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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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覇王国再び

活動報告にイラストも掲載しているので、よければチェックしてみてください。

 安幸君が騎士になると言い出した。


 確かに以前は騎士にするためクラウスに預けようとも考えたが――それが本人の幸せに繋がるとは思えず、考え直した。


 騎士にとって弱さは大きな弱みになる。


 本来であれば、剣才のない安幸君は奥方のような官僚になる道に進んで欲しかった。


 しかし、本人の強い希望もあって無下には断れない。


 だが、このまま普通に騎士になる道を進ませれば、きっと下級か中級騎士止まり。


 騎士というのは強さが全てではないが、強さがあってこその騎士でもある。


 ティアやマリーがそのもっともな例だろう。


 あの二人は性格こそ問題だが、強い上に仕事も出来る有能な騎士だ。


 ――容姿も優れているのに、本当に性格が酷い。


 少しはクラウスを見習えよ。


 安幸君がこのまま騎士になれば、戦場で命を落とす可能性が高い。無論、俺は彼を危険な戦場に放り込みはしない。しないが、この世に絶対など存在しない。


 派遣した先に敵が攻めてきたとか、とにかく不測の事態は起きてしまう。


 安幸君が今後生き抜くためには、騎士としての手本――師匠が必要だろう。


 有能な騎士の側に置いて学ばせれば、きっと何か掴んでくれるはずだ。


 もし、ここまでして騎士として中級にも届かなければ、残念だが諦めてもらうしかない。


 ――さて、そのために俺が用意する騎士は誰か?


 当然クラウスだ。


 ティア? マリー? あいつらは有能だが、性格に難ありで安幸君を預けられない。大事な師匠のご子息に、失礼があってはいけないからな。


 俺も最高の師匠を用意しなければと考え、クラウスの顔が思い浮かんだ。


 執務室で待っていると、クラウスがやって来る。



「――は?」


 リアムに呼び出されたクラウスは、一瞬呆気にとられた。


 真剣な表情のリアムは、冗談を言っているようには見えない。


「師匠のご子息を預かることになった。本人は騎士希望だから、しばらくお前に預けて面倒を見てもらいたい。頼めるか?」


 安幸――それはリアムが敬愛する安士の子供で、領内では手を出したら一閃流の剣士が殺しに来ると噂になっている。


 クラウスとしては、リアムにとって重要な人物を預かるなどごめんだった。


「私では育てられるか不安です。やはり、他と同じように育成するべきではありませんか?」


 教育能力に不安があると言えば、リアムが詳細を話す。


「騎士の教育は始めている。お前は心構えや基礎を教えてやればいい。お前に指導されて、それでも芽が出ないなら本人の才覚不足だ。騎士の道は諦めてもらう」


 クラウスはこれを聞いて即座に理解する。


(これって、重要人物の人生を左右する決断じゃないですか! 私には重すぎるんですけど!)


 どのように断ろうか必死で思案していると、リアムがため息を漏らした。


「お前には重要な仕事をいくつも任せているから心苦しいが、俺が安心して預けられるのはお前だけだ」


 上司の信頼に、クラウスは胃が痛み出した。


「過分な評価、恐れ入ります。ですが、私では難しいかと」


(そんなに期待されても困るんですって!)


 だが、リアムはクラウスの育成能力を全く疑っていなかった。


 周囲にデータを投影し、クラウスのこれまでの実績を見せつける。


「謙遜するな。俺は根拠もなくお前に大事な師匠のご子息を預けたりしない。お前の下で働く騎士や軍人、他にも役人たちが多くの実績を残しているのは調査済みだ。お前の育成能力は本物だよ」


 クラウスは冷や汗をかく。


(それ違うんです! 出来そうな子たちに仕事を振り分けて、任せていたら勝手に育っただけなんです!)


 クラウスは自分が有能だとは思っておらず、部下に出来る者がいれば意見を聞いていた。


 出世欲もないため、部下の実績は包み隠さず報告している。


 結果、クラウスの部下たちは活躍の機会を他よりも多く得ていた。


「部下たちに恵まれただけです」


 そう言うと、リアムが笑みを浮かべる。


「お前は自己評価が低いな。だが、結果が全てだ。安幸君の事はお前に任せる。騎士としてやっていけるかどうか、お前が判断しろ」


 上司の決定には逆らえず、クラウスは受け入れるしかなかった。


「善処いたします」


 クラウスは項垂れたい衝動を何とか抑え、執務室を後にした。



 その頃。


 覇王国では大きな動きがあった。


 帝国と結ばれた三十年の停戦期間中に、空位となった王太子の地位を巡って親族同士の血で血を洗う戦いが続いていた。


 闘争を好むグドワールはリアムと案内人により倒されたのだが、覇王国は相変わらず戦いに明け暮れている。


 そこで頭角を現したのは――【アリューナ】だ。


 リアムに遺伝子を寄越せとパーティー会場で宣言した女傑が、覇王国の争いを制してしまった。


 覇王国の王城。


 広間には大勢の武官たちが列席し、王太子の誕生に歓喜していた。


 アリューナの父である覇王が、膝をつき頭を垂れるアリューナに王太子の証であるサークレットを頭に乗せていた。


 覇王が娘に小声で話しかける。


 周囲の者たちには聞き取れない親子の会話のはじまりだ。


「お前が王太子になるとは予想外だ。いっそ性別を換えたらどうだ? 男の方が戦いで有利になるぞ」


 覇王も元は女性だったが、戦いに生きるために性別を変えた過去がある。


 そんな覇王を、立ち上がったアリューナが鼻で笑う。


「我は女のまま最強の地位に立つと決めている。お前と一緒にするな」


「お前は昔から可愛げがない。――昔から我はお前が嫌いだった」


 実の父親に嫌われながらも、アリューナは笑みを浮かべていた。


「知っている。だが、強者は妬まれるものだからな。お前の嫉妬は受け入れよう」


 覇王を格下扱いするアリューナは、覇王に背を向けると集まった武官たちに体を向けた。


 そして宣言する。


「内戦に明け暮れたが、我はもう飽き飽きだ」


 王太子の弱気な発言に、武官たちがざわめく。


 しかし、アリューナが獰猛な笑みを浮かべて新しい獲物が誰かを皆に伝える。


「弱者共の相手はもういい。今度こそ――帝国との戦いを再開する!」


 武官たちがアリューナの言葉に大歓声を上げる。


 三十年という停戦期間が終わり、ついに帝国との戦いを本格的に開始しようとしていた。


 アリューナにとって、王太子の地位を争う戦いは退屈だった。


 目指すは帝国――狙うはバンフィールド家だ。


(バンフィールド家が出てくることを祈ろう。奴らは粒ぞろいだ。帝国最強の騎士クラウス――そして、兄を殺したリアム! 実に戦い甲斐がある)


 唇を舌で舐めるアリューナは、自分が求める獲物を想像する。


(必ず我が倒して、リアムの最強の遺伝子を手に入れる)



 覇王国が帝国に宣戦布告。


 その知らせが届いた帝国の首都星では、宮殿で皇太子クレオと皇帝バグラーダが対策を練っていた。


 ただ、そこに緊張感はない。


 帝国にとっては数ある国境での一つの出来事で、多少の勝ち負けは大勢に影響がないからだ。


 極端な話、負けたところで痛くも痒くもない。


 そうなると、覇王国との戦争には別の思惑が入り込んでしまう。


 クレオが提案するのは、政敵の排除だった。


「覇王国との戦いは、バンフィールド家に任せておくべきかと」


 バグラーダは、皇帝とは思えないラフな恰好をした三十代くらいの優男の姿だ。


 今はクレオとボードゲームを楽しんでいる。


「露骨だね。だが、嫌いではないよ」


 バグラーダが駒を動かすと、次にクレオが駒を手に取った。


 手で遊ばせながら、バンフィールド家に国境を任せる意図を話す。


「覇王国とバンフィールド家単体をぶつければ、両者共に疲弊するでしょう。公爵は確かに帝国一の実力者ですが、覇王国と戦争をすれば弱体化しますからね」


「覇王国は強いからね。それに、戦争が大好きだ。バンフィールド家も弱体化は免れないだろうね」


 自国の領土を失うというのに、二人は随分と穏やかだった。


 それどころか、政敵であるリアムをいかに弱体化させるかを話し合っている。


 バグラーダは戦争が起きようとしているのに、随分と楽しそうだ。


「バンフィールド家と親しい貴族たちは、他の国境に派遣しよう。お仲間と引き離しておかないとね。他にも面倒な者たちを覇王国にぶつけて、すり潰しておこうか」


 クレオは遊ばせていた駒を配置すると、バグラーダの提案に難色を示す。


「公爵と親しい貴族たちが、今の俺に従うでしょうか?」


「皇帝である私からの勅命ならば従うさ」


「そこまでして頂けるのですか?」


「当然じゃないか」


 今のクレオにとって、最大の支援者は皇帝だ。


 勅命が出れば、リアムと親しい貴族たちも従わざるを得ない。


 皇帝は宰相の名前を出す。


「実は宰相からバンフィールド家に不穏な動きあり、と聞かされてね。どうやら、軍備増強を急いでいるそうだ。帝国は反逆の意思ありと思わざるを得ない。これを払拭するためにも、バンフィールド公爵には誠心誠意帝国のために働いてもらわないとね」


 バンフィールド家単体で覇王国にぶつけるのは、帝国への忠誠心を試すため。


 お題目を得たクレオは、にやりと微笑む。


「負けてもよし、勝てたとしても噂の払拭で報酬はなしですか?」


「帝国の懐事情は厳しいからね。その方が予算的にもありがたい」


 国境の守りを任せるのに、帝国からの支援は一切無しという無情な条件がバンフィールド家に出される。


 覇王国に負ければ、バンフィールド家は大きく弱体化するだろう。


 勝てたとしても、覇王国相手に無傷では済まない。


 どちらにしてもリアムは大きく被害を受ける。


 それで得られるのは、帝国への忠誠心を示したという事実だけ。


 その事実も、クレオやバグラーダの心に響かない。


 全くの無駄に終わることが確定していた。


 クレオはリアムを追い込むために、更なる手を思いつく。


「バンフィールドの関係者の切り崩しも進めましょう。商人、兵器工場関係は早めにこちら側に取り込み、裏切らせて――」


 味方を裏切らせるという提案に対して、バグラーダは首を横に振る。


「それではつまらないだろう? 彼に味方した者たちも巻き込めばいい」


「いや、ですが」


 リアムの関係者は多く、巻き込めば国内の混乱は更に大きくなる。


 バグラーダはそれを望んでいるようだった。


「商人も兵器工場も代わりはいくらでもいる。時々はこうして片付けて、整理整頓を心がけないとね」


 クレオの提案は却下されてしまった。


「それでは、派遣する軍に何か仕込みを?」


「何もしない」


「え?」


 クレオは信じられなかった。バグラーダは、これから覇王国と戦うリアムに対して何もしないと言っている。派遣する軍隊にリアムの邪魔、あるいは暗殺の密命を出すこともない。


 バンフィールド家の切り崩しを行う様子もない。


 戸惑うクレオに、バグラーダは優しく説明する。


「急激に数を増やした軍隊というのは、どうやっても脆いものだよ。公爵のような気高い理念を理解しているのは、周囲にいる者たちだけだろうね」


「確かに、数だけを増やせば面倒な輩も集まるでしょう」


「この帝国では特にね。領主たちの持つ惑星を買い取り、惑星を持たない流浪の民たちを受け入れる――効率的ではあるが、何事もうまくいかないものさ。この帝国にだって、公爵のようなことをした者たちはいた」


 過去にリアムと同じような動きを見せた貴族たちがいた。


 そうした者たちの末路をバグラーダはクレオに教える。


「ほとんどが味方の裏切りや部下たちの独立により滅んでいったよ」


「――勝負は最初から決まっていると?」


「可哀想だけどね」


 クスクスと笑うバグラーダは、今後の展開を予想してクレオに聞かせる。


「バンフィールド家は自ら増やした統制の取れない軍隊によって、覇王国との戦いで足を引っ張られるのさ。今回を乗り切れたとしても、ほころびは必ず生まれる。次の機会があれば、そこを狙って仕掛けるのも楽しいよ」


 急速に数を増やした弊害が、大事な場面で必ず足を引っ張るとバグラーダは見ていた。


 クレオはリアムの未来を予想し、意地悪い笑みを浮かべた。


「――すぐにバンフィールドを首都星に呼び出します」


「頼んだよ、クレオ」


 クレオはリアムを首都星に呼びつけ、覇王国との苛烈な戦いに放り込もうと画策する。



 ――クレオの野郎が俺を首都星に呼びつけた。


 あいつは何様のつもりだろうか?


 お飾りの皇太子の分際で、政敵の俺を呼びつけるとか身の程知らずにも程がある。


 そんなクレオが、俺を目の前にして命令してくる。


「バンフィールド公爵には覇王国との国境で守備を頼もう」


 少し前まで国境の守護をしていたが、クレオとの手切れの際に俺の戦力は全て引き揚げさせた。


 それなのに、こいつはまた俺に覇王国と戦えと言う。


「帝国の正規軍を派遣するべきですね」


「他の国境も騒がしくてね。君の友人たちにも助力を求めている状況さ。バンフィールド家と親しいエクスナー家にも出てもらっている」


 クルトが言っていたな。


 何故か勅命で国境の増援を依頼された、と。


 クレオの後ろには皇帝バグラーダがいるから、当然のように繋がっている。


 俺はクレオを通して、その後ろにいる皇帝を見ていた。


「バンフィールド家単体で覇王国の相手をしろと?」


 バグラーダはとぼけた態度を見せる。


「もちろん、帝国からも軍隊を派遣するよ。それに、今の君は随分と戦力を増強しているそうじゃないか。帝国内には、バンフィールド家が帝国を裏切るつもりだと、噂をしている者たちが多い。忠誠心を示す良い機会だと思わないかな?」


「俺が裏切る? まさか」


「そのためにも公爵の忠誠心を示して欲しい。それから、帝国の懐事情も厳しくてね。派遣する軍隊の世話も頼むよ」


「物資を俺の方で用意しろと?」


「そういうことだ」


 断れば反逆の意思ありとして、あの手この手で嫌がらせをするのだろう。


 俺には帝国の命令に従う道しか残っていなかった。


 だが――意外に温いな。


 条件を確認するが、帝国から軍隊は派遣されるが支援は一切無し。


 これには腹も立つし、派遣される連中は期待できない者がほとんどだろう。


 中にはこちらの足を引っ張る者もいるだろうが、想定の範囲内だ。


 戦場で可能な限り足を引っ張らせ、隙があれば後ろから俺を撃たせるつもりか?


 クレオも同じ手を使っていたが――皇帝がこの程度かと疑問も抱く。


 まるで遊んでいるようにしか思えない。


 そちらの方が不気味に感じて、どうしても表情が強ばる。


 俺が困っているとでも思ったのか、クレオは上機嫌だ。


「公爵には期待しているよ」


「お好きにどうぞ」


 用件を済ませた俺は、クレオの執務室を出て行く。


 すると、外で待機していたリシテア殿下に呼び止められた。


若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「明日は 俺は星間国家の悪徳領主!4巻 の発売日~。コミカライズ1巻も同時発売だから、しっかりチェックしてね」


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。リアム様が覇王国に愛されすぎて――辛いです」


若木ちゃん( ゜∀゜)「突撃大好きリアム君と、戦争大好き覇王国は似たもの同士だから仕方ないね!」

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