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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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敗軍

今月は発売する書籍が多すぎて特典情報を把握しきれないよ……。

 ジェイソン・セレ・ハンプソン侯爵が率いた艦隊が、征伐軍本隊へと合流を果たした。


 場所は宇宙空間に用意された急造の軍事基地だ。


 ドーナツ状の基地は、直径が数十キロメートルもある巨大な建造物だ。


 だが、何百万という艦隊を維持するには小さすぎた。


 今も被弾した艦艇が次々に押し寄せ、補給と整備を求めているが満足に対応できていない状況が続いている。


 副司令官として基地に乗り込んできたハンプソンは、普段よりも歩幅が広くなっていた。


 焦る気持ちの表れでもあるが、一番の理由は怒りだった。


 基地に用意された総司令官の執務室に到着すると、扉の前で警備をしている騎士たちに呼び止められる。


「ハンプソン侯爵、皇太子殿下はお疲れです」


 クラウスによって大敗を喫したクレオは、要塞級と呼ばれる総旗艦から高速艦を使用して脱出して基地に帰還していた。


 追撃されながらの撤退は、経験の浅いクレオには精神的に苦しかっただろう――と想像は出来るが、ハンプソンは我慢できなかった。


「この状況で疲れていない奴などいるものかよ! さっさと皇太子殿下に面会させろ!」


 侯爵家の当主ではあるが、ハンプソンも国境を預かる貴族だ。


 騎士としても一流の実力を有しており、クレオの護衛である騎士たちを押し退けてしまう。


 乱暴に吹き飛ばされた騎士たちは、慌てて四人がかりでハンプソンを抑え込む。


「落ち着いて下さい! 皇太子殿下はお休みなのです!」


「一分一秒が惜しい状況で、のんきに寝ている総大将がいるものかよ! さっさと叩き起こせ!」


 ハンプソンたちが争っているのを知ったクレオが、扉の近くにあるモニターのマイクを使って許可を出す。


『通してやれ』


「皇太子殿下? ――承知しました」


 クレオの許可が出ると、騎士たちは渋々といった表情でハンプソンを解放する。


 扉が開くと、ハンプソンは不遜な態度で部屋に入室した。


 ハンプソンがこのような態度に出ている理由だが、それは戦場で勝手な行動を繰り返したクレオに原因がある。


 ハンプソンは、ラフな恰好でベッドに腰掛けているクレオを見て眉尻をピクピクと動かしていた。


「色々と言いたいことはありますが、まずは互いに無事に帰還できた事を祝いましょうか」


 だが、ハンプソン侯爵は大きなため息を吐くと、怒りを押し込める。


 その様子を見たクレオは、僅かに驚いている。


 罵声を浴びせられると思ったのだろう。


 実際、ハンプソンも今すぐクレオを罵ってやりたかったが――相手は皇太子殿下だ。


(首都星に戻れば継承権が下がるか、もしくは剥奪――あるいは責任を取って処刑だろうが、今はまだ皇太子殿下だからな)


 落ち着きを取り戻したハンプソンに、クレオは自嘲気味に反省の言葉を述べる。


「クラウスを侮っていた。まさか、ここまで強いとは思わなかったよ」


 クレオの言葉に、ハンプソンは内心で苛立つ。


「こちらの予想を超えていたのは事実でしょうが、そもそも不要な増援を受け入れたのが問題です」


(何を今更。お前さえ事前の打ち合わせ通りに動いていれば、我々が敗北する可能性は低かったというのに)


 征伐軍の敗因だが、それはクレオが受け入れた義勇軍――征伐軍とは関係ない艦隊を招き入れたことだ。


 予定にない増援により、物資の不足を招いてしまった。


 征伐軍は味方にも苦しめられたわけだ。


 物資不足から焦りが生まれ、そこをつけ込まれた形になった。


(バンフィールド家憎しで大艦隊が集まるとは思ってもいなかった。アレさえなければ、ここまで苦しい状況にはならなかっただろうに)


 余計な増援さえなければ! というのが、ハンプソンの素直な感想だ。


 ただ、この場であれこれ反省している時間はない。


 味方は今も撤退中であり、自分たちも危険な状況にいるのは変わらない。


「皇太子殿下、我々は判断する必要があります。このまま散り散りに帝国領まで逃げるのか、それとも集結して決戦を挑むのか」


 ハンプソンの提案を聞いて、クレオは訝しんでいた。


「逃げるのは理解できるが、この状況でバンフィールドに挑むつもりか?」


 戦いを挑むという選択肢を持たなかったクレオに、ハンプソンはため息を吐きたくなった。


僭越(せんえつ)ながら申し上げます。皇太子殿下、現状の我々の立場をお考え下さい。このまま、バンフィールド家の大敗した我々は、首都星に戻っても居場所がありません」


 責任者であるクレオは勿論、実質的な総司令官のハンプソンも責任を取らされるだろう。


 クレオが苦々しい顔をすると、ハンプソンが決戦を挑むように誘導する。


 そこには、こんなところで終われないというハンプソンの意地があった。


「皇太子殿下! 一度で良いのです。撤退前に、バンフィールド家に痛手を与えれて引けば、まだ面目も立ちます!」


 苦慮していたクレオが、ハンプソンの説得に根負けする。


「――わかった」



 ハンプソン侯爵と同じく、基地に到着した男がいた。


 ローマン剣術の使い手である剣聖のダスティンだ。


 弟子たちを連れて基地内を歩いているのだが、軍人たちは随分と慌てている。


 弟子の一人がダスティンに耳打ちする。


「全軍が浮き足立っていますね」


 ダスティンも同意するが、これは流石に仕方がないと思っていた。


「自分たちが負けるとは考えていなかったのだろうな」


「我々はこれからどうしますか?」


 弟子の言葉を聞いて、長い付き合いのダスティンは裏を読む。


 普段と違い、弟子たちは緊張した様子だった。


 敗北が確定したような戦場に、このままいつまでも残っていたくないのだろう。


「わしに逃げて欲しそうだな。臆したか?」


「い、いえ」


 否定するが、弟子たちは明らかに怯えていた。


 情けない姿を見せる弟子たちにため息を吐くが、ダスティンもこのような戦場にいつまでも残るメリットはなかった。


 だが――ここで逃げ出してしまうと、ダスティンは剣士として終わってしまう。


 戦況が危うくなったから逃げ出したとなれば、いくら剣聖だろうと帝国軍は許さないだろう。


 剣聖としての実力に疑問が持たれてしまう。


「――ハンプソン侯爵の様子からすれば、このまま逃げ帰ることはしないだろう。ここでわしらが逃げ出せば、ローマン剣術の未来はない。お主らも死力を尽くして戦え」


 ダスティンの言葉に、弟子たちは冷や汗をかきながらも頷いていた。


 その様子に、ダスティンは危機感を覚える。


(この戦いで生き残ったならば、弟子たちの再教育は必須だな。勝ちにこだわりすぎた弊害が出ておる)


 卑怯でも勝てばいい。負ける相手とは戦わない――ローマン剣術を広めるために、徹底した勝負の方法が、苦境に立たされると萎縮する弟子たちを作り上げてしまった。


 普段なら問題ないが、このような状況では役に立たなくなってしまう。


(ままならないものよ)



 トライド・セラ・モス子爵の率いる艦隊は、追撃してくるマリー・セラ・マリアン率いる艦隊から逃げ回っていた。


 ブリッジで指揮を執るトライド子爵は、しつこいマリーの艦隊に恐怖していた。


「どこまでも追いかけてくるしつこい連中だ」


 トライド子爵の副官を務めている男が、自分たちをしつように狙ってくるマリーに怖がっていた。


「子爵様、投降を申し出た味方の艦隊は全て撃破されました。や、奴らは、こちらを全滅させるつもりです」


「あぁ、そうだろうな」


 バンフィールド家は、敵対したとは言っても元は帝国貴族の公爵家である。


 貴族の捕虜を取れば、当然ながら帝国との間に交渉する機会が発生する。


 うまくすれば、バンフィールド家は交渉で戦争を終わらせることも可能になる。


 だが、それを捨てて自分たちを殺しに来ていた。


 副官が理解できない顔をしている。


「投降した者たちまで殺すなど、常軌を逸していますよ」


 元は同じ帝国の仲間同士――しかし、敵味方に分かれただけで、ここまで徹底して叩くというのは常識的ではなかった。


 しかし、トライド子爵にはマリーたちの気持ちも理解できた。


「それだけ我々が脅威ということだ。ここに集まったのは、帝国内でも実力のある領主貴族だぞ。叩ける時に叩かねば、より厄介になると理解しているのさ」


「子爵様?」


 敵を認めるような発言に、副官は戸惑っていた。


 トライド子爵は苦々しい表情をする。


(確かに、ここで私を含めた各当主、そして跡取りたちが死ねば領地で後継者争いが起きるだろう。親族同士が、子爵家の当主の地位を求めて争い出す)


 実績欲しさに征伐軍に参加した貴族たちは、多くが当主や跡取りたちだ。


 その補佐として親族も数多く参加しているのだが、全員が消えると領地で次の当主になろうと残った親族たちが争い出す。


(ようやく! ようやくここまで立て直したんだぞ! 私がここで死ねば、今まで積み上げてきたものが全て失われる。それだけは絶対に阻止してみせる!)


 ただ、戦場から逃げ出すというのは悪手であった。


 このまま帝国まで逃げれば敵前逃亡だ。


 皇太子であるクレオが撤退を宣言しても、敗北の責任を取らされる。


 希望があるとすれば、残存艦隊を集結させてバンフィールド家に打撃を与えてから退くことだ。


 そうすれば、引き分けと言えなくもない。


 責任は取らされるだろうが、最悪の展開は回避できる。


「まさか、我々がここまで追い込まれてしまうとは思わなかったよ」


 自嘲するトライド子爵に対して、副官が悔しそうに呟く。


「皇太子殿下が余計なことをしなければ、我々は負けていませんでした」


 誰もが思っていることだが、トライド子爵は副官をたしなめる。


「不敬だぞ。君の気持ちは理解するが、発言するなら場所を選ぶことだ」


 言外に「自分たちも同じ気持ちだが、文句を言うなら場所を考えろ!」と言っている。


 副官が姿勢を正した。


「申し訳ありませんでした」


「今後は気を付けてくれ。それにしても、まるで疫病神にでも魅入られているみたいだな」


 勝てる戦いで、こうも一方的に敗北したトライド子爵は、目に見えない大きな力が働いているような気がしてならなかった。


 そんなトライド子爵がいるブリッジのモニターに、マリーの顔が映し出される。


 随分と興奮しているマリーは、両手を広げて目を血走らせていた。


『おいおい、逃げるなよ子爵様~。あたくしたちの相手をして下さいよ~』


 通信回線を強引に開かれたようで、オペレーターたちが慌てていた。


 トライド子爵がマリーを睨み付ける。


「加減を知らない悪鬼共が」


『お仲間同士、仲良くしようじゃないの。それと、リアム様の領地で略奪を働き、星を焼いたお前たちが鬼や悪魔でないと思っているの? ――お前らは必ず殺す』


 殺す、と言い放つ際に無表情になったマリーの顔が、モニターから消えるとブリッジクルーが戦慄していた。


 トライド子爵が肘掛けに拳を振り下ろした。


「バンフィールド家の化け物共が!」


ブライアン(´;ω;`)「味方が悪党みたいで辛いです」


若木ちゃん ( `Д´)ノ「この世界は舐められたら終わり! 苗木ちゃんも、舐めた奴は夢に出て『苗木ちゃんは可愛い』って言うまで絶対に許さないわ!」


ブライアン(´・ω・`)「夢にまで出てくる迷惑な植物です。――それはそうと、宣伝でございます」


ブライアン(。`・ω・)「【俺は星間国家の悪徳領主!】の【6巻】がついに発売でございます! 一閃流 対 一閃流 の戦いをお楽しみ下さい!」


若木ちゃん(`ε´#)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 11巻】も凄いんです~。今巻の表紙は見一部に大人気のミレーヌで~、ラーシェル神聖王国の陰謀に立ち向かうんです~。アンケート特典のマリエルートだって、ちゃんと更新するんだからね!」


若木ちゃん(・Д・`)「でも、どっちも苗木ちゃんは活躍しないのよね。――それだけはみんなに申し訳がないわ」

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