一閃流VSローマン剣術
皆様には今年一年、大変お世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を!
アヴィドのコックピットを降りると、出迎えたのは武装した敵兵士だった。
彼らは戦う意思を見せているが、闘争心や殺意は感じられなかった。
人形が武器を持っている――しかも、構えている武器は、この世界に似つかわしくない物ばかりだ。
剣と盾を構えた騎士もいるが、それらは鉄製の武具だ。
この時代の騎士と比べると見劣りが酷い。
杖を持った魔法使いたち、斧や鈍器を持った戦士――全てが古くさい。
「招いておいて、これが歓迎のつもりか?」
ファラバルの「俺のもとまで来い!」という態度が気に入らなかった。
艦内には重力が存在し、アヴィドから飛び降りると一斉に敵が攻撃を仕掛けてくる。
最初に斬りかかってきたのは、軽装の剣を持った男だった。
目が黒く、瞳は赤――肌にはひびが入り、生前の姿を保っているだけの存在に向かって俺が小さくため息を吐く。
「面倒だから全て――」
一閃で終わらせようとするが、先に動いたのはエレンだった。
ガーベラがガルンに着艦すると同時に、コックピットから飛び出してきたエレンが俺の周囲に向かって一閃を放った。
剣を持った男だけでなく、周囲にいた敵を全て斬り刻んだ。
バラバラになって床に散らばる敵たちだが、血はほとんど出なかった。
黒いドロドロとした液体が僅かに床を汚している。
「この程度、師匠が手を出すまでもありません」
俺の目の前に着地をしたエレンは、大事にしている赤鞘の刀を左手に握っていた。
「お前はその刀が好きだな。皆伝祝いに新しいのを作らせただろう?」
エレンが一人前の剣士に育った祝いに、一本の刀を作らせた。
領内に招いた刀匠に作らせた刀である。
エレンが大事にしている刀よりも質はいいのだが、本人が使おうとしない。
「師匠にもらった大事な刀ですから」
微笑むエレンに、俺は意地の悪い返事をする。
「虎を猫さんと勘違いしていたけどな」
「それを言わないでくださいよ。虎なんて生物を知らなかったんですから」
恥ずかしそうにしている姿を見ていると、まだ幼さを感じる。
続いて、格納庫にアマリリスたちが着艦すると、凜鳳と風華が降りてきた。
俺はエレンが斬り裂いた敵を見下ろした。
再生すると思ったが、その気配がない。
妙だと思っていると、俺の違和感を察したらしいファラバルがモニターに映し出される。
『貴殿らの手間を省いて、倒れた家臣たちは再生しないことにした。余計な手間はかけさせぬと約束しよう』
「だったら、すぐにお前と戦わせてほしいものだな」
『それは駄目だ。今は戦いの
骨しかない癖に何を言っているのか?
気を遣っているらしいが、俺から言わせれば迷惑な話だ。
しかし、ファラバルは譲るつもりがないらしい。
『勇者が魔王城を攻略しながら進む光景が好きなのだよ。城ではなく宇宙戦艦だが、魔王城だと思って攻略してほしい。そのために沢山の仕掛けを用意した! 我は謁見の間にて、貴殿らの到着を待っているぞ』
モニターからファラバルが消えると、エレンが苦々しい顔をしていた。
「師匠の手を煩わせる不愉快な奴」
腹が立っているのだろうが、エレンもファラバルに近付いた事で危険を察知したらしい。
自分が殺す! と言い切らないのは、強敵だと認識しているからだろう。
凜鳳と風華が、俺に近付いてくる。
「さっさと倒せば終わりでしょ? それに、何があっても斬り伏せれば終わるんだからさ」
先に進もうとする凜鳳だが、風華の方は黙ったまま。
俺は三人にそれぞれ課題があると感じ、深いため息を吐く。
「凜鳳の言う通りだな。ファラバルは戦争も楽しむと言った。あの野郎、俺の艦隊に攻撃を仕掛けるつもりだ。あまり時間がないな」
今のバンフィールド家の艦隊では、ファラバルの艦隊とまともに戦えないだろう。
ティアとマリーがいても厳しいというか、クラウスがいても無理だ。
参謀たちが出した結論だが、このガルンという船が補給と整備の問題を解決しているらしい。
無尽蔵の補給を持ち、いくら倒しても修復してくれる――まさに不滅の艦隊だな。
純粋な艦隊戦を挑めば、俺でも勝てない敵だろう。
「せめてクラウスがいれば――高望みだな。行くぞ、お前ら」
俺は三人を連れ、ファラバルのもとを目指す。
◇
その頃、ティアはバンフィールド家の艦隊を率いて敵と戦っていた。
「やってくれたわね、ハンプソン!」
ティアの艦隊が戦っているのは、ファラバルに取り込まれた帝国軍――ハンプソン率いる艦隊だった。
モニターにハンプソンの顔が映し出される。
『クリスティアナ――ファラバル様の力を得た俺は無敵だ。もう、お前などに負けるものか』
黒目に赤い瞳。
ニヤついたハンプソンは、不死者となっても生前の心を残しているようだった。
ティアを執拗に狙ってくる。
「化け物に魂を売らないと、私と勝負も出来ない男が偉そうに」
『威勢が良いな。だが、いくらバンフィールド家の艦隊が精強だろうとも、ファラバル様の不死の艦隊には勝てない。それくらい理解できるだろう?』
損傷を気にせず突撃してくる敵艦隊を前に、ティアは思考を止めない。
(リアム様が敵旗艦に突撃されたのなら、もっと距離を稼がなければ戦えないわ。こいつらを引きつけられるだけ引きつけないと――)
◇
同時刻。
マリーの率いる艦隊も、敵の艦隊に追われていた。
「防御陣形で後退! 敵には絶対に背を向けては駄目よ!」
悔しそうにするマリーが、率いる艦隊を後退させている。
対して、向かってくる敵は――トライドだった。
『逃げないでくださいよ、マリー・セラ・マリアン! 散々追いかけ回してくれお礼をさせて欲しい!』
不死者となったトライドは、マリーに仕返しをするため追いかけ回してくる。
『怖いか? 臆したか? 追われる側に回った気分はどうだ?』
「――ちっ」
舌打ちをするマリーは、強気なトライドに興味がなかった。
(何の外法か知らないけれど、相変わらず帝国とは醜い国ね。突撃されたリアム様の安否も気にかかるし――)
マリーは苦しい状況の中で、リアムの安否を気にかけていた。
リアムを助けたい――そのためにも、目の前の敵をどうにかしなければいけない。
「さて――どうやって殺すかな」
『無駄だよ。今の私は不死の肉体を得た。もう、死の恐怖を克服した! 今の私は何も怖くない!』
「――へぇ」
マリーは目を細めるが、口元だけは笑っていた。
◇
ガルンの艦内を駆ける俺たちは、待ち構える敵を一閃で次々に斬り裂いていく。
敵を発見したと同時に斬り裂いていくので、他から見れば廊下を走っているだけに見えるだろう。
正直、余裕過ぎて欠伸が出そうになるが――問題は時間である。
「広すぎる戦艦というのも問題だな」
全長が数千メートルの戦艦ともなれば、内部はとても広い。
そのため、ファラバルのいる謁見の間を探すのも一苦労である。
エレンが俺の独り言を拾い、指揮官としての意見を述べる。
「外の様子が気になります。あまり時間をかけて、バンフィールド家の艦隊を失うのは今後に響きますし」
「連れて来たのは精鋭だ。少しは耐えてくれると思うが、あまり楽観視も出来ないな」
俺たちの会話が気に入らないらしい凜鳳は、少しふて腐れている。
「兄弟子もエレンも、この状況で戦争の話とかしないでよ。僕たちにとって、一番大事なのは一閃流の敵を倒すことだよね?」
凜鳳の意見にも同意したいが、俺には立場がある。
そして、今後のためにも艦隊の喪失は許容できない。
「一閃流の剣士であると同時に、俺は領主だからな」
「不純だよ。兄弟子もエレンも、戦いに不純な物を持ち込みすぎだよ。お前もそう思うよね?」
凜鳳が風華を見るが、返事はなかった。
「え? えっと」
凜鳳が更に苛立つ。
「もういいよ!」
そのまま無言で駆けること数十分――先を走っていた俺が立ち止まると、三人も足を止めた。
直後、衝撃波が俺たちの目の前を通り過ぎる。
横を見ると、通路の奥からゾロゾロと剣士たちが現われるが――どうやら、この世界の住人らしい。
「一閃流のリアム殿とお見受けする。わしはローマン剣術のダスティン。お相手願おうか」
ニヤニヤした剣士たちが持つのは、レイピアという突きに特化した剣だった。
俺は記憶を探り、ダスティンという剣士を思い出す。
「帝国最後の剣聖か。征伐軍に参加しているらしいとは聞いていたが、ファラバルに従っているのを見るに大した奴でもないか」
不死者となって粋がっているダスティンは、俺の言葉に動じない。
「口の悪さは噂通り、か。――だが、今のわしには、小鳥のさえずりにしか聞こえない」
ダスティンが構えると、目にも留らぬ――と枕詞が付くような突きが俺たちに繰り出されてくる。
どうしたものかと思っていると、先にエレンが飛び出した。
「師匠、ここは私が引き受けます。ここで時間を潰さず、先にお進みください」
エレンの姿を見て、飛び出そうか判断に迷っていた風華がたじろぐ。
「っ!」
出遅れたことを恥じている様子だが、構っている暇もないので俺たちは先に行く。
俺はエレンに声をかける。
「先に行く。ファラバルとの戦いまでには、俺に追いつけ」
「はい」
◇
リアムたちが去って行くと、エレンは冷たい表情になった。
「師匠の言葉を小鳥のさえずりと一緒にするとは、無礼すぎますね」
ダスティンや、その弟子たち――不死者たちは、一人残ったエレンに笑っていた。
「命を捨てて、師を先に行かせる献身は素晴らしい。だが、相手が悪かったな」
ダスティンが放った突きにより、エレンの髪が揺れた。
「神速の突き――貴様ら一閃流が斬撃ならば、わしらは突きよ。違いはあれど、似たもの同士の剣術ということだ」
ダスティンの言葉を聞いて、エレンは眉一つ動かさない。
それを緊張と捉えたダスティンは、わざと構えを取る。
「これまでに何度も敵を殺してきたが、中には腹を打ち抜かれても気付かなかった剣士もいた。これが不死者となる前の話――今は」
ダスティンが突きを放つと、エレンの周囲――背中にある壁に幾つもの穴が出来た。
「強力な不死者へと生まれ変わり、わしの神速の突き――ローマン剣術は完成した! 一閃流など恐れる必要はない。マルーン剣術こそが、最強剣術なのだ!」
宣言するダスティンに、エレンは何も答えなかった。
――ここでダスティンは違和感に気付く。
どうして弟子たちの声が聞こえないのか?
構えたまま弟子たちの気配を探ると、何かがボトボトと床に落ちた。
ダスティンの視線はエレンに固定されたまま。
しかし、いつの間にかエレンは刀を抜いていた。
「外法の力に頼った時点で、お前の剣術は一閃流の足下にも及びはしない。それから、敵が斬られたことに気付かない――だったかしら? それに何の意味があるの?」
ダスティンはここに来て、恐怖がこみ上げてきた。
ダスティンの持っていた愛剣が――床に落ちた。
愛剣だけでなく、手も、腕も――ダスティンが膝を屈すると、足も斬られていた。
「ば、馬鹿な!? わしは貴様から目を離さなかった。何を――」
エレンは冷たく言い放つ。
「一閃流とお前たちの剣術を一緒にするな。私たち一閃流とは、そもそも化け物を斬る人外の剣術。お前がすがったファラバルという化け物と戦うための剣術なのよ。剣聖と名乗るからどの程度かと思えば――お前は自らの剣術を貶めた、最低な剣士だったわ」
最初からお前たちなど眼中にないと言うと、エレンはリアムを追いかける。
ダスティンのことなど興味もなさそうだった。
「最初から負けていたのか――こんなことなら――剣士として普通に――死にたかった」
化け物の力に酔いしれていた自分が、酷く情けなくなった。
ダスティンは、剣士として、人として――エレンに敗北した。
ブライアン( *¯ ꒳¯*) 「あの小さかったエレン様が立派? に大きくなって、このブライアンは幸せでございます」
若木ちゃん( `Д´) 「苗木ちゃんは、年末年始だからって宣伝を怠らないわ! 12月巻の四作品全てが好評発売中よ!」
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若木ちゃん(*´艸`) 「今年はモブせかのアニメも放送されて、二期も決定したからいい年だったわ」
ブライアン( *¯ ꒳¯*) 「素晴らしい一年でございました。そして、これからもリアム様が活躍する【俺は星間国家の悪徳領主!】をよろしくお願いいたしますぞ。それでは皆様、よいお年を」