魔王のお墨付き
今回も無事に毎日更新出来そうで安心しました。
今回を含めて、残り三話くらいで十三章も終わると思います。
「はぁ――はぁ――」
宇宙戦艦の廊下を駆け抜けるエレンは、途中に出現する不死者たちを一閃で斬り裂いていく。
斬り裂いた不死者の体がバラバラになり、床に崩れ落ちる前にはその横を通り過ぎていた。
騎士として肉体強化処置を受け、一閃流の過酷な修行の末に得た肉体は普通の人間では不可能な速度を出していた。
「嫌な気配が濃くなっている。その中に――師匠の気配がある」
ガルンに乗り込んでから、エレンもリアムの言う邪悪な気配を感じ取っていた。
それでも、感じ取れたのは乗り込んだ後の話である。
リアムの異常すぎる感知能力に驚きつつも、エレンは自分の師が偉大であることを再認識して嬉しくなる。
尊敬しているリアムの偉大さを感じられて嬉しいが、同時に悔しくなる。
「早く合流しないと、師匠の戦いをこの目で見られない」
ローマン剣術を相手に時間をかけすぎた。
後悔しつつ廊下を駆けている。
そして、廊下に倒れている不死者たちを道標にして、エレンはようやく謁見の間へとたどり着いた。
「師匠!」
部屋の中からは濃密な邪悪な気配が、黒い煙となって溢れていて中の様子がナにも見えなかった。
そんな状態の部屋にエレンは飛び込み、リアムの姿を探す。
すると、負のオーラが全身よりあふれ出ているファラバルの姿が目に入る。
大剣を右腕一本で振り回している姿だ。
まさに暴力の化身だったが、そんなファラバルに対抗しているのはリアムだった。
普段は鞘から抜こうともしないお気に入りの刀を抜き、刃をさらけ出している様子にエレンは違和感を覚える。
エレンは眉根を寄せた。
(まさか、師匠が追い込まれている?)
凜鳳と風華を探せば、二人とも床に座り込んでいた。
凜鳳は長刀を杖のように使っているが、その視線はリアムとファラバルではなく風華を見ている。
驚いていると言うよりも、唖然としているようだった。
風華の方は、まっすぐにリアムを見ていた。
呼吸が乱れ、随分と疲労しているようだが――こちらは清々しい表情をしている。
自分がいない間に何が起きたのか?
そんな疑問を飲み込み、エレンはリアムの姿に視線を戻した。
リアムは、エレンが戻ってくるとファラバルから距離を取るため後ろに下がる。
エレンの近くにやって来たリアムは、屈んだ状態で刀を右手に握りしめていた。
呼吸が乱れ、パイロットスーツがボロボロになっていた。
「ようやく来たか。待っていたぞ」
「し、師匠――その姿は?」
リアムがここまで追い込まれるとは思っていなかっただけに、エレンは困惑して声が震えていた。
リアムの口元は笑っている。
ヘルメットは壊れたのか、頭部を晒していた。
――お気に入りの刀も刃には欠けやひびが目立っている。
この姿が、ファラバルとの激戦を物語っていた。
リアムは汗ばんだ髪を手で後ろに流し、オールバックにすると一度深く深呼吸をする。
「自称魔王から聞き出したいことがあったから遊んでいた」
とんでもない答えにエレンが唖然としていると、ファラバルが笑い始める。
「このような楽しい時間は初めてだ! こうしていつまでも戦い続けていたいが――そろそろ我も、我の艦隊も限界が近い。リアム殿――これで最後だ」
ファラバルの姿もボロボロだった。
鎧には幾つもの傷が入り、よく見れば大剣もボロボロだ。
骸骨にもひびが入っているのだが、いくつかの傷からは黒い煙が出ていた。
それが負荷での証拠なのか、ファラバルが一番深い傷に左手を当てていた。
満身創痍のファラバルが、最後というとリアムが刀を鞘に収める。
「聞きたいことは聞けた。もうお前は用済みだ」
つれないリアムの言葉を聞いて、ファラバルはカタカタと骸骨を鳴らしながら愉快そうに笑う。
リアムの無礼な態度を少しも責める様子がない。
「我が勝てば、今後は退屈せずに済みそうだな。さて――」
ファラバルが大剣の柄を両手で握って構えを取ると、リアムは鞘に入った刀を横にして自身の目の前に構えた。
必殺の一閃を放つ構えを取るリアムの姿を見たエレンは、その姿に幻覚を見る。
(あ、あれ?)
キラキラと輝く小さな黄金の光たちが、リアムに集まり輝いているように見えた。
◇
リアムと向かい合うファラバルは、ボロボロになった体に鞭を打つように大剣を構えていた。
(あぁ、何と素晴らしき勇者か! これこそが、我の求め続けた勇者の姿である)
人外であるファラバルに見える景色だが、リアムの背中に上半身裸の巨人が見えた。
口を隠すようなマスクをしており、長い髪が揺れている。
両腕には籠手を装備し、右手には抜き身の刀を握りしめていた。
(負のエネルギーと対を成す、正のエネルギーをここまで集める人間が存在するとは思わなかった。やはり、世界は広い! これほどの逸材に出会えるとは、まさに奇跡である!)
黄金の光の正体は、それは人々の祈り。
そして、世界樹や星々がリアムを助けているようにも見えた。
(何十億――いや、何百億の祈りと願いを集め、こうして世界を滅ぼす我と立ち向かうか。リアム殿こそが、真の勇者――叶うならば、もっと戦い続けたかった。それに――)
ファラバルはリアムに勝つような言動をしていたが、既に勝敗は決していた。
ファラバルは――既に滅びかけていた。
ファラバルは言う。
「貴殿を倒した後は、剣神である安士殿に挨拶に出向くとしよう。貴殿の師ならば、我自ら出向いても惜しくない」
ファラバルにしてみれば、最大級の賛辞である。
しかし、リアムは気に入らないようだ。
「俺を倒せないお前が、師匠に会うなんて百年早い」
「百年!? 百年でいいのか? くくくっ! それだけでいいならば、いくらでも待つだが?まぁ、いい。それでは――」
雑談をしているのも辛くなり、ファラバルは最後に全力の一撃を放つことにした。
「――参る」
全身全霊を込めたファラバルの一撃は、自己修復機能を持つガルンであっても耐えられないのか悲鳴を上げていた。
ガルンだけでなく、味方の艦隊すら巻き込んで消滅させてしまいそうな一撃だ。
――だが。
「一閃」
リアムが一閃を放つと、その強大な威力の攻撃さえファラバルと一緒に斬ってしまう。
ファラバルの胸に横一文字の傷が入った。
その傷は黄金に輝いており、ファラバルの体から黒い煙が大量に吹き出す。
「がはっ!」
ファラバルが両膝をついてその場に座り込むと、大剣を手放してしまう。
これまで死を振りまくだけだったファラバルだが、ここに来てついに受け入れる側に回った。
そんな状態でも、ファラバルは笑っている。
「見事――見事なり!」
◇
一閃を受けても完全消滅しなかったファラバルは、ゆっくりと崩れるように消えていく。
一瞬で消し飛ばせなかった。
修行不足を感じていると、ファラバルが俺に話しかけてくる。
「魔王に勝った勇者には――褒美が必要――だろう?」
「あん? お前の物は、既に俺の物だ」
勝者の特権で、ファラバルの持つ品は全て俺が引き取るつもりだった。
しかし、ファラバルは笑っている。
「奪うだけでは使えぬ代物も多いからな。我からの褒美を受け取るといい。リアム殿の乗艦に使うといい」
艦内が揺れると、床から直径三十メートルの球体が飛び出てきた。
脈打つように動くそれは、部屋を突き破ってアルゴスの方へと向かっていく。
「何をした?」
「不死の艦隊を動かしていた道具だ。もはや、我には不要だからくれてやる。今後は好きに使うといい」
この期に及んで、俺たちを道連れにするつもりはないらしい。
潔いと言えば聞こえはいいが、この潔さをもっと前に発揮して欲しかった。
「俺の乗艦に余計なことを」
「くくっ――最後まで口の悪い勇者殿だ」
「俺は勇者じゃない。むしろ、悪党側の人間だ」
悪徳領主である俺が勇者? 何を考えているのかと思ったが、ファラバルは笑いながら俺の考えを否定する。
「悪党に我を滅ぼすなど不可能だ。それに、魔王を倒した者が勇者だ。――そこに善悪の価値観は必要ない」
自分の意見を曲げない頑固者だな。
「もう好きにしろ」
「ふふっ――欲を言えば、剣神である安士殿とも戦いたかった。いったい、どれだけの強者であろうか? 滅びかけているというのに、胸が高鳴って仕方がない」
こいつに高鳴る胸があるのか?
そうしてファラバルの体が消え、骸骨だけとなると――。
「真なる勇者を称えよう! そして、最強の剣神がこの世界にいると、我の声が届く全ての世界に届けよう。我が認める――リアム殿は真なる勇者! そして、安士殿こそが最強の剣士なり!!」
ファラバルは、最後の最後に叫びながら消えてしまった。
そんな姿に俺は本音がこぼれる。
「何を当たり前のことを」
小さくため息を吐くと、俺の方にエレンが駆け寄ってきていた。
「し、師匠!」
抱きつこうとしてくるエレンだったが、それよりも先に――。
「兄弟子! 俺――俺は!」
――風華が俺の背中に抱きついてきた。
泣きじゃくる風華の頭に右手を置いて、俺はやや乱暴になでてやる。
「俺もお前も鍛え直さないと駄目だな」
「うん。俺、頑張るから。もっと強くなるから」
「そうか」
風華をなでていると、エレンが黙ってその様子を見ていた。
大人の女性らしく振る舞っているつもりなのだろうが、俺から見れば寂しそうにしているのが丸分かりだ。
後で褒めてやろうと思いつつ、俺たちの輪に入れない凜鳳に視線を向ける。
そこには、風華を凝視している凜鳳の姿があった。
◇
俺たちがアルゴスに戻ってくると、何やら騒がしかった。
戦況が悪化しているのかと思ったが、そうではない。
むしろ――。
「敵艦隊が動かない?」
「は、はい。残存している敵のほとんどが沈黙しています。残っている敵艦は、どうやら不死者にならなかった艦艇みたいです」
曖昧な報告をしてくるのは、髪が乱れて疲れ切った表情のユリーシアだった。
報告が微妙になっているのを自覚しているのか、申し訳なさそうだ。
「それで、こちらの被害は?」
「軽微です。それから、クラウス閣下より報告がありました」
「何だ?」
「撤退中の皇太子を捕らえたそうです。リアム様の指示を仰ぐまで、拘束に止めているそうですが――」
クレオの扱いを尋ねてくるユリーシアだったが、俺はそれよりもクラウスの活躍に驚かされた。
「あいつも出撃したのか?」
「はい。クリスティアナ様とマリー様が、この報告を聞いて歯ぎしりをしていましたよ」
「だろうな。これでクラウスには、星の一つでも渡さないといけなくなった」
ケラケラ笑っていると、ユリーシアが頬を引きつらせる。
「リアム様、それよりも先に気にすることがあるんじゃないですか?」
ユリーシアがブリッジに視線を巡らせると、クルーたちも俺を見ていた。
まぁ、気持ちは理解できる。
「魔王を名乗る骸骨からのプレゼントだ。素直に受け取っておくとしよう」
「そんな説明で納得できませんからね! どうして、大破しかけていたアルゴスが、出撃前の状態まで戻っているんですか!? エネルギーだけじゃなく、実弾まで補充されているんですよ!? 各所から説明して欲しいと言われているんですから、ちゃんと教えて下さい!」
ユリーシアに詰め寄られる俺は、これがファラバルの嫌がらせなのではないか? と思えてきた。
アルゴスが完全修復され、物資も揃っている状態らしい。
――まぁ、急にこうなれば誰だって疑うよな。
「俺に言われても困る。文句を言うならファラバルに言え」
「リアム様が倒したじゃないですか!」
――それもそうだな。
安士 (゜ロ゜; 三 ;゜ロ゜) 「ぎゃあああ!! 何で!? どうして!? どれだけ俺を巻き込めば気が済むんだよ!!」
ブライアン(*・ω・*)b 「安士殿が辛そうで、このブライアンは幸いですぞ」
若木ちゃん(*´艸`*) 「苗木ちゃん、人の不幸ってだ~いすき。それよりも、今日も元気よく宣伝しましょうね。あ、今回は安士さんに宣伝してもらおうっと!」
安士(`Д´) 「ふざけるな! 俺があいつらにどれだけ苦労させられたと――って、そう思えば【俺は星間国家の悪徳領主! 6巻】で登場する風華と凜鳳だよ! あいつら、育ててやったのに俺を苦しめるとはどういう了見だ? 6巻ではリアムを暗殺するために行動するのに、どうしてあんな結果に――」
ブライアン(・ω・`;) 「宣伝はするんですか?」
安士(;´゜Д゜) 「いや、あの――宣伝したら、嫁がお小遣いくれるって言うから」
若木ちゃん(*´艸`) 「お小遣い制の剣神(笑)って、草生えちゃうwww」