激突
宣伝する植物 若木ちゃん( ゜∀゜)「 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】 は 【11月30日】 に発売よ!!! 絶対に手に入れてね!」
目の前には六十万の覇王国の大艦隊が迫っていた。
円錐状の突撃に特化した陣形をしており、真正面からぶつかるつもりらしい。
対するバンフィールド家の艦隊も円錐状の突撃特化。
お家芸にまで昇華したバンフィールド家の突撃だが、覇王国は伝統芸にまで昇華された突撃だ。
宇宙海賊やこれまで戦ったどの艦隊よりも精強な相手を前に、ブリッジの軍人たちも緊張を見せていた。
オペレーターが叫ぶ。
「光学兵器の射程圏に入ります!」
お互いが前進しているため、急速に接近している。
迫り来る敵艦隊に砲撃を開始したいが、俺は腕を組んで命令する。
「有効射程まで撃つなよ」
撃てば当たる可能性もあるが、至近距離からの砲撃戦は何かとエネルギーの消費が激しい。
光学兵器、シールド、その他諸々のエネルギーを大量に消費するのが至近距離からの撃ち合いだ。
有効射程外からの砲撃に割くエネルギーはない。
覇王国もその辺をよく理解しているため、こちらと同様に砲撃をしてこない。
荒々しい覇王国の連中だが、艦隊運用は乱れが少ない。
完璧に統率された精強な艦隊だ。
急速に近付いてくる敵艦隊。
オペレーターが有効射程に入ったことを告げる。
「有効射程圏に入ります!」
俺は右手を前に出して笑みを浮かべる。
「攻撃開始」
俺の命令を受けて一斉に光学兵器が味方艦隊から放たれる。
同時に、敵艦隊からも光学兵器が放たれる。
光が瞬時に交差され、味方艦がバリア――障壁を展開する。
その輝きが何千、何万、何十万と起こって戦場を明るく照らす。
総旗艦アルゴスの周囲に存在する艦艇は、防御に特化したシールド艦が多く配置されている。
光学兵器はアルゴスまで届かず、味方艦に防がれていた。
だが、アルゴスから放たれたレーザーやビームの光は――容赦なく敵戦艦を貫いていた。
一つの光が、二つ、三つとシールドを展開した敵艦を貫いていく。
総旗艦アルゴスは最新鋭の超弩級戦艦だ。
その上、あのニアスが――酷い性格と比例するように有能なニアスが手がけたレアメタルを惜しみなく使用した戦艦だ。
つまり、アルゴスとはアヴィドの戦艦版だ。
莫大な予算をつぎ込み、コストパフォーマンスなど度外視した俺の乗艦だ。
戦艦百隻と一隻で向かい合ったとしても、負ける気がしない。
「俺は最初から負ける要素が一つもない」
押し寄せる光学兵器の光を前にしても、俺が少しも怯えないのはこのためだ。
俺“は”負けない。
だが、俺“の”艦隊は別だ。
覇王国と同様に、強力なシールドを展開できない艦艇――駆逐艦や巡洋艦が、光学兵器に貫かれて爆算する。
シールドを突き破られる味方艦。
バンフィールド家の艦隊は、世代遅れの旧式艦ではない。
帝国でも最高の性能を求めた艦艇だ。
それがこうも簡単に破壊されるというのは、覇王国の艦艇が高性能な証拠だ。
これまで戦ってきたどの艦隊よりも強いのは間違いない。
だが、このままでは数の劣るバンフィールド家の艦隊が危ういな。
「アルゴスのシールド艦を再配置。装甲に不安のある艦艇の壁にしろ」
淡々と命令を出すと、隣に立つユリーシアが目をむいた。
「総旗艦の守りを薄くするんですか!?」
「その方が効果的だ」
シールド艦がアルゴスの側を離れて、駆逐艦や巡洋艦を守る位置に移動する。
光学兵器がアルゴスのシールドに命中し、強い光を放った。
アルゴスに敵の攻撃は届かない。
自然と口元が緩んで笑みになる。
「アレを使うぞ」
周囲がざわつく。
ユリーシアが俺の方に顔を向けてくる。
「このタイミングですか? 早すぎると思いますが?」
「見せつけてやれ」
アルゴスの切り札とも言うべき兵器の使用を求めると、周囲の軍人たちが慌ただしく動き出す。
「多重魔法陣展開用意!」
「アルゴス、装甲にエネルギーシールド展開」
「空間魔法陣展開完了!」
アルゴスの周囲に数多くの魔法陣が出現する。
同時に、敵陣に同じ魔法陣が出現する。
アルゴスの切り札。
それは――。
「もっと派手な攻撃が好みだが、今はこれで我慢するか」
――空間魔法を利用した長距離攻撃だ。
アルゴスが魔法陣に光学兵器を放つと、遠くの魔法陣から放出される。
空間魔法を使用した攻撃方法の利点は、敵陣のど真ん中に砲台を置いて周囲を攻撃することだ。
敵が予想しない場所からの攻撃は効果的で、敵陣に大きな乱れが発生する。
もっとも、派手さがない。
「敵艦隊に乱れを確認しました」
「そこから崩せ! 砲撃を集中させろ!」
慌ただしいブリッジの中で、敵陣の乱れを突こうとする軍人たち。
実に効果的な攻撃なのだが、問題はこれだけ複雑な攻撃というのは簡単にはできない。
こちらも相手も動いている中で、魔法陣を展開する場所の指定も大変だ。
普通は思い付いてもできないのだが、そこは天才のニアスだ。
あいつは実現してしまった。
これがアルゴスの切り札なのだが――凄く地味だ。
凄いとは思うし、俺も有効だと思っている。
しかし、地味!
「やっぱり派手な攻撃手段が欲しいな」
ため息を吐くと、隣のユリーシアが頬をひくつかせていた。
「これだけ高度な攻撃を見ても、その感想ですか?」
「玄人好みだが、俺は素人好みの派手な攻撃手段が欲しい」
敵艦隊を見れば、何が起きたのかまだ理解していないようだった。
味方から攻撃されたと勘違いした艦艇が、同士討ちまで始めている。
真正面から敵が来ると思っているところに、予想外の場所から攻撃が来れば慌てもするだろう。
シールドエネルギーも船首に集中させているだろうし、薄くなった部分を攻撃しているのも同じだ。
だが、切り札だけあって何度も使えない。
今後の課題だな。
軍人たちが苦々しい顔をしている。
「敵艦隊はもう立て直したのか」
「これが覇王国か」
覇王国の艦隊を見れば、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
これが宇宙海賊なら崩壊していただろうし、通常の艦隊なら立ち直るまでもっと時間を有していた。
下手をすれば崩壊のきっかけになっていただろうが、覇王国は違った。
アルゴスの切り札も、思っていたほどの効果がなかった。
オペレーターが叫ぶ。
「敵艦隊と接触します!」
俺は口角を上げる。
「アルゴスを一番前に出せ」
◇
両艦隊の陣形――先端が接触する。
超至近距離での戦闘が開始されると、本来ならば精強な方が弱い方を突き破る。
しかし、両軍共に精強で――陣形が崩れない。
その様子を覇王国の総旗艦から眺めるアリューナは、目を細める。
「実に素晴らしい。脱落した者たちを出したのは残念で仕方ないが、その後の立て直しと精強さは称賛に値する。――だが、これでは数の利でこちらが勝つな」
実力が近く、真正面からぶつかり合えば数の多い方が勝つのは当然だ。
敵艦隊から脱落した十万隻が、勝敗を決定してしまっていた。
もう少し敵の数が多ければ、もっといい勝負になっていただろう。
「同等の条件で打ち破りたかったが、これも戦場の習い。お前たちの強さは、我が語り継ぐとしよう」
強者との戦いに水を差されたアリューナが、物足りなさを感じているとオペレーターからの報告が届く。
「て、敵艦隊の前衛に超弩級戦艦を確認しました!」
その報告にアリューナが目を瞑る。
超弩級戦艦となれば、乗艦しているのは司令官クラスだろう。
この状況を打開するために、無理をしているのがうかがえる。
「名のある将が前に出たか? だが、この数の差を覆すのは無理だな」
だが、バンフィールド家は違った。
「照合結果出ました。艦名はアルゴス――敵総司令官リアム・セラ・バンフィールドの乗艦です!?」
艦名を聞いてアリューナが席を立ち、目を見開いた。
「ば、馬鹿な。自ら前に出ただと!?」
アルゴスの姿がモニターに表示されると、味方艦を破壊して覇王国の艦隊に斬り込んでくる。
その周囲には特徴的な白い二機の機動騎士が侍り、周囲の味方艦を次々に撃破していた。
アルゴスの後ろにバンフィールド家の艦隊が続いている。
アリューナは武者震いする自らを抱きしめる。
「最高だ、リアム! お前こそ我の子の父親に相応しい!」
アリューナが命令する。
「アラクネの出撃準備を急げ」
◇
超弩級戦艦ヴァールのブリッジ。
司令官のシートから立ち上がったティアは、脚が震えていた。
「リアム様を下がらせなさい! 代わりにヴァールを前に出せ! アルゴスの盾にしなさい!」
青ざめて震えるティアの側にいた副官が、何とか落ち着かせようとする。
「落ち着いてください、ティア様」
「こ、これが落ち着いていられるか! だ、誰だ、あんなことをさせたのは!?」
「――リアム様以外におられないかと」
総司令官に先駆けをさせるなどあり得ない。
実行するとすれば、総司令官自らの行動によるものだろう。
本来であれば周囲が止めるはずなのだが、リアムはよくも悪くもワンマン領主だ。
ティアが側にいれば命がけで止めただろうが――それでもリアムが決定を覆すとは思えない。
「ヴァールを前に出せ!」
ティアがリアムの側に向かおうとするが、それを副官がいさめる。
「この艦で無理に前進すれば、陣形が崩れます!」
超弩級戦艦が無理して前進すれば、密集している味方にも影響が出る。
ヴァールを避けるために、陣形が乱れて最悪は大事故だ。
副官は、それだけは回避しなければならないとティアをなだめる。
リアムを心配して錯乱したティアもその可能性にようやく気付くと、俯いて苦渋の決断を下す。
「化石女を向かわせろ! ――あいつの乗艦は小回りが利く」
マリーに頼ることを激しく後悔するティアだが、リアムの命がかかっている状況では手段を選んでいられなかった。
副官やブリッジクルーが驚いていた。
「ティア様? し、しかし」
殺し合いすらあり得る敵対派閥の力を借りる。
それはティアにとって、プライドを捨てた決断でもあった。
「早くしなさい。この程度でリアム様のお命が助かるのなら」
マリーに対して借りを作るのは、ティアにとってはプライドが許さない。
しかし、そのプライドを捨ててでもリアムを助け出したかった。
◇
その頃。
マリーの方も慌てていた。
「もっと急げないのか!?」
リアムが敵陣に斬り込んだと知り、冷や汗が止まらないマリーは周囲が見ていられないほどに震えていた。
普段は優雅に、そして荒々しい自分たちの上官が怯えている。
副官がマリーをなだめる。
「これ以上は無理です。それに、アルゴスも前進していますし」
調子よく斬り込んでいくアルゴスを追いかけるために、味方艦の隙間を縫うようにマリーの艦隊が前進していた。
ティアが味方艦の艦列を修正させ、通り抜けられる道を作っていた。
リアムのピンチに、犬猿の仲である二人が協力するという珍事が発生していた。
「リアム様、お戻りくださいぃぃぃ!?」
狼狽えるマリーは、届かぬと知りながらもモニターに映るアルゴスに向かって手を伸ばして叫ぶ。
◇
慌てているのは、ティアとマリーだけではない。
胃に穴が空きそうな痛みに耐えながら、心の中でクラウスが絶叫する。
(リアム様、前に出ないでぇぇぇ!!)
ただ、ティアとマリーと違うのは、クラウスはリアムの行動を予想していたことだ。
以前に少数で覇王国に突撃した経験から、この状況でもリアムなら何かすると思わせた。
だから――前もってリアムを守れる位置に乗艦を近付けていた。
「アルゴスに派遣したシールド艦の位置は?」
部下の一人が答える。
「じきに追いつくかと」
前もって乗艦を守るシールド艦をリアムに向けていた。
これも事前に準備していた成果である。
これが周囲にはクラウスの先読みに見えて、更に評価を上げることになる。
「この事態に流れるような動き。流石はクラウス様です!」
部下の言葉をクラウスは睨み付ける。
「そんなことはどうでもいい。リアム様を何としてもお守りしろ」
(そういうの今はいいから!)
厳しいクラウスの言葉に、部下は謝罪する。
クラウスは内心で周囲を気にかけている余裕がない。
(もうヤだぁ――)
ブライアン(´;ω;`)「いやあああああ!! リアム様、前に出ないでえええ!! 総司令官のリアム様がまっさきに突撃して辛いです」
ブライアン(´;ω;`)「それはそうと――」
ブライアン(´・ω・)占~<巛巛巛 「明日に向かってシューッ!」