不滅の艦隊
クリスマスも年末年始も、投稿するために書き続けます!
……だから、12月に発売した自作を買って下さい(涙)
「つ、通信状況が改善されました。敵、帝国軍はジャミングの一切を停止したと思われます」
アルゴスのブリッジでは、軍人たちが困惑していた。
戦場では、敵に対して様々な通信障害を起こさせている。
それが普通なのだが、帝国軍がジャミングの類いを一斉に停止させた。
立体映像に映る簡略化された戦場の様子が、より正確な数字で表示される。
帝国軍が降伏でもするのか?
誰もがそんな予想をしたが、モニターに映し出される帝国軍の様子がおかしい。
ユリーシアは自分の目を疑った。
何しろ、突如として現われたアンノーン――所属不明の艦隊が、帝国軍に攻撃を仕掛けていたからだ。
これだけならば、味方が出現したと思っただろう。
だが、明らかに様子がおかしい。
「破壊された艦艇が修復している? こんなのあり得ない」
かつて第三兵器工場に在籍していたユリーシアは、破壊された宇宙戦艦が自己修復している姿に頭を振る。
帝国軍の宇宙戦艦だが、自己修復機能は備えていた。
小破――装甲の損傷程度ならば、自己修復機能で何とかなる。
それでも、その後に整備は必要なのだが、敵である帝国軍の艦艇はそのレベルではなかった。
大破した戦艦が、散らばった部品を吸い寄せて強引に修復していく。
修復後は多少歪んでいるが、十分に動く状態まで修復されていた。
その様子を眺めていたリアムだが、先程までとは雰囲気が違う。
楽しむように指揮を執っていたリアムが、真剣な表情で命令を出す。
「距離を保ったまま長距離攻撃に専念させろ。何をしているか知らないが、こちらが待ってやる必要はない」
謎の艦隊を敵と判断して攻撃命令を出すと、ユリーシアが驚いた。
「所属を確認されないのですか?」
「俺の味方に、あんな化け物共がいると思うのか?」
不気味な艦隊は味方ではないと言いたいのだろうが、ユリーシアは一瞬だけ思ってしまった。
(いや、クリスティアナさんやマリーさんも十分に化け物――って、言ったら怒られちゃうわよね)
心の声を飲み込んで、ユリーシアは邪魔をしないように口を閉じた。
ブリッジにいる軍人たちも、リアムの様子が変わったことに気付いたのだろう。
雰囲気が一変する。
「リアム様の命令を徹底させろ。陣形を変更した後、長距離戦に移行する!」
オペレーターたちも慌ただしく通信を行い、全軍にリアムの緊張が伝播していく。
味方艦隊がすぐに陣形を変更しつつ、長距離戦闘に特化した布陣となった。
アルゴスの艦長が、リアムに尋ねてくる。
「リアム様、発射のタイミングは合わせますか?」
「それでいい。それから、エネルギーの残量に注意させろ。弾薬とエネルギーに不安のある艦は撤退させていい」
「了解しました」
バンフィールド家の艦隊が、主砲の発射タイミングを合わせて帝国軍に対して一斉射を行った。
光学兵器が、帝国軍と謎の艦隊に襲いかかる。
◇
その頃、ファラバルは乗艦である【ガルン】に戻っていた。
バンフィールド家からの一斉射を受けて、ガルンの艦内が揺れると兜を脱いで骸骨の頭部を晒す。
「隙を突く容赦のなさは嫌いではない。だが――やはり数が少なかったな」
ファラバルがガルンのブリッジに到着すると、クルーたちが出迎える。
――こことは違う世界。
――違う星間国家で、ファラバルの軍門に降った兵士たち。
――異世界の艦隊が、ファラバルの不死の艦隊の正体だ。
「ファラバル様、艦隊の掌握率が八割を超えました」
「うむ」
返事をしながら、魔王の椅子に相応しい骨で出来た玉座へと腰を下ろす。
ファラバルは、自軍の数を見て腕を組んだ。
「あまりに数が多くても一方的な戦いとなるが、強者を相手に油断をするのも失礼となる。だが、あまり数を求めても一方的に叩かれる――実に悩ましいではないか!」
悩ましいと言いながらも、声は上機嫌だった。
強者と戦えるという高揚感が、ファラバルの心を満たしている。
不死者の副官――かつては、異世界の艦隊を率いた将軍が、無表情でファラバルに詳細を報告する。
「ファラバル様の不死の艦隊と合わせて、現時点では百五十万隻となっております」
「で、あればこれ以上は不要か。さて、強者はどう出るか?」
ワクワクした様子でモニターを見つめるファラバルに、副官が問う。
「吸収した艦隊の司令官はどうされますか?」
「ん? ハンプソンならば、我が自ら配下としたが?」
「奴は実質的な指揮官であり、名目上は皇太子であるクレオという者が司令官でございます」
ファラバルは首をかしげ、アゴに手を当てて考え込む。
「ハンプソン以上の強者がいる気配はなかったが――その者は強いのか? それとも知将の類いか?」
「新たな配下たちから集めた情報では、無能な働き者と――」
「いらぬ! 我は今から強者との戦いに挑むのだ。そのような小物は無視せよ!」
お楽しみを邪魔された気分になったファラバルは、クレオの事などさっさと忘れてバンフィールド家の艦隊に視線を向ける。
モニターに映るバンフィールド家の艦隊は、容赦なく不死の艦隊を攻撃していた。
ファラバルは惚れ惚れする。
「一糸乱れぬ艦列と一斉射――芸術の領域だな。我の配下とした後は、精鋭として遇しよう!」
「承知しました。それでは、そろそろ?」
「うむ! こちらも攻撃開始だ!!」
頭蓋の目の部分――奥から赤い光が放たれる。
ファラバルの声に呼応して、不死の艦隊が攻撃を開始する。
禍々しい赤黒い光学兵器が、バンフィールド家の艦隊に襲いかかった。
しかし、防御フィールドと装甲に自信のある艦艇を前に出していたバンフィールド家の艦隊は、その攻撃を凌いでしまう。
ファラバルは、その光景を嬉しそうに見ていた。
頭蓋骨のアゴが、カタカタと音を立てる。
「これぐらい耐えてもらわねば、張り合いがないわ。さぁ、次はどう出る?」
◇
――試されているようで腹が立つ。
謎の艦隊の出現により、帝国軍に異変が起きて数時間が経過した。
互いに距離を取って長距離戦闘を行っているが、有効射程外からの撃ち合いでは決定打に欠けている。
「倒しても切りがないな」
厄介なのは、破壊した敵艦がすぐに修復され戦線に復帰することだ。
破壊する度に歪な形になっていくため、原形をとどめていない艦艇も多い。
加えて面倒な問題が一つ。
ブリッジクルーの様子が、明らかに動揺していた。
ユリーシアがあまりの光景に、オロオロとしている。
「何度破壊しても再生するなんて、こんなのどうしようもないじゃない」
独り言のつもりにしては声が大きい。
軍人たちも、倒しきれない相手に恐怖を感じていた。
「帝国軍は外法でも使用したのか!?」
「無茶苦茶だ。これが戦争と言えるのか!?」
「専門家たちの判断はどうなっている!」
「そ、それが、どのような系統の魔法にも該当しないと――」
「馬鹿な!?」
最初は帝国軍が禁断の外法を使用したと予想した。
専門家である魔法使いたちに解析を行わせたが、手がかりすら掴めていない。
そのため、全軍の士気が低下している。
何より、問題は物資不足であるはずの帝国軍が、エネルギーを気にせず光学兵器を多用していることだ。
まるで、補給の問題も解決したように見える。
「全力で攻めてくれば勝てる戦いで、それをしないとなれば――出来ない理由があるか、もしくは遊んでいるか――後者だな」
遊ばれていると直感で理解した俺は、腹が立って仕方がなかった。
絶対的に有利な位置から見下ろされている気分だ。
一人憤っている俺の腕をユリーシアが両手で掴んでくる。
「リアム様、撤退しましょう。この距離なら、短距離ワープを繰り返せば逃げ切れます」
逃げたい気持ちも理解するが、俺は目の前の敵が逃がしてくれるとは考えていなかった。
「駄目だ。背中を見せれば、奴ら――奴はどこまでも追いかけてくる」
まるで狩りの獲物にされた気分だ。
苛々してしょうがない。
モニターに映し出される帝国軍――中でも異様な戦艦を睨んでいると、報告をしてくるオペレーターの声色が若干嬉しそうだった。
「味方の増援艦隊が到着しました! 率いるのは――エレン、エマ、両名の艦隊です!」
ナンバーズの到着に味方の士気が僅かに上昇するが、俺から言わせれば多少数が増えても状況は変わらない。
だが――。
「エレンに凜鳳と風華の所在を聞け」
オペレーターが困惑しつつもエレンに二人の所在を聞く。
「確認しました。エレン将軍の乗艦に同乗しているそうです」
俺は口角を上げて笑みを浮かべた。
「いい判断だ。三人とも、後で褒めてやる」
「そ、それから」
「何だ?」
「クラウス閣下より、補給物資が届いています」
――相変わらずだな。
「補給物資の扱いはティアに任せる。艦隊の指揮権も同様だ」
俺が指揮権を手放すと、ユリーシアが慌てる。
「ど、どうするんですか!?」
俺はユリーシアの顔を真剣に見つめる。
「アヴィドで出撃する。――これは、一閃流の問題だ」
「いや、あのこれ――戦争なんですけど?」
「一閃流の問題は戦争より重いに決まっているだろうが!」
俺が言い切ってしまうと、ユリーシアは何とも言えない顔をしていた。
「――えぇぇぇ」
多分、ブリッジクルーも俺の言葉に引いていたと思うが、これは一閃流の剣士に定められた運命である。
「三人が来たら出撃する。お前たちもアルゴスで後方に下がれ」
――まぁ、厄介な敵を相手に味方を減らすのも無駄だ。
俺たちで――いや、俺が解決すればいい問題だ。
ブライアン(´;ω;`) 「リアム様が一閃流の定めを優先して辛いです。――というか、そんな運命などないのが一番辛いです。――辛いです」
若木ちゃんヽ(≧▽≦)ノ 「そんなことはどうでもいいの! それより【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 11巻】と【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 1巻】が発売されたわよ!! ミレーヌとマリエを比べて楽しんだりしたら駄目だからね!」
ブライアン(´・ω・`;) 「どちらも人気の高い女性キャラクターなのは同じなのですけどね」
若木ちゃん(*´・∀<) 「私の人気には劣るけどね」
ブライアン(*´艸`) 「ちなみに、このブライアンの一押しはミレーヌ殿です。どこぞの、年齢詐称で若木なのに苗木と言い張る強欲で品のない植物とは大違いでございますぞ」
若木ちゃん(#゜Д゜) 「――おい」