帝国最強の騎士
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クラウス率いる第二軍は六万隻の艦隊だ。
主君であるリアムと同等の戦力を預けられたというのは、それだけ信頼されている証でもある。
リアムの期待を背負ったクラウスだが、胃の痛みに耐えながら艦隊を指揮していた。
第二軍だが、今は覇王国が支配する惑星の一つを攻略した直後だった。
クラウスは内心で大きなため息を吐く。
(お、終わった。これで少しは休める)
いつ敵に囲まれるとも分からない状況で、バンフィールド家の艦隊は覇王国の領地を荒らし回っていた。
だが、一歩間違えれば袋叩きにされて、文字通りの全滅の恐れもある。
気が休まる暇がないクラウスは、常に胃の痛みと戦い続けている。
そんなクラウスに、参謀たちから知らせが入った。
「閣下! チェンシー率いる三千隻が独断で覇王国の要塞へ攻め込んでいます!」
「な、何!?」
クラウスの指揮下には、一閃流の剣士を除けば最強格の騎士――チェンシーが存在する。
戦いに魅入られた騎士たちを束ねるチェンシーは、リアムにすら斬りかかる常識外れの騎士だ。
クリスティアナやマリーからは嫌悪されており、二人の指揮下に置けば確実に戦場で後ろから撃たれるだろう。
だが、騎士としては優秀だ。
機動騎士に乗せればエースオブエースであり、彼女が率いる部隊も強さのみを評価すればバンフィールド家で一、二を争う。
性格にさえ目を瞑れば、だが。
そんな問題児たちの集まりを任されたクラウスだが、覇王国でも悩まされていた。
「敵要塞を発見した報告は受けていないぞ」
自分に「落ち着け」と言い聞かせるクラウスは、どうして報告に上がってこない敵要塞をチェンシーたちが攻め込んでいるのか気になった。
参謀が詳細を報告する。
「惑星攻略直前に、自分たちの出番はないからと艦隊から離脱したそうです。理由は索敵となっていますが、その際に発見した敵要塞の攻略を開始したと」
独断専行。
軍では厳しい罰が待っているし、それはバンフィールド家でも同じだ。
だが、チェンシーの立場が問題になる。
参謀たちが苦々しい顔をする。
「閣下、やはりあいつに独立部隊の権限を与えたのは間違いではありませんか?」
あまりに問題行動が多いため、独立部隊としての権限が与えられていた。
下手に命令すると、味方すら攻撃しかねない問題児たちだ。
リアムがいれば強者には従う論理で大人しいが、一度解き放たれれば好き勝手にする奴らだ。
そんな騎士たちの扱いをクラウスも悩み、独立部隊としての権限を与えた。
おかげで味方との衝突は減ったが、チェンシー達に振り回されている。
「敵要塞の規模は?」
「おおよそで五千隻を運用する規模と報告が来ています」
「五千か――すぐに援軍を送れ」
三千隻で五千隻を運用する要塞を攻略するのは難しい。
出来たとしても被害が大きくなる。
使い潰すならば放置で構わないが、根が真面目なクラウスは援軍を派遣して手堅く敵要塞の攻略に取りかかる。
(問題児たちが敵を見つけてすぐに攻め込むから、第二軍だけかなり先行しているじゃないか。他艦隊と歩調が合わない)
問題児たちが先走り、それをクラウスがフォローするため快進撃となっていた。
◇
覇王国の要塞内。
機動騎士で要塞内に乗り込んだチェンシーは、部下たちを率いて暴れ回っていた。
バンフィールド家でも最新鋭の機体を用意され、実力は確かな問題児たちが駆る機動騎士は敵を蹂躙していた。
「覇王国の騎士はいいわね。恐れず挑んでくる姿勢が好ましい」
コックピットの中で、チェンシーは目を弓なりにして微笑む。
機体を操作し、目の前に来た敵機を両断するとその奥から次が飛び込んできた。
チェンシーの機動騎士が蹴りを放つと、相手が吹き飛んで壁にぶつかる。
すぐに近付いて、チェンシーは敵のコックピットに刃を突き立てた。
敵の機動騎士が停止すると、次の獲物を探すために視線を動かした。
「あら、もう終わりなの?」
周囲では味方が倒れた敵機に何度も刃を突き立てている。
荒々しく残虐な行為。
これがチェンシーたちの日常だった。
チェンシーはコックピット内で、パイロットスーツも着けずに私服姿だ。
やや幼い姿になっているのは、サイボーグ化した後にリアムに敗北して新しい肉体を用意されたためだった。
操縦桿を手放し、脚を組んで体の力を抜く。
戦場だろうと関係ない。むしろ、戦場の方が落ち着く。
「そろそろクラウスが来るかしら?」
味方の一機がチェンシーに近付いてくる。
『姉御、クラウスから援軍が来ましたぜ』
「相変わらずタイミングがいいわね」
幼い姿になろうとも、チェンシーは周囲から姉御と呼ばれ慕われていた。
理由は単純に強いから。
強さこそが、この部隊では絶対のルールである。
クラウスの援軍が到着すると聞き、チェンシーは面倒な事後処理は任せる事に決める。
「さっさと引き渡して次に向かうわよ」
チェンシーの命令が出ると、周囲は動きを止めて要塞内から撤収を開始。
戦うのが好きなのであって、要塞を攻略するなどどうでもいい連中だ。
チェンシーも機体を操縦して要塞内から外を目指すと、先ほど話しかけてきた部下が隣に来て提案してくる。
『クラウスの野郎から、攻め込む前に連絡を寄越せと小言が届いていますぜ』
部下の男は顔に大きな傷を持つ厳つい男だった。
クラウスの伝言を聞き、チェンシーは素っ気ない返事をする。
「以後気を付けると返事をしなさい」
だが、部下は納得できなかったようだ。
彼らにとっては強さこそが正義。自分たちよりも弱いクラウスが、司令官として自分たちの上に立つのが許せないのだろう。
『クラウスも小五月蠅い野郎です。姉御、いっそ姉御が上に立てばどうです? 少しばかり痛めつければ、素直になりますぜ』
下卑た笑いを見せる部下に、チェンシーはモニター越しに笑みを浮かべた。
そして、機動騎士の剣を部下のコックピットに突き立てる。
「お前――もういらないわ」
部下が刃に貫かれ肉塊と化すと、チェンシーは冷たい視線を向けた。
「誰に向かって指図をするの? それにね、クラウスは好きよ。好き勝手に出来る地位を与えてくれた。面倒な仕事は全て引き受けてくれる。――だから、クラウスには今まで通りトップで居続けてもらわないとね」
味方を殺したが、周囲の部下たちは誰一人責めない。
チェンシーの怒りに触れた馬鹿な男が悪いから。
改めてチェンシーは部下たちに方針を伝える。
「クリスティアナの馬鹿では駄目なのよ。あいつは戦争を政治の一つとしてしか見ていないわ。マリーも駄目ね。純粋な戦いに忠義心みたいな邪魔な感情を持ち込むなんて無粋よ」
ティアやマリーが筆頭騎士に立てば、あらゆる手段で自分たちを潰しに来る事をチェンシーは理解していた。
「あいつらと戦うのも楽しそうではあるけど――私はもっともっと戦いたい。そのためには、クラウスに絶対的な功績を立ててもらわないとね」
部下たちは誰一人異論を唱えなかった。
◇
第二軍の活躍が、第一軍に報告として届いた。
敵地で通信がろくに出来ない状況であるため、わざわざ第二軍から伝令が来るという古くさい手法でのやり取りだ。
第二軍の大佐が、俺を前にクラウスの活躍を誇らしく伝えてくる。
「我々第二軍は、クラウス閣下の指揮の下で快進撃を続けております!」
覇王国の領内を立体映像で映し出しているのだが、バンフィールド家にあってクラウスの第二軍が先行していた。
敵地を次々に落としており、快進撃というのも納得だ。
椅子に座った俺は、伝令に拍手を送る。
「素晴らしい成果だ。俺も頑張ったつもりだが、クラウスには負ける」
自分で率いた第一軍も次々に敵拠点を落としているが、クラウスはそれ以上だった。
破竹の勢いという言葉があるが、クラウスたち第二軍の快進撃には、まさにピッタリの表現だろう。
やっぱりあいつは凄いな。
第二軍を褒め称えていると、第三軍の伝令が僅かに焦りながら報告してくる。
「第三軍も敵の重要拠点を落としています。そもそも、我らに第二軍ほどの数があれば――」
第二軍に対して対抗心を燃やしているのは、ティアの率いる第三軍だった。
第三軍の数は三万隻。
確かにクラウスと比べるのは酷だろう。
それでも重要拠点を手に入れたのは、ティアの有能さを物語っている。
「艦隊の数を決めたのは俺だ。文句があるのか?」
「い、いえ」
睨み付けて威圧すると、第三軍の伝令は言葉を詰まらせる。
だが、頑張った部下は褒めてやろう。
「重要拠点の攻略は評価する。受けた被害の詳細も届いた。俺の艦隊から補充してやる。補給物資も持っていけ」
「は、はっ!」
敬礼する第三軍の伝令の横では、マリー率いる第四軍の伝令が苦々しい顔をしていた。
遊撃――全体のフォローをするための艦隊で、その数は精鋭だろうと一万隻だ。
やれることには限りがある。
拠点攻略で目に見えた成果が出ないという立場だから、俺の機嫌を取れる報告が出来ない。
「第四軍の状況は?」
発言を促してやると、マリーたちの活躍について報告してくる。
「――他艦隊の救援に駆けずり回っております」
「お前たちはそのままでいい。マリーにはよくやったとでも伝えておけ。だが――第五軍以降は、目立った戦果がないのも納得だな」
クラウス、ティア、マリー率いる艦隊の活躍はめざましい。
だが、他艦隊は大した活躍が出来ていなかった。
一万隻から二万隻の艦隊が十以上も存在しているが、敵拠点を落とせたのは僅かだ。
「元帝国軍人や騎士たちは活躍しているが、俺の領地で育てた奴らの活躍が全く聞こえてこないな」
視線を第五軍以降の伝令たちに向ければ、随分と緊張していた。
中には敗北して、他艦隊と合流している軍もある。
能力としては問題ないが、圧倒的に経験が不足している。
やはり覇王国との戦場に連れてきて正解だった。
「第三軍のティアに再編を任せる。次回の報告で俺を満足させなければ、司令官や参謀を総入れ替えすると伝えておけ」
再編後に結果を出せなければ、もう次は用意しない。
ラストチャンスだと伝えて、伝令たちを下がらせた。
◇
伝令たちの相手をしてからブリッジに戻ると、参謀たちが俺を待っていた。
緊張した様子から、何か起きたと予想できる。
「どうした?」
「リアム様、覇王国が軍を集結させています。三十万規模ですが、増加しておりこのままでは危険です」
侵入してきた俺たちを叩くために、数を揃えて各個撃破でも考えているのだろう。
「こちらも集結してさっさと潰すか」
そう言うと、参謀たちからの悪い知らせが続く。
「帝国領に侵攻していた敵軍が引き返していると報告も届いています。味方の第二陣がアウグルに到着したそうで、こちらに伝令を送ってきました」
「――予定より早いな」
第二陣の到着はもう少し先だと思っていたが、何かあったのだろうか?
そう思っていると、参謀たちが顔を見合わせてから俺に報告してくる。
「お屋敷のブライアン殿から伝言です。可能ならば領地に戻ってきて欲しい、と」
俺はブライアンの伝言に機嫌を損ねる。
「この大事な時にあいつは何を言い出すんだ? 無理に決まっているだろうが」
あいつじゃなければ無能と言ってクビにしていた。
だが、参謀たちは困った顔をしている。
「お屋敷の責任者たちの連名で同じ内容が届いています。天城様も可能ならば、と」
ブライアン以外も全員?
しかも、天城の名前が出ると俺も困る。
敵が集まりつつある中、俺だけ領地に戻るとか論外だ。
だが、天城が戻れるなら戻れと言っているなら――くそ、どうしたらいい!!
「――先に敵艦隊を叩くぞ。クラウスに伝令を送れ」
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。胃痛仲間のクラウス殿が、怖い女性騎士に愛されて辛いです。クラウス殿逃げてぇぇぇ!!」
若木ちゃん。゜(*゜´∀`゜)゜ノ「クラウス、マジでツラウスwww」
若木ちゃん。゜(゜^Д^゜)゜。「俺は星間国家の悪徳領主!4巻 が好評発売中よ。ツラウスの活躍も見られるかも? みんな買ってね!」