成長の時
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風華はリアムの戦う姿を見ていることしか出来なかった。
暴力の化身とも言うべきファラバルだが、その一撃一撃は威力も速さも人外だった。
騎士並に肉体強化を受けている風華でさえ、ファラバルの異様な強さに驚いている。
ただ、リアムもファラバルに負けていなかった。
風華の目には、リアムとファラバルの残像が幾つも出現しているように見える。
時折、二人の放った斬撃が周囲に被害を及ぼしていた。
柱が斬り倒され、床はへこむ。
二人の戦いだけで、ガルンが沈んでしまうのではないか? そんな考えが浮かんだが、再生能力を持っているガルンには無用の心配だった。
破壊されるそばから修復していく。
(兄弟子は凄いのに、なんで俺は――同じ一閃流の剣士なのに)
金縛りで動けない風華は、ファラバルと戦えているリアムが遠い場所にいるような気がした。
自分たちのずっと先にいると理解する。
同時に、師匠である安士はその先に達した剣士なのだと。
(俺は出来損ないなのか? 師匠ばかりか、兄弟子にだって及ばない。このまま俺は――)
不甲斐ない自分の心が折れそうになっていると、隣で同じように戦いを見ていた凜鳳が笑っていた。
「ははっ! 兄弟子ってば、どれだけ僕の先に行けば気が済むんだよ?」
未だにリアムに追いつくつもりである姉妹同然の凜鳳を見て、風華は自分がまがい物であると自覚する。
「どうして笑っていられるんだよ? 凜鳳、お前はどうして――」
「あん? そんなの簡単じゃないか。いつかたどり着けばいいだけだろ?」
風華の問いに素っ気なく答える凜鳳は、呆れてため息を吐く。
「何? お前は諦めるつもり? その程度の覚悟で一閃流を受け継ぐとか言っていたなら、不愉快極まりないね。これが終わったら、僕がお前を殺すよ」
凜鳳に明確な殺意を向けられた。
姉妹同然に育った凜鳳の言葉に、風華は驚かない。
むしろ、自分が逆の立場でも同じ事をする。
――安士から受け継いだ一閃流だけが、血の繋がりのない自分たちを強く結びつけるものだから。
一閃流を汚すというのは、安士に拾われ育てられてからの優しい思い出を穢されるに等しい行為だ。
だからこそ、凜鳳の言葉が真実であると確信する。
凜鳳は、この戦いが終われば自分を殺すのだろう、と。
「お、俺は――」
言葉を絞りだそうとしていると、その時にファラバルが風華の隣を通り過ぎた。
激しい音が斜め後ろから聞こえたので振り返ると、金縛りが解けていた。
ファラバルは壁に激突しており、床に座り込んでいた。
大剣を杖代わりに立ち上がるファラバルは、頭蓋骨にひびが入っている。
ただ、とても嬉しそうにしていた。
「これだ。これなのだ、リアム殿! 我の乾ききった心が震えておる! 忘れかけた恐怖を貴殿が呼び覚ましてくれる!」
人外の化け物が、恐怖を感じて歓喜に震えていた。
その姿が、風華には不気味に見えた。
いつの間にか、リアムが風華の隣に立っている。
「死ぬなら、俺の質問に答えてから死ね」
ファラバルを相手に優勢に戦いを進めたリアムだったが、その姿も痛々しい。
パイロットスーツはボロボロで、リアムの呼吸も僅かに乱れている。
リアムが風華を無視してファラバルに近付くのだが、それが異様に寂しく感じられた。
(俺はもう――兄弟子にも見捨てられた)
気落ちしていると、金縛りが解けた凜鳳が動く。
「一閃!」
リアムよりも先に凜鳳が一閃をファラバルに見舞う。
凜鳳が得意とする渾身の一閃だったが、それを受けたファラバルは激怒した。
一閃はファラバルに傷一つ付けられなかったのだが。
「我らの勝負に水を差すなぁぁぁ!!」
ファラバルが大剣を振るうと、凜鳳と風華が吹き飛ばされる。
「許さぬ! 絶対に許さぬ!!」
ファラバルは先程と違って怒りに任せ、暴走しているようだった。
反対側の壁――数百メートルの距離を吹き飛ばされ、壁に激突した風華と凜鳳はファラバルの威圧により壁にめり込み動けなくなった。
「かはっ!」
押さえつけられた風華は、口から血が出ると目の前にファラバルが見えた。
大剣を振り上げており、今まさに振り下ろそうとする瞬間だった。
その光景をどこか冷静に見ている自分に気が付く。
(最低な終わりだな。師匠――ごめんなさい。一閃流の名に泥を塗っちまった)
敗北して一閃流の名を汚した。
そう思っていると、リアムが二人の間に割り込んでファラバルの一撃を受け止める。
暴走したファラバルの一撃を受け止めたリアムは、普段と違って余裕がない。
「手を出すなと言ったはずだ」
二人を見もせず語りかけるリアムは、暴走するファラバルの攻撃を捌き続ける。
その姿を見て、風華は信じられなかった。
「何で俺たちを庇うんだよ? 見捨てたら勝てただろ!」
「――はぁ」
リアムはため息を吐くと、僅かに嬉しそうに答える。
「馬鹿な妹弟子たちの面倒を見るように言われたからだ。お前ら、戻ったら説教をしてやる」
「あ、兄弟子? 俺を見捨てたんじゃないのかよ!?」
捨てられたと思い込んだ風華に、リアムが言う。
「俺がいつお前を捨てた? お前らが一人前になるまで、嫌でも鍛えてやるから覚悟しておけ」
リアムが暴走するファラバルを蹴って吹き飛ばした。
暴走するファラバルの様子はおかしく、話すことも出来なくなっていた。
ただ、風華と凜鳳を壁に押しつけていた力はなくなっていた。
凜鳳がふらつきながら、リアムに謝罪をする。
「ごめんね、兄弟子」
「気にするな。だが、あいつには聞きたいことがあったんだけどな。これはもう――」
リアムが決断しようとしていると、先に風華が刀の柄を握る。
「俺は――」
戦う意志を示した風華に、本能で動いているファラバルが顔を向けた。
リアムがすぐに行動しようとするが、それより先に風華は一閃を放つ。
「俺は一閃流の剣士だ! 師匠から受け継いだ魔を滅ぼす剣が、こんな奴に負けるかよ!」
二刀から繰り出された一閃は、ファラバルに命中するも――かすり傷を負わせるに留まっていた。
そう、かすり傷を負わせた。
風華の剣は、ファラバルに届いた。
凜鳳も驚いて目をむいている。
「僕の一閃でも傷一つ負わなかったのに、何で!?」
風華の瞳が僅かに光を放ち、そして刀にはうっすらと黄金の輝きが宿っていた。
◇
風華がファラバルに一撃を与えた。
それはかすり傷ではあったが、紛れもなく風華の剣がファラバルに届いた証である。
「――お前がこの領域に来るのは、早くても百年はかかると思っていたのにな」
化け物たちに届く一閃を放った風華は、汗だくでフラフラになっていた。
俺は風華の肩に手を置いた。
「後は俺がやる」
「兄弟子、俺――俺――!」
「もういい。今は休め」
「――うん」
膝から崩れ落ちるように座り込んだ風華を見て、安堵から小さなため息を吐くとファラバルに視線を向ける。
ファラバルは風華が与えた傷を見て、正気? を取り戻したらしい。
「まさか、その者が我に届く一撃を放つとは思いもしなかった。何と良き日か! 我を倒す可能性がある勇者が、この場に二人もいるなど――これは運命である!! 貴殿らを我が軍門に加え、四天王の席を用意しよう!」
「どうでもいい。お前は俺の質問に答えろ」
上機嫌となったファラバルは、俺の質問に答える気になったらしい。
「今の我は寛大だ。一つくらいなら答えてやろう」
「――安士という名を知っているか?」
俺が師匠の名を出すと、ファラバルは考え込む。
「やすし? 何度か聞いたことはあるが、その者が気になるのか?」
「俺の師匠だ。この世でもっとも強い男――剣神と呼ばれる男だ」
一閃流を俺たちに教えてくれた最強の剣士であると伝えると、ファラバルは強い興味を示していた。
「何と! それは是非とも面会し、我が軍に迎え入れねばならない! 貴殿らを育てた者ならば、きっと強いのだろうな。今から会いに行くのが楽しみだ!」
俺はファラバルの反応を見て、師匠に傷を負わせた化け物ではないと納得する。
そもそも、ファラバル程度ならば、師匠が傷を負うはずがない。
「その答えで十分だ。師匠は俺よりも強い。そんな師匠が、お前に負けるはずがないからな」
ファラバルは大剣を構えた。
「貴殿にそこまで言わせる剣神安士殿、か。もう、今からでも出向きたくて仕方がないが、リアム殿との戦いも楽しみたい。――移り気な我を許して欲しい。リアム殿との戦いを今は楽しみたい気持ちも本当なのだ」
師匠に会いたい? それは駄目だ。
そもそも、ファラバルの願いは叶わない。
「お前は師匠には会えない。――俺がここで倒すからだ」
ファラバルは俺の言葉に震えていた。
「そうだ。それでいい。リアム殿こそ真の勇者なり!」
――こいつ、何を言っても喜んでいないか?
◇
その頃、ガルンの外では艦隊戦が続いていた。
ブリッジで腕を組むティアは、真剣な様子で考え込んでいた。
「何度倒しても復活する――聖属性の魔法や、アンデッド用の装備も効果なし――さて、どうやって倒そうかしら?」
何度倒しても復活するファラバルの不死の艦隊。
ティアの艦隊に向かってくるのは、征伐軍を率いたハンプソンだった。
ハンプソンの顔は、ブリッジのモニターに映し出されている。
割り込んでいるのか、それとも魔法的な効果か――何度消しても割り込んでくる。
『無駄だ。ファラバル様の不死の艦隊を崩すなど不可能だからな。大人しくファラバル様の軍門に降れ』
何をやっても効果がない。
ハンプソンも無駄だと言うが――ティアはそもそも、話を聞いていなかった。
「アンデッドとは別の何かと判断し、他の方法を試しましょうか。次の対抗策は準備している?」
ティアが副官に尋ねると、小さく頷いていた。
「いつでも発射可能です」
「すぐに試しなさい」
淡々と戦場で実験を繰り返すティアに、ハンプソンは眉根を寄せていた。
『無駄なことを』
しかし、だ。
バンフィールド家の艦隊から射出されたミサイルが爆発すると、撃破された敵艦の修復が目に見えて遅れていた。
それを見て、ティアは口角を上げる。
「――見つけた」
対抗策の手がかりを得たティアに、ハンプソンが強気な態度を取る。
『何を期待しているか知らないが、そもそもこちらとそちらでは数が違う! 物量で押し潰される結末は変わらないぞ』
自分の勝利を疑わないハンプソンに、ティアはここで初めて会話をする。
髪をかき上げながら。
「それをこれから証明しましょうか。何をやっても死なないのよね? ――楽しみだわ」
不死の艦隊を前に、暗い笑みを見せるティアにハンプソンが頬を引きつらせる。
ブライアン(´;ω;`) 「 (安士がリアム様より強いとか) ないです。リアム様の安士への盲信が辛いです」
若木ちゃん(*´艸`*) 「AT-Xさんのアニメランキングで【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】が【20位】にランクインしたわ。これもAT-X加入者さんたちが応援してくれたおかげね」
ブライアン(`・ω・´) 「ありがとうございます!」