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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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四将

乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ版8巻 は 【5月9日】発売予定です。


コミカライズ版もついに原作小説三巻に突入しますね。


潮里先生の描く漫画版モブせかも、是非ともお楽しみ下さい。

 帝国軍の艦艇が集まる宇宙要塞。


 正規軍の艦隊の他には、大貴族と呼ばれる者たちの私兵艦隊が集まっていた。


 要塞内からその様子を見ていたクレオは、数の暴力という言葉を実感する。


「見渡す限り艦艇で埋め尽くされているな。これだけの艦艇を相手にするリアムが憐れに思えてくるよ。六百万――後方支援を加えれば、数千万もの艦艇が動いているからな」


 同情する言葉を吐きながらも、その表情は薄ら笑っていた。


 クレオの隣には、ハンプソン侯爵の姿があった。


 長い髪を手ぐしで後ろに流しただけの野性味あふれる大男なのだが、スーツを着用している。


 その手にはグラスに入った酒を持っていた。


「この規模の艦隊でなければ、勝てないと判断したのだろう。憐れではなく、バンフィールド公爵には誉れだろうさ」


 武人らしい発言の目立つハンプソンに、クレオは本音を聞きたがる。


「本気でそう思っているのか?」


 理解できないという顔をするクレオに、ハンプソンは不敵な笑みを見せる。


「武人としては、だな。だが、俺は国境を預かる領主だからな。この状況に追い込まれたバンフィールドが、間抜けに見える」


「リアムが間抜け?」


「そうだろう? 正義感か何か知らないが、皇太子殿下に逆らい続けて征伐軍を出されている。こんな状況を作り出したリアムが愚かなのさ」


 リアムを貶すハンプソンに、クレオは気分を良くする。


 だが、同時に思ってしまうのだ。


(俺を支援しなかったお前が、同じ状況に陥ることは皆無だけどな。どいつもこいつも、俺が皇太子になった途端にすり寄ってくる)


 年齢的には何百歳というハンプソンが、副司令官としてクレオを支える。


 何も知らない若造の補佐など、ハンプソンも面倒に思っているだろう。


 だが、文句を言わず従っているのは、クレオが皇太子――次期皇帝だからだ。


「そうか。リアムは愚か者か」


「愚か者の領主を持った領民たちにこそ同情してやれ。何しろ、この征伐軍がバンフィールド領に乗り込めば、何もかも奪い尽くされるぞ。バンフィールドが貯め込んだ財は、全て我らの物になる」


 征伐軍の目的は、リアムを討つだけに留まらない。


 二度と謀反を起こす貴族が現れないように、見せしめのために徹底的に滅ぼされる。


 惑星は人が住めないように滅ぼし、財は全て征伐軍が奪い去っていく。


 領民たちもことごとく――。


 そんな会話をしていると、他の主立った面々が集まってくる。


 二メートルに届く身長の大男は、正規軍の軍服を改造して着用していた。将官に与えられるコートは、まるで宇宙海賊のようなデザインになっている。


 ドクロの入った海賊帽子に加え、男は眼帯を装着していた。


 男の名前はコズモ。


 正規軍の大将だ。


「略奪の話なら、俺たちも加えてくれや。あのバンフィールドの領地を荒らし回れると聞いて、部下たちも興奮しているからな」


 ガハガハと粗暴に笑うコズモは、正規軍でありながら宇宙海賊のような格好をしている。


 ハンプソンが小さくため息を吐く。


「海賊大将か。もちろん、お前たちの分け前も用意してやる。バンフィールド家は内政に力を入れていたからな。持っている惑星のほとんどが、宝の山だぞ」


 コズモは舌舐めずりをする。


「そいつはいいな! 海賊狩りで成り上がったあいつには、恨みを持つ部下たちも大勢いるからよ。いつも以上に仕事熱心になっちまうぜ。何せ、今回は全員集めて六万を超える大艦隊を揃えたんだ。バンフィールド家には何にも残さないぜ」


 コズモという男は、元は海賊だった。そして、彼が率いる特殊任務を与えられた艦隊に所属する全ての人員が――元宇宙海賊出身者たちだ。


 帝国に捕らえられた後、過酷な選抜試験と死者を出す訓練を乗り越えて正規軍入りを果たした猛者たちで編制された艦隊。


 帝国内では略奪艦隊と呼ばれ、汚れ仕事をさせられていた。


 そんな彼らを率いるのは、左目に機械を埋め込んだコズモという大男だ。


 かつては宇宙海賊たちの間で有名だった残忍な男だったが、今は帝国の犬として軍の大将にまで上り詰めていた。


 そんなコズモの隣には、紫色の髪を持つ青年が立っていた。


 名前はトライド――モス家の当主で、爵位は子爵だ。


 この場に子爵が呼ばれたのは、トライドがそれだけの力を持っているからだ。


「私個人としては、バンフィールド公爵を討った功績が魅力的ですけどね。今回の征伐を成功させた暁には、陞爵も約束されていますからね」


 コズモと違い、略奪よりも名声と報酬に興味を持っていた。


 トライドを知らないクレオが首をかしげると、ハンプソンが簡単に紹介する。


「皇太子殿下は知らないようだが、子爵殿は有名な貴族だ。地方でバンフィールドのように成り上がり、その実力は下手な伯爵家よりも大きい」


 リアムのように成り上がっている人物――それがトライドだった。


 貧乏な子爵家で領内改革を行い発展させ、軍事力にも力を入れていた。


「皇太子殿下、お見知りおきを。今回の征伐のために、モス家は精鋭二万の艦隊を用意しました。――あのバンフィールド家の艦隊にも劣らない精鋭艦隊ですよ」


 リアムにも劣らないと聞いて、クレオが目を細める。


「本当だろうな?」


「はい。正規軍並みに鍛えた人員に加えて、艦艇も全て最新鋭の物を揃えております。皇太子殿下――力を蓄えていたのは、何もバンフィールド一人ではありません」


 リアムのように辺境で力を蓄えている貴族たちもいる。


 それを知り、クレオの中でリアムという存在が少しだけ小さくなった。


「リアムにできるなら、他の者にも可能ということか」


「そうです。ただ、剣術に関しては負けを認めるしかありませんけどね。一閃流は危険すぎます。その辺りは、最後の剣聖殿にお任せしたいのですが」


 トライドが視線を向けた先にいたのは、西洋の騎士を思わせる格好をした長髪の美男子だ。彼が持っているのは、レイピアと呼ばれる刺突を得意とする剣だった。


 剣聖ダスティン。


 帝国最後の剣聖だ。


「わし以外の三人は一閃流に破れたがね。それにしても、とんでもない剣術が隠れていたものだ。これまで世に出ていなかったのが、不思議で仕方がないよ」


 外見は若いのに、一人称は「わし」。年寄りのような話し方が特徴だった。


 いずれも帝国の強者たちである。


 クレオは揃った面子を前に問う。


「お前たちに質問がある」


 全員が体を向けてくると、クレオは目を細めて真剣な表情になる。


「リアムに――バンフィールド家に勝てるか?」


 六百万という大軍勢を率いて、公爵とは言え辺境領主に過ぎないバンフィールド家に挑む。当然ながら、勝って当たり前の戦いだ。


 ハンプソンが不思議そうな顔をする。


「総司令官が今から勝利を疑っておられるのかな?」


 ハンプソンに同意するように、他の者たちもクレオが何を言いたいのか理解していないようだった。そのため、クレオはより詳しく問い掛ける。


「勝って当たり前の戦争だ。だが、だからといって勝てばいいとは思っていないだろうな? 勝っても大損害を受けては、リアムの名が残る」


 帝国に一泡吹かせた辺境領主として、帝国の民が語り継ぐかも知れない。


 クレオが望むのは、圧倒的な勝利であった。


「あのリアムに圧倒的な勝利を収められるか?」


 リアムを知るクレオには不安があった。


 強者であるリアムに、この場に揃った面子で圧倒的な勝利することができるのか? そんな不安に、ハンプソンが口角を上げた。


「確かにバンフィールドは強いだろうな。覇王国の首都星まで攻め込んだのは、帝国の歴史でも奴ただ一人だ。だが、それがどうした?」


 トライドが口元を隠しながらクスクスと笑う。


「覇王国との戦いで受けた傷が癒えていないでしょうからね。癒えていたとしても、物量の差は覆りませんよ」


 リアムを侮っていると思ったクレオは、揃った面子を睨む。


「そう言ってリアムに痛い目に遭わされた者が多いんだが?」


 トライドは肩をすくめ、真剣な表情を見せた。


「彼を侮ってなどいませんよ。むしろ、私は彼のファンですからね。荒廃した領地を受け継ぎ、発展させてきた者同士です。だから、彼がどれだけ苦労したかも知っていますよ」


「リアムを尊敬? お前――」


「おっと、勘違いしないで下さいね。私は彼を尊敬していますが、領地の発展のためなら迷いなく殺せますよ。それが必要なことなら、実行しない理由がない」


 同じ境遇にあったトライドは、リアムという人間を尊敬すらしていた。


 だが、そんな相手でも戦争となれば殺すことができる。


 コズモは両腕を組むと、クレオに不満そうな顔を向けた。不満を抱いているのはクレオではなく、リアムだ。


「俺たち海賊上がりの方が、リアムの恐ろしさを知っている。だが、そんな俺たちから見ても、今回の戦いで負けるとは少しも思えないぜ。圧倒的な勝利を約束してやるよ」


 クレオがダスティンを見る。


「リアムは一閃流の使い手だ。お前に倒せるか?」


 ダスティンは微笑みながら意外な答えを口にする。


「資料通りならば無理だろうな。帝国で奴に勝てる者は存在しないだろう」


「なっ!?」


 その答えにクレオが驚くと、ダスティンは頭を振る。


「皇太子殿下、これが一対一の――生身の戦いでは、わしに勝ち目はない。だが、ここは戦場だ。リアムの一閃流が活躍できる場所は限られている。真正面から戦ってやる必要はない」


 剣聖ダスティンは、リアムを正しく恐れて戦わない選択を取った。


 ダスティンが口角を上げて言う。


「そもそも奴は総司令官。戦場になど出て来ない。出てきたとしても逃げて相手にしないのが得策だ」


「他にも一閃流の使い手たちがいるぞ」


「そいつらの相手はわしがする。機動騎士に乗って現れるのだろう? 機動騎士で一閃を再現できたとしても、囲んで叩けば終わる」


 剣聖でありながら、正々堂々の勝負は避ける考えを述べた。


 クレオは笑い出す。


「――お前らは頼もしいな」


 侮って挑むなどと馬鹿なことをしない部下たちを前に、クレオは思う。


(こいつらならば、あのリアムに圧倒的な勝利を収めることができるだろう)


若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「【俺は星間国家の悪徳領主!】【原作小説5巻】+【コミカライズ版2巻】が同時発売よ。既にお店に並んでいるかもしれないけど、ネタバレは避けてね。絶対避けてね!」


ブライアン(´;ω;`)「幼い頃に両親に裏切られたリアム様が、後押ししていた皇太子殿下に裏切られて辛いです。それに、リアム様が毛ほども裏切りに関心がないのも辛いです」


ブライアン(; ・`ω・´)「あと、ネタバレは絶対に駄目でございますぞ。他の読者さんの楽しみを奪うのは、駄目。絶対」

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