十章エピローグ
これにて10章は終了となります。
次回更新は未定ですが、余裕が出来たらまた書きためて更新したいですね。
年内には。年内には更新できるはず?
そして今日も元気に宣伝だ!
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リアムに身柄を預けられたカルヴァンは――バンフィールド家が所有する開拓惑星に放り込まれていた。
大国の皇太子が過ごすには、環境が整った場所とは言えない。
二度と開拓惑星から出られないカルヴァンだが。
「カルヴァンさん、そろそろ上がりましょう」
「もうそんな時間かい?」
「えぇ、今日は頑張りすぎですよ」
重機から降りたカルヴァンが時間を確認すると、十七時を過ぎていた。
周囲を見れば何もなく、開拓途中で重機が並んでいる。
カルヴァンよりも若い男性が、この後の予定を聞いてくる。
「今日も真っ直ぐ家に帰るんですか?」
カルヴァンは汗を拭いながら、照れながら頷く。
伸ばしていた髪は短くなり、髭も剃っている。
最近は日焼けもするようになり、肌は日焼けで濃くなっていた。
「子供が遊んでくれと五月蠅くてね。明日の休みも遊園地に連れて行くから、今日は休んでおかないと体が持たないよ」
「家族思いですね」
「ちょっと前まで家族を蔑ろにしていてね。そのお詫びというやつさ」
「愛妻家のカルヴァンさんが?」
「昔は色々とあってね」
カルヴァンがバンフィールド家に身柄を預けられる際に、結婚していた女性たちの多くが離縁を申し出てきた。
誰もが苦労すると分かっているバンフィールド家での生活を嫌がったからだ。
しかし、その中に一人だけ子供を連れてついてきた女性がいる。
カルヴァンが好きになり求婚した相手は、元は一般庶民の女性だ。
彼女だけはカルヴァンに子供と一緒についてきた。
最初はバンフィールド家での扱いを恐れてカルヴァンも家族を連れて行くのを拒否したが、その妻は立場も弱くどこにいても一緒だと強引についてきた。
どうせなら家族一緒が良いと言われ、カルヴァンは情けないが嬉しさに涙した。
そのため、今は家族優先で過ごしている。
「カルヴァンさん、今日も飲み会は不参加?」
「あの人の話は面白いから、参加して欲しいんですけどね」
「あ~、あの人は何か知的な感じだよな。色々と出来るし、実はどこかのお貴族様って噂もあるぞ」
「まさか。そんな人が開拓惑星に来るわけないですよ」
「それがあり得ない話でもないんだぜ。色々とあって逃げ出すお貴族様も多いからな。あの人も、貴族社会が嫌になって逃げ出した口じゃないか?」
「へぇ~、俺たちお貴族様と仕事しているんですね」
「ま、噂だけどな」
自分たちと一緒に働いているのが、帝国の元皇太子とは知らないバンフィールド家の領民たちだった。
◇
カルヴァンは仕事帰りにお土産を買い、家に戻ってくる。
宮殿と比べれば酷く小さいし、カルヴァンの自室よりも狭い一軒家だ。
戻ってくると妻が台所から玄関にやって来る。
「お帰りなさい。夕飯が出来ていますよ」
「良い匂いだね」
家に入ると、今度は子供達がカルヴァンに跳びかかってくる。
「パパ、お土産は何!」
「こらこら、仕事帰りで汚いから抱きつくなら後にしなさい。お土産はドーナツだ」
「わ~い」
子供達がドーナツの入った箱を持ってドタバタと居間へと向かうのを見送る。
その姿に罪悪感を覚える。
(首都星に残った元妻や子供達はどうしているだろうか?)
ここにはいない家族を気にかけるカルヴァンは、妻と話をする。
「今日はどうだった?」
曖昧な質問に妻は何を言いたいのか察して答える。
「お昼にバンフィールド家から調査員が来て、話をして終わりでしたよ」
「今後の話は?」
「特にありませんでした」
バンフィールド家に身柄を預けられたカルヴァンとその家族だが、その暮らしは一般人領民レベルだった。
高度な教育を受けたカルヴァンは仕事を探せば色々と選べるし、割と自由な時間を過ごしている。
確かに贅沢は出来ないが、カルヴァン達からすればある意味で理想の生活が送れている。
宮殿では何をするにも許可が必要で、周囲の顔色をうかがう必要があった。
だが、ここにはそれがない。
贅沢は出来ないが、不自由な暮らしよりもマシだというのがカルヴァンの本音だ。
だからこそ不安もある。
「う~ん、普通はもっとこう――厳しいと思うんだが?」
「元皇太子が領民並の生活を送るんですから、十分な罰だとバンフィールド公爵が考えているのではありませんか?」
妻の意見にカルヴァンも妙に納得する。
リアムとは敵対していたが、確かに清廉潔白なところがあった。
皮肉な話だが、カルヴァンはリアムをどこかで信じていた。
「色々と苦労すると思ったんだけどね。確かに色々と大変だが、正直に言えば今の方が気は楽だね」
「そうなんですか?」
「後継者争いや、その他諸々で悩まずに済むからね。こうなると分かっていれば、さっさと負けを認めていたよ」
カルヴァンは、帝国を背負わず結果的に良かったと思っていた。
バンフィールド家の監視のもと、カルヴァンとのその家族は一般的な生活を謳歌している。
◇
エクスナー男爵家の領地。
バンフィールド家からの支援を受けた惑星は、以前とは見違えるような発展を遂げていた。
だが、エクスナー男爵は以前から使用している屋敷を使い続けている。
リアムのように新しく用意することもなく、質素な生活を送っていた。
クルトもそんな生活を苦とも思わず過ごしていた。
今は屋敷の中庭を三人で散歩している。
クルトたちの目の前で、ワンピース姿ではしゃいでいるのは――3588番だ。
彼女に向かってクルトは名前を呼ぶ。
「リリー、あまり遠くに行ったら駄目だよ」
「は~い」
見た目は成人したばかりの女の子だが、【リリー】はまるで幼い子供のようだ。
泥だらけになるのも気にせず、遊び回っている。
そんな様子をクルトの隣で見守っているのは、婚約者のセシリアだ。
今はエクスナー家で世話になっており、結婚間近である。
セシリアはおっとりした女性で、リリーの様子を温かい眼差しで見守っている。
「あらあら、リリーは本当にお転婆さんね。リシテアの小さい頃を思い出すわ」
そんなセシリアにクルトは困ったように微笑む。
「申し訳ありません。僕の勝手なわがままで彼女を引き取ってしまって」
それを聞いてセシリアは首を横に振る。
「戦場で見つけた孤児なのでしょう? 貴族としての振る舞いとして正しいと思いますわ」
セシリアは気にした様子がなかった。
リリーがクレオの生み出したクローンだとは知らせていないのもあるが、セシリアは根が善性でクルトに近い。
可哀想なリリーをクルトが引き取ったと信じ切っている。
ただ、僅かに疑う気持ちも残っていたようだ。
「もしかして、クルト様の好みだったのですか?」
「それは――否定は出来ないかな?」
クルトは隠し事をせず、セシリアに自分の気持ち話す。
「彼女を助けたいと思ったのは事実です。生い立ちが色々と複雑なのはありますけどね。それに、彼女は長く生きられない。せめて、短い間だけでも幸せであって欲しいと思います」
「側室にされるのですか?」
「まさか。可愛い妹のような存在だと思っていますよ」
クルトがそう言うと、セシリアは安堵したのかホッと胸をなで下ろした。
「それを聞いて少し嬉しく思います」
「え?」
「恥ずかしい話ですが、リリーに少し嫉妬していました。クルト様が連れてきたので、蔑ろにされないかと不安だったんですよ」
セシリアはクルトを政略結婚とは言え、好きになろうと――いや、好きになっていた。
クルトは申し訳ない気持ちになる。
「それはないですよ」
(――すみません。僕はリアムを裏切れない。多分、リアムが望むなら貴女の弟と戦うことになるでしょうね。結果的に、貴女をいつか裏切る事になる)
クルトは楽しそうに走り回るリリーを見て、クレオのやった事に腹を立てる。
(リアムを裏切ったのはまだ理解できる。腹は立つが、それでも政治だ。納得は出来ないけど受け入れるさ。だけど、それでも手を出してはいけない領域がある。クレオ殿下はそれを簡単に越えてしまった)
リアムに勝つためにクローンを作り、人工知能を頼った。
貴族の財産を徴収したのもやり過ぎだ。
クルトには、クレオに暗愚の片鱗が見えていた。
(このままクレオ殿下が皇帝に即位すれば、きっと帝国は荒れるだろうな)
将来を憂いていると、リリーが倒れてしまう。
クルトは慌てて駆け寄ると、リリーを抱き起こした。
「ほら、あんまりはしゃぐから」
「えへへ、転んじゃった」
「こっちにおいで」
クルトとセシリアがリリーを近くにある水場に連れていくと、泥を落としてやる。
噴水のような場所だが、水の中に入ると汚れが分解された。それなのに、その場から出るとすぐに乾いてしまう。
リリーは両手をバタバタとさせた。
「これ凄いね。もう綺麗になったよ」
そんなリリーを見て、セシリアは少し戸惑う。
「凄いのかしら? どこにでもあると思うのだけど?」
戸惑うセシリアに、クルトはリリーの境遇を少しだけ説明する。
「リリーは特殊な場所で育ったから、こうした日常的な物を知らない事が多いんですよ」
「それは――ごめんなさいね。気が利かなかったわ」
セシリアが謝罪をすると、リリーは首を横に振る。
「ううん。平気だよ。だってね、リリーには帽子さんがいてくれたんだよ」
「帽子さん?」
セシリアが首をかしげて視線を向けてくると、クルトが首を横に振って自分も知らないと示す。
「育った場所の世話係だったと思うんですが、詳しいことはリリーも知らないようです」
リリーは必死に帽子さんについて話す。
「あのね、帽子さんは凄く物知りなんだよ。私が困っていたら助けてくれたし、苦しんでいたら治してくれたの。えへへ、クルトに名前をもらったから、いつか帽子さんに番号じゃなくて名前を呼んでもらうんだ」
クルトはリリーの頭を優しく撫でる。
「そうだね。いつか呼ばれるといいね」
「うん! 帽子さんだけが私の味方だったの。でも、どうすれば会えるのかな?」
「う~ん」
クルトは腕を組み考える。
(リリーが育った施設は極秘だろうし、もしかすると既に証拠隠滅を図っているかもしれないな。その帽子さんもいないかもしれない。仮に生きていたとしても、会える可能性はほとんどないだろうな)
クレオが禁忌に触れた証拠を残している可能性は低く、残していたとしても以前の場所には存在しないだろう。
だから、クルトはリリーに教える。
「いつか出会えるように祈ろうか」
「祈る?」
リリーが知識にあるように両手を合わせる。
すると、急に当たりをキョロキョロと見回した。
「どうしたんだい、リリー?」
「あのね。あのね! 今ね、ワンワンがいたよ。届けてくれるって!」
「ワンワン?」
クルトが周囲を見るが、犬の姿はどこにもなかった。
◇
どこかの宇宙。
案内人が帽子だけの姿で、涙を流していた。
流した涙が玉になって周囲に漂う。
「リアムを呪うことすら出来ないなんて。以前ならば、ミスリル程度で跳ね返されるようなことはなかったのに」
自分の力が随分と落ちて、逆にリアムは以前よりも力を増している。
その差は開くばかりだ。
「諦めないぞ。私は絶対に諦めない。リアム、お前さえ潰せば私は復活してこの世界を不幸のどん底に叩き落とせる。お前さえいなければ」
ブツブツと恨みを呟いている案内人の背中に、犬が姿を現した。
その口にはナイフを咥えている。
ナイフを放すと、それは案内人に目がけて飛んでいく。
そのナイフは――リリーの感謝の気持ちが込められたナイフだった。
案内人の帽子にナイフが突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁ!! こ、この感謝の気持ちはリアム!? い、いや、違う。まさかこれは――3588番!? 何でお前の感謝が私に届くんだぁぁぁ! あ、駄目。深く刺さらないで! 私の本体が割ける! 割けちゃう!」
必死にナイフを抜こうともがく案内人の姿を見て、犬は満足したのかどこかへと消えていく。
「あれだけ目をかけてやったのに、よくも裏切ったなぁ、3588番!!」
案内人の叫び声だけが宇宙空間なのに響き渡った。
シエル(;゜Д゜)「え、ちょっ! 待って。お兄ちゃん待って! 妹は私! 私がいるじゃない!」
ブライアン(´;ω;`)「シエルさんが可哀想で辛いです。でも、リアム様を疑う姿勢は許しません。本当に何を考えているのか」
シエル(#゜Д゜)「あいつは悪い奴なの! 自分で悪党だって言っていたの!」
ブライアン(´;ω;`)ノシ「それはそうと、10章はこれにて終了となります。お付き合いいただきありがとうございました。また、書籍版【俺は星間国家の悪徳領主! 3巻】もよろしくお願いしますぞ。今回の話とも繋がるリアム様とロゼッタ様との出会いが描かれております。本当に結婚するまで七章も費やすとか――リアム様が奥手で辛いです」
※10章はいかがだったでしょうか?
11章の更新は現時点で未定となっております。
次回を更新の際には活動報告やTwitterで告知するので、その時はよろしくお願いします。
今日か明日は活動報告を更新して、10章に対する自分の感想などを書こうと考えています。
そして良ければ下部▼から「俺は星間国家の悪徳領主!」に対して評価が行えますので、是非ともご利用ください。
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