【完結】銃と私、あるいは触手と暗殺


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作:クリス
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三時間目 交流の時間


書いていて思うこと、せこい。


 カイデックスホルスターに収めたエアガンに手を触れる。自宅で猛練習したおかげで構えた時の違和感は殆どなくなった。両手を頭の上まで持ち上げ足を肩幅に開く。背後にあるターゲットの存在を意識する。心を静め意識を集中させる。

 

 そして解き放つ。振り向き様にエアガンを構え15m先のマンターゲットに発砲する。マガジン内には対殺せんせー用BB弾が七発。始めはアイソセレススタンスで六発。瞬時にマグチェンジを行い今度はターゲットに近づきながら発砲、再装填。流れるようにC.A.R(Center Axis Relock)システムのハイポジションで発砲、最後にエクステンデッドポジションで発砲。マガジン内のBB弾を撃ち尽くしスライドストップが掛かる。

 

 エアガンを下ろし左右及び後方の確認を行ったあと薬室を覗く。マガジンを抜き残弾がないことを確認しスライドストップを解除、引金を引きハンマーダウン。一連の儀式を終えエアガンをホルスターに収めターゲットに近づく。

 

「私もまだまだだな」

「あ、あれでまだまだなんだ……」

 

 後ろを向けば少し引き気味の潮田渚が私を見ていた。その横には逆に目を輝かせた杉野友人が立っている。

 

「その通りだ。見て見ろ」

 

 私はターゲットを指さす。私が撃ったBB弾、計二十一発は全てターゲットの胴体と頭部に命中しているが所々ばらけている。歩いている時とハイポジションで構えた時のものだ。

 

「俺にはよく当たっているようにしか見えねーけどなあ」

「僕もかな。というか……気合入りすぎでしょ!」

 

 唐突に潮田が私を見て声を荒げた。気合入っているとはどういう意味だろうか。全身を観察してみる。1911とAR-15用のマガジンポーチを取り付けたMolleベルトにサスペンダー。後はナイフとプロテクターにタクティカルグローブだけ。うん、

 

「軽装だな」

「どこが!?」

 

 またつっこまれた。充分軽装だと思うんだがな。こんな装備じゃとてもじゃないが戦えない。まさしく訓練用の軽装としか言うほかない。

 

「まあ、それはおいておいてだな。銃の腕前なら速水や千葉の方が余程上手いだろ」

 

 速水凛香は立射で千葉龍之介はプローンでそれぞれ中々の精度でBB弾を命中させている。構えもおかしなところは見当たらない。後は実銃の反動にさえ慣れれば射撃競技で好成績を残すことも夢じゃないだろう。

 

「まあ、確かにあいつらも上手いんだけどさ。なんか臼井のは動きがプロっぽいっているか……」

「まるで本物の兵隊みたいだよねえ」

「あ、カルマくん」

 

 赤羽業(これでカルマと読むらしい。世も末だな)がニヤニヤ笑いながら近づいてくる。こいつは初日から今日に至るまで事あるごとに私を見てくる。何がそんなに気になるのか知らないが見られる身にもなってみろと私は言いたい。

 

「なんていうか場慣れし過ぎてるんだよね。普通、学校でこんなおかしな授業受けさせられたら多少なりとも戸惑うはずでしょ。なのに臼井さん普通の授業受けてる時よりも自然体だよ。もしかして本物の殺し屋だったりする?」

 

 不敵な笑みを浮かべ私を見る。確かにエアガンくらいしか碌に触ったことのないような中学生が本職並みの銃捌きを披露したら不審がられるもの当然だ。とは言え手を抜くのは例え扱う銃が玩具だったとしてもプロとしての矜持が許さない。まあ、結果的に不審がられてしまったがそれでも構わないと私は思っている。

 

「で、ほんとのとこどうなの?」

「僕も気になるな」

 

 赤羽からは疑惑の目を潮田からは期待の眼差し。杉野はいつの間にか消えていた。ここで本当のことを言ってもいいが、それでいったい何の得があるのだろうか。ただ彼らを傷つけるだけに決まっている。私の境遇が客観的に見て物凄く重いというのは理解している。テレビにでも出ればお涙頂戴の感動話でさぞ視聴率を稼げるだろう。だがそれを話して何になる。

 

 きっと話せば怖がられるか同情されるかのどちらかだろう。私はそのどちらも望まない。怖がられるのは別に慣れている。だが、同情されるのは糞くらえだ。糞みたいな人生送って来ているとは思うが同情されるほど私の人生は安くない。

 

「別に、殺し屋じゃあないよ」

「へぇ、殺し屋じゃあ、ないんだ」

「仮に私が殺し屋だったとしよう。それなら何故月が殺せんせーに爆破される前からE組に在籍しているんだい?」

「あ、確かに」

 

 その説明に納得したのか赤羽と潮田は「変なこと聞いてごめんね」と言い再び射撃訓練に戻っていった。私も同じように訓練を再開するのであった。その後、ハンドガンとライフルのトランジションの訓練を行い疑惑が更に高まったのは割とどうでもいいことだ。

 

 

 

 

 

 

 射撃訓練が終わり今度は烏間先生直伝のナイフ戦闘術の時間だ。本来なら二人一組で烏間先生にナイフを当てる訓練をすることになっている。しかし私は昨日と同じく一人で彼と相対することになった。

 

「臼井さん。予め言っておくが昨日のようなことはもうしないでくれ」

「わかってますよ」

 

 私が何故、烏間先生に睨まれているのかと言うと昨日の模擬戦が原因だ。彼にナイフを当てろと言われた私は彼の動きを観察した。中学生とは言え男子が二人がかりで攻撃を仕掛けてもまるで子供をあしらうかのように払いのけ、隙があれば武装解除までしてしまう。

 

 彼等よりも遥かにナイフについて熟達しているとはいえ、私と烏間先生の体格差ではまともな勝負にならないだろう。そう判断した私は彼の意表を突くことにし、見事ナイフを彼の身体に突き立てた。

 

 具体的に何をしたのかというと、安全ピンを抜いていない手榴弾を烏間先生に放り投げた。玩具とはいえ手榴弾。突然の事態に一瞬だけ動揺した先生に私は飛びかかり彼の肝臓にナイフを当てることに成功したのだ。私としてはいいアイデアだと思ったのだが烏間先生には割と本気で怒られもう二度とするなと言い付けられた。

 

「ちなみに聞きたいんですけど何で駄目なんですか?」

 

 私の質問に烏間先生は少し溜息を吐くと少しだけ困ったような顔をして口を開いた。

 

「確かに俺はナイフを当てろと言った。だがそれはマッハ20のあいつに少しでもナイフを当てられる確率を高めるための訓練だ。臼井さんの考え方そのものは悪くないがあれでは訓練にならない」

「わ、わかりました」

 

 そう言われてしまえばこちらとしても頷くほかない。私がやったのは言わば狙撃の訓練をしているのに横から迫撃砲を撃って標的は倒したから問題ないだろ?と言うようなものなのだ。結果は同じかもしれないがそれでは訓練の意味がない。そういうことなのだろう。

 

「分かりました。では正面からいきますよ」

「どこからでもかかってこい」

 

 心なしか他の生徒を相手にする時よりも身構えている気がする。ナイフを逆手で構え中腰になる。視線は相手の脚に集中させる。

 

「臼井さんが烏間先生とやるみたい」

「昨日のあれは凄かったけど。なんていうか……せこかったなあ」

「確か手榴弾投げてたよね」

 

 何かギャラリーが集まっているが気にしている暇はない。間合いを取りつつ時計回りで歩く。一瞬でも隙を見せれば即座に武装解除されるだろう。ナイフをゆっくりと動かし牽制する。

 

「なんか、私たちの時よりもガチじゃない?」

「見える!私にもオーラが見えるよ!」

「何言ってるの不破さん……」

 

 間合いを取りながら攻撃の隙を伺う。しかし、一向に隙が見えてこない。これが烏間先生の本当の実力なのか。伊達に防衛省の特務を務めているわけではないということだろう。しかし、本当にどうしようか。烏間先生は私の一挙手一投足に集中している。昨日のような搦め手は通用しないだろう。かと言って闇雲に攻めてもあしらわれるだけ。さて、どうするか。

 

「臼井さん」

「なんです?」

 

 唐突に名前を呼ばれる。訓練にならないとでもいいたいのだろうか。でも攻略の糸口が見つからない以上、闇雲にいくのは愚策でしかない。

 

「靴紐が解けているぞ」

「へ?」

 

 突然の指摘。思考に一瞬だけノイズが入る。だが、先生にはその一瞬で十分だったようだ。

 

「しまっ!」

 

 物凄い速さで距離を詰められる。迎撃しようにも思考に身体が追いつかない。私は為す術もなく宙を舞った。まさか、私と全く同じことをしてくるなんて。スローモーションになった視界の中で私はそんなことを考えつつ来るべき衝撃に身構えた。

 

「あれ?痛くない」

 

 が、その衝撃は想像したものよりも何倍も軽いものであった。答えは簡単。烏間先生が手を身体に添えてくれたからだ。仰向けになった視界に逆さに映った烏間先生がこちらを見ている。私の手にあったはずのナイフはいつの間にか先生の手に収まっていた。

 

「烏間先生」

「なんだ?」

「もしかして昨日の仕返しですか?」

「ん?なんのことだ?」

 

 先生に引き起こされながら私は訊ねた。すっ呆けているがどう見ても昨日の意趣返しにしか思えない。その証拠に口角がほんの少しだけ持ちあがっている。あれ、絶対昨日のこと根に持ってるよ!堅物そうに見えて意外と負けず嫌いなのかもしれない。

 

「臼井さん。相手に意識を集中するのはいいが集中し過ぎだ。今のように単純な手に引っかかってしまうぞ。それと相手の下半身だけでなく全身も意識するように」

「は、はい……」

「少し早いがこれで終わりにしよう。解散!」

 

 休み時間になり各々が校舎に戻るために歩き始める。私も同じように校舎に向けて歩き出す。だがその足取りは重い。原因は勿論さっきのことだ。あんな初歩的な手に引っかかるとは。手榴弾を投げつけられるのはまだわかる。だが、靴紐はないだろ靴紐は。

 

「どうしたの?さっちゃん、元気ないよ」

「む、君か……」

 

 倉橋が心配そうにこちらを覗きこんできた。どうやら今の私は目に見えて落ち込んでいるらしい。

 

「君じゃなくて陽菜乃だよ!そう言えば大丈夫?さっき思いっきり投げられたみたいだけど」

「ああ、問題ない。かなり手加減して投げたみたいだし何処も痛くない」

 

 そういうと彼女は大きな溜息を吐いた。本気で心配してくれていたらしい。IEDで吹き飛ばされたこともある身からすればあんなのは何てことないのだが平和な世界で暮らしてきた彼女に人が宙を舞うという光景は中々衝撃的だったらしい。

 

「だから君が「君じゃなくて陽菜乃だよ!」すまない、陽菜乃が心配するようなことはないっていうことだ。ただ、あんな初歩的なミスに引っかかった自分が情けなくてだな」

「あはは、確かにあれはちょっと大人げないよねぇ」

「恐らく昨日の意趣返しというやつだ。ああ見えて意外と負けず嫌いなんだろう」

 

 その後少しだけ烏間先生について話に花を咲かせた。彼女は如何に彼がかっこいいかについて、私は彼が如何に理想的な軍人かということについて力説したら何故か困った顔をされた。どうやらそういうことではなかったらしい。

 

 

 

 

 

「やっと昼休みだ!」

 

 杉野の威勢のいい声が教室に響く。それに合わせたかのように各々食事を取るために机をくっつけ始める。さて私も昼食を食べに行くか。バックパックを手に取り立ち上がろうとする。

 

「また外で食べるの?」

 

 赤羽が少し不思議そうに尋ねてくる。確かにここに来て四日になるが昼食は必ず一人で食べていた。流石にこうも続けば不審がられるのも仕方ないのかもしれない。とは言えあまり食事を人に見せたくないのも事実。

 

「まあ、そんなところだ」

「へぇ、でも窓の外見て見なよ」

 

 そう言われ振り返る。窓から見える空は灰色の雲に覆われ今にも雨が降りそうな様子だ。確かにあと10分もしないうちに振り出すであろう。

 

「多分、降ってくるよ」

「そうはいってもだなぁ」

「たまには一緒に食べようよー」

 

 唐突に倉橋がダイナミックエントリーしてきた。何だかんだいって彼女が一番私に絡んでくることが多い。いつもむさ苦しい男ばかりに囲まれていたからこんな時どういう対応をすればいいのかわからない。

 

「仕方がないな……」

「やったー!」

 

 意地を張って外で食べても雨に濡れられるだけだ。仕方ないので今回は教室で食事をとることにする。

 

「さっちゃんは何食べるの?」

 

 またさっちゃんだ。どうにもこの呼び方は慣れない。何というか響きが間抜けだ。これならPMCで付けられたハードラックというあだ名の方が余程マシだ。

 

「というかそのさっちゃんというのは何とかならないものか。何というか間抜けだ」

「え、もしかして嫌だった……?」

 

 露骨に悲しそうな顔をされればこちらしても強く言うのは憚られる。

 

「まあ、眼鏡かけてないし雌豚でもないしねぇ」

「?」

 

 不破が遠い目をして呟いたが何のことだかさっぱりだった。彼女は時折意味不明な発言をする。傭兵にも薬で頭の螺子が吹き飛んで妄言を呟いている奴がいたから気にしないことにしておく。

 

「誤解しないでくれ、ただそういうふうに呼ばれたことがなくてだな。どうにも戸惑ってしまうんだ。だから、なんだ。君の好きなように呼べばいい」

 

 名前なんて個人を特定するための記号だ。私という存在を認識できるのなら例え番号で呼ばれたとしても構わない。臼井祥子という日本人名もアフリカにいた時、適当に名付けた名前である。名前の由来は勿論、幸薄いだ。本当の名前は飛行機事故の時に忘れてしまった。

 

「じゃあ、さっちゃんでいいんだよね?」

「ああ、そういうことだ」

 

 話が纏まったところでハンカチで包んだ昼食を机の上に置き包みを解く。横で見ていた倉橋が何故か固まっていた。

 

「ね、ねえ、さっちゃん」

「なんだ」

 

 彼女は昼食に指を差しながらわなわなと震えている。赤羽は面白いものを見つけたと言わんばかりににやついていた。

 

「お昼ごはんってそれなの?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

 

 いったい何が問題なのかよくわからない。机の上の昼食を見る。干し肉が一塊に野菜。右腕で昼食を隠すようにして干し肉を齧る。貪りたい衝動を何とか抑えながら食べるのは中々に面倒だ。

 

 アフリカにいた時は一日に一回食べれたらいいほうで量もとてもじゃないが足りるものではなかった。私たちは常に空腹だった。だから食事の時間は必然的に奪い合いの時間でもあったのだ。奪われないようにするには急いで食べるしかない。なるべく食料を見つからないようにし流し込むように食べる。

 

 そんなトラウマから未だに食料を目にすると思考が鈍くなる。お陰で家の冷蔵庫は常に空っぽ。最近はかなりマシになり料理をする余裕もできたがそれでも食事をするという意識になるとがっついてしまう。私の食事風景はかなりみっともないと思う。だから隠れていたのだ。

 

「まあ、そりゃ隠れたくなるよね」

 

 矢田桃花が私の昼食を見て呟く。どうやら倉橋の大声に反応したらしい。更にその声に反応して他のクラスメイトも集まってくる。私はそれらを無視して野菜と肉を齧り続けた。動物園の動物になった気分だった。それからというものの昼休みになると誰かしらが弁当のおかずを分けてくれるようになったがそれはどうでもいいことである。

 

 

 

 

 

 




用語解説

カイデックスホルスター
軽くて丈夫で簡単に加工できる樹脂。色んな形にできる。

アイソセレススタンス
構え方の一つ。利き目が逆でも狙いやすい。

CARシステム
室内などの至近距離での拳銃のテクニック。ジョンウィックが有名。

Molleベルト
色々自由に付けられる。便利。

プローン
伏せ撃ち
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