バンフィールド公爵
作品紹介に「ドラグーン」や「パンドラ」がないとのご指摘がありました。
どちらも読んで欲しいですが、何作品も羅列するより三つくらいに絞った方がいいかなって。
でもパンドラは色んな意味でセブンスよりも難易度高いかもしれませんね(;゜ロ゜)
結婚式当日。
貴族の結婚式ともなれば、個人の思い出云々よりも儀式や見世物に近い。
周囲にクラウディア家を吸収したバンフィールド家が、公爵になると示す式典だ。
そのため、着替えをすませた俺とロゼッタは出番を待っていた。
招待客は基本的に戦場で戦った同じ派閥の貴族たちや、バンフィールド家の関係者達に絞っている。
本来ならもっと客を集めたかったが――遊んでいる余裕がなくなったため、関係を築く相手も選ぶことにした。
俺の財産目当てにすり寄ってくる連中に構っている暇がない。
それにしても、結婚式は前世も含めれば二度目である。
「緊張しているようだな、ロゼッタ」
「ダーリン、椅子に座ったら?」
「立っている方が落ち着く」
緊張しているロゼッタをからかおうと思ったが、何故か心配されている。
周囲も俺を気遣う奴らばかりだ。
マリーがロゼッタを放置して、俺にばかり構ってくる。
「リアム様、普段通りで構いません」
「俺は普段通りだ」
「そ、そうですか。先程から落ち着きがないので、心配になってしまいました」
――ロゼッタをからかおうと思っていたのに、妙に緊張してくるのは何故なのか?
あぁ、前世を思い出す。
元嫁に気を遣って綺麗だとか色々と言っていた気がするが、今にして思えば全て無駄だった。
だからロゼッタには絶対に言わないと心に決めていたのだが――。
「ダーリン」
「何だ?」
「ダーリンの衣装はとても素敵ね」
「これか? トーマスに大金を積んで用意させたからな。一度しか着ないのに、予備まで用意した。無駄に豪華だろ」
衣装が淡く自然発光しているし、ミスリルを使用しているから聖なる加護とか何とかで縁起物らしい。
――俺はもっと金ピカがよかったのに、天城に「――ロゼッタ様の衣装と揃えてください」と言われて諦めた。
ロゼッタが俺の姿を褒めてくる。
「無駄じゃないわ。ダーリンにピッタリよ。私の方が釣り合うか不安だもの」
――何これ? もしかして俺の方が気遣われているの?
ロゼッタが落ち込むため、とりあえずフォローする。
「そ、そんなことないだろ。釣り合いは取れているはずだ。そうだな、マリー!」
「え? あ、はい」
マリーはどこか「どうしてそこであたくしに振るのですか!?」という不満げな顔を見せた。
――こいつ、俺に不満そうにするとか許されないぞ。
怒鳴ろうとしたら、ドアが開いて天城が入室してくる。
「旦那様、お時間でございます」
「そうか」
先に俺の出番が来るため、ロゼッタを残して控え室を出た。
◇
リアムが控え室を去ると、ロゼッタがクスリと笑う。
「どうかなさいましたか?」
マリーが気になって尋ねれば、ロゼッタはリアムの様子を思いだして説明する。
「ダーリンがあんなに緊張するとは思わなかったの。見ていると逆に落ち着けて、何だかそれがおかしくて」
マリーが納得したように頷くと、先程のリアムの様子に自分も驚いていたと語る。
「戦場でもあのような様子は見られませんよ。ロゼッタ様だけの特権ですわね」
「それは違うわ。たぶん一番は――」
◇
控え室から出て廊下を歩いていた。
天城は俺の斜め後ろに付き従っている。
屋敷ではいつものことだが、今日は妙な気分だ。
「この結婚で俺は公爵だ。天城、俺は百年でここまで来られた。――お前のおかげだ」
案内人の助力もあるが、天城も俺を長年支え続けてくれた。
そのことにお礼を言うと、天城は無表情で答える。
「旦那様のサポートを行っただけです」
「おかげでここまで上り詰めた。お前なしでは考えられなかったよ」
荒れ果てた領地を渡された時は本当に頭を抱えたが、天城がいたおかげで俺は領内経営に苦労せずにすんだ。
色々と大変なことはあったが、一人ではなかったのが救いだな。
「これからも頼むぞ。俺の側にずっといろ」
そしてこれからも、天城の存在は俺にとって重要だ。
そう告げると、天城の声色が僅かに――本当に僅かにだが変化する。
俺にだけ聞き分けられる些細な変化は、どこか悲しそうに聞こえてくる。
「今の旦那様に私のサポートは必要ありません。領内の問題に関しても、私以上に結果を出しております」
「まぁ、領主になって長いからな」
領主になって百年は過ぎているから、それなりに出来るようにはなっている。
「私に出来る仕事は換えが効きます。今後は、ロゼッタ様を頼られるべきかと」
「仕事の替わりが出来ても、お前の代わりはいない。今後も俺の側にいろ。前にも言わなかったか?」
振り返ると、天城は少し嬉しそうな顔を見せる。
そして、俺に向かって微笑んでみせた。
「可能な限りお側で仕えさせていただきます」
それは以前と同じ答えだ。
だが、可能な限りというのはどうにもひっかかる。
俺が心変わりをすると思っているのだろうか?
「俺がお前を邪険にすると思うのか?」
「この世に絶対などありはしませんから、将来は保証致しかねます」
久しぶりに人工知能らしい回答に笑いがこみ上げてくる。
「そうだな。だけど心配するなよ。お前と俺はずっと一緒だ」
「――はい」
◇
バンフィールド家本星を見下ろすのは、苦虫をかみ潰したような表情の案内人だった。
「このまま終われると思うなよ、リアム!」
宇宙から惑星を見下ろす案内人は、リアムがロゼッタとの結婚式を行う姿が見えている。
「この野郎、口では色々と言いながら喜びやがって。女性不信はどうした!」
案内人がリアムの心を覗けば、口では色々と言いながらも本心では喜んでいた。
もっと女性不信をこじらせて欲しかった案内人にすれば、面白くない話だ。
だから――悪戯することにした。
「戦場で集めた負の感情をお前にぶつけてやる! 今は悪戯程度しか出来ないが、このまま見過ごせるものかよ」
代理戦争で発生した負の感情を吸収した案内人は、少しばかり力を取り戻していた。
ただ、悲しいことに人外に片足を踏み入れているリアムには、悪戯程度の仕返しが精一杯だ。
加えて、ここで仕返しすれば力を大きく失うデメリットも存在する。
だが、案内人は幸せそうなリアムが許せなかった。
ここは見逃して力を蓄えれば良いのに、我慢できずに仕返しをすることを決める。
「大勢の前で恥をかけ、リアム!」
案内人の体から黒い靄が発生し、バンフィールド家の本星――結婚式会場へと降り注ごうとしていた。
案内人には今まさに、キスをする瞬間のリアムとロゼッタが見えていた。
「このまま終われると思うなよ! ――ん?」
しかし――そんな案内人の呪いのような攻撃に、二人の着用していたミスリルの衣装が反応を示して輝きを強める。
邪な力をはね除ける聖銀が、案内人の攻撃から二人を守って――更に呪いを返してくる。
靄がミスリルにより振り払われて、その輝きが――領民たちや大勢の祝福を受けたリアムの力が更に増していく。
気が付けば聖なる銀の剣が出現し、案内人に切っ先を向けていた。
狙いを付けると、光の速さで案内人に迫っていた。
呪った瞬間に――案内人の目の前に銀の剣が出現していたわけだ。
ブスリと案内人の頭部に銀の剣が突き刺さり、その体を朽ち果てさせていく。
「ぎゃぁぁぁ!! 体が崩れるぅぅぅ!!」
体が崩れてバラバラに飛び散ると、帽子のみの姿になった案内人がこの場から逃げていく。
「覚えていろよ、リアムゥゥゥ!」
結局、手を出さない方が良かった案内人だった。
◇
結婚式が終わった。
周囲にはクラウスをはじめとした主要な家臣たちが揃い、俺のことを褒め称えてくる。
雇われている人間というのは大変だな。
結婚式に参加させられ、俺のことを褒めなくてはいけないのだから。
「リアム様、家臣一同より心からお祝い申し上げます」
祝いの言葉をクラウスが代表して述べるが――もう何十回と聞いた。
手紙やメール、メッセージだと億単位の祝辞が届いている。
「たかが結婚式だろうに」
襟元を緩めて不満そうに椅子にふんぞり返る俺は、クラウスたちを見ながら今後の話をすることにした。
「それよりも、今後はあまり派手な式典は出来ないな」
領内への全力投資に舵を切るため、必要最低限の式典以外は行わない方針だ。
ティアが一歩前に出る。
「その件でリアム様にご提案がございます。リアム様が質素倹約を実行するのならば、我ら家臣も給与を下げてはいかがでしょうか? リアム様だけに苦しい思いをさせるのは忍びなく思っております」
「あ?」
俺は一気に不機嫌となった。
機嫌を損ねたと思ったのか、ティアに代わりマリーが前に出る。
「当家の騎士への待遇は他家よりも優れております。ですが、そのために財政を圧迫しておりますわ。ここは一度見直しを図って――」
こいつらもしかして――俺が質素に過ごすなら給与を下げても良いと言っているのか?
何という美談だろうか! ――などと俺は絶対に言わない。
そもそも俺は、人間など信じていない。
「馬鹿かお前ら? そんなことをすれば他家に優秀な人材が流れるだけだろうが。どうしてそんなことをする必要がある?」
「し、しかし」
「俺がお前らに求めるのは、給料分の仕事だ。それ以上でも以下でもない」
俺は人間を信じない。
安い給料でもやり甲斐があればいい? 馬鹿である。
それは雇用主側にとって都合のいい話で、優秀な人間は条件の良い所に逃げるだけだ。
結果、出来ない人間ばかりが残る。
忠誠心など俺は信じていない。
ティアとマリーが落ち込むと、クラウスが気を利かせて俺に話を振ってくる。
「報酬の件に関しては置いておくとして、リアム様は戻られた方がよろしいのではないでしょうか?」
「え?」
「ですから、ロゼッタ様がお待ちですので、そろそろお戻りになるべきかと」
クラウスに戻れと言われた俺は、姿勢を正した。
「いや、ほら、お前たちも色々と言いたいことがあるだろ? 話を聞いてやろうと思って」
そう言うと、ククリが深々と頭を下げてくる。
「初夜でございますし、これはお家の大事。我らのことは気にせず、どうぞロゼッタ様とお過ごしください。それにご安心ください。我らがお守り致します」
「それって覗きだろ!」
ククリを怒鳴ると、ティアが図々しくも何かを察した顔をする。
「もしや不安なのですか? それでしたら、このクリスティアナがリアム様の練習相手に立候補致します!」
ティアがそんなことを言い出すと、マリーまで参加してくる。
「引っ込んでろ、ミンチ女! リアム様、このマリーを練習にお使いください。清い体ですので、変な病気など持っておりません」
「てめぇ、どういう意味だごらぁ!」
ティアとマリーが取っ組み合いの喧嘩を始めたのを見て、俺は冷ややかな視線を向けてやる。
「お前ら黙れ」
二人がシュンとすると、クラウスが俺に助言をしてくる。
「リアム様、不安なのはロゼッタ様も同じかと」
「俺は不安じゃない」
「それでしたら、ロゼッタ様の不安を取り除くべきかと」
「そ、そうか。――なら、そろそろ行く」
椅子から立ち上がると、四人がそれぞれ俺に声をかけてくる。
「リアム様、頑張ってください。このクリスティアナも今宵は成功するよう祈っております!」
「リアム様とロゼッタ様が結ばれる素敵な夜ですね! マリーは嬉しくて泣いてしまいそうでしてよ」
「護衛はお任せください。クナイを中心に女性で周囲を固めます」
「これもお家の大事ですからね」
――こいつら、実は俺をからかっているのではないだろうか?
「お前ら黙れ」
◇
寝室に移動するとロゼッタが緊張した様子で待っていた。
「ダーリン! あ、あの、その、ど、どうかしら?」
「お、おぅ」
扇情的な衣装に身を包んだロゼッタは、広いベッドの上で慣れない仕草を見せる。
どこで勉強したのか、セクシーなポーズというやつだろう。
ただ、ぎこちなさが出ている。
ベッドに入ってロゼッタの前に座ると、何故か正座になってしまった。
俺を真似てロゼッタも正座をする。
――何だこれ? と、とにかく、ロゼッタには色々と説明しないと。
「ロゼッタ」
「は、はい!」
「わ、悪いが、色々と事情があってしばらく質素な生活をすることになった」
「はい! ――うん?」
「色々と文句はあるだろうが、これは決定事項だ。結婚後に贅沢な暮らしをしたいと思うだろうが、それは叶わぬ夢だ」
帝国と戦うために、俺は本気で領内の開発に力を注ぐつもりだ。
これまでのお遊びとは違う。
将来のために本気を出す。
すると、ロゼッタは少し考え込んだ後に頷いた。
「そ、そうね。贅沢はいけないわね」
「そうだ」
ロゼッタが素直に納得したのはいいが、お互い向き合ってそのまま時間が流れていく。
「あの、ダーリン? それって今しないといけない話だったのかしら?」
「いや、全然」
よく考えなくても、この場でするような話じゃなかった。
ロゼッタは何が可笑しいのか、クスリと笑ってしまう。
「おい、なんで笑う!」
「だって、ダーリンも緊張しているのが可笑しくて」
「俺は緊張していない!」
「え、そうなの? やっぱり慣れているとか?」
「当然だ! それはもう色んな女と――色んな――」
「ダーリン?」
――異世界に転生して百年が過ぎたのに、俺が相手をしてきた女性は天城しかいなかった。
この事実に俺は打ちのめされる。
「俺はこの百年、何をやっていたんだ」
悪徳領主になって女を侍らせるはずが、気が付けば周囲に残念な奴らしかいなかった。
経験人数がロゼッタで二人目である。
「こんなはずじゃなかったのに」
「ダーリン泣かないで! ほら、慰めてあげる」
ロゼッタに抱きつかれる俺は、目標の一つがまったく達成されていない現実にようやく気付いてしまった。
とりあえず、今後はもっと悪徳領主らしく振る舞おうと決めた。
今はとにかくロゼッタの相手からだろう。
「もういい! ロゼッタ、お前を抱くぞ!」
「――はい」
頬を染めて嬉しそうに微笑むロゼッタを見て――ちょっと可愛いと思ってしまった。
ブライアン(´;ω;`)「おめでとうございます、リアム様ぁぁぁ!!」
汚い若木ちゃん( ゜∀゜)「童○を捨てたら褒められる悪徳領主って素敵ねw おめでとう人間○貞w」
ブライアン(´;ω;`)「……」
ブライアン(´;ω;`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー