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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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真・悪徳領主!

「てめぇは馬鹿なのか殺すぞ!」


「申し訳ございませんでした!」


 憤慨する俺の目の前で、土下座をする男がいた。


 俺に自領を売りつけた貴族である男は、震えながら床に額を押しつけている。


 無駄にプライドの高いアルグランド帝国の貴族が、ここまで下手に出るのには理由がある。


 俺が公爵であるのが理由の一つだが、もう一つは単純に武力の差だ。


 子爵の周囲には、自身を守るはずの騎士たちが転がっている。


 その周囲を囲むのは、俺の騎士たちだ。


 土下座をしている子爵の顔も、殴られて酷い有様だ。


 どうして俺がこんな非道を行っているのか?


 理由は、子爵から買い取った領地にある。


「何が辺境の至宝だよ。見るも無惨な状況で、よくも嘘が言えたものだな。よくも俺を騙してくれたな」


 土下座した子爵の後頭部を踏みつけると、ガタガタと震えている。


「め、滅相もありません。私自身、この惑星は大変素晴らしいと思うわけでして」


 足に込める力を増して、子爵の頭を床にめり込ませた。


「お前の頭は飾りか? これのどこが大変素晴らしい光景だ!!」


 周囲に広がる景色だが、控えめに言ってもみすぼらしい。


 宇宙戦艦で子爵の惑星までやって来たのだが、大気圏を突破して地上近くに来ると目を疑った。


 領民たちの暮らしだが、前世感覚で言えば近代だ。


 蒸気機関車が走っている。


 一部の観光地でレトロを楽しむとか、そんな理由ではない。


 子爵の惑星が、近代レベルの暮らしを送っていた。


 俺の戦艦が空に浮かんでいるのを見て、古いカメラで写真を撮っている領民たちの姿が見える。


 前世の感覚でもいつの時代のカメラだ? と問いたくなるようなカメラで、だ。


 子爵を蹴ると、床を転がった。


「お前は領地経営を舐めてんのか!」


 本来、宇宙に進出していない惑星に手を出すのはルール違反だ。


 その惑星独自の文化や技術が失われるのを恐れてのルールなのだが、これには一つ落とし穴がある。


 本来所持していた宇宙進出を可能とする技術を封印した惑星は、適用外となる。


 子爵の領地は、本来ならばもっと発展していたはずだ。


 それなのに時間をかけて技術を奪い、領民たちに近代レベルの暮らしをさせている。


 無駄。無駄の極みだ。


 俺は無駄が大好きだが、不利益を被るなら話は違う。


 子爵が顔を上げて言い訳をする。


「わ、私どもの家では、このくらいの文明レベルが大変美しいと思うわけでして」


 自分の好みに領民たちを巻き込んだ――普段なら笑って許してやるが、今の俺には許容できない。


「遊んでんじゃねーよ!」


 自領で好き勝手にした結果、残ったのが莫大な借金とか本当に馬鹿である。


 総人口五億人程度の惑星を手に入れたのはいいが、ここから発展させるのはかなりの労力が必要になるだろう。


 平謝りしている子爵を無視して、俺は最も頼りにしている騎士に視線を向ける。


「クラウス、最短でこの惑星を帝国の標準レベルに持っていく方法はあるか?」


 バンフィールド家の筆頭騎士【クラウス・セラ・モント】は、普段通りの落ち着いた雰囲気で俺に助言をしてくれる。


「バンフィールド家の領地から入植者を募り、教育するしか方法がありません。必要施設だけを用意しても、子爵の領民たちには使いこなせないでしょうからね」


 便利な道具や施設を用意しても、領民たちにはオーバーテクノロジーで整備できない。


 最短で領地規模を拡大しようとしたら、より面倒な仕事が増えてしまった。


「採用する。だが、間違えるな。もう子爵の領民じゃない。今日からは俺の領民だ」


「はっ」


 何も知らない元子爵の領民たち――これから俺が何をするのか知れば、きっと昔の方が良かったと嘆くのだろう。


 だが、俺には関係ない。


 精々、利用してやるさ。


「すぐに移住希望者を募れ」


「はっ。――ですが、予想よりも惑星の文明レベルが低すぎます。派遣する者たちの数も増やさねばなりませんが、当家には既に余裕がありません」


 全力で領地開発を行っており、育った騎士や軍人に役人たちを次々に投入している状況だ。


 人手は用意できても、統治する管理者が圧倒的に足りていない。


「しばらくは俺が統治する。――くそ、外れを引かされた」


 既に子爵から領地を買い取っており、今更突き返す事も出来ない。


 外れを掴まされた俺は、しばらく子爵の領地で領内改革を行うことになった。


 クラウスや周囲の騎士たちがざわめく。


「リアム様自らですか?」


「本星は俺がいなくても統治できるからな。それに、俺には親衛隊がある。惑星一つくらい開発できるだろ」


 公爵である俺には、護衛として親衛隊が存在する。


 エリート揃いの親衛隊は、本来なら俺の偉容を見せつけるための道具だ。だが、見せかけだけの親衛隊にも働いてもらうしかない。


 というか、俺が働くのだからお前らも働けと言いたい。


「そ、それはそうですが――いえ、今はロゼッタ様もおられますし、数年程度なら何とかなるかも知れませんね」


 あまりに忙しすぎて、ロゼッタまで駆り出している。


 ロゼッタに頼るのは癪だが、プライド云々など言っていられなかった。


「流浪の民でも何でもいいから、声をかけて呼び集めろ。すぐにこの惑星を開発する」



 バンフィールド家の本星。


 夕方となると、酒場が賑わい始める。


 領民たちは、政庁から出された移住希望者を募る話題で盛り上がっていた。


「また惑星を手に入れたのか? これで何度目だ?」


 客があきれ顔でそう尋ねると、グラスを磨くマスターがため息をもらす。


「決まったのは三度目だな。今度は子爵家から購入したらしい」


「領主様は修行が終わったのに、相変わらず大忙しだな」


「しばらく本星で落ち着くかと思っていたのに、またフラフラ出歩くからな」


 リアムが修行を終えれば、本星に腰を据えるか首都星で忙しく働くかの二択と思われていた。


 だが、気が付けば辺境での領地拡大に精を出している。


 極端な話をすれば、領民たちにはリアムが都会で仕事をしようが、田舎で仕事をしようが関係ない。


 どちらも不満だからだ。


「もういい加減に落ち着けよ」


 客の男がそう言うと、マスターが困ったように笑う。


 本来なら貴族に対してこのような物言いは、リアムの統治以前なら処刑物だ。


 しかし、今は誰も咎めない。


 リアム自身が厳しく取り締まっていないためだ。


「そう言うな。文化交流で来た客から聞いたが、彼にとってはうちの領主様は天の助けらしいぞ」


「天の助け? 何の話だ?」


 客が不思議そうにしながら、グラスに入った酒を少し飲む。


 マスターは視線を客の後方へと向けた。


 そこにいたのは、丸テーブルを囲む四人の男性たちだ。


 仕事終わりと分かる作業着姿で、酒や料理に強い関心を示している。


 ありふれた酒と料理を不思議がる姿は、客から見ても不思議だった。


「文化交流の連中か? 出稼ぎの間違いじゃないか?」


「一応、インフラ整備を学ぶってお題目らしい。知っているか? 元子爵家の領民たちは、蒸気機関車を使っていたそうだ」


「歴史の授業で習った気がするな。確か、古代だったか?」


「子爵に文明レベルを制限されていたのさ。嫌になる話だ。発展しようとすると、強引に止められるんだからな」


 領民たちが画期的な技術を生み出し、文明レベルが進もうとすると強制的に封印されていた。


 それを酷い話だと、マスターも客も頷きながら互いに同意する。


 客は、大体の話の流れを理解する。


「領主様は文字通り、まさに天から来た助けというわけか」


「感謝しているらしいぞ」


「そいつはいいね! ――慈悲深い領主様で涙が出てくるぜ」


 不満そうにする客だが、マスターにはその態度がすねているように見えた。


 酒をチビチビ飲む客に、マスターが呆れながら注意する。


「嫉妬か? 大の男が嫉妬する姿を見せられる、俺の気持ちも理解してくれ」


「嫉妬じゃねーよ! 領主様っていうのは、もっとこう――本星でドカッと腰を落ち着けるものだろう? 今はクラウス様っていう帝国一の騎士様もおられるんだ。あの人に任せればいいじゃないか」


 本星を離れて関係ない惑星に施しをするリアムに、戻ってきて欲しいという客の願いだった。


 マスターが笑う。


「あの人は凄いよな。少し前まで、筆頭騎士はクリスティアナ様だったのに、今では当然のように名前が挙がる」


「クリスティアナ様か。凄く綺麗だったよな。今は何をしているんだ?」


「確か――」



「海賊は皆殺しだぁぁぁ!」


 超弩級戦艦ヴァールのブリッジでは、領民たちが話題にしていたクリスティアナ――ティアが両手を広げて怖い笑みを浮かべていた。


 口を三日月のように広げ、血走った目を大きく見開いていた。


 数万の艦隊が追いかけているのは、リアムが手に入れた新しい惑星の周辺宙域に潜んでいた海賊団だった。


 数百隻の海賊団が、最新鋭の艦艇に追い回されて次々に撃破されている。


 投降を申し出る通信も届いているが、ティアはそれらを一切無視していた。


 ティアの副官を務める女性騎士が、右手を前に出して命令する。


「殲滅せよ。ここは既にリアム様の領域。海賊がはびこるなど、あのお方は絶対にお許しにならない!」


 その言葉に艦隊の攻撃は苛烈を極める。


 ティア率いる艦隊は、リアムが得た領地周辺の賊退治を自ら進んで行っていた。


 海賊に対して恨みを持つ者が多く配置され、海賊退治に関してはプロ集団になっている。


 オペレーターがティアに海賊からの通信を繋いだ。


「クリスティアナ様、海賊団の団長と名乗る者が通信を求めています」


 ティアは暗い笑みを浮かべ、司令官の席に腰を下ろして脚を組む。


「いいわよ」


 先ほどまで一切の命乞いを聞き入れなかったが、団長の通信には応える。


 ティアの前にノイズの多い映像が投影されると、ひげを生やした優男がかなり焦っていた。


 艦内は酷く揺れているのが、映像から伝わってくる。


『俺たちはあんたらの縄張りには手を出さない! すぐに出て行くから攻撃を止めてくれ!』


 バンフィールド家の名前に震え上がる海賊を前に、ティアは笑みを浮かべている。


 ただし、目だけは笑っていない。


 冷たく、酷くよどんだ瞳をしていた。


 団長の懇願は続く。


『それに、俺たちはあんたらに手を出していないだろ? 見逃してくれれば、二度と目の前に現れないと約束する』


 リアムが子爵家の領地を得た。


 それを聞いて、逃げだそうとした海賊団をティアたちが発見して攻撃していたわけだ。両者の間にわだかまりなど存在しないが――ティアは海賊という存在を憎悪していた。


「お前たちが悪さをしようがしまいが、私には何の関係もない。海賊というだけで存在価値がないのよ」


『お前ら――それでも名君と呼ばれたリアムの家臣かよ!』


「ゴミ屑がリアム様を語るな。――私はお前たちの命乞いが聞きたかっただけだ。じゃあな、宇宙海賊」


 ティアがそう言うと、団長との通信が途切れる。


 味方の光学兵器が敵艦を貫いたらしい。


 副官がティアに淡々と告げる。


「殲滅を確認しました」


「よろしい。それでは、次に向かうわよ。ここは既にリアム様の庭――ゴミはまとめて掃除しないとね」


 リアムへの忠誠心と私怨が混じり合い、ティアは海賊たちを徹底的に叩いていた。


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。リアム様が過労死しないか心配で辛いです」


若木ちゃん( ゜∀゜)「私知っているわ! わーかーほりっくってやつよね? そんなことより、今日も元気に宣伝よ! 乙女ゲー世界は――」


ブライアン(`・ω・´)「【俺は星間国家の悪徳領主! 4巻】が 【10月25日】 に発売でございます! 今回はコミカライズ版1巻も同時発売ですので、よろしくお願いいたしますぞ!」


若木ちゃん(#゜д゜)「――私の宣伝の邪魔をしたわね。二度と光合成できない身体にしてやるわ」

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