バンフィールド家の二将
最近は神社に行く機会が多く、今回は初詣にも行きました。
結果ですが、どのおみくじにも「もっと頑張れ」と書かれていました。
……これ以上に「書け」と!?
宇宙戦艦のブリッジにて、マリーはシートに座って脚を組んでいた。
戦闘中は荒々しい態度が目立つマリーだが、今は静かに不死の艦隊を見ていた。
不死者となったトライド子爵が率いる艦隊との戦闘中だが、本人は闘争心が消えてしまったような態度だ。
「死ぬのが怖くない――か」
やる気をなくしたような態度のマリーを見下ろしているのは、モニターに映し出されるトライド子爵だった。
不死者特有のひび割れた肌に、黒い目と赤い瞳。
『無駄ですよ。いくら死のうとも、我々はファラバル様のお力で何度でも蘇りますからね。あなた方の努力は何の意味もありません』
死ぬことがないトライド子爵は、戦争に対して恐怖心がなかった。
それは戦いにも影響が出ており、不用意な突撃や作戦が増えている。
戦闘が雑になっているのだが、それでも優勢なのはトライド子爵の艦隊だ。
トライド子爵をはじめとした帝国貴族たちも、不死者となって喜んでいた。
『ファラバル様こそが我らの主君!』
『マリー・セラ・マリアン殿も、ファラバル様に仕えてはどうかな?』
『死を恐れる必要がない。まさに、これこそが神の御技!』
ファラバルを神とまで崇める貴族まで現われていた。
確かに、何度死んでも蘇れば、ファラバルを神と崇めたくもなるのだろう。
しかし、マリーは少しも興味がなかった。
「あたくしにとって、主君はリアム様ただお一人のみ。他の有象無象に仕えるくらいなら、自ら首を斬り飛ばしますわ」
ひょうひょうと返事をするマリーを見て、トライド子爵は眉根を寄せた。
苦々しい表情をしているのは、ファラバルからの指示があるためだ。
『ファラバル様がお前を所望しなければ、さっさと宇宙の塵にしてやったものを。少しばかり、調子に乗っているようだな』
トライド子爵たちの艦隊運用に遊びが目立っている理由は、ファラバルが有能なマリーを是非とも配下に加えたいと命令を出しているためだった。
トライド子爵たちにとっては、自分たちよりも高く評価されているのが気に入らないのだろう。
マリーはそれを聞いて嘲笑する。
「あら? いつで殺せる、みたいに言うのね。相手との力量差くらい自覚してはどうかしら?」
鼻で笑われたトライド子爵の顔に入ったひびが、バキバキと音を立てて広がっていく。
不機嫌な表情をしているが、生前よりも禍々しい顔になっていた。
『殺せば死ぬだけの下等生物が』
トライド子爵の言葉を聞いて、マリーは無表情になった。
「自分たちが上等になったと勘違いしているようね。――いいわ、教えてあげる」
マリーがシートから立ち上がると、敵本隊との距離を副官に確認する。
「敵本隊との距離はどうかしら? 万が一にでも、リアム様の乗艦にあたくしの艦隊が攻撃するなんて許されないわよ」
副官は距離を確認すると、頷きながらサムズアップした。
「問題ありません」
「いいわ。それなら、死ねないことを喜んでいる愚か者たちに――死ねない苦痛を叩き込め!!」
激高するマリーの言葉に、副官も同調する。
「俺たちを前にして、死ねないことを喜ぶなんて馬鹿な奴らですよ。こっちは少し前まで、死にたくても死ねなかったんですから」
死にたくても死ねなかった。
かつてマリーたちは、二千年前の皇帝により意識を保ったまま石化させられた。
祝福で精神が崩壊しないようにされ、二千年もの長い時を石として過ごしてきた。
そんなマリーたちから言わせれば、死にたくても死ねないというのは苦痛でしかない。
マリーが血走った目で笑っている。
「本当に死なないのか、あたくしたちが試してあげるわ。お前たちは、何度死んだら『殺してくれ』って泣き叫ぶのかしらね?」
◇
その頃、ティアはブリッジで報告を受けていた。
報告しているのは、白衣を着た研究員風の錬金術師である。
『閣下、捕らえた不死者に関する実験結果です。現時点で完璧に解析したとは言えませんが、効果的な対処法は見つかりました。閣下の読み通りでしたよ』
「そう」
返事をしながら、周囲に表示されるデータを確認するティアは微笑む。
アンデッド対策が何の効果も発揮しなかったので、アプローチを変えてみた。
その結果は大正解である。
「敵本隊とのリンクを遮断し、不死者を殺すと復活せず――リンクが回復した際の不死者の様子は?」
『何の反応も示さない死体でした。これは仮説になりますが、不死者の中にも上位の存在がいる可能性があります』
「上位存在とは?」
『捕らえた不死者に意識はほとんどありませんでしたが、閣下とハンプソン侯爵の会話から意識は存在すると判断しました。つまり、意識を保てているという点で、ハンプソン侯爵は上位の存在である可能性があります』
「あぁ、そうなのね。ご苦労様でした。引き続き、不死者の解析を続けなさい」
『はっ』
味方との通信が終わると、ティアはモニターに今も映ったままのハンプソン侯爵に視線を向けた。
苦々しい表情をしていることからも、今の仮説は的外れではないらしい。
「本隊とどのように繋がっているのか知りませんが、それを切断さえ出来れば復活は困難になるそうね」
『――ふん、それを知ったところで状況は変わらぬ。ファラバル様に挑んだリアムも、すぐに我々の軍門に降るだろう。そうなった時のお前の絶望する顔を見るのが今から楽しみだ』
通信が切断されると、ティアは薄暗い笑みを浮かべて副官に命令を出す。
「聞いての通りよ。あまり時間はないわ」
「はっ! すぐに準備に取りかかります」
「――えぇ、不完全な不死者になったと喜んでいる馬鹿共に、恐怖を思い出させてあげないとね」
ティアがブリッジで腕を組み、準備が整うまでの時間を待つことに。
だが、敵艦隊は攻勢を強めてくる。
「閣下、敵艦隊の攻撃が勢いを増しています!」
オペレーターの報告に動じないティアは、むしろ喜んでいた。
「駄目よ、ハンプソン――露骨に反応したら、私たちが恐ろしいって言っているようなものじゃないの」
敵の攻勢に対してティアの艦隊は後退を続けるが、副官がどこからか通信を受けてティアに告げる。
「準備が整いました」
「はじめなさい」
「全艦、攻撃タイミングを旗艦に合わせろ。ミサイル発射! 着弾前に、主砲の一斉射を忘れるな!」
副官が細かな命令を出していくと、ティアの艦隊が素早く動いて実行していく。
敵本隊とのリンクを遮断するミサイルが着弾した敵艦に、味方艦隊の攻撃が命中して破壊していく。
今までであれば、すぐに修復が開始されるはずだったが――その様子が見られないことを確認して、ティアは更に命令を出す。
「続けなさい。不用意に突撃してきた敵の陣形が崩れている内に、削れるだけ削るのよ」
不死の艦隊の弱点を見つけたティアは、ハンプソンのために微笑を浮かべた。
「今度は息の根を確実に止める。嫌なら、無様に逃げ回るのね――ハンプソン」
オペレーターたちは、敵艦隊が崩れていく光景を前にして声が弾んでいた。
歓声のような報告が続く。
「敵艦隊に修復の兆候ありません!」
「味方艦隊、敵艦隊を次々に撃破していきます!」
「他艦隊より報告! 同様の成果を確認。これより、敵艦隊に攻撃をかける、です!」
何度倒されても修復される敵艦隊だが、その度に足りないパーツを強引に修復していた。
そのせいか、性能面は酷く劣っていた。
攻撃は行えるが、防御など考慮しない艦隊だ。
当然のように、バンフィールド家の艦隊に次々に撃破されていく。
そして、副官が敵艦――ハンプソンの乗艦が逃げていくのを発見する。
「ティア様! ハンプソンの乗艦が撤退していきます!」
「逃がしては駄目よ。確実に殺しなさい」
無慈悲なティアの言葉に反応してか、モニターにハンプソンの顔が映し出される。
『クリスティアナ! このままで終わると思うなよ。ファラバル様の不死の艦隊に損害を与えたお前は、必ず地獄を見るぞ!』
ファラバルの名前を出すハンプソンを見て、ティアはケラケラと笑った。
その後、無表情になる――そんな情緒不安定なティアを見て、ハンプソンが頬を引きつらせていた。
だが、ティアは気にせず告げる。
「地獄なら味わったわ。次は――お前の番よ」
『クリスティアナァァァ!!』
直後、ハンプソンの乗艦は撃破され、ブリッジ内が光に津つまり蒸発して消えてしまった。
ティアはうっとりと微笑む。
「さぁ、リアム様をお迎えに行くわよ」
◇
その頃、マリーの艦隊は――。
「ちっ! この程度で音を上げるじゃないわよ!!」
――トライド子爵の艦隊に突撃をかけていた。
機動騎士に乗り込むマリーは、トライド子爵の乗艦を攻撃していた。
そして、マリーの機動騎士の手にはトライド子爵が握られている。
宇宙空間でもがき苦しむトライド子爵は、マリーの機動騎士に何度も――何度も――何度も――何度も――何度も――握り潰されていた。
その度に、すぐ復活する。
最初こそ『この程度のことで!』と強がりを見せていたが、次第に『は、話を聞いて――』『ま、待って! 待ってくれ!』と話し合いを持とうした。
しかし、マリーは片手でトライド子爵を何度も握り潰しながら、周囲の鑑定を攻撃して撃破し続けた。
復活する度に歪な形で修復される艦艇たちは、既に原型を止めていなかった。
光学兵器の発射口も歪んでしまったのか、攻撃しようとすると自爆する艦艇も幾つも出現している。
何度も破壊された結果、もはや戦艦とは呼べない姿に変貌してしまっていた。
トライド子爵の乗艦も同様だ。
鉄で出来た団子のような姿に変わり果てており、内部のクルーたちは挟み込まれてもがき苦しんでいた。
そんな姿を見ながら、マリーは機動騎士の大型ライフルの引き金を引く。
撃ち抜かれ、周囲に飛び散るが――すぐに修復するため集まり出す。
マリーの部下たちも同じ事を行っており、周囲には凄惨な光景が広がっていた。
それを作り出したのは、バンフィールド家の艦隊である。
機動騎士の手の中で、何度も復活して歪な姿になったトライド子爵がマリーに許しを請う。
『た、助けて――もういっそ――殺して――くれ』
トライド子爵の口の動きを読み取り、コックピット内で音声が再生される。
宇宙空間でも会話が出来ているのはこのためだ。
トライド子爵がこの苦しみから逃れられる方法は、不死者でなくなることだった。
しかし、マリーはそれを許さない。
「あたくしたちが何千年耐えたと思っているの? お前は部下たちと一緒に、このまま肉塊となって宇宙をさまよい続けると良いわ!!」
トライド子爵を乗艦に叩き付けたマリーは、銃口を向けて引き金を引く。
そのまま復活しても、乗艦に取り込まれたトライド子爵は身動きが取れない状態だった。
『誰から私を助けてくれ!!』
悲痛な叫び声を上げるが、当然ながらマリーは無視する。
味方機が近付いてくると――。
『マリー! ティアの艦隊がリアム様の救援に向かった! ナンバーフォーも、艦隊を率いて向かっていやがる。出遅れたぞ!』
リアムを救出するために味方が動いていると聞いて、マリーの口調が荒くなる。
「ミンチ女に先を越されてたまるかよ! お前ら、いつまでも遊んでんじゃないよ! さっさと母艦に戻ってリアム様の救出に向かうぞ!」
この光景を率先して作りだしたマリーが「遊ぶな!」と命令するため、部下たちは渋々という態度で母艦へと戻っていく。
『一番遊んでいたのはマリーだろ』
『さっさとリアム様を助けに向かうぞ』
『ミンチ共には先を越されたくないからな』
マリーは、機動騎士で文句の多い部下たちの機体を蹴り飛ばす。
「さっさとしろ、馬鹿共が!」
ブライアン(´;ω;`) 「敵より敵らしい騎士たちが、味方なのは頼もしいですが辛いです。まともな騎士が増えてくれることを祈っておきますぞ」
若木ちゃん(; ・`д・´) 「こいつらより酷いヒドインたちがいる作品があるけど、私は絶対におすすめしないわ。【幻想と現実のパンドラ】って作品だけど、絶対に読んじゃ駄目だからね!」
ブライアン(*´꒳`*) 「パンドラの話は忘れることにして――皆様、お正月を楽しんでおられますかな? 12月末に発売した四作品が、現在好評発売中でございます。お時間があるようでしたら、是非とも手に取って頂ければ幸いでございます」
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