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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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十一章エピローグ

俺は星間国家の悪徳領主! 4巻 好評発売中!!


乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻 【11月30日】発売予定!! ご予約お待ちしております。

 覇王国首都星を見下ろす数十万隻の帝国艦隊。


 総旗艦アルゴスのブリッジでは、これから降下するメンバーを相談していた。


「覇王をぶちのめすから俺は降りる」


 最初に自分が降りると伝えると、クラウスをはじめとした主立った面子が露骨に嫌がる。


「危険です。安全を確認してから降下してください」


 クラウスの提案に頭を振って応え、俺は床に映し出された惑星を見下ろした。


「駄目だ。無駄な時間をかけている暇がない」


 時間がないと伝えると、マリー以外が顔を見合わせて首をかしげていた。


 ティアが俺に発言の許可を求める。


「リアム様」


「何だ?」


「以前より急がれていますが、何か理由があるのでしょうか? 本星で問題が起きたとは聞いておりませんが?」


 不思議そうな周囲の反応を見るマリーは、ティアをあざ笑っていた。


 この場で自分一人が事情を知っているのが、優越感なのだろう。


 ロゼッタの件は秘匿されており、俺に伝言を届けに来た軍人たちも詳しい事情は聞かされていなかったからな。


 てっきり伝えていたと思い込んでいた俺は、思い出したように知らせる。


「伝え忘れていたな。子供が生まれた」


「そ、それはおめでとうございます。――え!?」


 ティアが祝いの言葉を口にした後で、衝撃のあまり驚いて固まってしまう。


 周囲は「誰の子だ?」という反応を見せたが、俺がわざわざ戦争中に本星に戻ったことで察したらしい。


 普段冷静なクラウスまでも、子供の話に面食らっている。


 俺に代わってマリーが、本星の状況を皆に知らせる。


「若君が誕生されたのよ。リアム様はいつまでも覇王国に関わっていられないわ。最短で覇王国を滅ぼして、本星に帰還するのが正解でしてよ」


 俺に付き添って本星に戻ったマリーだけは、子供のことを知っていた。


 戻ってからも誰にも言わなかったのは、真実を知るのは自分だけでいいとでも思っていたのだろうか?


 ただ、マリーの判断は間違っている。


「誰が滅ぼすと言った?」


「へ?」


 驚くマリーに、俺は覇王国の今後について話をする。


「覇王国にはこのまま存在してもらおうじゃないか」


 周囲が俺を見て「何を言い出すんだ?」そんな顔をしていたが、文句を言う奴はいなかった。


 クラウスが咳払いをする。


「覇王国の件について、この後に話し合うとして――リアム様、どうして我らに若君のことをお伝えくださらなかったのですか?」


 再起動したティアが、泣きそうな顔をしていた。


「そうですよ! お世継ぎの誕生はバンフィールド家の慶事です!」


「戦争には関係ない。それに、子供は関係ない――俺が早く戻りたいだけだ」


 素っ気ない態度を見せると、マリーが理解した気になって頷いている。


「早く若君のもとに帰りたいのですね」


「誰がそんなことを言った?」


 ムッとするが、周囲は俺が子供のところに帰りたいのだと勝手に納得する。


 ――こいつら本当に腹が立つな。


 論功行賞は覚悟しておけ。


 ティアが咳払いをしてから、一歩前に出た。


「これでバンフィールド家の大きな問題も解決いたしました。いえ、今後を考えれば若君お一人では問題ですね。リアム様、ここは若君に弟君や妹君をご用意するべきです。せんえつながら、このティアが母体として立候補いたしますわ」


 美女が自ら俺の子を産みたいと申し出てくる姿は、何も知らなければ喜べただろう。


 マリーがティアに対抗して、自分をアピールする。


「リアム様、ここはこのマリーをお選びください!」


 張り合い会う二人を見ている周囲は、冷めた目をしていた。


 凜鳳や風華など、興味もないのか私語が増えている。


「兄弟子の子か。やっぱり兄弟子が一閃流を教えるのかな?」

「甥っ子みたいなものかな? 何か土産でも用意するか?」


「覇王の首とか?」

「刀の方がよくね?」


 手柄首に刀、こいつらのチョイスは問題だな。


 そして、どっちもまだ早い。


 俺は呆れつつもティアとマリーに言い放つ。


「お前らに女としての役割は期待していない」


 断言すると、ティアとマリーが目をむいていた。


「へ?」


「あ、あの」


 断られるだけならまだしも、女として見られないと言われた二人は硬直していた。


 周囲もそんな二人から目を背けている。


 俺はクラウスに視線を向けた。


「クラウス、覇王国の今後についてはお前と詰める。まったく、今回は大忙しだったな」


「え? あ、はい」


 続いて、話をしている凜鳳と風華に声をかける。


「凜鳳、風華、お前らも来い。覇王国に遊びに行くぞ」


「兄弟子、覇王は僕が斬っていい?」


「俺は強い奴がいれば誰でもいいや」


「今回は大人しくしていろ。ただ――喧嘩を売ってくる馬鹿は全て斬り伏せろ」


 二人を気にするクラウスや妹弟子たちを連れて、俺はブリッジを出て行く。



 覇王が暮らしている王城。


 その玉座に腰を下ろした俺は、両隣に凜鳳と風華を立たせていた。


 二人が持っている刀には血がついている。


「だっせぇ」

「次はいないのか? かかって来いよ」


 斬りかかってきた馬鹿な奴らの相手をさせていたのだが、圧倒的な力の差を理解したのか覇王国の連中は静まりかえっていた。


 俺は覇王国に沙汰を下す。


「領地に関しては開戦前に戻す。だが、今後お前らには俺にために働いてもらおうか」


 覇王国を滅ぼすと言わない俺に、謁見の間にいた文武官たちがざわめく。


 そんな彼らを静かにさせたのは、現覇王だった。


 筋骨隆々の大男は、その辺の奴らとは違う雰囲気を持っている。


 そんな覇王ですら、俺たちの前では雑魚に等しい。


 その近くには、怪我の治りきらないアリューナの姿があった。


 覇王は俺の前に出る。


「勝者が敗者を滅ぼさない理由を聞かせろ」


 堂々とした態度に、凜鳳と風華が苛立ちを覚えたらしい。


「おい、兄弟子に偉そうにするなよ」


「敗者はもっと地面に這いつくばれよ」


 斬りかかろうとする二人を俺は手を小さく上げて止めると、そして覇王に理由を聞かせてやる。


「お前らにも理解できるように教えてやる。俺は帝国に守れ、としか命令を受けていない。お前らを滅ぼす命令を受けていないわけだ」


 何故俺が、帝国のために覇王国を滅ぼさなければならないのか?


 俺は最初から最後まで、自分のために戦い続けているだけだ。


「――いずれ俺のために働くなら、覇王国はお前らに預けてやる。どうだ、簡単だろう?」


 好条件を提示してやると、覇王はアゴに手を当てて考え込む。


 調子に乗ったら斬り殺してやると考えていると、覇王が追加の条件を出してきた。


「帝国ではなく、貴殿の下につけというなら受け入れる。だが、一つ条件がある」


「何だ?」


「貴殿の子が欲しい。遺伝子をくれ」


「――は?」


 子が子なら、親も親、か。


 俺は一瞬呆れてしまうが、アリューナに視線を向けた。


 何故か俺の視線を受けて顔を赤らめ視線を逸らしている。


 随分と乙女に見えるが、これはきっと俺の感覚が麻痺しているせいだ。


「アリューナの件なら」


 断ろうとすると、覇王は頭を振る。


「否! ――貴殿の遺伝子を欲するのは、我だ」


「ん?」


 首をかしげると、覇王が宣言する。


「この覇王、貴殿の子を産みたい!」


 一瞬。本当に一瞬だけ、俺は何を言われているのか理解できなかった。


 筋骨隆々の大男が、俺の子を産みたいと宣言した。


 あまりの発言に周囲も呆れかえるかと思えば、覇王国の文武官は大盛り上がりだ。


「さすがは覇王様!」

「乙女でございますな!」

「覇王様とリアム殿のお子なら、最強の戦士になりますぞ!」


 歓声が響き渡る謁見の間で、俺は理解できずに頭を振る。


 もう色んな意味で疲れた。――おうちに帰りたい。



 アルゴスに帰還すると、待っていたクラウスが俺に駆け寄ってくる。


「リアム様、大変です!」


「何だ?」


 男に告白された俺は、星間国家の多種多様な文化に打ちのめされていた。


 確かに性転換すれば俺の子を産めるだろうが、元のイメージが強すぎて――。


 そう思っていると、今度はあの二人がやらかしていた。


「クリスティアナ殿とマリー殿が、性転換を行うと騒いでおります」


「――案内しろ」


 本当にあいつらは俺を苛立たせてくれる。


 クラウスを連れて医療施設が揃う区画へと向かった。



 超弩級戦艦には様々な施設が揃っている。


 性転換を行う装置も存在しているが、その数は多くない。


 たった一つの装置を巡って、スポーティーな下着姿のティアとマリーが掴み合いの喧嘩をしていた。


「放せ! 私が先に男になる!」

「抜かせ! 女として求められないなら、あたくしはせめて騎士として最高の存在になるのよ!」


 俺が女として求めていない発言をしたたために、二人は男になって騎士として認めてもらうことにしたらしい。


 同じ考えに行き着く辺り、こいつら本当は仲がいいのではないか?


 クラウスが額を手で押さえている。


「このように揉めております。リアム様も何か――リアム様!?」


 俺は両手で顔を隠していた。


 耳まで赤くしている俺を見て、クラウスが驚いている。


「リアム様、どうされたのですか?」


 俺は女性の好みに五月蠅い。


 だが、そんな俺には好みがある。


 その中の一つが派手な下着を着用しない、だ。


 今現在、二人のスポーティーな格好は俺のドストライクだったらしい。


 自分でも驚くぐらい恥ずかしくなった。


「――服を着ろ」


「へ? あ、はい。お二人とも、リアム様が来られましたよ」


 周囲に控えていた医療スタッフが、二人にバスローブを着させていた。


 俺がいると知ると、ティアもマリーも膝をつく。


 二人とも意気消沈している姿は、俺の言葉が相当堪えた証拠だろう。


 そんな二人を見て、俺は覇王を思い出す。


 ――当分夢に出てきそうだ。


 今にして思えば、イゼルやアリューナよりも強敵だな。


 覇王が一番俺を困らせている。


 あいつは強敵だった。


「ティア、マリー、顔を上げろ」


「――はっ」


 二人の返事が重なり、顔を上げた。


 先程興奮したせいで、ティアもマリーも可愛く見えて仕方がない。


 覇王と比べれば、女性というだけで価値があるように思えてくる。


「お前たちはそのままでいい。――その、悪かった。今後も俺に仕えてくれ」


 覇王の一件が俺の心に想像以上のダメージを与えたらしい。


 落ち込んでしまった俺は、二人に優しい言葉をかけてしまう。


 あと、先程の姿を思い出して恥ずかしくなり――顔が熱くなる。


 顔を背けると、ティアとマリーが立ち上がった。


「リアム様、その反応は興奮されたのですね!? それではどうぞ、このクリスティアナをお召し上がりくださいませ!」


「退け、ミンチ女! リアム様、このマリーは身も心もリアム様のものでございます。好きにして頂いて構いません!」


 俺が二人に興奮したと見抜いた二人は、積極的にアピールしてくる。


 こんな二人でも覇王よりマシ――と思えてくるから怖い。


「もう俺は帰る」


 横に立つクラウスが、俺の落ち込み具合を見てすぐに部屋に戻そうとする。


「リアム様、お疲れならすぐにお休みください。後のことは私の方で片付けておきます」


「――うん」


 最後の最後で頼りになるのは、やはりクラウスだな。


「それでしたら、このクリスティアナが添い寝いたします!」


「いえ、このマリーがリアム様の抱き枕に!」


 俺は二人から逃げ出した。



 ――領地に帰ってくると、何故かデモが起きていた。


「どういうことだ!? 子供も生まれたのに、何であいつらデモなんか起こしているんだよ!? アレか? 戦争で被害が多すぎたからか!? いいだろう、悪徳領主として徹底的に制裁してやるよ!」


 覇王国との戦いでバンフィールド家は大きな犠牲を払っている。


 その責任を俺に求める声が出るのは、あらかじめ予想していた。


 しかし、デモまで起こすとは予想外だった。


 屋敷の執務室では、天城とブライアンの姿がある。


「確かに今回の被害は無視できない不満を領民に持たせました。デモを行う領民の中には、不満をぶつけている者たちもいるでしょう」


「――何を考えてデモをしているんだ?」


 被害が理由でなければ、何に対してデモを行っているのか?


 首をかしげると、タブレット端末を操作するブライアンが嬉々として説明してくる。


「はっ! 現在発生しているデモですが、バンフィールド家に統治され数十年が経過した惑星ばかりでございます。大半は第二子を求めるデモでございますが、同時に第一子であるエドワード様の誕生を祝ってのお祭りでございます」


「お、お祭りとデモを同時に行っているのか? 俺の領民は馬鹿ばっかりか!?」


 何を考えて二つを同時に行うのか?


 騒ぎたいだけなのだろうか?


 俺が頭痛を覚えていると、ブライアンが続きを話してくる。


「デモの中には「ユリーシア様を大事にしてあげて!」派閥が存在しており、前回よりも数パーセントの増加が見られます。ご本人にお知らせしたところ、大喜びで演説に向かわれました」


「あいつ何やってんの!?」


 領民ばかりか、俺の部下も馬鹿ばっかりだった。


 子作りデモなんて斜め下なデモを行う俺の領民たちは、騒ぐ理由があるなら何でもいいらしい。


 いっそ取り締まろうかと考えたが、俺の部下たちまで嬉々として参加している。


 何故俺がここまで悩まされなければならないのか?


 腹立たしくなって乱暴に椅子に腰を下ろす俺は、イライラして仕事を放り投げる。


「もう嫌だ! 今日は仕事をしないぞ。このままふて寝する」


 案内人に強く願えば、この問題を解決してくれないだろうか?


 都合のいいことばかり考えていると、天城が俺を見てわずかに呆れた表情を見せた。


「旦那様、本日は大事な予定がございます」


「――覚えている」


 椅子から立ち上がった俺は、謁見の間へと向かう。



 その頃。


 帝国の首都星では、案内人が電子ペーパーを拾って震えていた。


「リアムに第一子誕生だと? 私が知らないところで、何もかもあいつに都合がいいように進んでいく」


 悔しさで震える案内人は、路地裏のゴミ捨て場で生活をしていた。


 何故かこの場所が落ち着く案内人は、首都星の人工的な空を見上げる。


「赤ん坊がいるなら色んな手が使えたというのに。し、しかし、バンフィールド家の本星に下手に近付くと、また大火傷ですし」


 リアムに精神的な苦痛を与えるチャンスなのだが、以前にバンフィールド家の本星で痛い目を見ている案内人は悩む。


 無理をすれば何かしらできる可能性はあるが、大怪我をしても結果が釣り合わない。


 色々と悩んでいる案内人の側に、歯をむき出しにしている犬の霊が現れる。


 リアムの子【エドワード】に危害を加えようとする案内人に犬が届けるのは、祝福された感情だ。


 エドワード誕生を祝う祝福の塊を、犬は案内人に届けに来た。


 咥えていた祝福を放すと、玉となって案内人の足下に転がっていく。


 案内人の足に当たった。


「ん? 何だこれは?」


 最初は何か気付かなかった。


 何かに包まれており、案内人が把握しきれなかった。


 本来ならば気付けたのだろうが、案内人は弱り切っていた。


 見抜けたはずの玉の正体に気付かず、不用意に手を伸ばす。


 感謝とも違う感情の塊を拾い上げると、簡単に弾けて中身が案内人にぶちまけられる。


 それはまるで毒のように案内人の身体を焼いた。


「ひぎゃああああぁぁぁああああ!! な、何もしてないのにぃぃぃ!!」


 犬の霊は唾を吐くような仕草を見せると、案内人から離れていく。


 せっかく再生した身体が、焼けただれて消えてしまった案内人は嘆く。


「酷い。私が何をした? ちょっと不幸を振りまいているだけだというのに、こんな仕打ちはあんまりだ!」


 どこまでも身勝手な台詞。


 ただ、案内人は防止だけの状態に戻るが、絶望はしていなかった。


「――おかしい。何かがおかしいぞ。どうして遠く離れたリアム由来の感謝や祝福が私に届く? 普通はあり得ないはずだ」


 同時に、ここまで自分を苦しめる何者かの存在に――ようやく気付き始めた。


「何かが私の邪魔をしているのか? ――それならば覚悟することだ。私は何度でも復活する! 帝国の首都星には長年に渡り蓄積された負の感情が沢山あるのだ。元の姿に――いや、以前よりも強力な力を手に入れて――リアムも、私を苦しめる存在も、全てに地獄を見せてやる」


 不気味な笑い声を上げる案内人だが――その姿は情けないことに帽子に小さな手足が生えた姿だった。



 覇王国との戦争が終結した。


 結果だけを見れば、覇王国の艦隊を退けただけに終わった戦いだ。


 バンフィールド家は艦隊の半数を失い、得られた物など何もない。


 端から見えれば貧乏くじを引かされた戦いだろう。


 ――だが、得られたものもある。


 謁見の間。


 俺の前には活躍した者たちが並んでいた。


「今回の戦いは実に有意義だった。有象無象を排除し、こうして俺の前に有能なお前らが現れたのだからな」


 味方を有象無象と切り捨てる俺の言葉は、同じ戦争に参加した者たちには侮辱だろう。


 しかし、敵前逃亡などという大罪を犯した奴らが出たのは事実。


 そうした連中は許さないと示しつつ、俺は活躍した者たちに褒美を用意する。


「昇進と一時金を用意した。俺のために死んだ者たちの家族には、手厚い保障を約束するが――さて、それだけでは終われないよな」


 謁見の間に緊張が走る。


「しばらくクラウスだけにナンバーを与えていたが、これでは意味がない。せっかくなので二番以降も決めようじゃないか」


 ざわつく謁見の間。


 期待した眼差しのティアとマリーが見えるが、お前らは俺を困らせたから今回は見送る。


「――ククリ、姿を見せろ」


 謁見の間に床から突如姿を見せるのは、黒いマントに仮面を付けた男だ。


 バンフィールド家の暗部を取り仕切る男。


 謁見の間に不穏な空気が漂う。


「暗部だと」


「まさか、ナイトナンバーだぞ!」


 騎士に与える番号だと思っている奴らも多いが、俺はそんなことを言った覚えがない。


「ククリ、お前の働きには感謝している。クラウスに続き、ナンバーを受け取るのはお前だ」


「キヒヒヒ――リアム様、暗部にそのような称号は不要にございます」


「俺が有能と認めた証だ。黙って受け取れ」


「――はっ」


 膝をついたククリが、そのまま床に沈んで消えていく。


 大勢の前に姿を晒し続けたくないのだろう。


「さて、それでは次だが――前に出ろ」


 奥に控えていた赤髪の女騎士に視線を向けると、落ち着いた足取りで俺の前に出てくる。


 少しも慌てる様子がない年若い娘が、膝をついて頭を下げた。


「エレン・タイラー――いや、今は帝国騎士資格を持つエレン・セラ・タイラーか?」


 伸ばした赤髪をポニーテールにまとめたエレンは、片側を伸ばして左右非対称の前髪にしていた。


 覇王国との戦争に駆り出され、準備期間などで随分と時間を消費してきたが――その間にエレンが全ての修行を終えてしまった。


 武官側に並んでいた凜鳳と風華が、口笛を吹く。


「エレンも戻ってきたんだ」


「背が伸びたな。――そろそろ俺らと斬り合える頃か?」


 興味津々の妹弟子たちの視線を受けて、エレンは微笑していた。


「お二人とも相変わらずですね」


 僅かに幼さも残した外見だが、中身はもう大人だな。


 俺はエレンを立たせる。


「立て」


「はっ」


 立ち上がったエレンを見れば、放置している間に随分と成長していた。


「見違えた」


「この数十年、鍛えて参りましたから。クルト様にも随分とご迷惑をかけました」


 一時期クルトのところで軍人として働いていたから、その際にしごかれたのだろう。


「その様子なら問題ないな。一閃流の印可状は後でくれてやる。その前に、「3」のナンバーはエレン――お前にやる」


「はっ」


 二名が指名され、次は自分の番かと待ち望むティアとマリーを無視して俺は――。


「今回はこれで最後だな。【エマ・ロッドマン】、前に出ろ」


 名を呼ぶと、今度は呼ばれると思っていなかった俺よりも年下の女騎士が慌てた様子で俺の前にやって来る。


「は、はい!」


 茶髪のボブカットで、素朴さを残す女騎士は――バンフィールド家の生え抜きだ。


 彼女を指名したのは理由がある。


 成り上がりの成功例だからだ。


 目立たせれば、やっかみも買うだろうが成り上がりたい奴らが次は自分が――と頑張ってくれるはずだ。


 ただ、主立った面子より目立たないだけで、今まで活躍はしてきている。


 エマの名前が呼ばれると、ティアとマリーも複雑そうな表情を見せていた。


 謁見の間にいる者たちの中には、歓迎している奴らもいた。


 ――意外に人気者だな。


「これからの活躍に期待する」


 落ち着きのなかった女騎士だが、覚悟を決めたのか表情を引き締めていた。



 自室。


 大きなベッドの上で、俺はエドワードを横になりながら持ち上げる。


 俺とエドワードを眺めているロゼッタは、微笑んでいた。


「大きくなったでしょう?」


 戦争と片付けで一年近くも本星に戻れなかったら、エドワードが大きくなっていた。


 この世界でも赤ん坊の成長は早い。


 そして、エドワードが俺を見ているが笑顔じゃない。


「一年も会わなければ、父親とも思われないか」


 そう言うと、ロゼッタが強く否定してくる。


「そんなことないわ! 毎日、ダーリンの映像を見せてきたもの。あなたのお父上は、すごく忙しいのよ~って毎日言い聞かせていたの」


「――そこまでする必要があるのか?」


「絶対に大事よ! それに、エドワードだってダーリンに会いたがっていたのよ。映像を見ながら「だ~だ」って言ったんだから!」


 ただの聞き間違えではないだろうか?


 俺はエドワードの頬を引っ張る。


「とりあえず元気に育て。このままいけば、いずれはお前が次の――」


 公爵だ、と言おうとして止めておいた。


 エドワードは公爵にはなれないと決まっている。


 ただ、とりあえず元気に育てばいい。


 悪徳領主の息子として、楽しい人生を送らせてやろう。


 ――楽しい時間が、いつ終わるか分からないけどな。


 俺がいる間は大丈夫だろうが、こいつはどうなることか――。


 エドワードをロゼッタに預ける俺は、ベッドに大の字に寝転がりながら今日も案内人に感謝する。


 ――子供など嫌いだと思っていたが、意外と悪くなかった。


 今日はいつもより多めに感謝をすると――何故か、案内人の悲鳴が聞こえた気がする。


 きっと気のせいだ。


 だが、あいつは照れ屋だからな。


 照れ隠しで大声を出しているだけかもしれない。



 案内人がリアムの感謝にのたうち回っている頃。


 首都星の宮殿では、バグラーダが覇王国との戦争の結果に下卑た笑みを浮かべていた。


「いいぞ。沢山の血と、憎悪が発生した。これでいい」


 リアムを追い詰めることができたのに、それをしなかったバグラーダには狙いがあった。


「公爵が活躍するほどに、私の望みに近付いていく。いずれ――が――満たされれば」


 戦争の結果などどうでもいい。


 バグラーダにとっては、戦争そのものが重要だった。


「もう少し時間がかかると思っていたが、公爵のおかげで計画が早まりそうだ。今後も期待しているよ、リアム君」


ブライアン(´・ω・`)ノシ「これにして11章は終了となります。お付き合い頂きまして、誠にありががとうございました。読者の皆様とはしばしのお別れにございます」


ブライアン(´;ω;`)ノシ「このブライアンも大変辛いですが、またお会いできる日を楽しみにしておりますぞ」











※11章はいかがだったでしょうか?


楽しんで頂けたら幸いです。


そして【下部より本作品の評価】が行えるようになっております。


ポイントは作者にとって大変励みになりますので、気軽に評価していってください。


それでは、次回は【外伝】でお目にかかりましょう。


――多分、年内に投稿できると思います(^_^;)

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