スーパーアヴィド
【新刊情報】
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】【11月30日発売!!】
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帝国軍動く。
その知らせをアリューナが受けた時には、最前線で帝国軍百万が侵攻を開始していた。
「百万? まだ戦力を温存していたのか?」
総旗艦のブリッジで参謀たちと話をするアリューナは、帝国軍の数に疑問を持っていた。
それだけの数があるならば、どうして最初から投入しなかったのか?
参謀の一人が手に入れた情報から推測する。
「敵はバンフィールド家の軍隊ではなく、帝国軍が大半であると予想します」
「――本来の帝国軍を投入してきたか」
バンフィールド家のみで攻め込んできたリアムがおかしいのであって、本来は帝国軍と協力して戦うのが普通だ。
「前回の戦いで随分と数を減らしていたからな。公爵とはいえ、数十万隻を失うのはかなりの痛手だろう」
帝国軍を頼って侵攻してきたリアムに、アリューナは呆れてしまう。
「だが、それでも百万だ。我々はその三倍の数で迎え撃てる」
覇王国も大損害を出しているが、それでも地元で防衛する利を有していた。
アリューナが険しい表情をする。
「戦場で我を無視した恨みは忘れんぞ」
そんなアリューナのもとに、信じられない報告が届いた。
「王太子殿下!」
「何事か?」
「て、帝国軍が――我が艦隊を次々に撃破し、首都星を目指しております! その勢い、止められません!」
「なっ!?」
百万の艦隊が一直線に首都星を目指していると聞いて、アリューナは理解できなかった。
敵の首都を狙うのは理にかなってはいるが、何の準備もなく行うのは愚行だ。
補給や整備の問題も出てくるし、何よりも敵地で孤立しているようなものだ。
普通はもっと重要拠点を制圧しながら、ゆっくりと戦争を進めるものだ。
「我らを見くびったか」
リアムの行動が理解できないアリューナだった。
だが、帝国軍の勢いが止まらないという話を聞いて、アリューナは不安を抱く。
「――全軍を集結させよ。これ以上の各個撃破を許すな!」
◇
覇王国宙域。
アヴィドに乗り込む俺は、操縦桿を軽く握って人差し指をトントンと動かす。
モニターに映し出される周囲の景色は、デブリ――宇宙ゴミに変わり果てた覇王国の艦隊だ。
「確かに強いが、覇王国もこの程度か」
刀を持ったアヴィドの両隣には、アマリリスのアインとツヴァイの姿がある。
ツヴァイの左腕は、応急修理で現地改修された物になっている。
表向きは護衛機として連れて来た二機だが、本音は戦場での立ち回りを教えるためだ。
つまり、修行の一環だ。
アヴィドに二機と距離を作らせて、振り返えさせる。
視界に味方の艦隊が入る。
再編された艦隊は、以前よりもまとまりがあった。
理想には遠いが、それでもこの前よりもマシだろう。
「覇王国はいい相手になってくれる。お前たちもそう思うだろ?」
威圧しながら妹弟子たちに問えば、以前と違って気の引き締まった顔を見せている。
モニターに二人の顔が映し出されるのだが、僅かにあった甘えが消えていた。
出会った頃のギラギラした瞳をしている。
――剣士の目だ。
『そうだね。でも、アリューナは俺が殺すよ』
風華が決意を語ると、それは許さないと凜鳳が口を挟む。
『僕の獲物だって言っているだろう? お前から殺すよ』
普段通りの会話の中に殺気を感じる。
師匠のもとから引き離されたことで、本来の強さを取り戻せたらしい。
本当ならば、師匠に関係なく強さを発揮できなければならない。
「あいつはお前らの手に余る。それに、俺が相手をしてやると言ったからな。今回は我慢しろ」
『兄弟子!?』『どうしてさ!!』
俺の命令に反抗する二人をモニター越しに睨み付けると、アヴィドが彼方を手放してアマリリス二機の首に手を伸ばした。
宇宙に漂う刀が、出現した魔法陣の中に消えていく。
アマリリス二機が、アヴィドに必死に抵抗していた。
どうやら、アヴィドも苛立っているらしい。
「時間がないと教えただろう? さっさと終わらせて俺は本星に戻るつもりだ」
風華と凜鳳が、俯いて悔しそうにする。
そこに、ティアから通信が入る。
『リアム様! 偵察艦より報告が入りました。覇王国軍が首都星付近で集結しています。その数、約三百万隻です』
首都星を目指す俺たちのために、アリューナが舞台を用意してくれたらしい。
「アリューナは気が利くな。俺たちも向かうとするか」
アヴィドが巨大な魔法陣を背中に展開すると、そこから巨大戦艦の艦首が姿を見せる。
徐々に全体が姿を見せると、巨大戦艦が変形を開始する。
「イゼルは楽しませてくれたが、アリューナはどうだろうな?」
◇
帝国軍を待ち構えていた覇王国軍。
アリューナはアラクネの親機に乗り込み、戦場を数百機の子機から多角的に見ていた。
数百機の子機全てが、アリューナの目である。
一機で戦場全てを把握できる規格外の機動騎士。
しかし、アリューナは信じられない光景を目にしていた。
「化け物が」
帝国軍が戦場に持ち込んだのは、戦艦よりも巨大な人型兵器だ。
その人型兵器の指先一つ一つから、小型艦ならば飲み込まれるほどの光学兵器が放たれる。
覇王国の戦艦がビームに貫かれ爆発し、子機の一機も巻き込まれて視界の一つが潰れる。
経験がフィードバックされるが、これでは何の意味もない。
『王太子殿下! アレは元王太子であるイゼル殿下に倒された巨大人型兵器です!』
部下からの言葉を聞いて、アリューナは奥歯を噛みしめる。
イゼルが倒せたのだから、最強を名乗るアリューナならば問題ないだろう?
そのように言われた気持ちになるが、巨大人型兵器にアリューナは苦戦を強いられていた。
(イゼルが倒した時よりも性能を上げてきたか)
子機たちが巨大人型兵器に接近するが、迎撃用の兵器が増えている。
また、巨大人型兵器の周りを飛び回っている二機の機体が厄介だった。
アラクネの子機が、もう六十機以上も撃破されていた。
『死ねよ!』
二刀流の白い機体に、また一機の子機が破壊される。
『てめぇのせいで兄弟子に叱られたじゃないか。――僕の前から消えろ』
太刀を持つ白い機体にまた一機が破壊され、アリューナは舌打ちをする。
「前回よりも強くなったか。厄介だな」
どちらか一方なら対処もできたが、巨大人型兵器と一閃流の剣士二人を相手に苦戦していた。
ただ、アリューナも負けるつもりはない。
「――ならば、次はこれでいこう」
子機が二機ずつ、背中合わせになると全周囲をカバーできる状態にする。
そうして、巨大人型兵器と一閃流の剣士二人以外を狙い始めた。
「お前たちは強いが、戦争は一人ではできないぞ。さぁ、どうするよ、リアム?」
アリューナは、先にリアムの味方を減らす作戦に切り替える。
◇
――つまらない。
それが素直な感想だった。
「俺を倒すのを諦めて、どちらが先に雑魚を潰し終えるかの消耗戦に切り替えたか」
互いに決定打に欠ける戦いを続けてやったが、アリューナの方は俺よりも周囲を狙い始めた。
その間に、巨大人型兵器――長い名前もあるのだが、俺は【グリフィン】と呼んでいる。
グリフィンが覇王国の艦艇を次々に撃破していく。
互いに雑魚を撃破し続け、消耗し続けている。
無駄。全くの無駄な戦いだ。
アリューナの判断は正しいかもしれないが、俺にとっては面白さに欠ける。
だが、戦争で強いのはアリューナだろう。
イゼルは武人気質が強すぎた。
「軍隊で強いタイプだな。個人としての強さはイゼルの方が――」
感想を述べていると、グリフィンが収集した情報に面白い物が見られた。
モニターに表示すると、アリューナの乗る古代兵器の子機と戦う味方が見えた。
機動騎士同士の戦いだが、アリューナの操る子機が優勢だ。
性能面でも、パイロットの腕も一般的な騎士よりも数段上。
数で対抗する部隊もいれば、戦艦の主砲を集中させている艦隊もいる。
そんな中で、一般の機動騎士が子機を破壊していた。
「――何だ、意外と頑張るじゃないか」
バンフィールド家で有能な騎士たちは、ほとんどが余所から流れてきた者たちだ。
だが、戦場で成果を出している騎士の中には、バンフィールド家生え抜きの者たちがいた。
俺が騎士団を用意してから百年になろうとしているが、ようやく才能を開花させた騎士たちが現れ始めた。
バンフィールド家生粋のエースたちの誕生である。
「半数を失った価値はあったか」
艦隊の半数を捧げた結果、新たな実力者たちが味方から出現した。
「騎士団も揃いつつあるか」
数だけではなく、質の面でも揃いつつあった。
「アリューナには感謝しないといけないな! 礼だ――俺自らが相手をしてやる」
グリフィンのハッチが開き、格納されていたアヴィドが外へと出る。
グリフィンが動きを止めると、アヴィドをアリューナの気配がする方向へと向かわせた。
すれ違う敵機――古代兵器の子機すら斬り捨てて前に進むと、アリューナの乗り込む古代兵器が見えてきた。
アリューナを守るために戦艦が割り込んでくるが、無手のアヴィドが近付くと両断される。
両断された戦艦が左右に裂けて作られたスペースを通り抜け、アリューナの前に出ると驚いたのか強引に距離を作っていた。
逆噴射で後退するアリューナに接近しながら、近付く覇王国の敵機動騎士を破壊していく。
『何だ。何をした!?』
アリューナには、俺が何をしているのか理解できないらしい。
周囲の味方が次々に破壊される光景に、理解が及ばないのも仕方がない。
何しろアヴィドは武器を所持していない。
アリューナから見れば、勝手に味方が破壊されているようにしか見えないだろう。
「妹弟子たちの一閃を見抜いていたな? お前の才能は本物だよ」
『ふざけるな! お前は何もしていないだろうが!』
才能があり、実戦経験も豊富なアリューナは強敵だ。
凜鳳と風華が勝ちきれなかったのも頷ける。
生身でなら勝てただろうが――二人も手傷を負った可能性があるな。
ただ、そんなアリューナを持ってしても俺の一閃は見抜けない。
何しろ俺もアヴィドも武器を使っていない。
「これが本物の一閃だ。中途半端な妹弟子たちを相手にして安心したか? それなら申し訳なかったな。俺は個人的にお前に感謝しているから、本物の一閃を見せてやろう」
見せる――嘘だ。
奥義というのは見られてはいけない。
見た奴は殺す! それが奥義だ。
しかし――過去に師匠が言っていた。
完成された一閃は、見られようが意味がない、と。
何しろ見えないのだから。
古代兵器が下半身をパージすると、アリューナの気配がある機動騎士から八本の腕が出現する。
『時間をかけすぎたな!』
周囲を見れば、数百機の子機たちがアヴィドを囲んでいた。
それぞれが持つ八本の腕からは、攻撃が放たれようとしている。
数で圧倒するという発想は悪くない。
戦いは数だ。
しかし、圧倒的な強さを持つ俺に対しては少なすぎる。
降り注ぐ攻撃は、アヴィドのフィールドに弾かれる。
「せめて万単位は用意してから俺に挑むべきだったな。この程度なら、イゼルの方が強かったぞ」
アヴィドとは、コストパフォーマンスを捨てた浪漫機体だ。
古代兵器だろうと関係ない。
『くっ!』
アヴィドを破壊できないアリューナに、ゆっくりと近付いて教えてやる。
「面白いことを教えてやる。イゼルと戦った際にアヴィドを改修したんだが、その際に何を使用したと思う?」
『まさか!?』
イゼルが乗っていた八本腕の古代兵器。
アリューナと違うのは、個としての強さを追い求めた機体だ。
最終的に破壊すると液体になってしまったが、手に入れて解析させた。
「イゼルの機体は役に立った。お前は俺に何をくれるかな?」
古代兵器の解析を行い、アヴィドとグリフィンは改修が行われた。
性能の向上に大いに貢献したと伝えると、アリューナが斬りかかってくる。
それは激情からの一撃ではなく、歓喜だ。
『いいぞ! お前は最高だ、リアム! 敗者は強者の糧。我を食らってお前が強くなるならば、それは誉れ。存分に食らうがいい!!』
本気で斬りかかってくるアリューナの機体は、八本の腕でビームソードを出現させている。
群を優先してイゼルの機体よりも劣るが、こいつの優れた点は他にある。
それに、個人としても好ましい。
俺の遺伝子を求めてくる奴だが、潔さはクレオに学ばせたいくらいだ。
「お前は生かしておくとしよう」
直後、古代兵器の全ての腕を斬り飛ばした。
宇宙に漂う古代兵器からは、アリューナの苦々しい声がする。
『どういうつもりだ?』
敵を殺さない俺に不満を持ったらしいが、こいつは使える奴だ。
俺のために死ぬまで働かせてやる。
「覇王国もお前も、今日からは俺が全てを支配する」
若木ちゃん( ・∀・)ノ「モブせかこと 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 第9巻 が今月30日に発売されるわ。みんなチェックしてね!」
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。ついにリアム様が、戦場で舐めプをはじめて――辛いです」
ブライアン(`・ω・´)「それはそれとして、好調な 俺は星間国家の悪徳領主! 4巻 もよろしくお願いいたします!」
若木ちゃん(#゜Д゜)「てめぇこの野郎! モブせかの宣伝に専念しろって裏で教えただろうが!」
ブライアン(´;ω;`)「ひえっ!?」