モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第27話

 

 

 

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 それはまだ駿が地下通路から戻る前のこと。

 九校合同での防衛と避難が決定して間もなく、国際会議場正面入り口前のホールで独自に脱出手段を模索していた達也たちは、摩利に呼び止められて初めて他国の侵攻と今後の方針を知らされた。

 

「地下通路を通っての避難とそのための時間稼ぎですか。確かに、敵に包囲されつつある状況であればやむを得ないでしょうね」

 

 予想外な状況に息を呑むばかりの仲間たちを置いて、達也は冷静に摩利へ応じる。

 一方、同じように落ち着いて話を聞いていたはずのエリカは、最後まで聞き終えるや否や不満を隠すこともなく摩利へ食って掛かった。

 

「無関係の人間の分まで盾になろうなんて、随分とご立派な考えね」

 

 吐き捨てるような物言いには日頃から摩利へ向けるやっかみと異なる色があった。

 それは達也を除けば付き合いの長い幹比古にしか読み取れない僅かな差で、また始まったとばかりに止めようとする美月を、言われた当人の摩利が苦笑いで制する。

 

「何も見ず知らずの人間のために戦えと言っているわけじゃない。バラバラに動いて各個撃破されるくらいなら、まとまって立て籠もった方が対抗手段も増えるという話だ」

 

 なんということはない。エリカの抱いた不満は、摩利が抱いたそれと同じだった。

 

 いくら魔法師とはいえ、いち高校生に過ぎない自分たちの分を超えている。同じ一高の生徒ならいざ知らず、他校の学生や一般客の安全にまで責任を負うのは筋が通らない。

 千葉流剣術の宗家に生まれ育ったエリカやその門下生である摩利にとってはそうした認識が当たり前であって、避難のために足枷を増やすような方針は受け入れがたい。

 

 侵攻の第一報を受けた当初の摩利もそう考えていて、彼女と同じように真由美も学校ごとでの避難を想定していた。

 各校の代表者を集めたのも第一には情報共有が目的であって、協同での防衛と避難に話を持ち込むという()()()()()にも、克人はともかく真由美は賛成しかねていたのだ。

 

 けれど結局、魔法師全体への責任を負う十師族としての立場がそれを許さなかった。

 一部の魔法師が持つ特権を自認する真由美は、敵の包囲が進む状況下にあって確実に生じるだろう被害を見過ごすことができなかった。

 

「直に国防軍の救援も来る。十分に勝算のある方針だと、あたしは思っているよ」

 

 いつになく真剣な悪友(親友)の横顔を見た摩利は、自身の内に燻る不満を呑み込んだ。

 エリカの内心を察していて尚諭すのは、責任を果たそうとする真由美の姿を意気に感じたからだ。

 

「警備隊の人たちはみんな参加するんですか?」

 

 反応を待つ摩利に対して、最初に問いを返したのはほのかだった。

 ちらと流れた視線がじっと口を閉ざしたままの雫を捉える。それだけで彼女の真意を理解した摩利は、敢えてそれに触れることなく頷いた。

 

「全員参列すると聞いている」

 

「じゃあ、きっと森崎くんも……」

 

 呟いたほのかがそっと目を細める。脳裏には春の一幕が浮かんでいた。

 自分たちを守るためにテロリストの前へ立ちはだかった駿の気質を思えば、戦えない人間を守るために最前へ立つ姿がありありと想像できる。危険なことなのは言わずもがな、止めたところで応じるはずもないだろう。

 

 眉を寄せたほのかは再度、静かなままの親友へと目を向ける。

 僅かに視線を落とした雫は体の前で左手のCADを撫でながら、じっとここではない何処かへ思いを馳せているように見えた。

 

 全員が駿の為人(ひととなり)を知ればこそ、続く言葉はなかなか出てこなかった。

 重く圧し掛かる沈黙はしかし、威勢の声と共に破られる。

 

「ダチが戦うってのに逃げるわけにゃいかねえ。俺はやるぜ」

 

 胸の前で拳を握ったレオが口火を切ると、仲間たちは次々に彼へと続いた。

 

「僕も。不当な侵略を見過ごすことはできません」

 

「私も、できることなら何でもお手伝いします」

 

 幹比古に付いて美月が名乗り出ると、深雪は僅かに驚きを滲ませてから頷く。

 

「そうね。お兄様、この場は私たちも」

 

「ああ。降りかかる火の粉であれば払うまでです」

 

 達也もまた、深雪に諭されるまでもなく首肯する。

 いざとなれば深雪一人だけを連れて脱出する方針を抱えながら、可能な限り手を尽くすことに迷いはなかった。

 

「お役に立ってみせます!」

 

「私も。風紀委員の一員ですから」

 

 仲間たちの、何より達也の意志を聞いたほのかが声を上げると、その隣で顔を上げた雫がまっすぐに摩利を見つめる。

 勇猛過ぎる一年生たちに表向き呆れて見せた摩利は、残った一人へと視線を向けた。

 

「……当然、あたしもやるわ」

 

 最後に不承不承を装ってエリカが言うと、摩利は堪えきれず頬を緩め、それから小さく息を吐く。

 

「仕方のないやつらだ。そういうことなら、指令室に行って配置を仰ぐとしようか」

 

 

 

 

 

 

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 摩利の先導で指令室へ入った一同は、参謀役に抜擢された鈴音の判断によって防衛に着く場所を決定された。

 

 達也、深雪、エリカ、レオ、幹比古、美月の6人は会議場東側の通用口に充てられた。

 北西から迫る機動部隊との衝突に乗じて潜入を図るゲリラへの対処が主な役割で、呼び掛けに応じて志願した生徒の多くがここに当たる。

 

 またこちらは地下からの避難が困難な場合の脱出経路としても考えられており、決して軽視できる方面では当然ない。

 戦力の都合上、他の二方面に比べてどうしても手薄になってしまっていたが、だからこそブランシュの一件を知る鈴音は達也と深雪の力を当てにして彼らをここへ配置した。

 

 主力として力を揮って欲しいと煽てられ、ゲリラばかりが相手かと不満を滲ませていたエリカも機嫌を持ち直す。レオも修行の成果が試せるとあって喜色を浮かべ、緊張を覗かせる美月の他、幹比古と兄妹の顔に動揺はなかった。

 

 一方で雫とほのかが言い渡された場所は、彼らとは別の屋上だった。

 ほのかは咄嗟に食い下がったものの、他ならぬ真由美の希望だと伝えられてはさすがに勢いを失い、達也本人からも諭された末に指示を呑み込んだ。

 

 指令室を出た雫とほのかは達也たちと別れ、屋上へ続く階段へ向かう。

 その途上、雫は正面口から歩いてきた人物に呼び止められた。

 

「北山さん。光井さんも。貴女たちも志願するのね」

 

 張り詰めた様子のない落ち着いた声音で愛梨に言われ、雫はこくりと頷く。

 一方で傍らの栞は表情こそ変わらないものの、下ろした両手は固く握られていた。

 

「『貴女たちも』ってことは、一色さんたちも?」

 

「ええ。私は師補十八家の人間だから。人々を守る責任があるわ」

 

 はっきりとした口調で愛梨が言い切る。

 表情も眼差しも澄み切った迷いのないもので、十師族に並ぶ名門が負うしがらみを知らずとも、その口振りから彼女が抱く自負を窺うことができた。

 

「責任……。そっか」

 

 或いは、駿もまた似た想いを抱いているのかもしれない。

 直感的にそう考えた雫は、駿の行動を思い返して間違いないと納得を浮かべた。

 

「それで、二人はどこの守りに?」

 

 心なしか緊張の解れた様子の雫に首を傾げながら、愛梨は隣のほのかへ訊ねる。

 ほのかの方は慣れたもので、表情から親友の内心を察して苦笑を漏らしていた。

 

「屋上だよ。一色さんと十七夜さんは?」

 

「私たちは搬入口へ。一条くんが正面入り口の守りに着く分、警備隊の戦力が落ちてしまうので、その補強のために」

 

 栞が理由ごと答えると、耳聡く拾った雫が顔を上げる。

 

「警備隊の……。じゃあ、きっとそこには」

 

「ええ。森崎さんもいると聞いているわ」

 

 我が意を得たとばかりに、愛梨の目が再び雫へと向けられた。

 挑発とは異なるそれを雫はじっと受け止め、右手を胸の前で握る。

 

「そういうことなら、伝言をお願いしてもいいかな?」

 

 滲む憂いに蓋をして、雫はただ一言だけを愛梨へと託した。

 

 

 

 

 

 

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 屋上へ上がった雫とほのかは、呼び出した真由美自身によって出迎えられた。

 

「光井さんも北山さんも、協力してくれてありがとう。とても心強いわ」

 

 笑顔で二人の手を取る真由美。彼女の後ろには九校から集った生徒が揃っていて、四方を指差しながら何やら協議を行っている。恐らくは全員が上級生で、雫とほのかの他に一年生は一人もいそうにない。

 

 自ずと湧きだす緊張を懸命に押し殺す二人へ、真由美は努めて穏やかに語り掛けた。

 

「突然の話で申し訳ないけど、二人にはこの屋上を守る手伝いをして欲しいの。光井さんは光学系の魔法が得意でしょ。私たちがここにいるのが見えないように、魔法で覆い隠すことはできるかしら?」

 

「は、はい! やってみます」

 

「お願いね。北山さんは光井さんを守ってあげて。隠蔽の魔法もいずれバレてしまうでしょうし、そうなった時、真っ先に狙われるのはこの屋上だから」

 

「わかりました」

 

 捲し立てるように要請を並べたのは寧ろ二人を案じているが故だ。役割を明確にすることで不必要に気負わせることなく、それぞれの得意分野へ集中させることができると真由美は考えていた。

 

「ただし、二人とも決して無理はしないこと。危ないと思ったらすぐに中へ避難して頂戴。これは貴女たちだけじゃなく、ここにいる全員へお願いしていることよ」

 

 最後にちらと背後を見やって言うと、二人は素直に頷いた。

 

「達也くんや森崎くん、そして皆のために、一緒に頑張りましょう」

 

 ついでに口にしたのは二人の緊張を解くための真由美なりの軽口で、けれどそれは当の本人たちにとってこれ以上ない発奮材料として機能した。

 

 

 

 

 

 

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 東側通用口の守備に当たる達也たちもまた、雫とほのかを見送った後で予期せぬ邂逅を迎えていた。

 

(かず)兄貴? 何でここにいるわけ?」

 

 通路の向こうから歩いてくる人物を認めたエリカが怪訝な顔で進み出る。

 口ぶりから彼女の身内だと悟った一同が足を止め成り行きを見守る中、寿和はそんな彼らの目を気にする素振りもなく、喧嘩腰で突っかかってくる妹との会話に興じ始めた。

 

「何で、とは心外な。心優しい兄が妹の窮地に駆けつけるのに、何の不思議もないだろう?」

 

「心優しい? どの面下げてそんな空々しいセリフを」

 

「悲しいなぁ。俺はこんなにも妹を愛しているというのに」

 

 楽しげに落胆して見せる寿和を見かねてか、同行していた彼の部下――稲垣はため息を吐いて歩を進め、上司を置き去りに二人の脇を通り抜ける。

 すれ違いざまエリカに会釈したものの彼女は視線一つ寄越すことはなく、そんな彼女の態度にも慣れた様子で稲垣は達也たちの前までやってきた。

 

「警察省の稲垣です。あそこの上司と二人だけではありますが、皆さんの避難に協力します」

 

 懐から手帳を取り出した稲垣を、達也たちは同情と共に迎えた。

 エリカ一人でも大概なのに、そのエリカをすらあしらう兄の部下ともなれば心労も小さくはないだろう。ましてや兄妹の仲を知っている者なら尚更だ。

 

「第一高校の司波です。現在、我々は十文字家代表代理主導の下、独自に防衛、避難を進めています。ご協力頂けるということであれば、指令室へご案内しますが」

 

「ありがとうございます。指令室の場所を教えて頂くだけで構いませんよ」

 

 稲垣の苦労を察してか、達也の応対は至極丁寧なものだった。

 一時的とはいえ羽を伸ばすことのできる提案まで用意されたものの、高校生に気を遣われては面目ないと稲垣はこれを辞退。指令室までの道順と九校で合意した避難計画の概要だけを聞くに留める。

 

 他方、苦労人二人が苦笑いを交わす横で、エリカと寿和の団欒(?)は佳境を迎えていた。

 

「大体、エリカは女の子なんだからもう少し上品な言葉遣いをだな」

 

「お生憎さま。今更アンタに何と言われようと知ったことじゃないわ。どこの馬の骨とも知れないやつに負けて帰ってきておいて、よくもまあ上からものを言えたものね」

 

「ああ、確かにあの御仁は大した腕だった。鉢合わせたのが対抗できる俺でよかったよ」

 

 大仰な口振りを続ける兄へ、付き合っていられないとエリカの表情が冷え込んだ。

 一転して白けた眼で睨みつけてくる妹を見て、寿和はもうお終いかと残念そうにため息を吐く。

 

「窮地に駆けつけたというのは本当だ。敵の狙いが何処かは見ていればわかるし、あれほどの手練れがうろついているとなれば見過ごすわけにもいかない。民間人の保護は警察の仕事だからな」

 

 投げやりな口調で実際のところを告げると、エリカはそれを鼻で笑った。

 取り付く島もない彼女に対し、けれど寿和は意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「そんな態度でいいのか、エリカ」

 

「何よ」

 

 予想と違う反応が返ってきて、エリカが少し怯んだ表情を覗かせる。

 太刀打ちする手段のなかった幼少時の苦手意識は成長した現在も根底に残っていて、意図の読めぬ顔をされる度、エリカ自身の意志とは無関係に彼女の身体を縛ろうとしていた。

 

「俺はお前に良い物を持ってきてやったんだぞ」

 

「良い物? いらないわよ、別に」

 

 それでもエリカは折れることなく意地を張り続ける。目の前の長兄は彼女にとって超えるべき壁であり、決して(おもね)ることはできない相手なのだから。

 

「そう言うな。今のお前には必要な物だ」

 

 強がる妹の姿を見た寿和は口元の笑みを満足げなものに変え、背に抱えていた得物を差し出す。

 かつて実家の隅で窮屈そうに過ごしていた妹は今や、寿和が望んだように気骨を備えた剣士へと成長していた。技だけでなく心も鍛えられた今のエリカであれば、千葉一門の秘剣を揮うに(あた)うだろう。

 

 事実、差し出された得物を見たエリカの瞳は爛々と揺れていた。

 

「『大蛇丸(おろちまる)』? 何故ここに……」

 

「何故? 愚問だぞ、エリカ。大蛇丸は《山津波(やまつなみ)》を生み出す為の刀で、《山津波》を扱えるのはお前だけだ。親父にも修次にもそれは扱えない。故に大蛇丸は、お前の為の刀だ」

 

 全長180cm。刃渡りだけでも140cmあるそれは、反りの少ない大太刀の形をした刀剣型武装デバイスにして、『剣の魔法師』と呼ばれる千葉家が生み出した傑作の一振り。

 

 自身の身長を優に超える得物を受け取るエリカの手は傍目にもわかるほど震えていた。

 身体ごとよろめきそうになる重量をしっかりと握り締めて支え、鞘の先から柄頭までを見上げたところでようやく震えが止まる。

 

「嬉しそうだな」

 

 兄の声にハッと振り向く。

 呼びかけられるまで友人たちはおろか目の前の兄の存在すらも忘れていた。

 それほどまでにエリカは大蛇丸に心を奪われていた。

 

「自分の分身たる愛刀を手にして、それほど嬉しかったか? ならばやはり、お前は『千葉』の娘だよ、エリカ」

 

「――フン! 今回は礼を言っとくわ」

 

 妹のわかりやすい態度に寿和が口角を持ち上げる。

 スタスタと友人たちのもとへ歩いていくエリカの背を眺めていると、入れ替わりに戻ってきた稲垣は何度目ともつかないため息を漏らした。

 

「警部、そろそろ行きますよ」

 

「はいはい。っと、君はたしか――」

 

 生返事を返した寿和は達也たちの横を通り抜ける間際、ふとレオへ目を留める。

 エリカがレオを鍛えていたことは門弟伝いに聞いており、高校生離れした体格と西欧風の顔立ちという特徴だけでも推測することは難しくなかった。

 

「西城くん、だったね。エリカが見所のある弟子を取ったというのは聞いていたよ」

 

 一瞬、寿和の視線がレオの左腰へと落ちる。

 制服のベルトに固定した金具とそこに提げられた『柄』を認めた寿和は、眼差しをいち学生から門下の剣士へ注ぐものに変え、真剣な表情で続けた。

 

一時(いっとき)とはいえ、我が家の門を潜った君に頼もう。精々、うちのお姫さまに付いていてやってくれ」

 

「ベストを尽くします」

 

 姫というにはお転婆が過ぎるだとか、自分が付いていけるほど容易い相手ではないだとかの文句は浮かんだものの、それを口にすることはなく。

 エリカ本人が盛大に顔を顰める横で、レオは寿和の頼みに頷いて見せた。

 

 

 

 

 

 

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 午後3時55分。

 急ピッチで防衛態勢を整えた横浜国際会議場の前に、警察と沿岸警備隊の防衛線を突破した大亜連合軍機動部隊の第一陣が姿を現した。

 

 先頭を走るのは機関砲を備えた装輪式の歩兵戦闘車。十余両の戦闘車の左右にはライフルを手にした歩兵が並び、抵抗勢力を蹴散らしながらまっすぐに国際会議場へと迫る。

 

 また後続には大型の人型ロボットとでも言うべき兵器――直立戦車の姿もあった。

 

 全高約3.5メートル、横幅約2.5メートルのこの直立戦車は人型を模した移動砲塔であり、複数の武装を施した腕部とコクピットを脚部に備えた無限軌道で支えている。

 その構造上、直立戦車は走行速度において装輪装甲車に劣るものの、段差や狭く入り組んだ路地の多い市街地での即応性に勝る。武装の換装も容易で、任務に合わせた装備を用意できる点においても使い勝手の良い兵器として東側諸国で採用されていた。

 

 侵攻軍の戦闘車両は瑞穂埠頭方面から続く架橋を渡り、やがて肉眼でもはっきりと捉えられるようになった。

 間もなく先頭を走る2両の砲塔が動き、仰角を取って会議場の上階部分へ狙いを定める。

 

 直後、巨大なハンマーで押し潰されたかのように2両の車体がひしゃげた。

 鋼鉄のフレームは無残に割れ、隙間からは燃料と赤黒い液体が流れ出る。長い砲身も半ばから折れ曲がり、潰れた車体からはやがて炎が立ち上り始めた。

 

 先制の一撃を見舞ったのは強固な障壁を槌として振るう克人の魔法。

 『十文字家』の代名詞として知られる《ファランクス》の、攻撃的な使い方がそれだ。

 

 乗員諸共圧壊した車両はそのまま障害物となり、後続は慌てたように足を止める。

 追突を避けるためには仕方のない動作だったものの、遮る物のない路上で動かぬ的となれば狙われるのも必定。切り返して後進を掛ける前に、今度は将輝の魔法がその猛威を揮った。

 

 一条家の《爆裂》は対象内の液体を瞬時に気化させる魔法。人体へ放つ場合は血液を含む体液すべてがターゲットとされるが、だからといって無生物に効果がないわけではない。

 戦車を含む大型機械には例外なく液体が使用されており、燃料や冷却水はもちろん、油圧油ですら将輝にとっては等しく《爆裂》のターゲットだ。軍製品として出回っている兵器ならば尚更、燃料タンクの位置なども予想しやすい。

 

 動かぬ的となった歩兵戦闘車の一方、克人へ向けて砲塔を指向していた車両が破砕音と共に破裂した。

 直後、電気系統から生じた火花が気化した燃料に引火し炎上。轟音と火柱はもう一台と幾人もの兵士をあっという間に巻き込み、先に潰れた2両の燃料にすら火を点けて燃え上がった。

 

 瞬く間に4両の戦闘車を失った大亜連合軍はしかし、怯むことなく攻撃を開始した。

 炎の手前で停車した装甲車から複数のミサイルが発射され、克人の注意が逸れる間に移動を開始。炎を避けて建物を回り込み、2方面から会議場へ迫る。砲身と車体上部の銃座が克人と将輝へ向けられ一斉射を開始した。

 

 飛来する弾丸とミサイルの双方を、克人は焦ることなく防いでいく。

 将輝や周囲の警備職員もまとめて覆う半球状の防壁は質量体も熱も風圧も通さず、堅固な守りを得た将輝が次の車両へと狙いを定める。

 警備員や義勇軍として参加した学生からも魔法が放たれ、お返しとばかりにハイパワーライフルを所持した歩兵が射撃を開始。銃砲と魔法が飛び交う本格的な攻防がここに始まった。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 

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