アラクネ
若木ちゃん`;:゛;`;・(゜ε゜ )ブーッ!!「いやあああ!!」
アマリリス一番機、アインに乗る凜鳳は光が降り注ぐ戦場にいた。
「どこまかしこも敵ばかり! 最高じゃない!」
清楚で大人しそうな見た目に反して、過激な凜鳳は血走った目をむいて瞳を動かす。
近付いてくる機動騎士を斬り捨てる。
刀型のブレードは、風華のドライが持つ物よりも長くなっている。
刀一本を振り回して戦う凜鳳のアイン。
アマリリス・アインのツインアイ。
その中のレンズが周囲の敵機に反応して動いている。
真後ろから来た敵機を振り向きざまに斬り捨て爆発させる。
全周囲から押し寄せる敵機に、凜鳳は額に汗を流す。
「生身なら全部斬り捨ててやれるのにさ!」
アヴィドを再現させたアマリリスは、一閃の再現も可能だ。
しかし、アヴィドと違って自己修復機能は大きく劣っている。
激しい動きは関節への負担が大きい。
レアメタルをふんだんに使用したアマリリスでも、凜鳳の本気の一閃は再現できなかった。
次々に周囲を破壊していくアインとツヴァイ。
だが、そんな白いアマリリスの装甲は傷だらけになっていた。
凜鳳の目の前に敵戦艦が迫る。
「落ちろやぁぁぁ!!」
叫ぶと同時に放たれた凜鳳の一閃が、敵艦を両断する。
爆発によって発生した宇宙ゴミ――デブリが、アインの装甲にぶつかる。
戦場には発生した大量のゴミ。
敵も味方もデブリにぶつかりながら戦うため、傷だらけになっていた。
もっとも、アインの装甲に入った傷は敵の攻撃によるものだけだ。
それも強力な一撃によってつけられた傷だが、アマリリスを撃破するには至らない。
だが、倒してもきりがない。
敵艦を撃破したその直後には、後続の敵艦が目の前に来ていた。
主砲が放たれアインに直撃すると、吹き飛ばされる。
アマリリスがエネルギーシールドを展開するが、突き破られて装甲に直撃する。
レアメタルの装甲が攻撃を防ぐが、凜鳳には腹立たしかった。
「糞野郎がぁぁぁ!!」
叫ぶ凜鳳の横を通り過ぎるのは、風華のアマリリス・ツヴァイだ。
二刀流のドライが来ると、周囲の敵機が次々に破壊されていく。
多数の敵を相手にするのは、凜鳳よりも風華の方が得意だった。
『お前はそこで寝てろよ』
通り過ぎる際にかけられたからかう言葉に、凜鳳は奥歯を噛みしめ眉根を寄せた。
「てめぇ、ぶっ殺す!」
凜鳳のアインが刀を左から右に振り抜くと、周囲に群がっていた機動騎士たちが両断された。
アインとツヴァイの周囲では、常に爆発が起きている。
風華の乗り込むツヴァイは、両手にそれぞれ刀を持たせていた。
『上等だよ。てめぇもここで殺してやろうか?』
戦場で味方同士の殺し合いを始めそうな二人の会話だが、これも姉妹のコミュニケーションだ。
捨てられて路地裏で育った二人にとっては、この程度は普段の会話と変わらない。
安士やリアムのおかげで普段は取り繕っているが、元から口が悪い。
互いを罵り合いながらも総旗艦アルゴスに群がる敵を倒し続けていると、アインとツヴァイの前にこれまでとは違う機動騎士が現れる。
土色の人型兵器。
機動騎士と呼ぶにはあまりにも異形の兵器は、十八メートルと一般的な機動騎士のサイズではある。
ただ、違うのは雰囲気だ。
まるで古代の遺跡から出現したような見た目で、両脚を捨てて腕が八本。
凜鳳はその機体を見て、アマリリスを即座に後ろに下げる。
「不気味な奴が出てきたな」
それは風華も同じだ。
『兄弟子に聞いたことあるぜ。覇王国には古代の機動騎士がある、ってさ。滅茶苦茶強いってよ』
「へえ~、それならさぁ――こいつを倒したら、師匠も褒めてくれるかな?」
土色の機動騎士に向かって、凜鳳は一閃を放つ。
だが、放つ前に危険を察知した敵が動いた。
腕四本を犠牲にした敵に対して、風華が怪しむ。
『見かけ倒しか?』
自分たちが危険と判断した敵にしては、弱すぎる。
ただ、凜鳳の方は自分の一閃が、腕四本を犠牲に避けられたというのが許せない。
「誰だ、てめぇ」
土色の機動騎士は、腕四本を失いながらも余裕を持って答える。
『一閃流の剣士と出会えるとは運がいいな。我はアリューナ――覇王国の王太子だ』
戦場に。
しかも自分たちの目の前に出てきた王太子に、凜鳳は目をむく。
確かに敵機動騎士からは、強者の気配が漂ってくる。
これが王太子かどうかは知らないが、凜鳳にとっては倒すべき敵に違いはない。
「兄弟子もぶっ飛んでいると思ったけど、あんたも大概だよね。ただ――僕の前に出てきたのは間違いだよ」
自分の一閃を避けられたのが悔しくて、凜鳳は今度こそ止めを刺した。
両断された土色の機動騎士が爆発すると、風華が悔しそうに呟く。
『俺の獲物が!』
「早い者勝ちだろ。これで師匠に褒められるのは僕だ。兄弟子にもご褒美を期待しないとね」
王太子を倒した。
これで終わりと思っていると、周囲にいた味方の機動騎士が爆散する。
「あん?」
味方が負けただけかと思って視線を向けると、凜鳳は驚いて目を見開いた。
「おい、嘘だろ」
そこには土色の機動騎士と瓜二つの機体が存在していた。
しかも、先程と同じパイロットの気配を放っている。
コックピット内部には味方の通信が聞こえてくる。
『て、敵の王太子が自ら機動騎士に乗って出現しました!』
『こっちにもいるぞ!』
『影武者か?』
『各所で出現を確認。その数、百を超えています!!』
オペレーターの叫ぶような報告を聞きながら、凜鳳は舌打ちをする。
「そういえば、兄弟子がクローンを作られたんだっけ? お前もかよ」
クローン呼ばわりされたアリューナが、クツクツと笑っていた。
『何の意味がある? 我は我一人で十分だ。だが、ヒントくらいはやろう。ここにいるのも我ならば、他の機体に乗るのも我だ。この戦場にいるこの機体に乗るのは、全て我だよ』
小難しいことが嫌いな風華が、凜鳳とアリューナの間に割って入った。
『どうでもいいんだよ! お前も、他のお前も、俺がみんな破壊してやるよ!』
風華の一閃がアリューナの乗る機動騎士に襲いかかるが、今度は腕二本を犠牲にして生き残ってしまった。
アリューナが感心している。
『今のでも当たるのか? 一閃流とは本当に恐ろしいな。生身で向かい合っていたら、本当に死んでいたところだ』
風華が静かに激怒して、アリューナに向けて一閃を次々に放つ。
『――殺す』
風華の乗るツバイの関節が悲鳴を上げていた。
アリューナはそれを見て笑っている。
「アヴィドを量産したのか? だが、本物より脆いな。お前たちの実力に、機体がついて来られないじゃないか!」
風華のツヴァイは限界に達し、左腕の関節が弾ける。
左腕を失った風華が、コックピット内で絶叫していた。
通信を切った凜鳳は、ヘルメットを脱ぎ捨てる。
「面倒な奴」
◇
突き進むバンフィールド家の動きが止まった。
その動きを止めたのは、古代の機動騎士に乗り込むアリューナだった。
ただし、アリューナが乗り込むのは――全長百メートルを超える機動騎士だ。
宇宙戦艦にも見えるその姿だが、船首に機動騎士の上半身が取り付けられている。
その姿は蜘蛛に女性の上半身を持つモンスター。
アラクネの姿そのものだ。
コックピットでアリューナは、土色のバイザーを装着していた。
たった一人で、百を超えるアラクネの子機を操縦している。
十八メートルの機動騎士は、全てアラクネの子機だった。
「――ほう、もう三十機も撃破されたか。さすがはバンフィールド家だ。それにしても、一閃流の剣士に出会えたのは運がいい。こいつらはリアムと戦うための練習に丁度いい」
子機がやられてもアリューナには関係ない。
この古代兵器の凄いところは、百機以上の機動騎士全てにアリューナが乗っていることだ。本当に乗ってはいないが、全てアリューナが操縦できている。
同時に、負けたとしても敗北した経験がアリューナにフィードバックされていた。
つまり、アリューナは何度も一閃流の剣士たちと戦える。
「おっと、また負けたか」
三十一機目を白いアヴィドに破壊されたアリューナは、次の機体を向かわせる。
アラクネの胴体では子機が量産され、次々に戦場に送られていた。
次々に白いアヴィドに破壊されるアラクネの子機たちだが、他の戦場ではバンフィールド家の機動騎士や戦艦を次々に破壊していた。
一機で艦隊を相手にできる群としての地下を持つアラクネ。
アリューナの好みではないが、気に入っている部分がある。
「いいぞ。我はもっと強くなる。死ぬまで我と戦え、一閃流の剣士たち!」
◇
「うぜえぇぇぇ!!」
片腕となったツヴァイに乗る風華が、汗だくになりながらアラクネの子機を破壊する。
コックピット内で息を切らし、汗だくになった風華は新たな子機が出現したのを確認して奥歯を噛みしめた。
「きりがねーな」
愚痴をこぼすと、同意してくるのは姉妹の凜鳳だけだ。
『てめぇがもっと慎重に動いていたら、もっと楽できたのにさ』
「うるせーよ!」
『強がっているけど、ツヴァイを壊したんだ。兄弟子への言い訳を考えておくんだね』
「う、うるせーよ」
先程と違ってか細い声の風華は、アマリリス・ツヴァイを壊したことをリアムに叱られるのではないかと怖がる。
「そ、それよりも、味方がだらしねーよな」
味方の機動騎士たちは、アラクネの子機が出現すると苦戦を強いられていた。
いや、次々に撃破されている。
アヴィド――アマリリスには及ばないアラクネの子機だが、バンフィールド家で主力としている機動騎士よりも高い性能を持っていた。
それが数百機。
全てにアリューナという怪物級のパイロットが操縦している。
数で押し切ろうにも、問題は相手の方が数の上でも優位に立っていることだ。
新たに出現したアラクネの子機は、倒す度に二人への対抗策を用意してくる。
ただ一閃を放とうとも、もう倒す事ができなかった。
『そろそろ機体の方が限界か? さっさと逃げ帰ってリアムを呼べ。もう、お前たちに勝ち目はない』
「はっ! てめぇなんか、兄弟子が出るまでもねーんだよ!」
強がる風華だが、機体が限界に来ているのは察していた。
(まずい。本当に兄弟子でもいないと、押し込まれるな。せめて生身なら)
これが生身の勝負なら勝っていた――などと言っても仕方がない。
凜鳳と風華が二機でアラクネの子機を相手にしようとすると、そこにリアムからの通信が入る。
『――いつまで時間をかけている?』
底冷えするような冷たい声は、不甲斐ない妹弟子たちに呆れているようだった。
「あ、兄弟子!?」
『ち、ちがっ!』
二人が隙を見せると、アラクネの子機が八本の腕からビームを放つ。
それにより吹き飛ばされ、風華のツバイは装甲の一部が剥がれてしまった。
「くそがっ! このインチキ女あああぁぁぁ!!」
口汚い言葉でアラクネに罵声を浴びせるが、そんなアラクネの子機が戦艦の主砲に撃ち抜かれた。
風華が後方を見れば、アルゴスが二機の側まで来ている。
リアムの命令が聞こえる。
『さっさと帰還しろ。もう十分に目的を達成した。アルゴスで押し通る』
戦場から去ろうとするリアムの登場に、アラクネの子機たちが集まってきた。
『リアム! 我の相手を――』
ただ、リアムはアリューナと遭遇しても興味がない様子だ。
『――アルゴス、出力最大』
◇
――思っていたより妹弟子たちが弱かった。
「アリューナ程度に押し切れないか。負けはしなかったが、そこまでだな」
ブリッジのシートに座って不満を漏らせば、隣に立っていたユリーシアが目を見開いていた。
「十分に善戦したと思いますが?」
確かに二人の働きは、一般の騎士ならば賞賛されるべきだろう。
しかし、二人は一閃流の看板を背負っている。
――安士師匠の名を背負って、この程度では話にもならない。
「俺が期待したのは勝利だ。二人がこの様では、師匠に残念な知らせを届けるしかないな」
そう言うと、オペレーターが二人の帰還を知らせてくる。
「アマリリス、アイン、ツヴァイ、二機が着艦しました」
俺は右手を前に伸ばす。
「遊びは終わりだ」
アルゴスの出力が上昇し、エネルギーシールドが厚みを増す。
どんな攻撃もはね除けるアルゴスを先頭に、バンフィールド家の艦隊が覇王国の艦隊を突き破る。
ユリーシアが天井を見上げた。
「味方のシールド艦? 第二艦隊の所属ですね。第四艦隊の艦艇もこちらに向かっていますよ」
「クラウスの奴は過保護だな」
つい苦笑いをしてしまう俺は、こんな状況でも主君の身を守るため最善手が打てるクラウスを評価する。
「この状況でシールド艦がアルゴスに追いついたなら、前もって予想していたのか? つくづく、あいつを家臣にできて幸運だった。あいつ、どうして前の職場では評価が低かったんだろうな?」
疑問を口にすると、ユリーシアが答える。
「優秀すぎるというのも問題ですからね。手に余ると判断されて、閑職に追い込まれたのでは?」
「それはあるな」
ユリーシアの話に納得する俺は、目の前に迫る八本腕の機動騎士を見る。
アルゴスに向かって攻撃を仕掛けてきていた。
『逃げるか、リアム!』
アリューナの声がアルゴスに届いている。
全周波数で俺に語りかけているのだろうが――正直、相手をする気がない。
「面白い機体に乗っているじゃないか。興味はあるが、また今度相手をしてやる」
『待て! 我と勝負を――』
「いいや、待たない」
アルゴスのエネルギーシールドにぶつかった八本腕の機動騎士たちは、突き破ろうとするが失敗して爆散していく。
「また来る。その時は妹弟子たちの代わりに遊んでやるよ」
アルゴスと接触する敵の機動騎士、戦艦を強引に押しのけて――激突する側から破壊していく。
究極のごり押し。
それを可能とする性能をアルゴスは持っていた。
『勝負しろ、リアァムゥゥゥ!!』
アリューナの叫び声を聞きながら、覇王国の艦隊を抜ける。
突撃勝負はバンフィールド家の勝ちらしい。
「さて、帰るとするか」
ブライアン(´;ω;`)「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻 が 11月30日 発売となっております。あと、辛くないお知らせがございます」
ブライアン(´・ω・`)「今月は 俺は星間国家の悪徳領主! 外伝 が投稿されるかも? このブライアンの出番があるのか気になるところでございます」