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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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状況不明

新年明けましておめでとうございます。


今年もよろしくお願いいたします。

 帝国軍総旗艦のブリッジでは、アラートが鳴り響いていた。


「味方との通信が途絶したままです!」

「アンノーン艦隊の所属、未だに不明!」

「バンフィールド家の艦隊と戦闘を継続していますが――」


 オペレーターたちの困惑する声を聞くのは、総司令官であるクレオだ。


 シートに背中を押しつけ、肘掛けを握りながらこの状況に不安を抱いていた。


「何が起きている? ハンプソンは何をしているんだ! トライドは? ダスティンは!?」


 頼りになるはずの味方との通信が途絶し、現在の彼らは勝手に行動をしていた。


 普段なら許しがたい状況だが、今の状況が異常事態であるのはクレオも察している。


 クレオは味方の数を軍人たちに問う。


「こちらの指示に従う味方の数は!?」


 問われた軍人が、すぐさま答えるが――クレオよりもこの異常事態に意識が向いているようだった。


「さ、三千隻程度です」


 アンノーン艦隊に取り込まれた艦艇もいれば、異常事態に混乱して収拾が付かない艦艇もいる。


 中には、この混乱する状況下で逃げ出す艦艇もいた。


 結果、クレオの指揮下に残ったのは三千隻だけだった。


「すぐにこの宙域から離脱しろ」


(このような状況で、いつまでも戦っていられるか)


 これではリアムと戦えないと判断し、クレオは撤退命令を出す。


 それを聞いた軍人たちが困惑していた。


「しかし、味方が」


「命令無視を続ける連中など気にしている場合か! すぐに戻って、この状況を陛下にお伝えするのが俺の使命だ。は、早くしろ!」


「了解しました!」


 命令を受けた軍人たちは、最初こそ困惑していたがすぐに落ち着きを取り戻していた。


 全員、心の中では「この場から逃げられる」と喜んでいるようだ。


 こうして、クレオは戦場から撤退していく。


(俺は悪くない。俺は悪くないんだ)


 こうなってしまっては、撤退も仕方がない――そう、自分に言い聞かせて。



 敵旗艦ガルンの艦内を駆ける俺たち。


 俺の両の斜め後ろには、凜鳳と風華がついてきていた。


 邪魔な障害物が出現する度に、凜鳳と風華の一閃が放たれて敵も罠も斬り刻まれていく。


 ほとんどが相手にもならない敵ばかりだが、中には少しばかり面倒なのも混ざっていた。


「二人とも、次の敵は少し厄介だぞ」


 声をかけてやると、先に動いたのは凜鳳だった。


 俺たちが進む進路方向に待ち構えるのは、白髪と白い髭を生やした老人だった。


 粗末な服を着ており、一見すると村の長老的な存在にも見えるが――俺たちでも理解できる達人だった。


 手に持っている得物は刀。


 俺たちが来る前から刀を構えており、その姿を見た凜鳳が俺の前に飛び出して笑っていた。


「雑魚ばかりだと思っていたのに、ちゃんと戦える奴もいるじゃないか!」


 凜鳳はそう言うと同時に一閃を放つが、老人は身を(ひるがえ)して避けてしまう。


「へぇ――やるじゃん」


 そのままこちらに駆けてくるのだが、身体能力から判断すると肉体強化の処置を受けていないようだ。


 持っている刀は何の変哲もない。


 いや、むしろ粗悪品である。


 だが、そんな刀を持ちながら、老人は身軽な動きで凜鳳に接近してくる。


 何を思ったのか、凜鳳は一閃を使わず刀を抜いた。


 わざわざ老人と斬り合おうとする凜鳳は、この状況でも楽しんでいるように見えた。


「凜鳳」


 注意するために名を呼ぶが、凜鳳は笑っている。


「すぐに終わらせるよ。ねぇ、お爺ちゃん」


 長刀を器用に操る凜鳳は、老人と数度刀を打ち合わせる。


 圧倒的な力と速度を持つ凜鳳に、技術だけで老人が戦う状況だった。


 だが、それも三度まで。


 四度目になると、凜鳳の長刀が老人の体を割っていた。


「あはっ! 面白かったよ、お爺ちゃん」


 時間もないので俺たちはすぐに駆け出すが、凜鳳は刃に付いた液体を拭ってから鞘に収める。


 風華が理解できないと言う顔をしていた。


「何でわざわざ戦ったんだよ? あんなの、一閃をぶち込めば終わっただろうが」


 風華の言葉を聞いて、凜鳳は小さくため息を吐く。


「楽しいからに決まっているでしょ? 兄弟子だって興味を持っていたよね?」


 話を振られた俺は、振り返ることなく答える。


「そうだな」


 何の肉体強化も受けていないとなれば、生きてきた年数は俺たちの半分くらいか?


 僅かな期間、生身で鍛え抜いた剣術が、一閃を避けて凜鳳と斬り合える。


 驚異的と言っていいだろう。


「時間があれば、俺も戦いたかった」


 意見に賛同すると、それが嬉しいのか凜鳳は上機嫌となっていた。


「だよね! 時間があれば、もっと遊んであげたのにさ」


 俺たちの会話を聞いて、風華はどこか気落ちした顔を見せる。


 ただ、構っている時間はない。


 何しろ――。


「さっきの爺さんが、ファラバルを守る戦士だったわけか」


 ――ご丁寧に、魔王がいると教えるような巨大な扉が見えてきた。


 一閃を放って扉をズタズタに斬り裂くと、分厚い金属で出来た扉の破片が床に落ちていく。


 部屋の中を見ると、謁見の間と呼ぶに相応しい空間が広がっていた。


 戦艦の中とは思えない禍々しくも豪華な部屋は、まさに魔王が待ち構える部屋に相応しい場所だった。


 まぁ、俺の趣味ではないから、真似しようとは思わないが。


「手間取らせてくれる」


 俺たちが謁見の間に踏み込むと、ファラバルは玉座から腰を上げて拍手をしてくる。


 謁見の間にはファラバルがたった一人で待ち構えていた。


「見事だ。ここまでに配置していた家臣たちを打ち倒し、よくぞ我のもとまでたどり着いてくれた。もっとも――貴殿らには物足りない者たちばかりだったようだな」


 余裕の態度を見せるファラバルに対して、凜鳳が構えを取る。


「雑魚しか用意できない骸骨の癖に、随分と偉そうだね」


 挑発するような台詞を言っているが、凜鳳を見れば冷や汗を流している。


 風華に至っては、僅かに手が震えていた。


 ――武者震いの類いではなく、純粋な恐怖だろう。


 強がる凜鳳を見て、ファラバルはアゴをカタカタと動かして笑っている。


「強気な戦士は大好きだ! 貴殿も我の家臣にしてやろう」


「舐めやがって!」


 凜鳳が渾身の一閃を放つと、ファラバルも玉座に立てかけておいた大剣を手に取っていた。


 大剣を盾にするように、床に突き刺すと凜鳳の一閃が防がれてしまう。


「なっ!?」


 凜鳳と風華が驚いた顔をしているが、ファラバルは上機嫌だった。


「よい。実によい! 実力に気付いてなお、我に斬りかかる胆力は素晴らしい! ――それに引き換え、二刀流の女には失望した。それだけ強い剣術を持ちながら、何故震えているのか?」


 ファラバルは、風華が怯えていることを見抜いていた。


 風華が刀の柄に手を伸ばすが、ファラバルが威圧すると凜鳳共々体を動かせなくなる。


「ぐっ!?」


「つまらぬ。強さを持ちながら、心が弱すぎる。――お前は必要ない」


 ファラバルにいらないと言われた風華は、何故かショックを受けていた。


 こいつに好かれたところで、何の意味もないというのに。


「お、俺はよわ――弱くない!」


「いや、弱い。その証拠に、我に怯えているではないか。リアム殿も、そちらの女剣士殿も我に立ち向かおうという意志がある! それに比べて、お前は何だ?」


「俺は! 俺は一閃流の――」


 言葉が出て来ない風華を見たファラバルが、ため息を吐くような仕草をする。


「リアム殿も気付いているのだろう? この者は強者に相応しくない。それなのに何故、貴殿のような強者が連れ回している?」


 話を振られた俺は、二人の前に出てお気に入りの刀を抜く。


「こいつはお前たちの手に余る。俺が相手をする」


 俺の背中を見た風華が、何かを言いかける。


「兄弟子、俺――俺は」


「話は後で聞いてやる」


 陽気に振る舞っている骸骨だが、その実力は本物だった。


 そんなファラバルが、俺の刀を真剣に注視していた。


「おぉ、もしやその刀は真なる黄金か?」


「何?」


 黄金と聞いて俺が反応を示すと、ファラバルは俺の刀について語り始める。


「真なる黄金、聖なる金、神の黄金、ゴッド・オブ・ゴールド――様々な呼び名を持つが、どの宇宙でも希少な金属が存在する」


 聖なる銀と呼ばれるミスリルのような物だろうか?


 黄金好きの俺としては、お気に入りの刀にそんな希少金属が使われていることが嬉しくなってくる。


 ――取り出すべきだろうか?


 震えるファラバル――こちらは武者震いらしいが、天を仰いで両手を広げる。


「まさに我に挑む勇者に相応しき剣なり!! 我らにとって毒にして天敵である神の黄金を僅かに含んだ刀を持つとは、貴殿はまさしく真なる勇者!」


 どうやら、俺の刀はこいつらにとって毒らしい。


 しかし、こいつは馬鹿なのだろうか?


「敵である俺に、その情報を与えて良かったのか?」


 ファラバルはハッとして謝罪してくる。


「これは失礼した。これから戦う者同士、話し込んでは無礼というもの。我の非礼を許して欲しい」


「どうでもいい。だが、俺もお前に聞きたいことが――」


 今度はこちらが尋ねる番だと思っていると、俺は刀を構えてファラバルの振り下ろしてきた大剣を受け止める。


 一瞬で距離を詰め、大剣を振り下ろしてきた。


 戦い方は、かつて倒した剣聖に酷似しているが――ファラバルの剣は次元が違った。


 骸骨の奥が鈍い光を放っていた。


「これ以上の語り合いは無意味! 今はただ、この殺し合いを楽しむのみ!」


 ――こいつも人の話を聞かない奴か。


 ファラバルの振るう大剣を刀で弾きながら、俺はそれでもこいつに問い掛ける。


 聞かなければならない。


 確認しなければならない。


「意地でも答えさせる。俺の質問に答えろ」


 刀を振るって敵の胴体を斬り裂こうとすると、ファラバルが大剣で受け止めた。


「我を倒せたらいくらでも――もしくは、我が軍門に降れ! 永劫の時の中で、共に語り合おうではないか!」


「お断りだ」


若木ちゃん(●≧艸≦) 「新年一発目のあとがきの挨拶が苗木ちゃんで嬉しい? ねぇ、嬉しい?」


ブライアンヾ(・ω・`;)ノ 「皆様、明けましておめでとうございます。今年一年、モブせか、悪徳領主ともどもよろしくお願いいたしますぞ」

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