不死の艦ガルン
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「何と!? 単艦突撃とは思い切りのいい事をする!」
バンフィールド家の艦隊が後退して陣形を整えているのを見守っていたファラバルは、アルゴスが単艦にて突撃してくる様子を見ていた。
アルゴスの周囲には、無人となったシールド艦が十二隻。
盾代わりのつもりだろうが、百万を超える艦隊に突撃するにはあまりにも無謀だった。
ファラバルも通常であれば「自暴自棄」と判断し、嫌がるところだったが――。
「その勇気に敬意を表しよう! 全艦、勇者たちに総攻撃を開始せよ!!」
――リアムほどの強者ともなれば、その行動を称賛する。
ファラバルの命令に従い、不死の艦隊が次々に赤黒い光学兵器を発射した。
その光がシールド艦の防御フィールドに命中するも、貫けずにいた。
だが、数百、数千、数万という攻撃に晒されたシールド艦は耐えきれずに内部から爆発していく。
出力が限界を超えてしまったのだろう。
何隻かは防御フィールドを貫かれ、爆散していた。
稼いだ時間は一分にも満たないが、その間はアルゴスを守るという役目を果たした。
そして、不死の艦隊の攻撃がアルゴスに降り注ぐのだが――。
「これを耐えるか――良い戦艦に乗っている。だが、我が乗艦であるガルンに対抗するには、格が足りぬ」
レアメタルの塊であるアルゴスのフィールドと装甲が、不死の艦隊の総攻撃を耐えながら突撃してくる。
しかし、流石のアルゴスも無事では済まない。
フィールドは貫かれ、装甲にも傷が入った。
それでも突撃してくるアルゴスを見て、ファラバルは残念そうにする。
「ここで打ち倒しては物足りぬ。攻撃を緩めて我のもとまで導くか? ――ん?」
リアムを自ら招こうか悩んでいると、アルゴスに変化が起きた。
◇
敵艦隊の猛攻撃を一隻で受けるアルゴスのブリッジには、リアムの姿がなかった。
「防御フィールドの展開が限界です!」
「機関部より連絡! これ以上、出力を上げるのは危険とのことです!」
「損傷軽微! ですが、このままでは敵艦隊中央に到達する前にアルゴスが沈みます!」
防御に特化したシールド艦ですら、耐えきれずに一分も経たずに撃破された。
それを数分間も耐えているアルゴスの防御性能は、驚異的と言えるだろう。
艦長が檄を飛ばす。
「短距離ワープ準備!」
敵からの猛攻を切り抜けるために、短距離ワープを実行する。
戦闘中。しかも、目的地は敵艦隊中央。
このまま敵艦隊の中央に出現できれば一番だが、それができれば苦労はしない。
このような場面で実行するのは危険すぎた。
最悪、事故が起きてアルゴスは自爆する。
数百キロ先に安全ポイントを確認すると、操舵手たちが答える。
「短距離ワープ実行します!」
一瞬、敵の猛攻から解放されたアルゴスだったが、短距離ワープが成功するとほぼ同時に敵艦隊の攻撃が降り注いだ。
艦長も予想していたのか、すぐに次の行動に移る。
「防御フィールドを前面に鋭角に展開! 攻撃は捨て、最大船速で突撃する!」
危険な短距離ワープを成功させた直後、アルゴスは攻撃の雨の中を突き進んでいく。
リアムを敵艦隊の中央――敵旗艦へと送り届けるために。
アルゴスが敵陣に突入すると、今度はミサイルや対空兵器による攻撃が降り注いでくる。
先程よりも幾分か楽になったが、それでも多勢に無勢だ。
アルゴスの損傷も徐々に増え、クルーが避難した危険な区画が次々に爆発していく。
敵旗艦まで、もう少し――と言ってもかなりの距離があるのだが、ここで変化が起きた。
「敵艦がアルゴスの進路を塞ごうとしています!」
オペレーターの叫び声に、艦長が怒声で答える。
「全てぶち抜け!」
防御フィールドを鋭角に展開したアルゴスは、そのまま進路を塞ぐ敵艦に激突して――敵を粉々にした。
周囲にデブリが飛び散るが、邪魔をする敵艦は一隻や二隻ではない。
数百、数千の艦艇がアルゴスの邪魔をする。
「速度低下! 機関の出力も低下していきます!」
オペレーターが悲痛な声を上げると、艦長が肘掛けに拳を振り下ろした。
「あと少しで――」
すると、アルゴスの邪魔をしていた敵艦たちが、次々に両断されて吹き飛ばされていく。
艦長が目をむくと、リアムから通信が入った。
『邪魔な敵艦は俺たちが排除する。このまま進め』
短い通信が終わると、艦長はすぐに部下たちに命令する。
「聞いたな! このまま敵機関へと突撃せよ!」
被弾しながらもアルゴスはそのまま敵機関へと近付いた。
そして、敵機関の主砲がアルゴスを狙う。
アルゴスを飲み込みそうなビームが発射される直前に、艦長は叫んだ。
「回避!」
「ま、間に合いません!」
間に合わないと言われた艦長は、即座に決断する。
「ならば直進!」
発射された主砲のエネルギーの中を突き破り、アルゴスはついに敵旗艦へとたどり着いて――そのまま衝突して艦首を深々と突き刺した。
巨大な敵旗艦に突き刺さったアルゴスは、ようやく止まった。
すぐにリアムとの間に通信が開く。
『よくやってくれた。後は俺たちで片付ける』
リアムの座っていたシートにすがりつくユリーシアが、あまりにも非常識な現状に泣きそうな顔で叫ぶ。
「ここまでしたんですから、絶対に勝って下さいよ! というか生きて帰ったら、もう側室から候補を外して下さいよ!」
モニターに映るリアムが渋い表情をしていた。
『――お前じゃなかったら見捨てていたところだぞ』
◇
この状況で厚かましくも側室にしろと言ってくるユリーシアの気が知れない。
俺は既婚者だぞ。
いや、側室を持っても構わないのは知っているし、ブライアンが「側室はまだですか?」と常々圧をかけてくるから意識はしている。
しかし、まだエドワードが小さいのに、側室を持つとかちょっと――。
色々と考えていると、凜鳳が俺に声をかけてくる。
『兄弟子? さっさと突撃しないの?』
「はぁ――そうだな。その前に、邪魔な連中を排除してからにするか」
アヴィドの動力炉がうなりを上げ、機体を震わせた。
俺は操縦桿を握りしめる。
「お前たち、一閃流は機動騎士に乗っても最強だと教えてやれ」
凜鳳は目を大きく開けて笑っている。
『そうこなくっちゃ!』
対して、エレンは落ち着いた様子だった。
『師匠の望むままに』
だが、風華からの返事はない。
「風華? 聞こえているのか?」
『へ? あ、あぁ――うん』
「やる気がないなら残っていろ。アルゴスの護衛くらいなら、今のお前でも出来るだろ」
今の風華では駄目だと判断して、アルゴスの護衛を任せることに。
だが、本人が嫌がる。
『ま、待ってくれよ! やれる! 俺はやれるから!』
「だったら、さっさと群がる敵を斬り伏せろ! お前は一閃流の――安士師匠の弟子だろうが!」
◇
アヴィド、アマリリス一番機、ガーベラ――三機が敵旗艦の周囲を飛び回っていた。
戦艦を。
機動騎士を。
群がる全ての敵を破壊していくその姿は、圧倒的に不利な状況を感じさせない活躍だった。
その光景を見ながら、風華は向かってくる敵の機動騎士を二刀で斬る。
しかし、斬られたはずの敵機動騎士は、すぐに散らばったパーツが集まり再生する。
「こんなの、どうしようもないだろうが!」
風華は普段の力が出せずにいた。
一閃は放てる。
機動騎士の操縦だって問題ない。
しかし、失敗続きで焦りがあった。
(ここで兄弟子に呆れられたら、もう俺には師匠しか――でも、ここで失敗したら、師匠だってきっと俺を――)
派手な見た目もあって気の強そうな風華だが、それは心の奥にある恐怖を隠している側面もあった。
強い自分でありたい。
しかし、共に一閃流を学んだ姉妹の凜鳳は、落ち着いた見た目に反して気が強い。
放つ一閃も風華よりも威力があり、何とか巻き返そうと手数を増やすことにした。
才能があって、先に進む凜鳳に追いつくのが風華だった。
(捨てられたくない。また――捨てられるのは嫌だ)
孤児だった風華は、安士に拾われた一閃流の剣士になれた。
それが風華にとっての誇りである。
だが、凜鳳も、兄弟子のリアムも自分以上の強者である。
いずれエレンにも追い抜かれてしまうのではないか? そんな恐怖が風華の中にあった。
強がっていても、拭いきれない弱い自分がいる。
(凜鳳もエレンも、兄弟子からもらったグリフィンを壊さなかった。俺だけ――俺だけが何もかも一歩遅れて――)
呼吸が乱れてくると、押し寄せる敵機に攻撃を食らって機体が吹き飛ばされた。
それを見ていた凜鳳が、風華の前に割り込んでくる。
『何してんだ、このノロマ!』
「っ! お、俺はノロマじゃねー!!」
凜鳳に強がることで普段の自分を取り戻すが、風華は精神的に崩れつつあった。
◇
「ちっ!」
アヴィドの放つ攻撃と一閃を受ける敵旗艦だが、その損傷はすぐに修復していく。
いくら攻撃しても、修復されては意味がない。
絶えず攻撃を繰り出そうにも、無理をすれば先に壊れるのはアヴィドだった。
アヴィドだって何度も改修され強くなった機体だが、訳ありの艦艇を相手にするにはもう少しばかり性能が足りないようだ。
「こうなれば、外に出て直接」
アヴィドから降りることを考えていると、敵旗艦――人骨を集めて形作ったようなデザインの戦艦が、ハッチを開いた。
「何だ?」
訝しんでいると、宇宙空間に映像が投影される。
鎧を着込んだ骸骨――アンデッドは、随分と声が弾んでいる。
『見事――実に見事だ、勇者よ』
「あん? お前は誰だ?」
『我はファラバル! そして、貴殿が攻撃をし続けているのは、我の乗艦であるガルンだ! それにしても、ガルンを相手に傷を負わせる猛者がいるとは驚いた。貴殿ら四人をガルンに招待したい。艦内でお主ら四人の相手をしたい! ――返答はいかに?』
「このまま外から破壊してもいいんだが?」
陽気に振る舞う骸骨だが、こいつの放っている気配は禍々しい。
存在自体は邪悪なのだろう。
『貴殿ならば可能だろうが――それでは我がつまらぬ!』
「は?」
『我は心躍る戦いを経験してみたい! 様々な世界で、勇者と呼ばれる強者たちと戦ってきた。だが――だが! これまで一度も心が躍らなかった。しかし、貴殿とならば我の望みは叶うはずだ。是非とも、勝負を!』
「俺に応える義務はない」
『そうだな。確かに貴殿に義務はないから仕方がない。で、あれば――』
武人らしい振る舞いをするファラバルだったが、ここに来て邪悪さを出してくる。
『この世界に死を振りまこう。生物が向かえる自然の死ではない。死しても魂は輪廻の輪に戻れず、肉体に縛られ動き続ける屍となるのだ。いや、いっそ――貴殿が我を直接倒さなければ、この世界を我の死で覆いつくしてやろう!!』
ファラバルの言葉に苛立ちを覚える。
「――お前、潰すぞ」
俺が怒ったのが嬉しいのか、ファラバルが付け加える。
『このまま人型兵器に乗って貴殿と戦うのもいいが、我は直接戦うのが好みなのでな。貴殿が来るのを待つとしよう。おっと、ガルンを破壊しても意味はないぞ。死を振りまくのは、我という存在なのだからな。貴殿が我との直接勝負を避けるなら――このまま異世界にでも身を隠そうか? 貴殿が追いかけてくるのが楽しみだが――貴殿、異世界に渡る方法を持っているかな?』
カタカタと頭蓋骨を鳴らしながら、映像は消えた。
「――殺す」
静かに呟いた俺は、エレンたちに敵艦へと乗り込むように合図を送る。
そのまま、アヴィドを敵艦に向かわせた。
ブライアン(´;ω;`) 「陽気で邪悪とか辛いです」
若木ちゃん( ゜∀゜) 「天城の抱き枕カバーが予約を開始したみたいだけど、これが私の抱き枕カバーだったら予約殺到していたのに残念よね」
ブライアン(・ω・`;) 「 (それはねーよ) それよりも宣伝でございます! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 11巻】と【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 1巻】が好評発売中でございますぞ。【あのせか】は、リオン殿とマリエ殿のイフルートから本編で明かされない事実を知れる内容となっております。本編をもっと楽しみたい読者の皆様には、必読の内容となっております」
若木ちゃん(*´艸`) 「【俺は星間国家の悪徳領主! 6巻】と、発売後数日で【重版】が決定した【あたしは星間国家の英雄騎士! 1巻】も好評発売中よ。英雄騎士は、本編に登場した人物たちの意外な一面が楽しめる内容になっているから、こっちもファンには嬉しい作品じゃないかしら?」
ブライアン( *¯ ꒳¯*) 「是非とも四作品――いえ、一作品でもいいので手に取って頂けたら幸いでございます」