モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第29話

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 戦端が開かれてから15分ほどが経過すると、敵の攻撃は一層激しくなった。

 敵の戦列に加わった直立戦車は残った歩兵と連携して攻撃してくる。これまでは見られなかった会議場自体への砲撃も増えてきて、防御を担う人間の顔に疲労の色が浮かび始めていた。

 

 歩兵戦闘車を撃破した戦術も簡単には通用しなくなった。

 機関砲での射撃が主だった歩兵戦闘車に対し、直立戦車はガトリング砲に加えて榴弾砲を備えているのが理由だ。弾丸を逸らすための防壁では榴弾の爆発による衝撃と熱を防ぐことができず、怪我人が増え始めた結果、手数が足りず撃破も難しくなっていた。

 

 屋上からの援護も少なくなっている。《マルチスコープ》を持つ七草先輩を始め、遠隔魔法の使い手はほとんどが狙撃手への対処に当たっているからだ。

 人数こそ多くはないだろうが、何しろ潜伏先を突き止めることから始めなければならない。索敵から撃破まで時間が掛かるのは当然で、その間、戦闘車両の足止めは地上組が受け持たなくてはならない。

 

 このままだとジリ貧だ。状況を打開しないと怪我人だけじゃ済まなくなる。

 

 頭ではわかっていても実行するだけの力がない。

 僕の事象干渉力では歩兵は倒せても車両の破壊は難しい。直立戦車も歩兵戦闘車同様、魔法に対する守りが張られていて生半可な干渉力では動きを止めることすら出来ない。

 

 今だって五十里先輩と千代田先輩の二人掛かりでどうにか足止めしている状況だ。

 

「このっ……!」

 

「駄目だ、花音! 《地雷原》を使ったら地下にどんな影響が出るかわからない」

 

「だけど啓、アイツをどうにかしないとこっちが危ないわ!」

 

 千代田先輩の苛立ちも相当なもので、五十里先輩がいなければ無理にでもスクラップにしようとしていただろう。

 彼女を止められるとすれば許嫁の五十里先輩か、今ちょうど通話を終えた渡辺先輩くらいなものだ。

 

「五十里の言う通りだ。言っただろう。《地雷原》を使うのはご法度だと」

 

 端末を懐に収めた先輩はそのまま左手を伸ばし、読み出した魔法を撃ちだした。

 圧縮空気の爆発が直立戦車付近の歩兵を吹き飛ばし、転がされた敵兵が戦車の前方に落ちる。仲間を轢くのはさすがに躊躇ったようで、直立戦車の足が急速な制動を掛けた。

 

 動きの止まった直立戦車に向け、すかさず千代田先輩の魔法が放たれる。

 振動魔法によって路面の表層部分のみを液状化。無限軌道が砂の中に沈んだところで水分を気化させて固め、直立戦車の足が地面に埋め固められた。

 

「けど、摩利さん!」

 

 五十里先輩が安堵の息を漏らす横で千代田先輩が渡辺先輩に泣きつく。

 フラストレーションを発散させる後輩に、渡辺先輩は慣れた様子で応じた。

 

「落ち着け。今ちょうど市原から連絡があった。地下通路の復旧が済んで、避難を開始したそうだ。狙撃手の方も大体片付いたらしい」

 

 宥めるように語ったそれは千代田先輩だけでなく、僕ら全員にとっての朗報だった。

 国防軍の救援はまだ来ていないが、このまま避難が進めば彼らを待つ必要もなくなるだろう。戦いの目的はあくまで時間稼ぎであって敵の撃退ではない。

 狙撃手の脅威も減ったとなれば動きやすくもなる。防壁を展開していた魔法師にも被害が出ている現状、敵の数を減らすのが最も効率的な戦術と言えるだろう。

 

「なら、あとはアイツらをどうにかするだけですね」

 

「そういうことだ。五十里、もう一度足止めを頼む」

 

「わかりました」

 

 方針を固めた三人が立ち上がる。

 今度こそ助力すべく後に続くと、渡辺先輩は先程と同じように厳しい表情で振り返った。

 

「さっきも言ったはずだ。森崎、お前は前に出るな」

 

 食い下がる暇すら貰えず、三人はバリケードの陰から出ていった。

 

 手近な直立戦車へ向けて五十里先輩の魔法が放たれ、足の止まった車両へ渡辺先輩と千代田先輩の魔法が重ねられる。

 残った共同警備隊からも攻撃が続き、耐えきれなくなった直立戦車が転倒。追い打ちの魔法が車両を押し潰し、ついに一機が沈黙した。

 

 俄かに士気の高まる防衛側。とはいえ、敵の圧力も衰えてはいない。

 直立戦車は未だ十数機が残っていて、正面入り口から流れてきた分も含め歩兵の数も多い。守りの消耗した現状、苦戦は免れないだろう。

 

 渡辺先輩にはああ言われたが、やはりこのまま黙って見ているわけにもいかない。

 守るべき人たちが前へ出ているのに、僕だけが後ろに控えているわけにはいかない。

 

 そのためにも、何とかあの守りを突破する方法を見つけないと。

 

 考える間にも身体は自然と動き、車両の残骸に身を潜めていた敵へ氷弾を撃ち込む。

 すぐ傍で立ち上がった敵が銃口を向けてくる前にこれも倒し、溜まった息を吐き出した直後、後ろから澄んだ声音が聞こえてきた。

 

「私たちも協力します」

 

 肩越しに振り返ると、一色さんと十七夜さんの二人が後ろから駆け寄ってきた。

 どちらも怪我はないようで、左側へと並んでバリケードの陰で姿勢を落とす。

 

「車両は私が。20秒だけください」

 

 淡々と呟いて、十七夜さんがCADから起動式を読み出し始める。

 瞬間、九校戦での活躍が頭に浮かんだ。ピラーズブレイクで使っていた、複数の振動波を重ねる魔法。あれを使うのだとすれば確かに直立戦車の防御を上回れるかもしれない。

 

 威力については申し分ない。なにせ雫の守りを貫くほどだ。

 発動に時間が掛かるのも当然で、寧ろ汎用型CADで実現できることの方が驚異的と言える。

 

「わかった。なら、こちらで敵の注意を引き付けよう」

 

 攻撃を任せる以上、彼女の狙いを悟らせるわけにはいかない。

 囮役であれば干渉力の足りない僕にも務まるし、先輩たちの負担軽減にも繋がるだろう。《自己加速》で銃撃を避けるのはこれが初めてではない。

 

 決めた傍から立ち上がる。

 消耗を抑えるためにフライシュッツはホルスターへ収め、手首の汎用型から《自己加速》を展開。腰に提げていた警棒を抜き、振り下ろしながら伸展させる。

 

 ふと、隣の一色さんも同じように立ち上がり、左手を首元へ伸ばした。

 

「私も一緒に。大丈夫、後れは取らないわ」

 

 そう言って、一色さんは引っ張り出したネックレスを握る。

 直後、全身から滲み出したサイオンが彼女の身体を鮮やかに包んだ。

 燦然と輝く威容がイデアを通じて感じられ、自然と意識が惹き付けられた。

 

 光を纏った一色さんが小さな笑みを向けてくる。

 我に返ったこちらが止める間もなく、彼女は先んじて飛び出していった。

 生身のまま見たこともない速度で駆ける彼女はあっという間に敵集団の脇へ回り込んだかと思うと、無防備な側面へ《スパーク》の一撃を放った。

 

 夏の九校戦ミラージ・バットで見せた高速機動。

 深雪にすら追い縋ってみせたそれは、戦場の只中にあっても鮮烈な威力を発揮した。

 

 冗談じゃない。後れを取るとすれば寧ろこちらの方だ。

 

 負けじとバリケードから飛び出し、弾丸の撃ち出される合間を突いて敵前へ躍り出る。

 走りながら敵陣を見渡し、一色さんの動きに気を取られる一人の左腕へ警棒を叩きつけた。

 

 悲鳴を聞いて振り向いた敵がこちらに気付く。射線の一部が向けられ、駆け抜けた背後を銃弾が通り過ぎていった。

 動きを先読みされないよう進路を変え、姿勢を変え、足を繰り出しながら右手の警棒で銃を握る腕を折っていく。

 

 一方、先に飛び出した一色さんは僕以上の速度で駆け巡りつつ、隙を見つけては敵の潜むポイントへ雷撃を発生させていた。

 

 驚異的な反射神経と速度で動き回る彼女を敵は捉えられないようで、銃口を左右に振っては明後日の方向へ弾丸をばら撒くばかり。

 直立戦車のガトリング砲でも結果は同じく、縦横無尽に走る彼女に機体の旋回がまったく追いついていない。

 

 目にも留まらぬ高速機動と、青白く輝く雷撃。

 彼女が目立つのは至極当然のことで、金糸の髪が煌めく度に仲間が倒れれば尚更、敵も黙って見ているはずがない。

 必然一色さんへ向けられる銃口の数が増え、その分こちらへの圧力が減っていく。

 

 負けていられないと、そう思った。

 

 囮役を言い出した手前もある。だがそれ以上に、同じ陽動という役割の中、より多くの負担を彼女に背負われるのは培ってきた矜持が許さなかった。

 

 護衛業を生業とする『森崎』が、『師補十八家』の貴人に庇われては立つ瀬がない。

 大団円に必要な人たちを守るのと同じくらいに、『僕』が『森崎駿()』として果たすべき務めを全うしたいと、そう思った。

 

 気付けば警棒は左手に持ち替えていて。

 右手には消耗を抑えるために収めたはずのCAD(フライシュッツ)が握られていた。

 汎用型の《自己加速》を維持しながら、駆け出した先に立つ直立戦車へ《ドライ・ブリザード》を撃ち出す。

 

 コクピットの側面で氷弾が弾けると、直立戦車は慌てたようにこちらへ振り返った。

 ガトリング砲の砲身が回転し始めるのを見て、弾丸が吐き出される前に駆け出す。乱雑に撃ち出される弾丸は周囲を旋回するだけで避けることができ、振り回されるチェーンソーも距離を取れば脅威にならない。

 

 一色さんに集まった注目を奪うと、身軽になった彼女はさらに躍動し始めた。

 追い縋るごとに彼女の速度は増していき、必死に食らいつく先で笑みすら浮かべる。

 放たれる雷撃と氷弾の数が徐々に増え、小銃を手に恐慌する敵の姿が散見された。

 

 そうして攪乱する間にも十七夜さんは魔法を組み立てていて、宣言通りの20秒が経過した瞬間、直立戦車へ向けて多数の振動波が放たれる。

 

 人型を模した機械兵器を取り巻くように発生した振動波が一点で重なった。

 複数の振動波が及ぼす干渉力が何重にも加算され、展開された魔法防御を凌駕。結果、耳障りな破砕音と共にコクピット部分がひしゃげた。機銃の掃射が止まり、糸の切れた人形のごとく武装した両腕がだらりと落ちる。

 

「一両撃破。続けていくわよ!」

 

「ああ。やろう」

 

 応えるなり、手近な直立戦車へ向かった背を追って走り出す。

 自分以上の速度で駆け、的確な一撃を加える彼女との共闘には、これまで味わったことのない高揚感があった。

 

 互いに『速さ』を信条とする魔法師だからだろうか。

 声に出さずとも、合図を送らずとも、互いの動きを補い合うことができた。

 一色さんの考えがおよそ推し量れて、彼女の方もこちらの意図に合わせて動いてくれた。

 

 死角から狙う敵の注意を惹き、撃ち漏らしへ追撃を加え、互いの前に敵の背中を誘導する。

 陽動も挟撃も思うがまま、気付けばお互い無傷のまま敵機体のほとんどが沈黙していた。

 

 最後に残った直立戦車へ向けて駆け出す。

 間を置かず左側3メートルほどに一色さんが並んできて、速度で勝る彼女へ直立戦車のガトリング砲が向けられた。回転を始めた銃身が弾丸を吐き出す直前、まるでステップを踏むように彼女が進路を変える。

 

 一色さんが駆け抜けた後へ無数の弾痕が生じた。

 一発一発が生身の人間を容易く貫く威力を持ちながら、けれど一つたりとて彼女には当たらない。

 弾雨の中で軽やかに金糸を揺らす姿はさながら妖精のようで、戦いの最中にもかかわらず綺麗だと感心してしまった。

 

 逸れかけた注意が《スパーク》の放つ余剰サイオン光によって引き戻される。

 直立戦車の側面が目に入って、無防備なそこへドライアイスを撃ち込むとともに最大限の速度で飛び込んだ。

 

 左手一本で握った警棒の柄尻をコクピット部分に叩き付ける。

 凹みの一つでも作れれば御の字の一撃でもパイロットの注意を引くことはできて、小動もしない《対物障壁》の向こうで直立戦車の正面がこちらへと向き始めた。

 

 振り抜かれるチェーンソーを屈んで避け、ガトリング砲の砲口が追いつく前に走り出す。

 適度な間合いで走りつつ得物の損傷を確認。手に痺れ一つなかった時点でわかってはいたが、警棒にも壊れたところはなかった。

 

 装甲を直に叩いたのならこうはいかない。敵車両が障壁魔法を展開していたからこそ、反動を受けずに済んだのだ。今の一撃でも破れないとすれば、僕がどれだけ攻撃を加えたところであの守りを崩すことはできないだろう。

 

 続けて《スパーク》の雷撃が直立戦車の表面を伝い、路面へと流れた。

 機体の纏う防壁は魔法への備えも健在で、ダメージを受けた様子のない直立戦車が旋回の向きを反対側へ向け始めた。

 

 周回する足を止め、無防備に晒された背面へ飛び込む。

 《ドライ・ブリザード》の氷弾を追いかけて脚部との接合部を狙って警棒を叩きこむも、やはり質量体の進入を阻む魔法に寸前で受け止められた。

 

 途端、直立戦車の正面がこちらへと向き始め、ガトリング砲の放つ弾丸も路面に線を引いて迫る。息継ぎのために《自己加速》を一度切り、再展開して走り出したところで、機体の周囲に事象改変の兆候が生じた。

 

 巻き込まれないよう距離を取って振り返る。

 放たれた振動波が直立戦車の中心で重なり、直後、耳障りな音と共にコクピットが潰れた。

 ガトリング砲の射撃が止み、いくらか空転した後で銃身の回転が止まる。両腕のチェーンソーはだらりと落ち、駆動する刃は路面をいくらか削った末に停止した。

 

 

 

 搬入口の正面に陣取っていた直立戦車がすべて破壊されると、残った歩兵からは後退する者が出始めた。

 敵の人数が減るほど防衛側の反撃は活性化していき、やがてほとんどの敵兵が背中を見せて遠ざかっていった。

 

 潜伏する敵がいないことを確認しながら搬入口の前へと戻る。

 《自己加速》を解除してバリケードの陰へ回り込むと、すぐさま呆れと怒りが混ざったような声に迎えられた。

 

「あれほど前に出るなと言ったのに。大バカ者め」

 

 深く眉を寄せた渡辺先輩が腕を組んだ姿勢で仁王立ちしていた。

 怒りを滲ませているのは彼女の後ろの千代田先輩も同じで、五十里先輩だけがほっとしたようにため息を吐いていた。

 

「ご心配をお掛けして申し訳ありません」

 

「わかってるのなら、もう少し自重して欲しいわね。よりにもよって一年生が囮になるなんて」

 

「まあまあ。みんな無事だったんだから、今はそれでよしとしておこうよ」

 

 憮然とした表情で呟く千代田先輩を五十里先輩が宥める。

 返す言葉もなく視線を逸らした先では一色さんも十七夜さんから詰め寄られていて、意図せず顔を見合わせる形となってしまった。自然と浮かんだ苦笑いが彼女のそれと同期して、視線だけで反省と健闘への称賛を共有する。

 

 一通りを言い終えた渡辺先輩はやがて力を抜くように息を吐いた。

 

「とはいえ、お前たちのお陰で連中を退かせられたのは確かだ。これで終わりかはわからんが、一息入れる猶予くらいは――」

 

 瞬間、潰れた直立戦車の一つが大きく爆発した。

 衝撃と轟音が響き、吹き付ける熱波に思わず顔を覆う。慌てて爆発のあった方を見ると、大きく陥没した路面の周りでバラバラになった残骸が燻っていた。

 

「榴弾の暴発か?」

 

「どうでしょう。本来は安全装置が搭載されているはずですが……」

 

 直後、爆心地点を睨んでいた五十里先輩がハッとして顔を上げる。

 

 黒煙の立ち上る向こうから一台のトラックが突っ込んできた。

 ガラスにスモークの張られたトラックは速度と重量に物を言わせ、車両の残骸どころか避け損ねた歩兵すらも撥ね飛ばしながらまっすぐに搬入口へ向かってくる。

 

「新手だ! 注意しろ!」

 

 突然の襲撃にもかかわらず、先輩たちの行動は迅速だった。

 誰よりも早く気付いた五十里先輩が放出系魔法で段階的に速度を引き下げ、すかさず千代田先輩が振動系魔法で路面を液状化。タイヤが沈み込んだ瞬間に固定し、足元を固められて止まった輸送車へ十七夜さんの魔法が放たれた。

 

 トラックの周囲8カ所から振動波が発生し、運転席でそれらが重なる。

 いくつもの敵車両を撃破してきた十七夜さんの魔法はしかし、トラックの後部から展開した《領域干渉》に阻まれ効果を発揮することはなかった。

 

 魔法が防がれたとわかった瞬間、全員の警戒度が一段と高まる。

 後部の扉が開く間に全員が手近な遮蔽物へ身を隠し、降車する敵へ視線を送った。

 

 現れた敵の人数は3人。

 全員が大柄な男で、似たような服装と揃いのサングラスを身に着けていた。

 気勢のない表情と動作からはまるで感情が窺えず、不自然なほどに悠長な動作は何度か対峙した相手と似通っていた。

 

 間違いない。あいつらは全員ジェネレーターだ。

 

 無頭竜が生み出した人間兵器。

 一人でも厄介な相手が三人、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 東側通用口の守りに当たる達也たちは散発的に現れる敵を危なげなく退けていた。

 

 海沿いに迫る敵は歩兵が大半で、直立戦車や歩兵戦闘車が正面入り口側を突破してくることはほとんどない。

 またそうして襲い来る敵歩兵や少数の戦闘車両も姿を見せたそばから深雪の放つ《凍火(フリーズ・フレイム)》――温度上昇を妨げることで火薬の燃焼を封じる魔法――によって銃火器での射撃を封殺された。

 《対物障壁》や《領域干渉》といった防御の魔法も達也の《術式解体》で崩され、遠隔魔法によって撃破されるか、近接戦闘を得意とする魔法師の前に押し出されることになる。

 

 近接戦を強いられた敵に対し、待ち構える防衛戦力は存分に力を揮った。

 

 最も派手に暴れているのはエリカだろう。愛刀『大蛇丸』を手にしたエリカは目にも留まらぬ速度で戦場を駆け巡り、火器の封じられた車両を一刀のもとに破砕していく。

 

 瞬間移動と見紛うほどの速度と、装甲を物ともせず断ち切る重い斬撃。

 これらを両立させているのが『大蛇丸』に搭載された慣性制御魔法《山津波》だ。

 自身と刀に掛かる慣性を極小化することで高速での移動を可能とし、刃を振り下ろす瞬間、消していた慣性を上乗せすることで慣性質量を増大。盾や装甲ごと対象を叩き斬る剛剣を繰り出す千葉の秘剣の一つである。

 

 一方、その千葉家で修行を積んだレオも負けてはいない。

 

 獲物を前にした彼は腰に提げていた十字架状の柄を手に側面のスイッチを押した。

 刀身のない柄から黒く透き通ったフィルムが吐き出され、硬化魔法によって完全な平面状に固定される。厚さ5nm(ナノメートル)という極薄の刃となったそれはどんな刀剣よりも鋭い切れ味を発揮し、銃弾も跳ね返す装甲板を易々と切り裂いた。

 

 これがエリカの指導で会得した千葉の秘剣《薄羽蜻蛉(うすばかげろう)》。

 硬化魔法への適性に加え、適切な角度で刃を振るうセンスと身体能力が求められるこの秘剣こそ、短くも濃密な修行によって身に付けたレオの切り札だ。

 

 どちらも人に向ければ容易く命を奪うことのできる技。

 相手を確実に仕留めるための技――必殺技だ。

 

 元より剣士としての心構えを備えてきたエリカだけでなく、レオまでもがそれを求めたのは(ひとえ)に達也と共に歩むため。

 何かと騒動の渦中に置かれる彼との関係を諦めぬため、二人は戦場で刃を振るっていた。

 

 エリカとレオの2人だけでなく、幹比古ら各校から志願した面々もまた着実に敵を打ち倒していく。

 直立戦車も歩兵戦闘車も自慢の銃火器を失えば大きな的に過ぎず、複数の魔法を立て続けに浴びて倒される光景が繰り返された。

 

 結果、通用口を狙い回り込んでくる敵は近付くことも出来ずに無力化され、防衛側に被害らしい被害はほとんど生じていなかった。

 昂揚感のあまり反攻に出ようとする者も出てくるほどで、達也自身もレオやエリカといった突出しがちな友人の動向に気を配らなければならなかった。

 

 そうして他の二方面よりも快調な迎撃を続けることおよそ15分。

 断続的に続く攻撃へ対処する最中、達也の『眼』は通常の兵士と異なる存在を見出した。

 自我と引き換えに魔法力を引き出された兵器は、その半数が南側搬入口へと向かっていた。

 

(まずいな。複数のジェネレーターが相手ともなると……)

 

 一瞬、持ち場を離れて援護に向かうべきかと考え、理性が不可能だと断じる。

 今の達也は一介の高校生に過ぎず、《分解》はおろか《精霊の眼》でさえ表立っては使えない立場だ。ジェネレーターの接近に気付いたこと自体知られてはならない事柄で、ましてや禁じられた魔法を無防備に使うわけにもいかない。

 

 考えている間にも敵兵が残骸の陰から飛び出してきた。

 臆することなくハイパワーライフルを構えているあたり、深雪の《凍火》を逃れたのだろう。多くの仲間を失い激昂した兵士の指が動いた瞬間、達也は銃口の延長線上へ右手をかざす。

 

 炸裂音と共に飛来した銃弾が構えた右手に触れる直前、弾丸の運動ベクトルだけを《分解》して止め、仕組みがわからぬよう握り込む。

 街路センサーでの発覚を避けるためにゼロ距離で発動する《分解》の技巧。傍目には銃弾を掴んで止めたように見られ、音速の数倍で撃ち出された弾丸を素手で掴むという異常な光景を目にした兵士に致命的な隙が生じた。

 

 怯んだ敵兵を鳩尾への一撃で昏倒させ、腰から奪ったナイフで手足の腱を切断。

 袖口に着いた血を気にする素振りもなく、身体を起こした達也は再度《精霊の眼》で周囲を探る。

 

 依然として戦況は防衛側の優勢で運んでいる。克人と将輝が陣取る正面入り口はもちろん、多数の実力者が配された南側も戦力に不足はない。ジェネレーターを相手に被害が増えたとしても突破を許すことはないだろう。

 

 そもそも多少の犠牲は承知の上で組まれた作戦だと、達也は認識していた。

 プロの実戦魔法師に加えて卓越した遣い手が複数人いるとはいえ、要塞でもない陣地を防衛しているのだ。大半が学生の戦力であれば尚更、被害が生じるのは当然のこと。味方だけが無傷で済むなど空想でもなければあり得ない。

 

 気に掛けるとすれば、それが友人知人かどうかだけ。

 それも自ら助けに動くのではなく、遠くから無事を願う程度のものだ。

 深雪以外の誰にも執着を()()()()()()()()()達也にとって、友人たちの命すらも事によっては優先され得ない。

 

 任された方面の防衛を冷静かつ着実にこなしながら、奮闘する友人や先輩の無事を希望するくらいの感情は残されているが故に、達也は人知れず眉を寄せていた。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 

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