ナンバーズ
放送中のアニメ 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】 もよろしくお願いします!
現在は3話まで視聴可能となっていますね。
バンフィールド家には、ナンバーズのためにラウンジが用意されている。
二十四時間、ナンバーズであれば誰でも利用できる場所だ。
そこには、ソファーが円を作るように配置されていた。
俺が指名したナンバーズだが、筆頭はクラウスだ。
何故かクラウスの付き添いとしてチェンシーが参加しているが、本人は話し合いに興味がないのかソファーに座って爪の手入れをしている。
クラウスが呼んだなら文句はないが――騎士として扱いにくいチェンシーをここまで手名付けているのを見ると、やはりクラウスは優秀だな。
他の面子にも視線を向ける。
暗部を率いるククリをナンバーツーに指名し、ナンバースリーにはエレンを選んだ。
ナンバーフォーのエマは、ソファーに姿勢正しく座っている。
とりあえず四人を指名したわけだが、バンフィールド家の中核メンバーでティアやマリーは外せないので今回だけ俺の付き添いとしてラウンジに誘った。
「バンフィールド家に帝国が征伐軍を派遣するそうだ。お前たちの意見を聞いておこうか」
余裕を持った態度で話を振ると、困ったように視線を泳がせているエマがおずおずと小さく手を上げる。
「あ、あの、噂では六百万を超える大軍勢と聞いているのですが、それは本当でしょうか?」
敵軍の規模を尋ねてくるエマに答えるのは、俺の斜め後ろに立つティアだった。
「事実よ」
「それだけの規模は、対外戦でも滅多に出ませんよね? 分散して、辺境貴族派閥に送り込まれるのでしょうか?」
六百万の大軍勢を分散して、旧クレオ派閥――俺の派閥を根絶やしにするつもりなのか? そんな考えのエマに、今度はマリーが答える。
「いいえ、征伐軍は全力を持ってバンフィールド家に押し寄せるわ。言い方は悪いけれど、他の貴族たちなど眼中にもないでしょうね」
落ち着きのないエマは動揺を見せると思ったが、俺の予想が外れてしまう。
すぐに右手を口元に当てて、この状況を乗り切る方法を思案し始めていた。
「バンフィールド家が用意できる数は百万でしょうか?」
それだけの数を運用するため、何十年も無理をしながら領地の開発を続けてきた。
だが、今回に限ってはバンフィールド家の領地が戦場だ。
戦力はもっと出せる。
クラウスが用意できる数をエマに――俺たちに告げてくる。
「いや、百五十万だ。現状ではこれが限界だろう」
かき集めても敵軍の四分の一にしか届かないのは、何とも情けない話である。
俺は帝国が動くまでに時間があることも考慮して。
「攻められるまで時間もある。その頃までに、もう少し数を増やせるだろうな」
戦力差は四倍である。
真正面から正々堂々と戦えば、勝つのは困難な数字だ。
質も大事だが、物量というのは戦争において正義だ。
戦場がバンフィールド家の領地であるため、地の利はこちらが有利だ。
防衛用の準備も行っているため、多少の数の差なら押し返せただろう。
三百万なら容易に撃退できたのだが、六百万となると――こちらも無茶をすることになる。
エレンが拳をアゴに当てながら思案している。
「今回の征伐軍を退けたとしても、帝国は第二、第三と征伐軍を派遣するはずです。それだけの国力が帝国にはあります」
エレンの読み通り、問題は退けた後だ。
生半可な損害を与えても、帝国ならすぐに第二の征伐軍を編制して送り込んでくる。
一度や二度、守り切っても領内を荒らされればこちらがじり貧だ。
通常は二割も損害を出せば全滅となるが、帝国は数回くらい負けても問題ない国力を有している。
だから――俺はこの場にいる全員に告げる。
「何度も相手をしてやるほど、俺も暇じゃないからな。征伐軍には、文字通り全滅してもらう。――領内に引き込んで徹底的に叩け。そのための作戦は、お前らで考えろ」
それだけ言って立ち上がると、俺は一人でラウンジを出て行く。
◇
リアムが去った後のラウンジで、クラウスは天を仰ぎたくなった。
我慢しているが、目の前の光景を見ていると嫌になる。
(六百万の大軍勢が押し寄せてくるというのに、どうしてこんなことに)
クラウスの目の前では、ティアとマリーが互いの胸倉を掴んで額を押しつけていた。
メンチを切り合っている。
「お前は黙って私の策に従っていればいいのよ。お望み通り、敵軍のど真ん中に投入してお仲間ごと蒸発させてあげるわ」
「ふざけんなよ、ミンチ女が! てめぇの陰険な作戦ですり潰されるくらいなら、あたくしたちは勝手に動くわ」
全体の意見として、守勢に回っても攻勢を仕掛けるという意見でまとまりはした。
だが、その全体の指揮を誰が執るのか?
クラウスは責任者ではあるが、作戦立案などはティアたちに任せている。
おかげで、ティアとマリーが作戦について文句を言い合っていた。
そんな二人の間に割り込むのは、ナンバーズ入りを果たしたエマだった。
「二人とも落ち着いて下さい!」
それでも喧嘩を止めないティアとマリーに、エレンが呆れた顔を向けている。
ソファーに座って腕を組み、文句を言っている。
「お二人とも相変わらずですね。私が師匠のもとを離れる前と、何も変わっていませんよ」
若いエレンに成長していないと言われ、ティアとマリーの視線が同時に動いた。
エレンに殺気のこもった視線を向ける二人は、互いの胸倉から手を離す。
ティアはエレンの小生意気な態度が気に入らないようだ。
「随分と大きな口を利くようになったわね。昔の方が可愛げがあったわよ」
マリーなど、明らかに喧嘩腰である。
「リアム様のお情けでナンバーズ入りした小娘が大きな口を叩くわね。せめて、もう少し功績を挙げて欲しいわ」
エレンはリアムの愛弟子という立場でナンバーズ入りをしたため、功績という点では他の面子から大きな後れを取っていた。
リアムが育てたエリート中のエリートがエレンであり、まだ若いとなれば経験不足は否めない。
しかし、エレンは二人を鼻で笑う。
「当家では古参で功績もあるお二人が、ナンバーズ入りを果たせない理由が理解できましたよ。性格に難ありでは、今後もナンバーズ入りも難しいでしょうね」
二人の酷すぎる性格を指摘する。
ティアとマリーから表情が消えたのを見て、クラウスが危険と判断して会話に加わる。
「そこまでだ。これから方針を決める我々が争っていては、下の者たちに迷惑だろう」
一分一秒が惜しいこの状況で、喧嘩などしている暇がない。
しかし、ティアとマリーの視線がクラウスに向かう。
その視線には嫉妬と憎しみが宿っていた。
ティアが乾いた笑い声を出す。
「流石はリアム様が片腕と認める筆頭騎士殿ですね。騎士の鏡と言える言動ですよ」
言葉に棘を含めるティアに対して、マリーの方は直接的だ。
「いずれお前を押しのけて、あたくしが筆頭騎士の地位を得てやるわ」
殺意全開の二人だったが、クラウスの側にいたチェンシーが立ち上がる。
そのままクラウスの前に立つと、挑発するような笑みを二人に向けた。
「あら? 殺し合わないのかしら? ――クラウスを殺したいなら、先に私の相手をして欲しいわね」
あのチェンシーがクラウスを守ろうとしている!?
ティアやマリーの他には、ナンバーズの面々も驚いていた。
ククリすら一瞬だけ目を見開いていた。
「――味方殺しとまで言われた騎士が、ずいぶんな変わりようですね」
チェンシーの変わりように驚く面々。
本人は気にした様子がない。
「クラウスは大好きよ」
その発言に最も衝撃を受けたのは、他でもないクラウス本人だった。
(何でだぁぁぁ!! 私が何をした!?)
扱いにくく危険な騎士であるチェンシーに大好きと言われ、クラウスは無表情のまま内心で混乱していた。
◇
ラウンジを退出した俺は、妹弟子たちを呼んで剣の修行を行っていた。
斬りかかってくる二人を捌きつつ、今後について会話をする。
二刀流の風華が連続で斬りかかってくる。
「今度は帝国と喧嘩だろ? 兄弟子、本当に勝てるのかよ?」
「勝つのは俺だ」
「兄弟子が負けるとは思ってないけどさ。戦争って別だろ?」
風華の刀を弾くと、今度は後ろから太刀を振り上げてくる凜鳳の一撃を避ける。
「今の一撃は結構自信があったのに」
「まだ甘い」
俺と斬り合うのが楽しいのか、二人揃って笑みを浮かべている。
真剣を使用してはいるが、本気の殺し合いではないためお遊びだ。
互いに一閃を禁じて相手をしている。
解禁してしまうと、俺が妹弟子たちを殺すことになるからだ。
――やはり一閃流の弱点は、手加減ができないことだな。
だから、互いに基本的な動きを確認するに止めている。
「今回もお前たちにも働いてもらう」
妹弟子たちにも参加してもらう。
さすがに、俺一人で戦争に勝てるほど帝国も甘くない。
やり方によっては勝てるだろうが、問題なのはその後だ。
領地もボロボロにされ、軍も壊滅しては統治ができない。
凜鳳と風華が顔を見合わせると、肩をすくめてから俺の方を見る。
「兄弟子って強いのに面倒が多いよね。僕たちみたいに、身軽になれば自由気ままに生きられたのに」
凜鳳には俺の生き方が理解できないらしい。
刀を鞘に収めつつ、俺は答えてやる。
「支配者という立場が好きなのさ。この地位にいてこそ、自由にできる事も多いからな」
悪徳領主を目指す俺にとって、地位も軍事力も欠かせない。
風華も刀を鞘に収めると、頭の後ろで手を組んだ。
理解できないという顔をしている。
「いっそ皇帝や裏切り者のクレオを殺せばいいだろ? 俺が引き受けてやろうか? すぐに暗殺してきてやるぜ」
堂々と暗殺を請け負うと言い出す風華に、俺は深いため息を吐いた。
そして近付いて片手でアゴを掴む。
「一閃流の剣士が暗殺者気取りか?」
「ご、ごめ――」
風華もまずいと思ったのか、即座に俺に謝罪をしてくる。
すぐに解放してやる俺は、風華を笑ってみていた凜鳳にも視線を向けた。
「凜鳳、お前も余計なことはするなよ」
俺に睨まれた凜鳳が、慌てて笑みを返して頷く。
ただ、気が強いため無理をして強がってくる。
「そこの馬鹿と違って、僕は思慮深いからそんなことしないよ。まぁ、僕ならさっさと乗り込んで終わらせるけどね。――剣士として、さ」
強がるところが可愛くもあるため、あまり責めないことにした。
剣士として正々堂々と首都星に乗り込み、皇帝やクレオの首を狙うなら合格だろう。
「悪いが、皇帝は俺の獲物だ」
凜鳳との会話を終えて、俺は失言を後悔している風華を見る。
風華も気は強いのだが、こちらは凜鳳と違って割と素直な性格をしている。
だから、失敗したと思うと落ち込んでしまう。
凜鳳よりも派手な見た目をしているが、風華の方が繊細だった。
そのためフォローは欠かせない。
「風華、暗殺者の真似事はするな。お前は一閃流の剣士だぞ」
「う、うん」
落ち込んでいる風華の頭を少し乱暴に撫でてやる。そうすると、許されたと気付いた風華が安堵した表情を見せた。
これが普通の騎士なら容赦なくボコボコにしていたが、可愛い妹弟子たちである。
同門――同じ師から一閃流を受け継いだ仲間同士だから、悪徳領主の俺だって気を遣う。
凜鳳が尋ねてくる。
「それで、どうやって戦うの?」
その問いに俺は、悪徳領主らしく答えてやることに。
「それを考えるのは部下たちの仕事だ」
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。征伐軍が攻めてきて辛いです」
若木ちゃん( ゜д゜)「辛くても宣伝するのが、私達の仕事よ! 【俺は星間国家の悪徳領主!】は【小説5巻】と【コミカライズ版2巻】が【4月25日】に同時発売よ!」
ブライアン(´;ω;`)「是非とも予約してください。また、特典内容については活動報告に掲載しておりますぞ。そちらもご確認下さいませ」