悪夢
俺は星間国家の悪徳領主!
原作小説5巻 と コミカライズ版2巻
が 【4月25日】 に同時発売となります。
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バンフィールド家の艦隊に首都星まで送り届けられたセリーナは、すぐに宮殿で仕事をしている宰相のもとを訪ねていた。
最初に部下も退出させ、今は執務室に二人きりだ。
「――君のことに気付いていたのか?」
「はい。バンフィールド家の暗部は優秀です。首都星で暗躍する暗部たちの技を受け継いでいるようです」
ククリたち暗部は、かつて宮殿で暗躍した暗部の末裔たちではないか?
そんなセリーナの予想に、宰相も納得する。
「ライナス殿下やカルヴァン殿下を退けたのだから、その程度は想像の範囲内だな。君が無事に私の前に送り届けられたのは、バンフィールド公爵の温情か?」
宰相の問いに、セリーナは頭を振る。
「手切れでしょう。公爵は軍事力を増強し続けています。数年前の覇王国との戦争で大きな損害を受けていましたが、その穴埋めを済ませています」
セリーナは、手に入れた情報を宰相の前に投影する。
空中にいくつものデータが表示されると、宰相が目を細めていた。
「――レアメタルの資源衛星を幾つか得ただけではないな。かつて滅ぼしたバークリー家がそうだったように、何かしら持っているようだ」
常識ではあり得ない数字に、宰相もリアムが特別な何かを所持していると判断する。
だが、慌てた様子はない。
セリーナは続ける。
「謀反の意志あり、と判断せざるを得ません。このまま手をこまねいていれば、バンフィールド家は更に精強な軍隊を手に入れ、帝国に牙をむくでしょう」
覇王国との戦争後、バンフィールド家の軍隊は大戦を生き抜いた経験を手に入れていた。
それは恐ろしいことだと知るセリーナは、警戒心を強めている。
対して、最初は渋い表情を見せる。
「私もそう思うし、既に陛下や皇太子殿下にも進言している。これ以上の関係悪化は、双方に多大な被害を出しかねない、とね」
「それでは、関係改善に向かっているのですか?」
帝国がバンフィールド家の働きを認め、懐柔策に切り替えたと思ってセリーナの表情は少しばかり緩む。
百年近く世話になったこともあり、情がわいていたのだろう。
しかし、宰相は即座に否定する。
「そうであれば、どれだけ良かったか。――帝国は、バンフィールド家を潰すつもりだ。領地全てを灰燼に帰しても構わないと言われた」
「まさか!?」
そこまでするのかと驚くセリーナに、宰相はリアムの様子を尋ねる。
「本当だ。それから、公爵の様子を気にされていた。覇王国との戦いで、随分と疲弊したと聞いているが?」
本当のところはどうなのか? その問い掛けに、セリーナは素直に答える。
宰相のスパイとして、答えないという選択肢がなかった。
「――かなりの激戦だったようで、心に深い傷を負われました。治療もされているとは思いますが、効果が薄いようです」
リアムの立場ならば、当然のように治療はしているだろう――宰相も頷き、そして覇王国との戦いがどれだけ厳しかったのかを想像する。
「長年帝国を苦しめてきた相手だからな。覇王国の首都星まで攻め込んだ公爵は間違いない英雄だが、その代償も大きかったらしい」
リアムほどの英雄でも、覇王国との戦いでは精神をすり減らしてギリギリの勝利を収めたのか、と。
◇
どうして俺はここにいるのだろう?
一度しか来た事がないのに、今でも鮮明に覚えているのは覇王国の玉座の間だ。
古代ギリシャのパルテノン神殿を想像させるような場所で、目の前には見上げるほど背の高い筋骨隆々とした大男が立っている。
その男は覇王国の国王で、覇王と呼ばれる厳つい男だった。
そんな覇王が、頬を赤く染めている。
乙女のように恥じらい、身をよじっている姿が妙に恐ろしい。
だが、本当の恐怖はここからだ。
「我はお前の子を産みたい」
――まさか男の中の男! みたいな覇王に、こんな台詞を言われるとは思っていなかった。
そもそも、告白されるなどと誰が思うだろうか?
冷や汗が噴き出た俺は叫ぶ。
「いやぁぁぁ!!」
玉座の間に響き渡るような情けない悲鳴を上げた。
◇
「いやぁぁぁ!!」
ベッドの上で飛び起きた俺は、上半身を起こした状態で周囲に視線を巡らせる。
見慣れた部屋に、見慣れた家具。
心臓の鼓動は速く、しかもバクバクと大きな音を立てている。
汗が噴き出ていて気持ち悪い。
俺が額の汗を拭うと、隣で寝ていたはずのロゼッタがベッドを出ていた。
その手にはコップに入った水を持っている。
「ダーリン、またうなされていたわよ。ほら、水を飲んで」
「――もらう」
ロゼッタからコップを受け取り、一気に飲み干した俺は人心地がついた。
恐ろしい。とても恐ろしい夢だ。
覇王国から勝利して戻ったのに、覇王が悪夢として何度も現れてくる。
「くそぉ――覇王が憎い」
俺が勝ったのに、どうしてここまで俺の心を蝕むのか?
ロゼッタが俺の隣に腰を下ろすと、抱きついてきて慰めてくる。
「大丈夫。大丈夫よ、ダーリン」
瞳を潤ませているロゼッタを見て、俺は少しだけ申し訳なくなった。
俺が悪夢――覇王にうなされていることは、天城にしか伝えていない。
覇王に告白されて、悪夢を見るとか恥ずかしいから教えられない。
おかげで、ロゼッタや周囲が勘違いをしている。
覇王国との戦いは、俺が精神をすり減らす程の厳しいものだった、と。
そんなわけない。
軍は大損害を受けたが、俺自身は勝つべくして勝った。
それなのに、俺は覇王に怯えている。
――自分が情けなかった。
「覇王の野郎、絶対に許さない」
俺をここまで追い詰めたのは、覇王一人である。
◇
帝国の首都星。
広い謁見の間の中央に用意されたテーブルには、七色の液体が入ったコップが二つ置かれていた。
小さな丸いテーブルを挟んで椅子に座るのは、アルグランド皇帝【バグラーダ】と皇太子の【クレオ】だ。
七色の怪しい液体をストローで飲むと、クレオは口の中に様々な味を感じる。
お菓子と紅茶の味がしたかと思えば、飲み込めば甘さが消える清涼感のある爽やかさを感じる。
随分と不思議な飲み物だが、二人とも飲み慣れており気にした様子がない。
バグラーダはニコニコしながら、飲み物について語っている。
「最近はこればかりだね。色んな味も楽しめて、栄養補給もバッチリだよ」
それをクレオは困ったように笑って眺めていた。
「庶民が口にする安い駄菓子と聞いておりますが?」
「贅沢にも飽きてきてね。今はこれで十分さ」
そんな親子の会話が終わり、二人は本題に入る。
バグラーダが、宰相から聞いた話をクレオに聞かせる。
「それよりも、覇王国との戦いから数年が過ぎたね。バンフィールド公爵は、戦争で受けた心の傷が癒えていないそうだよ」
嬉しそうに教えてくれるバグラーダに、クレオは悪い顔で笑っていた。
「それは何よりです。リアムも覇王相手では無傷では済まなかったのでしょうね」
「帝国も長年苦しめられてきた国だからね。――さて、そろそろ本気を出そうと思うんだ」
バグラーダがそう言うと、七色の液体を飲み干して空になったコップをテーブルの上に置いた。
同時に、二人の周囲にバンフィールド家と関わりのある人物たちの情報が表示される。
クラーベ商会のエリオット。
ニューランズ紹介のパトリス。
そして、第七、第三兵器工場の主立った面々。
その他には、首都星でリアムたちが拠点としているホテルもリストに入っていた。
クレオはそれらを一瞥してアゴに手を当てる。
「首都星から追い出す者たちですよね? しかし、第三兵器工場は少し勿体ないと思います。あそこの商品は帝国内で高い人気を得ていましたからね」
第三兵器工場は残したいと言うクレオに、バグラーダが肩をすくめる。
「残念だが、バンフィールド家と近すぎるから駄目だよ。それに、他の兵器工場の関係者たちに頼まれてね。第三が消えてくれると、喜ぶ者たちが多いんだ」
他のライバル兵器工場からすれば、第三が消えてくれる方が嬉しい。
一部の者たちが情報を手に入れ、バグラーダに第三を追放するように陳情したようだ。
クレオが小さく頷く。
「それでは仕方がありませんね」
「すぐに次の人気工場が出てくるさ。それに、二つの兵器工場にはバンフィールド家で頑張ってもらわないとね」
「敵を援助するなど、最初に聞いた時は信じられませんでしたよ」
呆れるクレオに、バグラーダはクスクスと笑う。
敵に塩を送る行為に対して、軽く考えているようだ。
いや、むしろ――。
「そっちの方が楽しいだろう? 帝国では、他の兵器工場をフル稼働させて兵器を量産させるさ。――帝国軍の
兵器工場が半官半民の組織ならば、工廠は帝国軍が管理する純粋な軍隊だけの組織だ。
全ての兵器工場からデータを集めており、帝国軍の兵器を製造している。
ただ、工廠が建造した兵器を運用できるのは、帝国軍の中でも一部の艦隊だけだ。
精鋭艦隊にのみ配備されていた。
クレオがバグラーダに直訴する。
「征伐軍を派遣する際には、是非とも俺に総司令官をやらせてください。必ず勝利を報告します」
帝国一の大貴族となったリアムだろうと、帝国全体が敵に回れば勝ち目がない。そう判断したクレオは、総司令官に名乗り出た。
バグラーダは不気味に微笑みながら頷くと、クレオの願いを叶えてやる。
だが――。
「いいよ。だけど、実際に指揮を執るのは別の人間に任せようか」
この提案をクレオは拒否できなかった。
何しろ、教育カプセルで軍事知識は得ているが、実際の経験がない。
これで数百万の艦隊を指揮するなど、棄権極まりないことくらい理解している。
「ありがとうございます。それで、実際に指揮を執るのは誰になるのですか? 帝国軍の軍人でしょうか?」
バグラーラは少し悩みながら答える。
「ハンプソン侯爵にしようかな? 彼は国境を任せている貴族だから、戦争の経験も豊富でね。それに、あくどいことも平気でしてくれる。――バンフィールド家の領地を焼き尽くすには、適任だと思うんだ」
頼りになる貴族の中から、一番の悪党をバグラーダは指名した。
そして、続けて有名な艦隊を派遣すると告げる。
「コズモ君の艦隊も派遣しないとね。きっと大喜びでお友達と参加してくれるはずだよ」
コズモと聞いて、クレオは思い当たる人物を口にする。
「特殊任務艦隊のコズモ大将ですか? 確かに、宇宙海賊上がりの彼ならば、リアムに対して最高の皮肉になりますね」
バグラーダは思い出したように、もう一名を追加で参加させると言い出す。
「おっと、トライド子爵も参加させないとね。彼も公爵と同じく、上昇志向の塊だから、きっと喜んで参加してくれる。――ついでに、ダスティンもつけてあげようか」
「――剣聖ダスティンですか? 一閃流に破れれば、帝国は全ての剣聖を失ってしまいますが?」
ダスティンとは、帝国に残る最後の剣聖だ。
バンフィールド家と戦わせることだけは、帝国も避けようとしていた。
しかし、皇帝は絶対に参加させたいようだ。
「いや、せっかく剣聖に指名したんだから、頑張ってもらおうじゃないか。クレオ、彼らを預けるよ」
優秀な者たちを託されたクレオは、冷や汗を流しながら笑みを浮かべる。
「必ず勝利を報告いたします」
(これで負けたら、皇太子としての地位を失うだろうな)
負けられない戦い――そもそも、勝つのが当たり前の戦いだ。
クレオが最後に、バグラーダに問う。
「それで、時期は?」
「準備期間を含めて、十年くらい? ――まぁ、あっという間さ」
バグラーダの答えに、クレオは十年という準備期間を複雑な気持ちで受け止めていた。長くもあるが、リアムと戦うためには短いとも思える。
(十年。十年で俺は――リアムに勝つ!)
ブライアン(´;ω;`)「元同僚がスパイで辛いで――」
若木ちゃん( ‘д‘⊂彡☆))ω;`) パーン「ツライッ!?」
若木ちゃん。・゜・(ノД`)・゜・。「みんな、遅れてごめんね。私に会えなくて寂しかった? それはそうと、アニメのネタバレになるけど聞いてね。実は薄々感づいているとは思うけど、私――アニメに登場しないの」
若木ちゃん(/ω・\)チラッ「でも~、残念だからって色んな所に『苗木ちゃんを登場させて!』なんて言わないようにね。駄目よ。本当に駄目だからね! (念押し)」
若木ちゃん( ゜∀゜)「さて、今日も元気に宣伝よ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】 の 【コミカライズ版 8巻】が【5月9日】発売予定よ。俺は星間国家の悪徳領主! だけじゃなくて、そっちも応援よろしくね!」
ブライアン(´;ω;`)「色々と辛いです。――あと、この植物のために色んな所に迷惑をかけないでもらえると幸いです」