殺せるなら、今すぐに殺してやりたい」
俺の返事にクラウスが僅かに驚いていた。
「個人的な感情を飲み込み、実利を選ばれたのですか? それならば、私からこれ以上は何も言いません」
色々と察してくれたようで助かる。
ただ、俺の本音にはクラウスでも気付いていないだろう。
――クレオなどいつでも殺せる。
殺すタイミングが問題なだけだ。
まぁ、送り返した後に、帝国で処刑される可能性もあるが――俺はどっちでもいい。
「俺としては、あの無能の働き者であるクレオが皇太子でいる方が助けるけどな。今回もあいつのミスで、俺たちの被害は減ったわけだ」
「結果論になりますが、確かに皇太子殿下の存在は我々にプラスとなりました。ただ、今後もプラスになるとは思えません」
「お前は心配性だな。まぁ、どっちでも良いんだよ」
クレオが生き残って俺たちの前に出て来ようと、帝国で処刑されようと関係ない。
しばらく無言のまま歩いていると、クラウスが恐る恐る尋ねてくる。
「その――リアム様?」
「何だ?」
「実は無視できない報告がありまして――リアム様が、敵艦に乗り込み魔王と戦った、などという情報があるのですが?」
戦争中に総大将が、僅か数名で敵艦に乗り込むなどあってはならない。
俺は僅かな後ろめたさから、クラウスから顔を逸らした。
「これは一閃流の問題だ」
「事実だったのですね」
右手を顔に当てて、天井を見上げるクラウスは呆れたような顔をしていた。
クラウスが頭を振ると、続いて俺に確認してくる。
「それで、アルゴスに関する件ですが――」
◇
バンフィールド家の本星に帰還したアルゴスを待っていたのは、第七兵器工場の技術者たちだった。
専用ドッグにて整備を受けるアルゴスは、本来存在しないはずの機関を晒している。
その機関を調べているのは、人格を捨てて能力を優先したような科学者のニアスだ。
第七兵器工場のスタッフたちが、検査用の機器をアルゴスに取り付けて色々と調べている。
そんな中、無重力の中で浮かんでいる俺とニアスは、アルゴスが得た機関について詳しい話をしていた。
「不死の艦隊の原因は、ファラバルではなくてこいつだったのか」
「何百万という艦艇を支配下に置き、その修復と補給を行っていたなんて脅威ですよね」
不死の艦隊を生み出した機関が、今はアルゴスに積み込まれている。
これさえあれば、俺の艦隊も同じ事が可能になる。
ただ、ファラバルのようにはいかないらしい。
ニアスはアルゴスに積み込まれた機関の限界を計算していた。
「話に聞くように、何百万の艦艇を維持するのは不可能ですよ。可能なのは、アルゴス一隻でしょうね」
「劣化したのか?」
「能力が低下したというよりも、これまで無理をさせてきた結果でしょうね」
「中古品を渡してきたのか? ファラバルの奴、蘇ってきたらまた俺が斬り殺してやる」
腕を組んで文句を言っていると、ニアスが真剣な表情を向けてくる。
「――それで、リアム様はこいつの性能をどこまで使うつもりですか?」
どこまで? それは、アルゴスのクルーを不死者にするのか? という問いだ。
俺にとっては愚問である。
「必要ない。アルゴスの補給と修復さえ出来ればいい」
「よろしいのですか? 一隻とは言え、超弩級戦艦ですからね。クルーの育成に頭を悩ませないでいいのは大きいですよ」
優秀なクルーを不死者として使い倒すのは魅力的だ。
だが、俺は不死者に興味がなかった。
「興味がない。それに人は死んでこそ、だからな」
「永遠の命には興味がないんですか? 権力者の夢でしょうに」
権力を得た人間が目指すのは、永遠の命である。
古今東西、不死を得ようとした権力者たちは多い。
――そこに何の意味があるというのか?
それに、前世を持つ俺は案内人の存在を知っている。
「人が魂を扱うなんて恐れ多いのさ」
俺の呟きに、ニアスは肩をすくめていた。
「普段から尊大な態度のリアム様が言っても、説得力がありませんよ」
「――とにかく、俺はその機能を使わない。封印しておけ」
封印を命令すると、ニアスは微笑していた。
「そう言うと思っていましたよ」
ブライアン(´;ω;`) 「リアム様が案内人を盲信しすぎて辛いです」
若木ちゃん(*´艸`) 「それよりも、マリエちゃんが活躍する【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 1巻】だけど、まさかの恋愛要素を盛り込んだらしいわよ。マリエルートその1をベースに、盛りに盛って書かれた一冊だから、皆も確認してね」
ブライアン( *¯ ꒳¯*) 「マリエルートですが、実は小説家になろうにてSSとして投稿されたのがきっかけとなっております。既になろうから削除されておりますが、覚えている読者さんたちはいますでしょうか?」
若木ちゃん( ^∀^) 「私もSSで活躍して書籍化されたいから、みんな応援してね。間違っても、パンドラを応援したら駄目だからね(念押し)」