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魂

ヴェスタの旅情②

ヴェスタの旅情② - 魂の小説 - pixiv
ヴェスタの旅情② - 魂の小説 - pixiv
69,429文字
女監督生/SFミステリ
ヴェスタの旅情②
5作目です◎プロムのシーンで名前のないモブが少し出ます&リドルのお母様を捏造しておりますのでご注意ください。
⚠︎6章ネタバレを含みます。お気をつけください。

Twitter開設しました◎
進捗などはそちらに🍕

以下あらすじと注意書。

𖣰②のあらすじ
自身らが漂流した場所がヴェスタだと判明したチーム・筋肉は、未知の島を探索すべく動き出す。外と内を繋ぐ唯一の存在イデアに冒険の島・お客様サポートセンターに連絡をしてもらいつつ、ヴェスタ内部で奇妙な現象が起こり始める。一方その頃チーム・ホテルは、主治医エペルがエースの現状に診断を下していた────。

チーム・プロムも頑張るヴェスタの旅情②
想定していたよりだいぶ長くなりました

𖣰注意書
・捏造に捏造を重ねた捏造です。

・ピザが大好きな女監督生が出ます。名前はデフォルト名のユウを使用しています。

・腐、CP要素は無いものとして書いています。が、そう見えることもあるかもしれません。

・前作のせいで狂気(PTSD)持ちのキャラがいます。ご注意ください。

・ゲームプレイ済。
パーソナルストーリー等回収しきれていないものもあります。時系列など本編と矛盾等ある場合があります。ご了承ください。

・誤字脱字等見つかりましたら、コメントにてご指摘くださると助かります。(訂正次第削除させていただきます。)

どうぞ宜しくお願いします🍕
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2,1071,57439,163
2022年6月30日 14:05

ヴェスタの旅情②

❷海底浪漫








 転覆したガレオン船が中途半端な場所へ漂着していたんだと分かったのは、監督生がカルデラ湖に面した岩場をどんどん進んで行った後だった。少し歩いただけで、自分達が居たところからはちょうど死角で見えていなかったモノ。───プロメテウス火山が、堂々と鎮座しているのが見えたのである。自分達が何処に流れ着いたのかのヒント、モニュメントは案外すぐそこにあったということだ。これを灯台下暗しという。
 監督生たちがいる岩場はこの島のいちばん下であり、上の方に建物があった。上へ上がればこの島をもっと良く知れるだろう。そう考えていると、少し先に監督生でも乗り越えられそうな柵が見える。監督生の中で第一目標が「あの低い柵を乗り越えること」に決まった。

「おい、監督生!」

 歩幅の関係上、監督生にトレイが追いついた。

「先輩、あそこ乗り越えられそうじゃないですか?ちょうどスロープになっていて上にも上がれそうです」
「ああ、確かにアレなら跨ぐだけだな。…じゃなくて。お前もう大丈夫なのか?」

 大丈夫なのか?という言葉の心理は、広く言えば精神面。狭く言うとピザだった。監督生は岩場を歩きながら気持ちに整理をつけたので、怒りは一旦保留にしている。トレイの質問に答えるなら、それはYESだった。
 トレイと横並びになり、再び第一目標地点を目指し進んで行く。

「保留です」
「保留か…」
「だって、私だけじゃないですよ」
「? と言うと?」
「私だけが楽しみだったワケじゃないです。先輩達にだってそれぞれ楽しみがあったはずなのに、今こうして台無しにされてます」
「まあ、そうだな」
「でも台無しにしとくには、このロケーションが"勿体無い"んじゃないかなって思って」
「…ハハ、俺もそう思ってたところだ。あの夜は本気で死ぬと思ったが、今の状況は割となんとかなりそうだからな。せっかくならこれも旅行にするか」
「はい!だから、保留なんです」

 あの夜は一歩でも踏み外せば死を招く状況であったが、今回は違う。ヴェスタの外にはケイト達がいるし、最悪レスキューでも呼べば出れるだろう。既にイデアが冒険の島のお客様サポートセンターへお問い合わせ中ということもあり、割と楽観的である。
 トレイは監督生の歩幅に合わせて歩いている。そのため、すぐに後ろに追いつかれた。

「監督生、発作はおさまったか?」
「ヒステリックみたいに言うのやめて」
「何で全員サングラスかけてるんだ?」
「目から老けるから」
「眩しいので」
「持っていたならかけるだろう」

 振り返ると、トレイと監督生のメガネ組以外皆サングラスをかけていた。監督生は、メン・イン・ブラック?と思ったが、口に出さずに飲み込む。これで銃でも持ったら完璧だった。サングラスの所持率を見て、文化の違いをひしひしと感じた。





 7人は合流しそのまま岩場を進んで行く。るるぶで得た知識だが、カルデラ湖の下には海底火山があるらしい。時折ゴボゴボと火山ガスが噴気孔から吹き出し泡立っている。監督生は朝スニーカーを選んだ自分に感謝したし、荷造りでパンツのセットアップを詰めた自分に祈りを捧げた。もしスカートにパンプスだったら、確実に落ちて死んでいた…
 ふと、前を歩くセベクが大きいラムネのようなモノを口にするのが見えた。多分ブドウ糖だ。よほどお腹が空いたんだろう。ウン、長丁場になるなら食料問題もどうにかしないとかあ。などと思い耽っていると、第一目標へ到着した。
 しかし監督生のプランはまんまと覆される。

「ヨ! ヨッ!!」
「人間、お前では無理だ」

 ヨイショ!と足を上げてみるものの、低いと思っていた柵は80〜90センチぐらいの高さがあり、身長が150センチもない監督生には低いどころか高い壁だった。遠近法で低く見えてただけか…と思っているのは監督生だけで、上背があり腰の位置が高い皆さんは軽く跨ぐだけで越えていく。
 その様子を見た監督生が「お手上げです」という風に立ち尽くしていると、ルークが「ならばこれで…」と自身の両手を組み監督生の足場にしようと屈んだ。監督生は若干引いて「それはできません!」と大きな声で断る。そんな監督生の様子を見たヴィルは、柵を余裕で跨ぎ監督生の方へ振り返った。

「ジャック。アンタそっちから監督生持ち上げてくれる?アタシが受け取るわ」
「了解です。監督生、悪いが腰掴むぞ」
「え!えっ、…わあ〜 たか〜い!」

 ヴィルは監督生が普段見ない高さではしゃいでいる隙に「上、偵察してきて」とルークたちを先に上がらせた。ジャックは監督生を天高く持ち上げ柵を越えさせる。無理に登らせてひっくり返りカルデラ湖へドボンするくらいなら、筋肉で解決させる他ないのだ。そのままヴィルに受け渡す。

「はい、これで…、ん?」
「わ〜、ありがとうございます!」
「ちょっと待ちなさい」

 ヴィルは3歳児を受け取るような感覚で監督生を柵の内側へ着地させた。

「女性にこんなこと聞くのはアレだけど… アンタ、今体重何キロあるの?」
「えと、35… いや!40キロくらいですかね、ハハ…」

 ヴィルの目つきが怖くなったので、少しだけプラスして申告する。実はここ2ヶ月間、あまり食欲が湧かずにいたのだ。好きなものはそこそこ食べれるけれど、それ以外は何だか食べる気にならない。毎晩体重計に乗るたびジワジワと減っていく質量に困っているのは、監督生自身であった。
 しかし過剰な心配は避けたいので、その事実は黙っておくことにする。

「あのね、細けりゃいいってモンじゃないのよ」
「違います、皆さんが縦に長いだけなんです…」
「にしたって美容体重すら下回ってるわ」

 ヴィルは監督生が軽すぎて霞を掴んでいるのかと思った。失礼を承知で体重を聞いたのは、緊急ヘルスチェックである。監督生を持ち上げて軽いと感じたのはジャックも同じで、小さい生き物はこんなに軽いんだなあと思っていた。が、どうやら違うらしい。
 監督生手動郵送のため岩場に残っていたジャックは、歩く様に柵を乗り越えこちら側へ来る。

「お前、2倍にしても俺の体重に届かねえぞ」
「え!? 体脂肪率1%!?」
「それだと脳味噌から何まで筋肉ってことになるわよ」
「監督生はあんまり少食ってイメージねえけど」
「調子がいい日に大食いすると45キロまで増えます」
「…胃のキャパが5キロなの、普通に怖えよ」
「胃下垂なのね」

 監督生は「お腹が限界を迎えると背中が膨らむんだよ」とジャックに教えた。人体とは不思議である。実際ヴィルも胃下垂気味なので背中が膨らむというその感覚はわかる。ここ数年は、そんな無茶な食べ方はしていないが…
 先に偵察へ登ったルーク達に追いつくべく、3人も上を目指した。





 上へ着くと、目の前にはヴォルケイニアと書かれた大きな建物がある。扉は開きっぱなしで、中にはカウンターのようなものがみえる。シン、と静まり返った中は薄暗く冷たい雰囲気が漂っていて、しかし所々明かりも見えた。
 ヴォルケイニアを素通りして行くと、
(ひら)けたスペースがある。地面には大きく紋様が描かれているのだが、おそらく「N」だ。意味は全くわからない。

 先に上がった4人はその付近に置かれたベンチへ腰掛けたり、柵に背を預け凭れ掛かったりして3人を待っていた。
 

「ちょっといいか?」


 こちらに気づいたトレイに手招きして呼ばれ、そのままベンチへ座るように言われる。ベンチは柵と同じ青緑色。等間隔で何個か設置されており、楕円で波打った形をしている。他では見たことのない特殊なデザインで、ちょっぴり座り辛い。

「ここ、日差しがとんでもないから手短にして」
「なるべく早く済ませるよ。まあ、なんだ。俺はな、こんな状況だし 隠し事は良くないと思ってるんだ」
「はい?」
「何の話ですか?」

 監督生とジャックは言っている意味が分からず聞き返した。トレイは「ずっと気になってることがある」と、いつもの笑みを絶やさず、しかし目を細め セベクとシルバーを見る。

「お前たち。3日目と4日目、何処へ行っていた?」
「…トレイ先輩。その件は今の状況と無関係だ」
「どうしても話せないことか」
「ああ」
「俺は3日目に、お前たちがエキゾチカとフェリシタスの間へ入っていくのを見たんだ。何もない空間に消えていったよな。あれはなんだ?」
「無関係だと言っている。これ以上の詮索はやめていただきたい」

 セベクは負けじとトレイを見返す。監督生は何だか不穏な空気を感じ視線を左右させた。ヴィルは片眉を上げ傍観している。な、仲間割れはまずい… ふと、イデア先輩が『仲間割れ=単独行動=死亡フラグでござる!気をつけなはれや!』と言っていたのを思い出す。トレイとセベクの間に漂う空気はどんどん重くなっていき、見えない鍔迫り合いをしているようだった。
 すると、黙っていたシルバーが組んでいた腕を解きトレイの方へ顔を向ける。

「マレウス様から仰せつかり、妖精の郷(ピクシーホロウ)へ行っていた」
「っ、シルバー!!」

 ジャックは「ピクシーホロウ?」と思わず声に出す。

「皆、ディ・セルという男を知っているな」
「! ああ、そりゃ勿論知ってるが…」
「奴は自身の研究室に禁忌とされる研究材料を溜め込んでいた。一つは大量の
妖精の粉(ピクシーダスト)。もう一つは、絶対に有ってはならないもの。"青い妖精の粉"だ」
「シルバー!もう口を開くな!」
「ピクシーダストは貴重な代物。外部の人間が所持するにはピクシーホロウからの許可が必要だ。しかし物には限度というものがある。ディ・セルはそれを無視し、8キロも所有していたんだ。加えて"青い妖精の粉"。これは妖精の命とも言われる本当に大切なモノで、部外者の所持は1ミリグラムも許されない……。俺たちはそれを返すという、任務のため。…エキゾチカと、フェリシタスの間に…… 間に、隠された、8つ目のエリア ピクシーホロウへと…… 向かったんだ…………」
「おい!!聞こえていないのか!?口を開くな!!」
「………………ぐぅ」
「寝るな!!!!!!!」

 セベクはシルバーの胸ぐらを掴みぐわんぐわんと(ゆさぶ)り起こそうとしている。
 トレイは1ミリでも
規格外の後輩(こいつら)を疑ってしまった自分がいけなかったと認識を改めた。「ディアソムニア寮は毎日がこうなのかい?実に愉快だね!」と言うルーク・全肯定・ハントは、太陽光からヴィルを守るため肉壁になっている。

「はっ!、…セベク。酔うからやめてくれ」
「貴様何故みなまで言うんだ!リリア様は守秘するようにと仰ったろう!」
「いや、リリア先輩は「なるべくバレないように。しかし、もしもの時は仕方あるまい」と言っていた」
「ええい やかましい!!!」
「それにまだ言っていないことがある。ピクシーホロウでこれを貰ったんだった。あの時は眠くて… お前にも伝え忘れていた。すまない」

 と言いながら、シルバーは自身の鞄から テニスボールサイズの大きな石を取り出した。
 太陽光を全て吸収したかのような輝きで、辺りに虹色の虹彩をこれでもかと撒き散らしている。光を幾度も屈折させ煌めくそれは、七色のオーロラを内に秘めていた。かつてクロウリーが盗まれただのなんだのギャアギャア言っていた魔法石にも似ているが、その倍以上発光している。

「なんだそれは??!!!???」
「石だ」
「っ、!!!! っ!!!!!!!」

 もはや言葉にもならないようで、セベクは額を押さえ黙ってしまった。トレイはセベクの隣へ移動し、肩に手を置く。

「意地悪な質問をした俺が悪かった。ちょっとでも疑ってごめんな」





『今北産業』
「イデア、お客様サポートセンターはどうだった?」
『最悪のお知らせと地獄、どっちから聞きたい?』

 冒険の島のお客様サポートセンターに電話凸をして「ヴェスタの中に友人がいるんです(笑)」と訴えかけたイデアは、最初は全く信じてもらえなかった。4度目の電話で電話口に社員が出てからというもの"頭のおかしいクレーマー"扱いをされ、イデアは激怒した。必ず、かのお客様サポートセンターの社員を納得させねばならぬと決意した。冒険の島近辺の衛星をひとつばかしハッキングし、ヴェスタのリアルタイム衛星画像を入手。衛星画像には横転したガレオン船や失踪者7名がバッチリと写っており、それを以てしてやっと信じてもらえたのである。
 ちなみに衛星画像は1枚72万マドルしたのでプロムの経費リストにスッ…と載せておいた。人命救助を、優先したいよなあ。

「最悪のバイキングやめて下さい」
「絶対出られないっすよね、俺ら」
「お終いの可能性が出てきたな」
「最悪も地獄も一緒でしょ。なんでもいいから報告して」
(りょ)。まず最悪のお知らせから。レスキューを呼んで救助してもらうっていうのはほぼ100パー無理ぽ。理由はヴェスタを覆ってる防御魔法の結界のせい』

 そもそも、なぜヴェスタは閉鎖されているのか。それは言わずもがな、プロメテウス火山が原因である。
 未だ活発な活動を続けるプロメテウスには噴火の恐れがあり、エンターテイメント性はあっても観光島の平和には似つかわしくない。それこそ、今にでも大噴火が起き 他のエリアへ被害が及んでは命がいくらあっても足りないだろう。それらの懸念要素を防ぐためにヴェスタは封鎖され、地上にはドーム状の、海底には危険エリアを全て包むようにした歪な形の防御魔法がかけられていた。
 この魔法は大魔法士が10人以上でやっと完成する大型のものである。内部から出ることはできず、外部から入ることもできない。社員は言っていた。何故中に人がいるのか見当もつかない、と。ボキも同じ気持ちだよ。

『この防御魔法の結界は解くのに1週間かかる。で、また同じものをかけるってなると1ヶ月以上かかる。だから今すぐには無理っていうか、準備と手配に時間かかりすぎ。すぐ脱出するならなにか別の方法を探さないといけないってワケ』
「正攻法で正面突破はできないということだな」
『そゆこと。で次に地獄なんだが、防御魔法の内側にもう一層あるっぽい』
「もう一層?」
「それは元々あったもの?」
『いやニュータイプでござる。冒険の島のお客様サポートセンターニキも把握できてない膜?みたいなのが内側にあって、たとえ防御魔法を解いたとしても出られない可能性が高いとおっしゃいになりました、ええ』
「それって…」

 イデアを含めた8人は原因に思い当たる節しかない。…偽グリムの中身がやった。あの悪意に満ちた愉快犯がやりやがった。確か「簡単には外に出さない」みたいなことを言っていたし、確定と言っても過言ではないだろう。それは要らない置き土産だった。

「じゃ、じゃあ。ただでさえ防御魔法が凄いのに、プラスでよく分からない膜が張ってて、これ詰」
「詰んだとかいうな!まだ分かんねえだろ… 」
「まだ言ってないよ!」
『…しかしですぞ?こういうのは大体サブクエをクリアしていくとメインクエストに繋がってストーリーが進むんスわ』
「サブクエって言ってもなあ。実際俺たちは何をやったらいいのか…」
「そうだね。とりあえず、探索ができそうな場所を回ってみるかい?我々に足りていないのはこの島の情報だ」
「ええそうね、じゃあ───」


 ヴィルが指揮を取ろうとしたその時である。バチン。と、後ろから何かが弾けた音がしたかと思うと、地鳴りのような騒音が響き地面が揺れた。地震大国出身の監督生は震度2… と感じた。
 今の地鳴りが原因か、イデアとの通話は切断されてしまった。電波を見ると右上の表記は5Gのままだ。おそらく切断は一時的なものだろう。

 監督生がうしろ… 音のした方を振り返ると、先ほどまであったはずの壁が一部陥落している。いや、違う。あれは…、水門?監督生が頑丈な鉄壁だと思っていたものは、島の入り口に当たる水門であった。よく見れば鉄壁の左右に柱が立っている。
 とりあえず、皆で音のした所まで行く。

「これ、水門だよな」
「水門が閉まったってことは、さっきまで入り口が開いてたってこと?まあ、開いたところで防御魔法と膜のせいで出れはしないけど」
「なんでいきなり閉まったんでしょう」
「水門を支えていたワイヤーがはち切れたらしい」

 シルバーが水門の柱の上にある巻上機を指差した。左右の柱の上で対になっているそれには太いワイヤーが巻かれているのだが、途中で千切れてしまっている。
 水門の自重に耐えきれずはち切れたのだとしても、何故今?まるで何か、始まりを告げているようだ。

「僕たちが此処へ来たタイミングで水門が壊れるなんて、偶然にしては出来すぎている」

 セベクはそれを睨みつけた。
 皆が水門の前で混乱していると、ザ、ザ。と、かすかに音がし始めた。電波が悪い時のノイズのような音だ。皆の空気が警戒の色へ変わる。ザ、ザ。音はし続け、周波数を合わせているようだった。
 やがて、その音の意味を理解する。






『アテンション、アテンション、島内の全クルーに告ぐ。ネモ船長の指令に従い、ノーチラス号に乗船予定のクルーは、本日13時までに、ノーチラス号を出航させよ。』
『アテンション、アテンション、島内の全クルーに告ぐ。ネモ船長の指令に従い、本日17時までに、ノーチラス号にて海底探索、および海底に沈んだ地熱発電機の鍵を回収せよ。』










𖣰










「ふ、ふな"!?子分たち、行方不明なんだゾ〜!?早く助けに行かねえと!」
「それが行けないんだ。例の火山のところにいるらしい」
「あのうるせえ山か?!ぶなぁ〜、なんだか気持ちがざわざわするゾ…」
「それは、"心配"だね。大丈夫だよグリムクン。みんなを信じよう?」
「…場所的にはすぐそこにいるのに、助けに行けないのがムカつく」
「でも、グリムちゃんが見つかって本当に良かったね!」

 オチェーアノにて。朝食を食べ終わったチーム・ホテルは、テーブルでドリンクを飲みながら一旦落ち着いていた。
 イデアから『捜索依頼:難易度★
★★★(星4)☆。終了条件:グリム氏の発見。2分で終わらせて。ハイ、ヨーイドン!』と言われた時、脳から伝達がくるより先に足が動いていた。行き先は一つしか考えられない。朝食バイキングが並ぶオチェーアノを目指し、非常階段を転がるように駆け降りた。そこには美味しそうにツナマヨピザを頬張る猫チャンがいたのである。
 
同級生(グリム)が見つかったことで元気が出たのか、和気藹々としている後輩を眺めつつ。ケイトはクラスメイトとチャットをしていた。


[イデアくん、さっきはありがと〜!向こうは大丈夫そうかな]
[先ほど冒険の島へお問合せが完了したところでおま。結論から言うと今日中の脱出はほぼ無理。冒険の島の管理局は救助に行きたくても行けない感じだし、今のところ詰んでおります\(^q^)/オワタ]
[あ〜、おっけ。それオレらだけの秘密にしといてもらっていい?エースちゃんが結構限界。タイミングみてオレから今日は無理そうってやんわり伝えるけど、通話繋がった時に「詰みですぞ♪」とか絶対言わないでね!]
[ガッテン承知。拙者もこれから当人らにその事実を伝えねば。というか風の噂で聴きますぞ、ハーツの1年の目つきがやばいと。エース・トラッポラ氏、大丈夫そ?]


 ケイトは頬杖をついて、一旦水を飲んだ。

 全く大丈夫じゃないよ。そんな話オレの耳にだって馬鹿みたいに入ってきてるし、リドルくんなんて言わないだけでめちゃめちゃ心配してるし、…でも話して解決するようなものじゃない。
 一度植えついたトラウマは、そう簡単に消えはしない。上級生の出した答えは、見守る。だった。


[大丈夫ではないよね〜。けどイデアくんのおかげでグリムちゃんだけでも見つかったから、少しは良くなってる。こっちの残ってるメンバーは全員同じ部屋で待機しておくね。また何かあったら教えて〜]
[承知。]


「ケイト先輩」


 エースが自身を呼ぶので「なあに?」といつものけーくんで応える。あ〜、目に光がな〜い。見守るとは言ったけど、エース闇落ち編だけは絶対に避けた〜い。

「イデア先輩、あれから何か言ってます?」
「今連絡きたトコ!まだ冒険の島にお問合せしてる最中で回答待ちみたい。早く回答来るといいよね」
「そすか」
「でも、イデア先輩がいて本当に良かった。僕たちの架け橋だからな」
「アイツ、救世主なんだゾ!」
「…さてと。じゃ!ここにいてもしょうがないし、一旦部屋に戻ろっか!1番近いエーデュースの部屋が拠点でいいかな?」

 部屋主の2人に了承を得て、チーム・ホテルの拠点が決まる。ケイトは自分が二重スパイみたいだなと思った。これが情報規制する国の気持ちか… そりゃ国民に余計な混乱を招きたくないよね。5人はオチェーアノを出る。



 ケイトは必要な荷物を全部まとめてから後輩たちと合流したので自室に戻る必要はなかった。が、エペルは所持品がルームキー1枚。それ以外何も持ってきていない。ジャックが消えた後急いでこちらへ駆けつけたので、手ぶらなのだ。スマホも何もない。
 そのため、一旦部屋に戻りまた合流すると言った。

「じゃあ、荷物まとめたらまた合流しますね」
「いや、オレ着いて行くけど」
「え?」
「え?」
「えっと、じゃあお願いしようかな?」

 1人で戻るエペルが心配なのか、エースは着いて行くらしい。
 エペルは若干戸惑っていたが、今のエースの不安定さを目の当たりにしているため了承した。ケイトは別にそれが悪いことではないし、本人の好きにさせるのが1番いいと思い「いってらっしゃい!」と見送る。


 ケイトは「さ!けーくんたちは部屋に行こ〜!」と思い立ちデュースの方へ顔を向ける。と、彼が顔を顰めているのが気になった。すぐに部屋へ向かおうと思っていたのだが…
 後輩の心情を探るため声をかける。

「デュースちゃん、どうしたの?」
「あいつ、流石に過保護すぎませんか」

 あ。この子、ちゃんと気づいてたんだ。

「まあね。きっと皆のことが心配なんだよ」
「…監督生とも話してたんですけど、あいつ最近おかしいんです。この間も…。僕とグリムが授業の合間にトイレに行ったんですけど、あいつ僕とグリムが"いなくなった"と思って勝手に焦って「言えよ!」って怒鳴ってきて」
「エースのやつ、オレ様たちを監視してるんだゾ!先週なんて毎朝オンボロ寮に迎えにいくなんて言い出しやがって!流石の子分もそんなことしなくていいって怒ってたゾ!」
「…」
「なんでいちいち全部報告しないといけないんだ。心配してくれる気持ちはありがたいけど、度が過ぎてます」
「じゃあさ。次そう思った時に、いっそのことガツンと言っちゃえば?」
「…たしかに。それもいいかもしれません」

 デュースは悪い顔をこちらへ向ける。その顔を見て、やはりエースへ助け舟を出せるのは先輩である自分らではなく同級なのだと分かった。これはけーくんの出る幕じゃないや。お手並み拝見。
 年長者は大人しく、見守りとフォローに徹しよう。3人は廊下を進み、部屋を目指した。











 エースはケイトに介抱されたときから「あれ、オレってこんなだったっけ」と考えていた。
 メテオーレがあってからというもの、皆が自分に向ける目の色が心配に染まっていくのを感じていた。いやいや、心配してんのオレだから!なんでオレが心配される側なわけ?今日の今日までエースは本気でそう思っていた。
でも実際は…

「エースクン?」

 エペルが「部屋ついたよ」とこちらに声をかける。気がつくと、エペルとジャックの部屋の前へ到着していた。あー。オレ廊下歩いてる時ずっと無言だったんだ… エペルに着いていくと自ら申し出たものの、感情の整理がつかないままでいた。自分自身がよくわからない。こんな感覚今までなかったので、エースは戸惑っていた。
 エペルは、エースがそんなことを考えているなんて知らないし、言われなければ分からない。普段より大分静かな同級生を気にもとめず、ルームキーで施錠を解いた。共に部屋へ入る。

「ちょっと待ってね。すぐ終わると思う!」
「おう」
「持っていくモノってスマホと、あとなんだろ。レポート用紙とかも一応持って、」
「…」

 エペルはキャリーケースからクリアファイルに入ったレポート用紙や筆記用具などを取り出し、ヴィルのお下がりのブックトートへ入れていく。

「あはは、皆を待つ間レポートするなんて、抜けがけみたいになっちゃうね!」
「…あのさ、」

 エペルはエースに背を向けて荷物を整理していたので、突然の呼びかけに振り返る。すると、エースは壁に凭れてしゃがみ込み、両手で顔を覆っていた。え!と思い、キャリーケースはそのままに駆け寄る。目線の高さを合わせた方がいいと思い、エペルも膝を折りしゃがんだ。

「どうしたの、具合悪い?」
「いや、違くて …あのさ」
「ウン」
「一個聞いていい?」
「ウン」

 エペルは、顔から両手を離さないエースの言葉を待った。表情が見えないのが少し怖い。


「オレって、マブ厄介おじさん?」


 あまりに突拍子もないことを言うので、エペルは素で「ハ?」と言ってしまった。今、なんて?厄介おじさん?

「正直に言って!正直に言って!」
「あ、ええ?どういう…」
「ここ最近のオレの言動についてだよ!」
「ああ〜…」
「正直に言って!!!」

 エペルはどうにでもなれと思い、エースに事実をありのまま伝えることにした。

「エースクンは、真のマブ厄介おじさんだよ」
「オワーーー!!!!!!!!!」

 エースは衝撃的な事実を目の当たりにし、魚雷のようなスピードでベッドへダイブした。




「オレさ、マジで。さっきまで普通に素でやってたんだよ。自分が心配性すぎるとか思ってなかったし、…ごめんだけど、逆にオレの事心配してる奴らがおかしいって思ってて」
「ウン」
「でも、また皆居なくなってさ。心臓が壊れるんじゃねえの?ってくらい勝手に動き回って、息できなくなって。ケイト先輩に介抱されてやっと気づいたわ」
「マブ厄介おじさんっていう事実に?」
「やめて」

 エペルはエースの独白を聞いて、自分で気づくのってすごいことだな。と感心した。最近のエースは、すごく細い糸みたいで、危なっかしくて、怖かった。ちょっとでも引っかかれば、プツン。と切れてしまいそうで…
 クラスのみんなからも「トラッポラって、もしかしてやばい?笑」と言われまくったし、ヴィルサンも「時間が解決するとか言うレベルじゃないわ」と言っていた。でも、

「あんなことがあったし、それはマトモな反応なんだと思うよ。エースクンはそれで自分を守ってるんだと思う」
「自分を守ってる?」
「そう、傷つかないために」

 エペルは例え話をした。

 例えばリンゴを育てているとする。実が成ってくるとどうしても鳥や動物に狙われてしまうから、ひとつづつ丁寧に袋がけをするのだ。そうすれば、収穫までリンゴは無事で綺麗なまま。だけどひとつでも袋がけを忘れてしまえば完璧でなくなる。大切に育てたリンゴの木から、実ひとつ食われてしまうのだ。そして大切な実が自分のせいで傷ついた、失われたという事実に直面して、今度は自分自身を傷つけてしまう。
 エースはそれをやっている。マブの動向に目を光らせて、少しでも傷つきそうになったら過剰に守る。自分が気付かぬうちにマブを失うのが怖い。だから周りから心配されるくらい執着して、感情の制御が難しくなっている。

「…お前、結構ちゃんとしてんね」
「エースクン、僕に失礼」
「ごめん。でも、やんわり言われるより助かるわ。オレ今おかしいんだな」
「……、でも。本当に仕方ないと思う。ルークサンも一時期そうだったし」
「マジ?」
「マジ 僕とヴィルサンにず〜っと付きっきりで、目がギラギラでさ。本当に怖かった」
「今は?」
「今は元に戻ったよ」
 
 元に戻ったと言っても、元がアレですけど。

「いちお聞くけど、どうやって元に?」
「すっごい単純だよ?ある日ヴィルサンが「アンタ、ウザいわ」って言ってビンタしたんだよね」
「っ、ダハハ!結局肉体言語かよ!」
「アハハ!やっぱりそう思うよね?僕もその時笑っちゃったもん。話し合いとかじゃないんだ〜って思って」

 エースは容易に想像できる内容に笑ってしまった。エペルもつられて笑う。あの時のルークサンの「?、??」みたいな顔は一生忘れられないものだった。

「だから、ウン。皆そういう部分はあるよ〜ってこと」
「でもさ。オレは異常だよ、多分。それに、監督生だけじゃない。ジャックもセベクも居ねえんだ!って思うと、なんか、こう… 血液が沸騰するみたいになる」
「大丈夫。だってエースクン自分で気づけたでしょ?それって凄いことだよ」
「そっかな…」
「エースクンだけが厄介おじさんじゃないよ」
「ゴメン。オレが言い出したことだけど、厄介おじさんって言うのやめてもらっていい?」

 エペルはそう言われ、エースと顔を見合わせて笑った。随分と遅い荷物整理だと思われてもいいや。ほんの少し、元のエースクンが戻ってきた気がして嬉しくなった。











𖣰












「あ!もしもし、イデア先輩?」
『こちらアンチ・プロム!応答せよ』
「え!… こちらチーム・筋肉!異常アリ!」
『エ?マジ?』

 時刻は12時過ぎ。やっとイデアと連絡がついた。監督生は現在、皆でスロープを上がって来た上の階…、ここを"1階"とするが、先ほどと変わらずこの階に居た。しかし青緑の楕円ベンチがあった場所は日差しがキツ過ぎたため、少し移動して水門前に陣営を組んでいる。
 水門前は数少ない日陰で、椅子が4脚とテーブルが置かれていた。そのうちの一席に腰掛けたシルバーはスヤスヤと眠っている。この状況で寝れるなんて、この人は本当にすごい。監督生は眠り姫の隣へ座り、テーブルに積まれた文献や日誌、その他記録等を読み漁っていた。

『異常アリって一体何が… 』
「実は謎のアナウンスがありまして。イデア先輩が言ってたサブクエっぽいことを指示されたんですよ。しかも2つも」
『おっと一歩前進では?詳細キボンヌ』
「1つ目のサブクエはノーチラス号… えーっと、潜水艦なんですけど、それに13時までに乗り込んで出港することです」

 監督生は、テーブルの上に広げた文献の情報を整理しながら喋る。

『え!?ぽまいら海に出るんでござるか!?てかマジでサブクエでウケるんだが。メインクエストは脱出の2文字なので』
「2つ目は、その潜水艦で海底探索と、海底に沈んだ鍵を見つけることです。17時までに終わらせろ〜!って言われました」
『それ、絶対クリアした方が良いパティーンでは?』
「やっぱりそうですよね!そう思って、皆さん情報収集のため探索に出かけています」


 さて、遭難者諸君が謎のアナウンスの指示通り動くには、この島のことを知らなさ過ぎた。探索し、少しでも知識をつけてから臨もうという魂胆だ。ということで現在3チームに分かれて行動をしている。
 この島には探索出来そうな場所がかなり多い。が、今は急ぎのため重要そうな場所と手近な場所を各チーム回っている。事前に30分間を目安に探索を終わらせるというルールを決めていたので、そろそろ皆戻ってくる頃だろう。

 チーム① ヴィル・トレイ・ジャック
 探索場所は1箇所。3人組なのは、ここの探索が最も危険と判断したためだ。何せ地下洞窟である。
 監督生たちが上がって来たスロープの奥には、もうひとつスロープがあった。螺旋状の巨大なスロープはそのまま地下洞窟へ繋がっていて、ルークはそこが怪しいと言ったのだ。この男の第六感は正しい。ならば3人で行くしかないと、ヴィルがチーム分けをした。

 チーム② ルーク・セベク
 探索場所は2箇所。1階をメインに探索中だ。この階には目を引く建物が2つある。ひとつは、スロープのすぐ正面にある「ヴォルケイニア」。もうひとつは「ノーチラスギフト」という全面ガラス張りでドーム状の建造物。
 ルークとセベクはノーチラスギフトの探索を既に終え、今はヴォルケイニアを探索中。監督生が日陰で読んでいる文献や日誌は、ノーチラスギフトの探索を終えたセベクが「読め!!!」と置いていったものだった。

 チーム③ ユウ・シルバー
 こちらはシルバーが睡眠タイムに入ってしまったために組まれたお留守番チームである。
 ちなみにルークが地下の探索へ行かなかった理由は色々あるのだが、一番は
(はぐ)れた際の連絡手段がないから。寮長用端末は2台しかないため、3チームに分かれると必然的に連絡が取れないチームができる。よって1階担当となり、お留守番のチーム③とすぐ連隊が取れるようにしていた。


『…あ、あれ…ちょっと待って?』
「はい」
『さっきスルーしちゃったけど、拙者の耳がイカれてなければ"潜水艦"って言わなかった?素人が運転できるものじゃないよ?』
「ハァ〜。そうなんですよ…。なので今、セベクが調達してきてくれた本を読んで叩き込んでるんですけど、覚えることが多過ぎて…」
『付け焼き刃で潜水艦の操縦は無理だって!でもサブクエが…。ア°!!!!ン〜、あと50分か…イケるかな…。あのさ、その潜水艦って舵輪に魔力を流すタイプのやつ?』
「え!どうしてわかったんですか?」
『キタコレ』
「え?」
『監督生氏、ノーチラス号の操縦は拙者たちアンチ・プロムにお任せくだされ。ではまた13時に!アデュー!』
「あ!ちょっと!」

 そのまま通話はブツリと切れてしまった。え、もしかしなくても操縦してくれるってこと…?だとしたら、潜水艦操縦のことは本当に不安だったのでありがたい。水平舵だとか、バラストタンクだとか、傾斜板だとか… 文字の意味から理解しなければならなくて、1時間にも満たない俄仕込みでは沈没まっしぐらであった。
 イデアがどうやって操縦を担うのかは不明だが、ノーチラス号の知識はあればあるほど良い。監督生が再び本へ集中しようとページを捲った時、前方からチーム②が帰ってくるのが見えた。セベクは何やら大荷物を抱えている。

「おかえりなさい」
「ただいま。シルバーくんはまだ寝ているのかい?」
「何回か起こしたんですけど全然で…。とんでもない特技ですね」
「特技?怠慢の間違いだろう。ルーク先輩、椅子を下ろすのはここでいいだろうか」
「ああ。ここまで重かったろう?メルシー、ムシュー」

 抱えていたのは3脚の椅子だった。セベクはヴォルケイニアから運んできたそれを地面へ下ろす。見るからに重そうな椅子の塊は案の定 ゴトン!!という大きな音を立て地面へ着地した。

「重そ〜… よく3脚もまとめて持てるね」
「重そうじゃない、重いんだ!しかしこれくらい造作もない。お前では1脚も運べはしないだろうが」
「ふん、じゃあこれからも全部セベクが運んでね」
「当たり前だろう。お前がこれを持ち上げたら骨が折れるぞ」
「怖」

 地下洞窟へ行ったチーム①が戻り次第、探索報告会を行う。そのため人数分の椅子が必要だった。セベクはいい感じに椅子を並べていく。

「椅子はヴォルケイニアから持ってきたんですか?」
「その通りさ。ヴォルケイニアという建物はどうやら食堂と宿舎を兼ね揃えたハイブリッドでね。そこから拝借して来たんだ」
「へえ!じゃあ今日はヴォルケイニアに泊まりですね!」
「待て、今日中にここから脱出できるかもしれん。まだ泊まると決まったわけではないだろう」
「ふふ、確かにセベクくんの言う通りだね。
…おっと、私としたことが。ノーチラスギフトに忘れ物をしてしまったようだ。ムシュー・クロコダイル、すまないが取ってきてくれないかな」
「ハ?なぜ僕がルーク先輩の使い走りなど」
竜の君(ロア・ドゥ・ドラゴン)に頼まれて買った大切なお土産だったんだが…」

 セベクは、ルークが(わざと)とらしくマレウスの名を出した途端「なに!?」と飛び上がり、ノーチラスギフトへ走って行った。元気だなあ。小さくなっていくセベクの背中を見ていると、ルークが机を2回小突く。

「ヴォルケイニアは水回りも整っていてね。シャワールームの他に、お手洗いもあったよ。無事に使えるかどうかも確認してきた。見に行ってくるかい?」
「……紳士ですか?」
「ふ、ハハハ メルシー。恐れ多いよ、トリックスター。私はノーチラスギフトへ行ってくる。お土産は鞄の中にあったと謝らなくては」
「ありがとうございます!私もヴォルケイニアへ行ってきますね」

 監督生は、ルークに気を遣ってもらったのだった。さすがポムフィオーレ… お手洗い問題が解決したのは嬉しすぎる。おまけにシャワールームもあると言う。宿舎と言っていたし、使えそうなタオルとかあるのかな…
 既に泊まる気満々でいる監督生はヴォルケイニアのお手洗いへ急いだ。





「アナウンスで指定された13時も差し迫ってるし、さっさと報告しちゃいましょう」

 時刻は12時20分。探索の戦利品が山積みになったテーブルを囲って探索報告会が始まった。ヴィルは「まずはアタシたちから」と、地下洞窟から持ち出したものをいくつか見せる。

「地下洞窟には研究所があったわ。かつてここで生きていた人たちの遺したモノ、本、記録。随分古いものばかりで手が煤だらけ… その中で特に気になったのは海底についての記録よ。今のアタシたちにとって、いっちばん重要なコト」

 監督生は、ヴィルがあまりにも深刻な表情をするものだから、重要なこととは一体…!と手に汗握った。

「実はな…、この周辺は魚が大量に獲れるそうだ。調理場があれば食料問題は解決する」
「ノーチラス号には海底で潜るためのダイビングスーツが常備されているらしいです。それがあれば確実に
()れます」
「アタシたちは発電機の鍵を探すのと同時に、海底探索…もとい、漁業をしに行くのよ」

 3人の目は"本気"だった。10代男子諸君の食欲をなめないでいただきたい。彼らは朝食に向かうためドアを開けたところ船の上へ飛ばされたのだ。朝から3時間は経過しており、ハラペコどころの話ではない。今日いちばんの真剣な眼差しである。
 
「マーベラス!私たちが調べていたヴォルケイニアは食堂だ!調理器具も錆びておらず、水も綺麗だった。発電機を作動させれば問題なく使えるはずさ」
「発電機は食堂と同じくヴォルケイニア内で発見した。アナウンスで言っていた地熱発電機とはアレのことだろう」
「奥には宿舎もあったんだ。今日中の脱出が難しければそこへ泊まろう」

 ルークが「ヴィル、シャワールームもあったよ」と続ける。名指しで報告を受けた当人はサングラスを外し「よく見つけたわ。最高よ」と満足気に返した。

「ガラス張りの建物の方は?」
「あれはおそらく潜水艦の修理工場だ。そこで発見した書物は… 人間、どうだ?」
「潜水艦について詳しく記載がありました。どうやらノーチラス号は大型の潜水艦で、カルデラ湖に浮かんでいるアレです」

 カルデラ湖には、監督生たちがヴェスタに漂流した時から一隻の潜水艦らしきものが浮かんでいた。出航を待ち侘びるかのように鎮座する船体は 重厚感のあるブロンズカラーをしており、太陽光を鈍く反射させている。先端は鋭く尖っていて、その上は操舵室なのか半円状の窓が2対あった。
 粗方予想はついていたが、まさかノーチラス号があんなに大きいとは。

「やっぱりアレがそうなのか」
「はい。セベクが持ってきてくれた本をザッと読んだんですけど、この潜水艦すごいんです!動力は電気。ナトリウム電池です」
「電池?随分とアナログなのね」
「ただのナトリウム電池ではなくてですね。ノーチラス号は海水の中のナトリウムを取り込んで発電します。つまり海の中にいる限り永久に動くってことなんですよ。すごくないですか!?それに内蔵された空気タンクは、2日分の空気を取り込み貯蔵できるんですって!他にも色々… とにかく、もう非の打ち所がないくらい完璧なんです。とんでもない発明品ですよ!!」
「落ち着け監督生、すごいのはわかったから」

 自家発電の永久機関。浪漫が詰まっている。ジャックは未知の発明品に大興奮の監督生を宥めた。しかし、トレイが「操縦はどうするんだ?」と聞くと、小さな体をさらに縮こませ露骨にシュン…となる。

「はい、そこだけが気がかりでして… 潜水艦って操縦が本当に難しいみたいで、多分私たちの誰がやっても沈没します。でも、」
「沈没…」
「でも?」
「イデア先輩が何とかするとおっしゃって」
「イデア先輩が?ここに居ないのにどうやって操縦するって言うんだよ」
「詳しくは教えてくれなかったんだよね。でもかなり自信あるみたい」

 なにせ「ではまた13時に!アデュー!」と早口で捲し立てられ、聞き返すこともできず通話は切れてしまったのだ。監督生が険しい顔をしていると、ヴィルは少し笑って前髪をかき上げた。

「よく分からないけれど、イデアはこの状況でハッタリを言うような馬鹿じゃないわ。信じてみましょう。…ところでお手洗いとか見なかった?手が洗えればどこでもいいのだけど」
「ああ、すまない。伝え忘れていたがヴォルケイニアにあったよ」
「使える?」
「勿論確認済みさ」
「オーケー。じゃアタシちょっと行ってくるわ。そうね、今が12時35分…」

 ヴィルは手首を返し、時間を確認する。

「45分にノーチラス号の前に集合。セベク、アンタはそこのプリンセスを起こしておきなさい。日課でしょ?」





 



𖣰










『アテンション、アテンション、島内の全クルーに告ぐ。ネモ船長の指令に従い、ノーチラス号に乗船予定のクルーは、本日13時までに、ノーチラス号を出航させよ。』


「この放送リマインドしてくれるの?優し… 」
「言ってる場合かよ。早く来いって」

 全面ガラス張りの建物 ノーチラスギフト の前には、ノーチラス号が停泊している湖面まで続く木製の階段があった。降りた先は小さな桟橋のようになっており、そこに潜水艦は位置している。

 ヴィルの指定した集合時刻。何故かルークの姿が見えず心配していると、突然ノーチラス号の後方ハッチが開き中からルークが顔を出した。「遅かったね!」と笑う狩人に、ヴィルは阿修羅の顔で船体へ飛び乗り金髪の頭を(はた)いたのだった。それを機に皆ノーチラス号へ乗り込んでいき、残るはジャックと監督生のみである。

「ほら、受け止めるから飛べ」
「ヒイ、ヒイ、結構距離があるよ」
「腹括れ」
「かっ、掛け声!掛け声欲しい!」
「ハァ?…仕方ねえな」

 ジャックはいつまで経っても飛び乗ってこない監督生に手を伸ばし、お望み通りの掛け声を出した。
 
「ファイトオーーー!!!!!」
「! いっぱァーつ!!!!! っ、ぎゃ!」
「っと!、おし」

 歩幅が足りず桟橋と潜水艦の隙間に落ちかけるも、ジャックが腕力で何とか引き上げる。やっぱり持つべきものは筋肉なのか… お礼を言い、内部へ向かう。



 ノーチラス号の出入り口は3箇所あった。前方ハッチ、後方ハッチ、そして真ん中の昇降口である。監督生とジャックは昇降口から中へ入り、金属製の階段を下った。

「え!!すごい!!さっき本で読んだ通りだよ〜!!」
「これは… すげえな」

 ジャックはノーチラス号の海面に浮上している部分だけをみて「そこそこでかいな」と思っていたのだが、それは船体の1/10である。海に隠れていた残りの9/10を目の当たりにし、息を呑んだ。
 前を歩く先輩のあとを追い、カン、カン。と音がする床を進んでいく。監督生の言った通り、ノーチラス号はナトリウム電池を用いて全てを電気で動かしていた。それは照明にも使われており、船内を明るく照らしている。
 壁は鈍いブロンズカラーをしているが、船体の色と比べれば幾らか暗い。あちこちにバルブやメーターが配置されている中で、監督生は"RESERVE AIR"と書かれた一際大きいメーターに気づいた。これはおそらく酸素の残量だ。メーターはマックスに近い。ということは、2日分の空気は確保されている!付け焼き刃も役に立つものだ。

「実に、実に楽しい!そう思わないかい薔薇の騎士(シュバリエ)!」
「まあ俺も男だからな。こういうのは見ててワクワクする」
「っそうだろう!私はこんなにも未知で、それでいて美しく、血の激る冒険譚を後世に語り継ぎたいよ!」
「勝手に語り継ぎなさいよ。ハァ、操舵室ってどこかしら?思ったより広いし早く探さないと…」
「この上さ!ようこそ操舵室へ!」
「何で既に詳しいの?」

 ルークは興奮から頬を赤く染め、まるで実家を案内するかのように操舵室へ続く螺旋階段を上がる。ヴィルは、結果としてルークが先に乗り込んでいたのは悪くなかったわ。ナビになるし。と考えつつあとに続いた。




 操舵室はこれまた複雑な形をしており、監督生が「沈没する」と言っていた意味がようやくわかった。
 まず目に入るのは前方にある2対の丸い窓だ。ここから外の様子が伺える。そして普通の船と同じく舵輪があるのは、わかる。ここまでは理解できた。しかしその横に謎のレバーが2本ついている。これはなんのレバー?加えて夥しい数のメーター、使用用途の不明なガラスのデカイ筒、バカみたいな大きさのコンパス。理解を超えている。これはなに?のパレードである。

 皆の頭に「?」が浮かぶ中、ヴィルの寮長用端末がピリリ、ピリリ。と鳴った。イデアからの着信だ。時刻は12時54分、ヴィルは電話に出てスピーカーにする。

『ハァ〜!ギリ間に合った〜〜〜!!!』
「アンタ遅いわよ!ヒヤヒヤしたじゃない!」
『スマソ笑 しかし拙者とんでもないプログラムを生み出してしもいたw 』
「いいから指示をちょうだい。今操舵室にいるけど、もう本当に意味がわからないの」
『諸君らがそれに触れる必要はない、とでも言っておきましょうかね…』
「ハ?」
『ヴィル氏。舵輪の近くにマジカルペンとか、魔法石とか置けるような器があるはずなんだけど見つけられる?』
「器?あ、これかしら」

 舵輪の右下にアンティークゴールドの丸いトレーがあった。それはパイプのようなもので舵輪に繋がっている。

『おk。じゃあそこに端末を置いて』
「了解」
『じゃあいきますぞ〜!…ショータイムだ』

 イデアは思い切り口角をあげ、僅か50分で作り上げた超絶天才的ウルトラ最高プログラムを起動させた。

『【システム作動。只今よりシンクロを開始します】【出力開始。シンクロ率1%…4%…8%…15%…28%…43%…72%…96%…】【100%。シンクロ成功。ヴェスタ内部、ノーチラス号の操舵権を剥奪。ハイジャックに成功しました】』
「ハ、ハイジャック?」
『【サーチライト作動テスト。ハッチ及び空気口密閉完了。スクリューの状態は良好、気圧及び酸素メーター異常なし】【潜水艇防御装置作動テスト。準備完了。まもなく潜行を開始します】』
『今この瞬間から、この船はノーチラス号ではございませんぞ。ふひ、さあ皆さんにご紹介しましょう… 拍手でお迎えください!』


『【聞こえる?僕が来たからにはもう安心!】』


 ヴィルと監督生は聞こえてきた声に「キャー!」と黄色い歓声をあげる。


『【ノーチラス・オルト号へようこそ!!】』


 ダクトから響くオルト・シュラウドの声と共に潜水が始まり、艦体は青に沈む。











𖣰









 

「あのさァ、俺は着なくてよくね?」

 白昼夢へ向かう途中、禁書室を抜けた辺りでフロイドはそう言った。

「ハ?なんです?まさか怖気づいたんじゃないでしょうね」
「ちげーし。だってさあ、お前らはプロムの広間でわちゃわちゃするけど、オレ今回バーテンよ?」

 アズールに鼻で笑われたフロイドは、ムッと見返した。
 今回のプロムでは出張モストロ・ラウンジをメインの大広間に出店する。それは簡易的と言いつつもかなり豪勢なつくりであり、モストロから選ばれたバーテンダーの精鋭たちをまとめるリーダーを、フロイドが務めることが決まっていた。要するに、バーテンダーの頂点。
(おさ)である。
 はじめはフロイドではなくジェイドが務める予定だったが、よくよく考えるとジェイドはヤバい客が来た時に殺っちまう可能性がある。よってフロイドがバーを守り、ジェイドはアズールの横に立ちニコニコしている係を命じられたのであった。

「バーテンが着飾る意味ある?あと、酒で汚したら死ぬかもしんない服なんて着たくねえんだけど…」
「ハァ。いいですか?この世は第一印象なんですよ。見窄らしい地味な服の男が作る酒と、身なりが整った美しい男が作る酒、どちらに価値があるとお思いで?」
「そりゃそ〜だけどォ〜!!!!」
「売上はお前にかかってるんです。腹を括りなさい」

 アズールは、プロムのせいでクローズしている本店の売上を、プロムで取り返す気でいる。なんとしてもこの気分屋に白昼夢の衣装を着せる必要があった。ちゃんとしていれば美丈夫なのだから、ご婦人方からのチップだって弾むはずだ。泣き真似をするフロイドの尻を叩いた。


 さて、NRC周知の事実だが、禁書室の奥にはもうひとつ部屋がある。聳え立つ数多くの本棚を抜けると、突き当たりに高さ3メートルほどの両開きの扉があった。レッドブラウンの重たそうな扉は、古ぼけてはいるものの いい意味で味があり立派だ。
 この扉の奥にある白昼夢へ入るには、
The Three Caballeros(スリーカバレロ)という三人の騎士の誓いを寮長3人で協力して行わなければならない。
 では一体誰が誰がやるか。数えきれない徹夜をしてきた寮長達5名による仁義なきジャンケン大会が始まるのかと思いきや、クロウリーが一歩前に出て扉へ杖をカツン。と当てた。

「え」

 カリムは予想外の出来事に声が出た。扉は、杖が当たった部分から広がるようにして 光り輝く純白へと変貌したのだ。大した魔力も消費せず変化したそれはオーロラのように輝いている。やがてどこからか追い風が吹くと、キィ…と音を立て、ひとりでに扉が開いた。少し掠れた深みのある音で、ワルツ。La Sandungaが聞こえてくる。

「それで開くのか!?」
「当たり前でしょう。ここは33部屋のうち、私が所有しているひとつなんですから。ちなみにトレイン先生も1人で開けますよ」
「つっよ」
「前はもう少し施錠も緩くて、三人の騎士の誓いなんて無かったんですがね〜」
 
 クロウリーはそう言いながらクルーウェルを見遣る。罰が悪そうに眉を顰め、その視線に応えた。

「昔生徒1人でこじ開けた馬鹿が居てな。その年から施錠が厳しくなった」
「そうそう!確かデイヴィス・クルーウェルくんという
馬鹿(生徒)が死にかけましたね!」
「お前かよ」
「何やってんだよデイヴ」
「死にかけたのはサムの方ですが?俺は完璧に開けて完璧に閉じた」

 嘘である。クルーウェルもしっかり死にかけていたし、サムもしっかり死にかけていた。クルーウェルが1人でこじ開け白昼夢に殺されかけた代で三人の騎士の誓いが生まれ、数年後サムが"仲間たち"と共に実質1人で三人の騎士の誓いを突破。結果大惨事となった。どっちにしろロクなモンじゃない。
 そんなクルーウェルの心情はクロウリーしか知らず、一向は白昼夢へ入った。






 クロウリーを先頭にして風光明媚な回廊を行く。あの夜白昼夢に入った3人は慣れたもので「ああ、こんな感じだったな」と進むが、他の者たちは初めて目にする異空間に心を奪われていた。特にレオナは、実は入りたくて仕方がなかったので尻尾をたすたす揺らしている。
 やがて、華美なドレスを纏った女の絵画が飾られた先を左に曲がる。と、そこではトレインがティータイムをしていた。

「中に居たなら開けてくださいよ!!」
「歩くのが面倒だったので…」

 教員も正装を着こなしているが、各自趣味全開の正装なのでクルーウェルなんてタキシードの原型など無いに等しい。
 一方トレインはダークレッドのテールコート。ベストはシンプルなシングルで、シャツは刺繍入りのホワイトだった。相変わらず正反対の2人である。

「またお茶会ですか?変わりない寵愛ですね」
「持ち主より愛されていますからな」
「ン〜事実なだけに何も言えません!」

 トレインは手にしていたアンティークのカップをオケージョナルテーブルへ置き、ゆったりと立ち上がる。そのままレオナとマレウスに突き刺すような視線を送ると、レオナは背筋をしゃんと伸ばし雄大に、マレウスは肩の力を抜き穏やかに見せた。

「よろしい。御目当てのクローゼットはすぐそこだ」
「へえ、クローゼットなんスね」
「開けたら衣装が入ってるんでしょうか」

 トレインが示す先には、2メートルをはるかに超える大きなクローゼットがあった。ヴィンテージ調のオーク材でできたそれは、クローゼットというよりワードローブに近い。
 横には案の定蓄音機が置かれ、掠れたワルツを奏でている。

「でっか」
「この中に順番に入ってください」
「は?貴族のアイアン・メイデンじゃねーか」
「ほら早く!時間ないですよ!」
「悪いようにはされない "はず" だ」
「…」

 ヤバい部屋(白昼夢)にあるアイアン・メイデン(クローゼット)。誰から行くかと顔を見合わせると、レオナがハンドサインのように、ビッ。と手を前に振った。

「ゴー。ラギー、ゴー」
「ハ〜〜!これだから王族は!」
「ゴー」
「ハイハイ分かりましたよ、入ればいいんでしょ入れば!」

 ラギーはぶつくさ文句を言いながら両開きのクローゼットを開けた。中には何もなく、人ひとり入れるゆったりしたスペースがある。そろりと中へ足を踏み入れた。そして「どうなっても知りませんからね!」と遺言を残したので、外からクルーウェルがクローゼットを閉めた。

「5秒ステイだ」
「爆速クッキングですか?」
「素材の態度が悪くても五つ星にしてくれるんですよ」

 5秒経ち、出てきたラギーは見違えていた。
 前髪は緩く8:2で分けられ、アイメイクはゴールドの真珠のようなセミマットの輝きを放つ。纏っている衣装はラギーのために組み合わされたオートクチュールで、華奢な肩幅をリカバーするようにフロックコートを肩に引っ掛けていた。細い即章入りのハイウェストパンツは足をより長く見せ、大ぶりなスタッズのついたパンプスは華やかさをプラスしている。
 まるで頭のテッペンから爪先まで綺麗に磨き上げられたかのようだ。近くの姿見で自身を確認したラギーは、何が起きたのか分からず
宇宙猫(スペースキャット)の顔をした。

「いや〜、相変わらず素晴らしいですね」
「ヤバいな、ラギーお前絶対汚すなよ」
「俺今総額いくらっすか?背負えきれないっスまじで。カイジになる」
「カイジで済めばいいけどな」

 ラギーの人体実験が成功したのを見て、残りの生徒も安心してクローゼットへ入っていく。次に出てきたリドルは全身ラッピングされたみたいにフリルのついたシャツブラウス。レース刺繍のコルセットはウエストを美しく彩っていた。首元にはシルクオーガンジーの大きなリボンが結ばれており、お母様の解釈も一致しそうな完璧な仕上がりである。
 次はワシが入るぞ♪とリリアがクローゼットへ飛び込んで行くが「フリフリのかわゆいのがいいのう」と言っていた本人の希望は通らず… バチバチにオールバックヘアでゼブラ柄のテールコート。一見するとマフィアだった。

「何故じゃ?」
「ハハハ!リリア、似合ってるぞ!」
「マレウスドラコニア、身内ネタに弱すぎません?」
「イカしておるしこれで
()いが…」

 リリアはいつのまにか手に持っていたサングラスをかける。薄いブラックのレンズには、天井から見下ろすシャンデリアの紫がかった光が反射していた。
















 大広間の天井からは、黄金に輝く星々が落ちてきている。あの夜より少し控えめな理由は、華美すぎると会場から浮いてしまうからだ。
 ジャミルはバーのカウンター席へ座りそれをボーっと眺めていた。「天井メテオーレにしようぜ!」と言い出したのは寮長でも副寮長でもない3年生の誰かだったが、全員正常な判断ができる状況ではなかったので無言でサムズアップをしたような気がする。…いや、気を失っていたかもしれない。もはや記憶すら曖昧だ。

「スイマセーン、まだ開店前なんですけど〜」
「座るぐらいいいだろ、気を落ち着けてるんだ」
「アハ 緊張してんの?オレは上手くやれる自信が無さすぎて今すぐ陸で溺れそう」

 さっきから手元を狂わせシャンパングラスを2つほど割っているフロイドがカウンター越しに話しかけてきた。プロムは開場まで1時間を切っている。

「モストロで3000人なんて客数さばいたことあるか?」
「あるわけねーじゃん。キャパ超えて圧死するわ」
「それもそうか… 待て、本気で嫌になってきた。具合も悪いかもしれない。多分何かの病気だ」
「それ今流行ってるヤツじゃね!?虫を愛しちゃう病っていう… 虫持ってきてあげよっか」
「セカンドオピニオンを頼む」

 他愛もない会話で気を紛らわせていると、フロイドの元へ一生分のレモンスライスが届いた。仕込み担当の後輩が、ダイソーで330円で売っているデカいバケツ7個分満タンにして持ってきてくれたのだ。…しかしこれでも足りるかどうかわからない。フロイドは胃が痛くなってきて、嫌な気持ちをため息に乗せる。飽きたとかめんどいとか言える状況じゃねえ。
 逃げ出せばクロウリーのようにボッコボコにされてしまうので、フロイドはおとなしくしていた。

「君たち、何休んでるんだい?」
「なんだそのレモンスライス!絶対に足りないだろ!」
「最終ミーティングはどこでするんだ?」
「もうここでいいでしょう。ジェイド、皆さんを呼んでください」
「了解です、アズール。…フロア担当、全員集合ー!!!!!」

 ジャミルから見て右側から、派手派手ファッションショー集団がズカズカとやってきた。
 しかしジャミルもその集団の一員である。首元にはクロコダイルのタイが鈍く光っており、纏ったヴィンテージゴールドの総刺繍セットアップは装飾品も多く、かなりの重さがある。が、ほっそりとしたウエストにフィットしていて、普段の何倍もスタイルが良く見えた。

 今から最終ミーティングを行うらしく、ジェイドの集合のアナウンス(大声)のおかげでバーカウンターの周りにホール担当の生徒や先生達が集まり始める。
 全員集まったところで、クロウリーが1番目立つ所へ立ち手を挙げた。

「皆さん、いよいよ本番当日です。今までよく頑張りましたね。これから一緒に死んでいただきます」
「デスゲームの始まり?」
「ではまず我々の砦、バーカウンターのキングことフロイド・リーチくんからどうぞ」
「はぁい」

 フロイドはカウンターにシャンパングラスをふたつ置いた。

「そっちから見たら両方一緒に見えると思うけど、これ現物ね。皆から見て右のグラスが"お客様用"。普通に酒が入ってる。で、左のグラスが"オレら用"。中身シャンメリーだから宜しく。マスカット味か青リンゴ味かは選べないからそれは運ね」

 フロイドは続けて「酒は何でもジュースに変えられる。カウンターでカクテルをオーダーしても出てくんのはミックスジュースだから」と言った。
 大広間の1番奥にバーカウンターがあるのは、ただお客様をもてなすためだけではない。生徒や教師の口に入る酒の量をコントロールし、プロムを円滑に進めるためである。主催側がベロベロに酔っ払うワケにはいかないのだ。

「今回ボーイは各寮から何十人と雇ってるけど、トレーにシャンメリーや、カクテルに見せかけたジュースを乗せてるのはモストロ(うち)で鍛えられてる精鋭だけだから、覚えといて。目印に星のタイピンつけてっから。グラスが空きそうになったらソッコーで届けに行かせるので安心してくださァ〜い」

 旅行組でやけに少なかった2年生はここに駆り出されていた。3年生に脅されプロムの手伝いをさせられていたワケである。
 天井装飾にはイグニハイド生の遠隔ドローンによる魔導ホログラフィ。キッチンには大食堂のゴースト達と共にハーツラビュル生が立っている。フロアのボーイにはオクタヴィネル生がメインで入り、受付にはポムフィオーレ生、大広間以外の会場ではまた別の寮生が… という風に、各寮大忙しであった。

「ちなみにブッチくんも急遽ボーイでフロアをまわすことになりましたが、彼は酒を配り続ける魔物になりますので。彼からも受け取らない様に」
「宜しくッス」
「では次にヴァンルージュくん」
「ディアソムニアのオーケストラは無事にリハーサルを終えておる。ワルツを始め、K-popまで対応できる様に鍛えておいたわい。1週間という過酷なスケジュール、よくぞ乗り切った。本番も十二分に頑張るよう」
「大変よろしい、BGMも大丈夫ですね。では最後にフロアリーダー3人から一言づつどうぞ」

 カリム、レオナ、マレウスが一歩前に出る。

「ハハハ!ここまで来たらもう覚悟決めような。ヤバいやつに当たったら運がなかったと思え!そして周りがすかさずフォローに入れ!」
「プロムマスターの俺だから言うが、これから先記憶がなくなるぐらいの勢いで客が押し寄せる。ワケわかんねえ話振られても平気なツラしてシャンメリー啜れ」
「僕から言うことは特にないが… まあ、たった5時間ばかりのパーティだ。そう緊張せずとも瞬く間に終わるだろう。励め」
「では最後に伝達事項がひとつあります。こちらの派手派手集団の衣装ですがね、汚すと死に直結します。何かトラブルがあった場合は皆さん気にかけていただきたい。よろしいですね? …あと30分で開場となります。頑張りましょう」

 クロウリーが一拍叩いたのが解散の合図となり、大広間のフロアスタッフはさらに細かいミーティングに入るため散り散りになった。フロイドとラギーもバーカウンターでミーティングに混ざっている。





 レオナはあと30分か…と時計を見て、気付に一杯貰うためカウンターへ足を運ぼうと思い立ったが、雰囲気にのまれているリドルとアズールがガチガチに緊張しているのが視界に入り…
 しょうがねえな。と先輩風を吹かせることにした。アズールの横で"ニコニコする練習"をしていたジェイドの隣へレオナが割り込む。唐突に現れたレオナに、リドルはぎょっとした。

「オイ、怖い話してやろうか」
「なんでですか?」
「あれは12月1日… 」
「え?始まるんですか?」
「あの夜が明けた日だった───






 金は贄、黄金を処決せし。その意味がわかったと、草食動物がいつに無く真剣な顔で言い放った時。あー、次倒れんの俺か。そう思ったワケだ。ファンタジアを還すだのなんだの言い合ってハーツラビュルを出た。俺とあのイカれ野郎… ルークな。俺とアイツは目の色が同じぐらいの緑だった。だから無理せずハーツで休んでろと言われたが、ここまで来たら最後まで見てえだろ、どう考えても。
 しかしな、ボロ屋敷まで行く道でどうにも目が痛みはじめた。そっから広がるみてえに頭もやられて、着いた時にはとてもじゃないが、目なんて開けてられねえ。お前らも倒れたんだから分かるだろ?あとは、加えて地下からの青い光が強烈だったのと、イデア… アイツはバカだから配慮なしに大声あげやがった。で、なんとも情けねえハナシだが、俺はそのあと自分でも気づかねえうちに意識を失った。

 それからどれぐらいの時間が経ったのか分からねえ。だが、明らかに痛みは引いていて、やけに目がスッキリしてたのだけ覚えてる。ああ、草食動物がやったんだと。アイツやるじゃねえかと思って目を開けた。そしたら…




 

 真顔のルーク・ハントがオレをジッ…と見つめてたんだ。俺が目を覚ますのを待ってた。横でトレイは笑ってた。しかもアイツ、俺と同じ目の色なのに朝まで起きてたって言うんだよ。あいつは人間じゃない。俺はあの日から目覚めってモンが怖え」
「…」
「…」

 リドルもアズールも、あの夜同じタイミングで倒れてしまった。しかしその後寮長会議で報告は十分に行われたので、当事者ではないが「何が起きたのか」は理解しているつもりだった。が、そんな怖い話は知らない。

「なんだ、お前たち。緊張しているのか?」

 怖い話をする4人の後ろから、残りの4人が湧いて出た。
 マレウスは白昼夢に前髪をオールバックにされたものの、ツノの間から前に出てくる毛が邪魔で若干イライラしていた。ので、今しがたジャミルにハードスプレーで固めてもらったのだった。後頭部には仮止めのため、リリアのハンギョドンのヘアクリップが付いている。

「仕方ない、僕が怖い話をしてやろう」
「どうしてですか?」
「なんの変哲もない昼下がりのことだ…」
「どうしてですか?」
「僕はその日、急いでいた────






 昼下がり、5限は移動教室だということを失念していた。普段使用している教室が、午後から改修のため使えない。そのためいつもの魔法史は少し離れた別教室で行われるのだと。事前にリリアから口うるさく言われてはいたが… まあ、僕にだってそういう時もある。
 だから僕は急いでいたんだ。流石に走りはしないが、魔法を使い移動するほどでもない。そのぐらいの絶妙な距離だった。しかし担当教諭はトレインだ。遅れれば面倒なことになるし、何より僕が不快になる。そこで裏庭を通りショートカットしようと思った。そうだ。アーシェングロットの言う通り、1階の渡り廊下だ。

 裏庭に出て早足で歩いた。そして先の渡り廊下の柵を超えたんだ。…ハア。何度も言うが、僕はこの時非常に急いでいた。だから、渡り廊下の柵を越える際上を見ていなかったんだ。結果、このツノが思い切り上枠に当たって酷い音がした。痛くはないが、頭に響いてしょうがない。
 その時だ、後ろで気配がした。






 振り返れば、ルーク・ハントが大きな網を持って笑っていた。ハントは通話をしていて「また失敗だったよ、シュバリエ」と、そう言っていたのが忘れられない。アイツは待っているんだ… いずれ僕のツノが落ちるのを。それを手中におさめる日を」
「…」
「…」

 一緒に横で聞いていたスカラビア2名もウワー… と思っていた。なんだこれ、ルーク・ハント縛りの怪談か?この世の怖い話は全て奴に直結してるのか?てかツノが取れるわけねーだろ。

「必ずオチにトレイさんが居るのは何故ですか?」
「サイエンス部の呪いだろ」
「トレイ・クローバー黒幕説が浮上しますよ」
「トレイは歯ネタがヤバいからな〜!」
「うちのセベクも怯えておったわい」
「キミたち!!」

 ルークもやばいがトレイもやばいという話で盛り上がりかけていると、リドルがそれを一喝した。

「ハーツラビュル寮副寮長の悪口はよしてもらおうか!」
「いや悪口っていうか… 現実見た方がいいですよ」
「バースデーとはいえヴィルの顔面に躊躇なくパイを投げる時点でヤベえんだアイツは」
「およし!そ、それにトレイは歯に詳しいだけだ!
! そうだ、そういえば… 」
「おっと?」
「あれは僕が入学したての頃────





 僕は幼少期、お母様から厳しい食時管理を受けていた。その影響は良いこともあれば、少し… 発育が遅かったり、そういうこともあったんだ。そのうちのひとつに、歯の生えかわりがあってね。通常であれば12歳くらいまでに永久歯に生えかわっているものだけど、僕はこの学校に入学した時まだ乳歯があったんだ。…あまり驚かないでくれ。下の歯の、奥歯とまでは言わないけれど、まあそこらの歯が一本。これは当時の僕のコンプレックスだった。
 ある日、トレイとなんでもない日のパーティの打ち合わせをしていた。お茶請けにはクッキーが出されて、僕は何も考えずただそれを食べていただけなんだ。そうしたら、トレイは僕の顔を… いや、口元をジッと見つめていた。僕のお行儀が悪く、クッキーの破片が付いているんだとおもって口元に手をやっても、何もない。では何故?と疑問に思った。
 するとトレイは、


「リドルお前、左下の5番… いや、乳歯なら違うか。この歳で第二乳臼歯が生え変わってないのは珍しいな!」


 と、言って笑った。医者でも、専門家でもないのに見抜いたんだ!たしかに乳歯がまだあるというのがバレてしまったのは、少し恥ずかしかったけれど… 気にしていたのは事実だし、そのあとアドバイスもくれたんだ。トレイのように歯に詳しい友人がいて良かったよ」
「…」
「…」
「…」


 ジャミルは口に出すつもりはなかったが「キッツー…」と心の声が出てしまい、リドルに睨まれた。最後にとんでもない話を聞いてしまった。歯を番号で呼ぶ奴なんて医者しかいねえよ。この世にはいろんな種類のサイコパスがいるんだなと、カリムはまた一つ学んだ。

 そうこうしているうちにプロムは開場10分前を切っている。打ち合わせを終えたフロイドとラギーが皆に合流すると、先程まで賑やかだったのが嘘の様に静まり返っているものだから「?」と不思議に思った。












𖣰












 潜水を開始し航路が軌道に乗った頃、ヴィルは「準備があるから」と、1年のみを操舵室へ残して螺旋階段を降りていった。一体何の準備かは教えてくれなかったが、悪いことではないらしい。

『【針路は良好!ヴィル・シェーンハイトさんの言っていた"発電機の鍵がある場所" "潜って魚が獲れる場所"まであと8分だよ】』
「まさかイデア先輩がオルトを送り込んで来るとはな」
「予想外だったぜ。てっきり本人がゲーム感覚で操縦するモンだとばかり…」
『【僕もみんなの役に立ちたかったんだ。兄さんばっかりサポートしててズルいんだもん!】』

 イデアは外と内を繋ぐ唯一の存在であり、各所のサポートをしてくれている。しかしオルトが「手伝わせて!」と言えば「危ないから」と相変わらずの過保護。僕だってもうNRC生だよ!と謀反を起こし、ようやく皆をサポートできるようになったのだ。ちなみに謀反とは勿論ヴィル仕込みの泣き落としである。
 そんなオルトの自動操縦のおかげで、ノーチラス号は潜水を開始した時よりも遥か下へゆっくりと沈んでいく。操舵室から見える海の様子は至ってシンプルで、どこまでも青く深い。監督生はガラス越しに広がる海の青を見つめていた。

『【あれっ、監督生さん。心拍数がどんどん上がっているけど大丈夫?】』
「…え あれ〜、なんでだろ!」

 何もなしに心拍が上がるはずはない。明らかに何かを隠している。と、セベクは監督生を睨む。出航前はオルトの登場に大はしゃぎしていたのに、いつのまにか借りてきた猫のようだ。
 そのままセベクが監督生を観察していると、彼女は首につけたダイヤのネックレスを握りしめている。ああ、そうか…


「お前、怖いのか」


 監督生はぎょっとしてセベクの顔を見上げた。いかにも不安げな監督生の目を見返して、疑念が確信に変わる。

「違うよ、ちょっとパニックになっただけ」
「で?」
「それだけだよ」
「…気に食わんな、なぜ隠す?」

 ジャックとオルトは2人の様子を静観している。セベクの強い眼差しに根負けし、監督生は観念した様にダイヤから手を離す。

「…ハァ、分かった」
「フン、それでいい。この僕が聞いてやろう」
「すっごく吐きそう」

 今度はセベクがぎょっとする番だった。静かに見守っていたジャックも慌てふためく。オルトは改めてマップをスキャンし、お手洗いまでの最短ルートを確認。いつでもナビゲートできるようにした。

「貴様!!絶対にここでは吐くな!!」
「監督生、そういうのは早く言え!留守番できたかもしれねえだろ!」
「あんなところでひとりで留守番は嫌だよ〜!! ウッ」
「騒ぐな!!そして耐えろ!!!!」
「ハイ…」
『【監督生さん!速度落とすね、少しは揺れなくなると思うから…!】』

 オルトは大変!船酔いだ!と監督生を心配しているが、2人は勘づいたかもしれない。何を隠そう、監督生は船酔いが理由で吐きそうなワケではないのだ。
 吐き気は、迫り来る青を体感してのことである。本当は海が怖い。海というか、青い湖というか、底抜けに沈んでいく感覚というか… ただの船ならまだマシだった。S.S.コロンビア号も、トランジットスチーマラインも、ガレオン船も耐えられた。あれらはただ海面を行くだけ。でも潜水艦は、こればっかりはあまりにもダイレクトアタックなのだ。
 ファンタジアを還した時のアレが原因だなんて、情けなくって誰にも言えなかった。

「沈んでる感覚が気持ち悪いから、逆に速度上げてほしいかも…」
『【了解。あと2分で着く様にするから、頑張って!】』
「ありがとう」

  









「ヴィル先輩。なぜ俺たちは操舵室から離れたんだ?」
「ファッションショーのためよ」
「…ファッションショー?この状況で?」
「そう。そしてモデルはアンタ」
「俺が、モデル?」

 シルバーは、私が、プリキュア?みたいなテンションで自らがモデルであることを自覚した。
 操舵室から出て階段を降りると、下は海図室となっている。ヴィルとトレイは艦内のマップがわかっていないので、とりあえずドアを開けて閉めてを繰り返している。

「うーん、こっちには見当たらないな。必ずあるはずなんだが」
「もっと探してみましょう。それにしたって、何でこんなに広いのよ」
「? 一体何を探している?」
「アンタ"たち"が着る衣装」

 ヴィルはシルバーを指差すついでにルークにも振った。ヴィルとトレイが探索した地下洞窟の研究室には、この潜水艦の機関室の近くには"アレ"が置かれていると書いてあったのだ。

「私も着ていいのかい?」
「いや、色々諸事情があってな… お前たちにしか頼めないんだ」
「?」
「ちょっと、機関室あったわよ!」
「お!ナイス ヴィル」

 ヴィルが機関室横の重たい防水扉をグンと開ければ、お目当ての衣装… 潜水服をやっと見つけた。ハンガーにかかったそれはゴム製で、踵から指先まで全てが一体となっている。上半身を包む部分は銅板がついており、おそらくこれで水圧から身を守るのだろう。

「ほらね?やっぱり同じやつだったわ」
「ほらねって言ったって仕方ないだろ。この作りに統一されてるんだ」
「先程から何の話をしている?」
「プリンセスは寝ていたからわからないでしょうけどね?アタシたち…。いや、アンタたちは、これから海底へ食料調達に行くのよ」
『【目的地到着まで、あと2分です】』

 ダクトから、オルトのアナウンスが艦内に響く。

「おや、到着が早まった様だ」
「急いだ方が良さそうね。アンタたちよく聞いて」

 ヴィルはルークとシルバーを横に並ばせ、その正面に立った。気迫は船長そのものである。トレイは片隅で銅製のヘルメットと酸素タンクの準備をしている。

「アタシたちは洞窟の研究室でこの潜水服と全く同じものを発見したの。で、試しにジャックに着せてみたんだけど。世に出せないレベルでパツパツだったのよね」
「どうやら過去の人たちは小柄だったらしい。多分ルークの身長でギリいけるかってとこだな」
「なるほど。だから私とシルバーくんがそのアンティークを身に纏い海底でランウェイするんだね?」
「綺麗に言うとそうね。悪く言うと漁業よ」

 トレイはヘルメットを小脇に抱え、潜水服をハンガーから外した。それを持ってシルバーの方へ近づいてくる。

「トレイが提案する作戦があるの。最悪だけど」
「人聞きの悪いこと言わないでくれ。1番効率がいい方法だって話したろ?」
「はいはい、そうね。巻き餌作戦の説明をしてあげて」
「よし。まずシルバーだが… お前は海底に立っているだけでいい。寝てたっていいんだ、あとは全部ルークがやるからな」

 洞窟の研究室でパッツパツの潜水服を着たジャックを見たトレイが提案した作戦は、ヴィルとジャックの動きを止めてしまうほど恐ろしいものだった。
 シルバーって何もしなくても生き物が寄ってくるんだろ?魚も同じじゃないか?シルバーを海底に立たせて寄ってきた魚をルークが乱獲する。これが一番いい手だろ!例え魚が寄って来なくても、2人の身体能力なら申し訳ないくらい捕まえられるだろうし。どうだ?
 弱肉強食、友好の罠、思いやりの心、巻き餌人間、効率厨、サイコパスの作戦… ヴィルの脳裏に様々な言葉が過ぎった。しかしお腹は空いている。背に腹は替えられない… ドン引きのジャックを押し退いて、巻き餌作戦は承認されたのである。

「さ、そうとわかったらこれを着てちょうだい。アタシたちの夕飯はアンタたちの頑張りに掛かってるのよ」
「ウィ」
「なんてことを考えつくんだ…」
「ハハ、褒めるな褒めるな」
「褒めてはいない。決して」






𖣰






『【シルバー、ルーク・ハントの乗船を確認。ダイビングルームの海水を排出します。……5、4、3、2、1、0。海水の排出完了。防水扉を開けてください】』
「アッハハハハ!!!」

 ヴィルは悪魔の様な笑い声をあげ防水扉を開ける。そのまま中へ入ると、潜水服を纏ったルークはニコニコで大量の魚の入った網を持ち抱えていて、シルバーは自分に寄ってきた魚たちが目の前で捕えられたため悲しげな表情を浮かべていた。
 ヴィルの後ろから、トレイが顔を出す。

「ハハハ!大収穫だな!」
「素晴らしい成果さ!シマダイなんかも取れているよ」

 結果からいうと、トレイ考案・巻き餌作戦は大成功を収めた。
 目的地到着後、ヴィルとトレイは艦内中央にあるラウンジの大窓から潜水組を見守っていたのだが、面白いくらいに漁が成功するものだから笑いが止まらず… 先輩の大爆笑になんだなんだと1年組がラウンジへ降りてくれば、海底でシルバーが全身ドクターフィッシュみたく魚に纏わりつかれている。潜水艦が停泊し吐き気が落ち着いていた監督生は、そんなシルバーを見て雀の神になったデュースを思い出し 笑いながらビデオに収めた。

 トレイがルークのヘルメットを固定していたボルトを外してやる。潜水服は完璧な状態で保存されていたため、中に着ている服は濡れず無事だった。ゴム製の潜水服はハンガーにかけ元の場所で乾かすことにして、獲れた魚はとりあえずダイビングルームに置いておく。
 4人は1年生たちが待つラウンジへ向かった。

「は〜、本当に笑えたわ。なんであんなに魚が寄るの?美味しいエキスでも出てるのかしら」
「魚を獲るルーク先輩の眼差しは恐ろしかった」
「でしょうね。シルバーも
巻き餌(潜水)お疲れ様」
「2人とも鍵のこと忘れてないか?探している風には見えなかったんだが」
「ああ、これだね」

 ルークは胸ポケットから錆ひとつない鍵を出した。鍵にはNのマークと共にGenerator(発電機)の刻印が光る。

「いつの間に見つけたんだ?」
「私の華麗な探索を見逃したのかい、
薔薇の騎士(シュバリエ)。それにしても、この島で暮らしていた人々は物を大切に扱うようだ。ほぼ全てのものに防護魔法がかかっている」
「ああ、だから鍵も錆びてないのね。そういえば地下の研究室も埃や煤は酷かったけど劣化しているワケじゃなかったわ」

 ヴィルはそう言いながら、ラウンジへ続く扉を開けた。
 このノーチラス号に在るラウンジは、まさに豪華絢爛と言ったところだ。艦内でいちばん広い部屋であり、絵画、宝石、文献、彫像。そしてこの潜水艦の持ち主の趣味だろうか、奥の壁際には存在感のある大きなパイプオルガンがずっしりと構えていた。まるで小さな博物館のようである。
 中央にはレッドベルベッドの大きなソファが置かれており、1年3人組はそこへ腰掛け待っていた。

「あ、おかえりなさい」
「鍵も見つかったんすか?」
「ええ、ルークがちゃっかり見つけてたわ」
「流石カギ見つけ名人」
「オルトの推定は正しかったな」
『【確率は98%だったから少し心配だったけど、見つかって良かったよ!】』

 オルトが鍵を落とした地点であろう地熱発電所の位置やカルデラ湖の海流などを考慮し、導き出した場所が今停泊しているココだった。

「オルトのサポートがあってこそだわ。ありがとう」
『【どういたしまして!】』
「さて、海底探索という名の漁獲も済んだし、ミッションコンプリートよね?」
「漁獲が海底探索に含まれるならオーケーだろうな」
「魚の種類を調査したということで…」
「ではもう海底でやることはないな」
「今14時過ぎか。1時間で終わるなんてあっけないが、」
「シルバー!やめなさい。そういうのはね、フラグって言うのよ」

 ヴィルがオルトに浮上の指示を出すと、操舵室からラウンジへ繋がれたダクトから『【了解!】』と返事が返ってくる。
 皆ラウンジのソファへ座り、トレイに
いろんな魚料理(ドゥードゥル・スート)の無茶振りリクエストをしていると、ダクトから『【…あれ?】』と言う不安なアナウンスが入った。

『【う〜ん、なんでだろう?浮上のためバラストタンクから海水を排出してるんだけど動かないんだ。何かに引っかかってるのかな?】』
「フラグ回収早くないですか」
「もう一度潜水服を着て様子を見てこようか?」
『【ルーク・ハントさん、シルバーさん、申し訳ないけどお願いしてもいいかな。僕がその場に居ればスキャンできるんだけど、今はこの艦体に備わっている機能しか使えないんだ】』
「わかった。セベク、潜水服に着替えるのを手伝ってくれ」
「ああ」

 再び潜水するため何人か立ち上がったその時である。
 何かに引っ張られるように艦体は大きく傾いた。その衝撃で、監督生は座っていた位置から15センチほど浮いたが、ソファが大きかったので転げ落ちずに済んだ。

『【緊急事態発生。緊急事態発生。潜水艇防御装置を作動します。強い衝撃に備えてください】』
「なんだなんだ!」
『【何かに掴まれてる!まずい、…兄さん聞こえてる!?こっちに来て!】』
「捕まれているだと!?海底で!?」
『【なにごとでござる!?】』
「こっちが聞きたいわよ!」
「わ、あぶな!」
「誰か監督生を抑えろ!飛ぶぞ!」

 大きな力に揺さぶられ、艦体はどんどん海底へ引きずり込まれていく。ラウンジの大窓から見える海底の景色は目まぐるしく変わっていき、やがて沢山の沈没船が見える窪地へと着いた。そこは不思議な地形で、崖のようになっている。ジャックが「"船の墓場"だ」と呟く。
 ヴィルはそれを聞き物凄い剣幕で振り返った。
 
「"船の墓場"?!」
『【なに!?船の墓場だとまずいの!?てか船の墓場ってなに!?】』
「まずいわよ!じゃあこの揺れの正体は、」

 監督生はふと、大窓を見てしまった。それはほんの出来心で、勿論見ないと言う選択もできた。けれどどうしても何かがいる気がして。目線をそちらへ向けてしまったのだ。

 先程までなかったはずの異物が、へばりついている。

 巨大な吸盤だ。吸盤だけが巨大なのではなく、足そのものがとてつもなく大きかった。この潜水艦は全長45メートルあるが、きっとそれを包み込めるくらいの足の長さだろう。太さは大窓の2/3は占めており、ぎちぎちと締め付けている。

「ヒッ」
「ア、アレはなんだ!?」
「…アズール?」
「よく見ろアレはイカだ!!!!!!」
「そういう問題じゃないだろ!」
「あれはクラーケンかい?初めてお目にかかるよ!」
「2人おかしいのがいる!」
『【人狼やってる?】』
「イデア!ふざけてる場合じゃないのよ!!」
『【"何か"は"生物"だったんだね。それなら任せて!】』

 混乱を極めた艦内にオルトの声はよく通る。監督生がクラーケンの吸盤から目が離せずいると、潜水艦の外をいくつもの閃光が走った。…そうだ、思い出した。ノーチラスギフトで見つかった本には「ノーチラス号は迎撃用に高電圧の放電が可能」と書いてあったはずだ。おそらくオルトが使っているのはそれだろう。
 どんどん強くなる放電にクラーケンは怯み、とうとう艦体を離した。


 それなのに艦体はまだ海底へ落下し続けている。水深はいつの間にか、1500メートルを超えた。


『【兄さん、これ】』
『【…まずいね】』
「これ以上まずい状況になることがある?」
『【いや本当に。今はこの潜水艦がオルトとリンクしてるけど、まさかこんなに深──、潜ると──かったから。これ以──】』
「ちょっと?イデア!」
『【とりま──、オート操、縦からマニュア────、になるけど────────頑張って、生きて】』

 ブツリと音を立て通信は切れた。ノーチラス・オルト号から、ただのノーチラス号に成り果てた艦体は、早いスピードで深海へ沈んでいく。






𖣰






「ダウンカレントだ」

 場所はラウンジから変わり操舵室にて。イデアとの通話は切断され、寮長用端末は魔動式の舵輪を動かすための置物になった。もちろんオルトによる自動操縦も終わりを告げ、自分たちで操縦するしかない。が、そう上手くいくはずもなく… 舵と水平舵の操縦方法はなんとなく掴めたものの、深海から浮上するのに必要なバラストタンクの使い方が全くわからずお手上げだった。
 水深を示すメーターは6000を超えたところで止まっている。ノーチラス号は海溝の底にいた。

「ダウンカレント?」
「ダイビングでよく使う言葉だ。下降海流とも言うな」
「…ああ、何もしなくても沈むやつでしょう?ダイバーが巻き込まれたら死ぬっていう」
「そうだ。おそらく俺たちは下降海流に乗ってルシファー海溝へ落ちたんだろう」

 何も呑気に談笑しているわけではない。先程の緊急事態で上がった心拍を落ち着かせるためには会話が必要だった。浮上するための操縦はうまくくいかず、現状は絶望的である。黙っていると気が狂いそうになるのだ。不安を会話で打ち消していた。

「さっきから言っている"船の墓場"だの"ルシファー海溝"だの、それはなんだ?」
「地下の研究所にヴェスタ周辺の海域の地図を見つけてな。そこにいろいろ書いてあったんだ」
「ではクラーケンのことも研究所に?」
「ええ。けど100年も前の記録よ?まさか本当に居るなんて… 」

 ヴィルはため息をつき、目の前に広がる濃紺を見る。ほぼ黒に近い深海の様子は、サーチライトで照らしても岩肌を撫でるだけ。飲み込まれそうな海底の圧に、気が滅入ると思い目を逸らす。そのまま舵輪を背にするよう後ろを向くと、監督生があり得ない顔色をしていた。

「ちょっと!アンタ大丈夫?!」
「はい、大丈夫です」
「大きな声出してごめんなさい、でも普通じゃない顔色してるわ。とりあえず座って」
「や、ほんとに大丈夫ですから。静かにしてれば良くなります」

 ヴィルたちは潜水服を探したり、シルバーを巻き餌にするのに必死だったので、監督生のそれを知らなかった。ラウンジで合流した時は元気にみえたのだ。

「いいから座りなさい。今ならルークを椅子にするのとそこの丸椅子に座るの、どちらか選ばせてあげるって言ってるのよ」
「丸椅子に座ります」
「いつから具合が悪かったの?次からは遠慮せずに言いなさいね」
「ハイ…」

 ルークを椅子にすると脅され大人しく丸椅子に座った監督生は、薄く均一に塗られたファンデーションの上からでもわかるほどに顔色が悪く、元気がない。首につけたネックレスを痛いほど握りしめていた。
 それを見たセベクが監督生に近づく。

「全く、仕方のない。今回だけだぞ」
「セベク?」

 セベクは懐から皮のカードケースを取り出した。二つ折りのそれを開き、中身を監督生に見せてやる。

「わぁ、ツノ太郎だぁ…」
「そうだ、若様だ」
「なにこれ、証明写真?」
「リリア様にいただいた。若様が学生証にお使いの写真と同じだ」

 監督生はセベクからカードケースを受け取った。証明写真サイズに収まったちいさなマレウスは、なんとも言えない絶妙な顔をしている。彼が1年生の頃のものだろうか?だとしたらちょっと貴重だ。

「いつも持ち歩いてるの?」
「ああ。僕の活力だ」
「、アハハ!まさにセベクじゃん」
「若様を見て体調を治せ!!…いや、すまん。静かにしよう」
「わはは、みてジャック。ツノ太郎盛れてない」

 下降海流で一気に水深6000メートルまで沈み、気を失っていないのが奇跡だった。むしろ気を失えていたらどんなに楽だったか。視線があちこちに散らばってしまい、どこを見ても落ち着かない。
 だから監督生は、マレウスの証明写真に救われた。セベク本人が思ってる以上の効果があったのだ。ちょっと盛れていない妖精王の写真に集中すれば、目の前に広がる深海から気を逸らせた。無事脱出できたらリリアに頼んで1枚譲ってもらおう…

「1年は心の和ませ方が独特だな」
「アタシたちも何かあったらあの証明写真見せてもらいましょ」

 いくらか顔色がマシになった監督生を見て、少し安心する。そうよ、監督生だけじゃない。3年生が不安な顔してちゃ後輩はもっと不安になるわよね。操縦を再開しよう。次こそ行けるはず。ヴィルは艦体を浮上させるべく舵輪に向き合う。

 すると、見たことのない生き物が前方の窓からこちらをジッ…と見ていた。

「っ、な なんなのもう!!次から次へと!!」
「おっと… なんだこの生き物。人魚、には見えなくもないが。ルーク見たことあるか?」
「ない。人魚というより爬虫類のように見えるね。オニキスのようでいて、トルマリンみたく煌めく美しい瞳だ」

 窓から見つめてくるその生き物はトカゲのような頭をしており、淡く発光している様にもみえる。全身は細かい鱗で覆われ、手には水掻きがついていた。青緑と水色を混ぜたような肌の色は、深海によく映えている。
 謎の生き物は、キュ。とイルカのような高い声をあげると、こちらに興味があるのか首を傾けた。警戒している様子は全くない。

「え、かわいい…」

 癒しに飢えている監督生が手を振ってみる。と、その子は水掻きのついた手を振り返してきた。

「かわい〜!なぁに?この子は」
「わからん。僕たちの中に人魚族が居ればわかったかもしれんが」

 そう言いながらセベクも手を振ってみれば、トカゲのような子はやはり手を振り返してくれた。そしてキュウ!キュ、と鳴いたかと思うと、ノーチラス号がひとりでに動き始めたのである。

「ちょっとアンタ何したの!?」
「な、何もしていない!人間と同じく手を振ってみただけだ!」
「おい、どこに連れて行かれるってんだよ」
「巣か」

 シルバーの一言で場は凍りついた。巣?

「えっと、それは」
「食われるってコトだ」





「アンタたち、先に言っておくわ。愛してる」
「ハハ、生きたまま食われるのは嫌だな」
「やめてください!まだ食われるって決まったわけじゃないですから!」

 ヴィルもトレイも「☆次回作にご期待ください────!」のような顔をしているので、ジャックが止めにかかった。ノーチラス号はゆっくりと先へ進み、今は海底遺跡のような場所を彷徨っている。

「おい、体調はどうだ」
「良くなってきた。ツノ太郎ってすごいね」
「当たり前のことを言うな」
「はいはい」

 深海に沈んでから時間が経ち、監督生は恐怖に慣れてしまった。しかしこれは一時的なものだろう。
 もうマレウスの証明写真がなくても平気なので、セベクに借りていたカードケースを「どうもありがとう」と返す。ソッ…と優しく懐へ収納された。

「…前の。あれは人を食うと思うか?」
「う〜ん、私はそう思えないけど」
「なぜそう思う」
「まず、この海溝はヴェスタの防御魔法の内部だよね。ってことは、この場所には100年以上人間は踏み込んでいないってことでしょ?そんな所に住んでる種族が人を食べるのかな」
「一理あるが、それだけでは甘いな」
「あとは、直感… 猛獣使いの」
「フン」

 監督生は半笑いで猛獣使いを自称した。しかしどうしても、潜水艦を先導している生き物が人を食べるようには見えないのだ。だってかわいらしいし、手を振り返してくれたし。手を振った理由が愛嬌ではなく、食べ物の鮮度を見るため。とかだったら怖すぎるけれど。
 食べられることを受け入れ始めていた3年2人は、監督生の話を聞いて「確かにな」とこちらへ振り返った。

「私も監督生くんと同意見かな。彼からは敵意を感じないし、むしろ招かれている気がしてね」
「アタシたち食料にされるものだと思ってたけど、いい子ならこのまま上に運んでくれないかしら」
「でもよく考えろ。あいつはおそらく人魚だぞ?何をするにしても対価を求められるだろ」
「トレイ先輩、その場合2択です。最初から対価を求められるパターンと初回無料のパターンがあります」
「どう考えても初回無料が1番怖い」

 シルバーは皆の会話を耳にしながら、サーチライトで照らされた海底遺跡の様子を見ていた。大きな瓦礫が大半だが、その中に人の形をした巨大な石造が倒れている。人工物ばかりなのだ。崩れ落ちた宮殿のようにもみえる。…彼らは一体何なのだろうか。
 真剣に考えて眺めているうちに、海底遺跡は終わりを迎えた。終わりを迎えたのだが、

「これは、」
「なんだシルバー起きてたのか」
「立ったまま寝てるんだと思ってました」
「流石にこの状況では寝れない」
「信憑性ないわ」
「いいから前を見てくれ」

 皆好き勝手に言うので、それどころでは無いと前を向かせる。
 サーチライトの向く方へ目を凝らすと、先導して前を行くのと同じ生き物が何体もいるのが見えた。まだ落ちている瓦礫の隙間や、年季の入った大きな壺の中。こちらを観察しているかのように覗き見られていた。シルバーの言う"巣"に到着したようだ。

「え、色違いだ!先輩、色違いです!」
「こらこら、ポケモンじゃないんだぞ」
「あそこに見えるのがこいつの家か?すげえ光ってるけど」

 ジャックの指す方向には、深海に浮かぶ大きな建造物が見える。それはシアンブルーに輝く近未来的な街だった。ここからまだ距離があるが、ゆらゆらと幻想的に輝いている。そちらへ泳いでいく生き物もいれば、近くの海藻を収穫している生き物もいる。彼らはここに文明を築き生きているのだ。
 しかし艦体は街の方へは行かず、一度止まった。目の前で何体かが集まり、キュ、キュ!と会話を始める。

「なんだ、何の相談をしている!!」
「こういう時に限って
翻訳機(オクタ)が居ねえんだよな」
「このラウンジにある骨董品何でもやるから上に連れてってくれ」
「もしくはバラストタンクの使い方を教えてちょうだい」

 生き物たちは話がまとまったのか、散らばって泳いで行く。何かを相談していたあの子は窓までやって来て、コンコン。とノックした。相変わらず敵対する様子もなく、…しかし心無しか微笑んでいる気がした。キュウ。高い音で鳴き、ぺちぺちと小さな手で窓を叩く。
 すると、艦体は何かに押し上げられるかのように浮上を開始した。

「え」
「ルーク!メーターを見て!」
「ハハハ!水深は上がっているよ!」
「本当に初回無料でいいのか!?」
「え〜!やっぱりいい子だったんですよ!」

 上へ進むノーチラス号の周辺には、マラソンランナーを応援する道路脇の人々のように沢山の生物が見守っていた。頭に触角の生えたひとまわり大きな個体もいる。それを見て監督生は、最初に遭遇した子は子供だったのだとわかった。
 こちらが勝手にナワバリに入ってしまったのに、浮上を手伝ってくれる。なんて優しい生き物なのだろうか。


「疑ってすまなかった」


 シルバーは生き物たちに手を振った。伝わったのか、伝わっていないのかはわからないが、キュ!とイルカのような声が聞こえる。
 あっという間に水深メーターは2000を刻み、イデアたちと通信が途絶えた1500メートルまであと少し…














『【────のせいで皆死んだとしたら、どうしたらいいの…】』
『【僕がもっと危険を察知できてればよかったんだ。無事だといいんだけど…】』
「キャー!繋がった!」
『【え、なに?】』
「イデア、オルト!こっちは無事よ!」
「いやあ、生きているね」
「すまんがまた操縦を頼む!」
「生還したぞ!!!!!」
『【ちょ、ちと、うるさっ】』
「オルト!宜しく頼む!」
「これで一安心だな」


『【ぽ、ぽまいら!静かにしる〜!!】』
『【皆無事だったんだね!よかった〜!!】』


 チーム・筋肉はスン…と静かになった。聞き分けは良いのである。
 時刻は16時前。結局あの生き物たちは何だったのかわからないまま、ヴェスタの防御魔法の内側をオルトの自走操縦で進んでいく。窓から見える海の様子は真っ暗だった深海には程遠く、ひたすらに青い。監督生は、また嫌な記憶がフラッシュバックして目を瞑った。海面に出るまでは、このまま視界を遮っていよう。
 不安な時ネックレスを握りしめるのは、癖のようになってしまった。


 










𖣰












「クロウリー殿、お久しぶりですな」
「おや、ミスティック卿ではないですか!お久しぶりです。アルバートくんはお元気ですか?」
「ええ、相変わらずのお転婆ですがね。それがまた可愛いのですよ」
「今日は一緒でないんですね?お留守番ができるとは、お利口なご友人だ」
「ええ。良き友であり、家族なのです。本日はお忙しいでしょう?一目会えてよかった。ではまた」
「お気遣いいただきありがとうございます。では」
「クロウリー先生、相変わらずお元気ですね!」
「ブリオン社長!3年ぶりですか!」
「よく覚えておいでだ!ここ数年は採掘が忙しくてね… なかなか顔を出せずいましたが、ここは変わらず大盛況ですな」
「ああ、ビッグサンダーマウンテンの。新聞で何度もお名前を見ましたよ!社長の采配あってこそですね」
「名の通り天命なものでね… いや、ご挨拶ができてよかった!では」
「ええ、こちらこそ。では失礼」
「クロウリーさん」
「おっと。まさか!ロブステリ会長にお会いできるとは…!前に歓喜の港の酒場で偶然お会いした時以来では?」
「実に6年ぶりですかな?確かあの日乾杯した酒は…」
「ビアンヴニュ・バタールモンラッシェ。43年モノでした。奥のバーに同じものを用意しておりますよ」
「ハハハ!貴方の記憶力には脱帽しますね!今回はね、我らS.E.A.に新メンバーが───」

 クロウリーの周りには常に人がいる。こちらから行かなくとも次から次へと客が押し寄せるのだ。1人との会話は1分もないが「貴方のことを覚えてますよ」という風にしなければならない。だからこそ、いつ誰が来てもいいように3002名全員の名前を覚えたし、ここ数年のエピソードは全て把握済みだった。把握済みというか、脳に無理やりそうさせている。
 カウンターでカクテルの補充を待つラギーは、遠くで饒舌をふるうクロウリーを眺めていた。

「いや〜、ありゃ逃げ出したくもなるわ」
「小鬼ちゃん、これで最後ね」
「サムさんどうも!んじゃ、行ってきま〜す!」
「ハーイ!頑張ってね〜!」

 サムはトレーを持ちあげたラギーを見送ると、次に帰って来たボーイの星のタイピンを見て、フェイクのカクテルを作り始める。100%リンゴジュースを冷蔵庫から出しつつ、チラ。と横のフロイドを見ると、彼はアズールの思惑通りチップで荒稼ぎしていた。おそらくプロムが終わる頃にはNo. 1ホストのバースデーくらいの売上が出るだろう。

 さて、なぜサムがここにいるかといえば、プロム開始10分前に買収されたからである。








 開場15分前。サムはミステリーショップのバックヤードで支度を済ませ、大広間の中へ入ったところだった。大広間の正面入り口にはすでに大勢の客がおり、関係者用の裏口から中へ入ったのだ。普通客として招かれているが、3000人の中に混ざって並ぶのも馬鹿らしい。
 学園関係者ということで、サバナクロー寮生の警備も顔パスで入れた。

「(うわ、悪趣味)」

 大広間へ入り上を見上げたサムは絶句した。誰だよこれ考えたやつ。ヤケクソすぎるだろ… しかしプロム準備の過酷さは分かっているので、特に言及せず会場を彷徨(ウロつ)いてみる。

 会場の奥には、すでに料理が立ち並んでいた。立食形式のため、ホテルのバイキングみたくキッチリ置かれたそれは、今すぐミシュランの審査員が来ても対応できるような出来だ。5日ほど前、死にそうな顔で買い出しに来た小鬼ちゃんたちから「今年は食事にお金をかけているので楽しみにしていてください!俺らは当日忙しすぎて食えねえけど!」と聞いていたのだ。
 期待を裏切らない作りに、後で食べるのが楽しみだと胸を膨らませる。他にはどんな仕掛けがあるのかと辺りを見回していると、不意に肩をつかまれた。手袋の色は赤。後ろにいる人物を察して振り返れば、やはりクルーウェルがいた。

「やあサム。なぜここに?」
「あ〜、正面すごい人で。裏から入れてもらっちゃった〜…みたいな?」

 クルーウェルは「そうかそうか」といつになくにこやかで居る。サムは肝が冷えた。何か裏がある。絶対に、面倒ごとなんて御免蒙りたい。

「ハハハ、知ってた」
「は?」
「アー、こちらクルーウェルだ。サムを発見。サバナクローは持ち場に戻れ」
「…おっと〜」

 クルーウェルは耳に何もつけていないのに、どこかと会話をしている。しかし話の内容から察するに、自身が裏から入れてもらえたのはトラップだった可能性が高い。

「嫌です」
「まあまあ。否定から入るなんてお前らしくないんじゃないか?良いから聞けって」
「嫌です」
「あそこに居る子犬どもを見ろ」
「ハ〜…」

 こちらの話も聞かず、悪い顔で笑うクルーウェルに言われるままそちらを見る。少し距離があるので、胸ポケットから片眼鏡を出し左目に翳し見た。サムはレオナの衣装を見て、つけたばかりの片眼鏡を外す。いや、見間違いかもしれない。もう一度値踏みするつもりで見遣る。

 やっぱり、あれは間違いなくグリレスク生地だ。10×10センチで数千万マドルは下らない、非常に希少価値の高いもの。それをマントの様にして着ている。いくら王族とは言え、グリレスク生地をあんな使い方するヤツは見たことがない。レオナだけに気を取られていたが、マレウスの衣装… あの艶めきは確実に月の石関係と見た。カリムの袖に使われている装飾はルギー・ド・ラザリオ製の純結晶。いやいや、全員やばいのかよ。
 後ろ姿しか見えないが、前から見てもあんな感じだと想定して衣装総額を出すと、NRCがもう1個ぐらい建つ計算になる。一体どこにそんな金が?

「何をどうしたらアレになるんだ」
「白昼夢に借りたんだ」
「ああ、クルーウェル先生が死にかけた例の」
「は?お前もだろうが」
「先生が全治3ヶ月だったと聞く、例の」
「俺はそれで済んだがお前は半年だったろ」
「なんのことかサッパリ…。で、俺はどうしたら?」
「…案外ノリ気か」
「タダでって、ワケじゃないんでしょ?」

 サムは片眼鏡を胸ポケットへ戻し、帽子のツバを前へ寄せた。今度はサムの方が悪い顔をする番だ。
 どうにも料理と共に金の匂いがする。

「今こちらから提供できるものはささやかなんだが…」
「内容によりますね、お客サマ」
「お前にバーカウンターのクイーンを務めてもらいたい」
「嫌です」

 最悪すぎる。なんでこれから3002人来るのが確定してるのに引き受けると思ったんだ?ここはメインのホール。俺が学生の頃とは客の数も規模も違いすぎる。相当な報酬がないと引き受けられない。

「さっきまでノリ気だったろ!」
「悪いですがね、ミスター。他を当たってください。今日のサムはゲスト!大体、俺がクイーン?じゃあキングは誰なんだ」
「…オレがキングだよ、ウミウマくん」

 クルーウェルと肩を組むようにして、キングが現れた。


「…アッハッハッハ!君までなんて服着てるんだ!」


 フロイドが着ているバーコートは今や手に入らないであろうサムナリズ・マダムのアンティーク。さらにはエラー品だった。正規品とは違う大ぶりなボタンと布材のばらつきがフロイドの雰囲気と合い、アンニュイな仕上がりになっている。
 が、そんな美丈夫は眉をハの字にして嘆願しはじめた。

「なあウミウマくんお願い、オレ以外にもバーテンいるけど絶対まわせなくなる。あと普通に人手足りてねーから早く来て」
「どうせならバーテン以外もやってほしい。思いつきとノリで色々手を加えすぎた。フロア全体を見て手助けしてやってくれ。頼む」
「ウ〜ン… いや、待って待って。肝心な報酬を聞いてないけど」
「報酬か?」

 クルーウェルとキング・フロイドの間を割るように、クラシカルなテールコートを着こなした紳士… NRCの裏学園長ことモーゼス・トレインが満を持して登場した。

「アッ、交渉成立しましたか」
「勿論。なんとか了承してくれた」
「そんなに勿体ぶるってことは、とんでもないものなんでしょう?」


 トレインは懐から"あるモノ"を出す


「君が学生の頃、白昼夢から持ち出したかったのはコレだろう?」











 まさかのモノを出され二つ返事を返した。結果、ご満悦のクルーウェルに透過されたインカムをつけられ、ニコニコのフロイドに「白昼夢の衣装は汚したら死が待ってっから」と教えられ、いつも通りのトレインに化粧と衣服をパパッ!と直され… あっという間にバーテンダーへ転職したというわけである。

「もう3個乗せても運べるかい?」
「余裕っすね」
「フフ、流石だね!じゃあこれで宜しく」
「ありがとサムさん!」
〈こちらフロイド〜、金魚ちゃん後ろからママ接近中〜、逃げて〜〉
〈こちらボーイ、
進行妨げ(フォロー)入ります〉

 プロム。もとい戦場が開始してから1時間が経つが、特に目立った異常なし。強いて言うならフロアにて、リドルが母親と鬼ごっこをしているくらいだった。リドルが言うには「母はこの後予定がある。その時間まで逃げ切れば勝ちだ」だそうだが、この調子だと雲行きが怪しい。
 
〈こちらリリア。どれ、わしが行ってこよう〉
〈え?何言ってんの?〉
〈やめといた方がいいですよ!触らぬ神に祟なし〉

 マレウスの横に着くのを早々にやめ、美味しいご飯をたくさん食べたリリアは暇を持て余していた。そろそろ面白いことが起きんかのう。サングラスをカチャリと上へ上げながら、インカムに流れるローズハート鬼ごっこ実況をラジオみたく聞いていて、いよいよアレを実践するか!と思い立ったのだ。
 「行ってこよう」と言ったのは思いつきではなく、前からちょっと考えていた。ただ純粋に興味があるのだ。同じ年の人の子を育てた親として、一体どこが違うのか。話してみたいと思っていた。まさにチャンス!赤を身に纏った麗人は目と鼻の先にいる。

〈わし、行っきま〜す!〉
〈言うこと聞かね〜!〉

 




「失礼。お怪我はありませんか、マダム」

 リリアは、真紅のドレスの女にわざとぶつかった。その際サングラスも外してしまう。ご婦人に話しかけるには、このアクセサリーは少しやんちゃすぎる。
 ぶわり、と広がる後ろ下がりのフレアドレス。よく似た鋭い眼差しは、親子の証明だった。

「いいえ」
「それは良かった。…どなたかお探しで?」
「どうしてそれを?息子を… リドル・ローズハートを探しておりますの」
「こんなに広い会場では、御子息ひとり見つけるのも難しいでしょう」
「ええ、そうみたい」

 リドルの母はそう言いながら、30メートル先にいる息子をジッと見つめている。リリアは、あえて「あちらにおりますよ」と教えて差し上げた。
 ゆっくりと、こちらへ目線がうつった。アイオライトの瞳と視線が交差する。

「しかし今はご歓談中のようです。ミセス、お時間は大丈夫ですか?」
「今日はそろそろお暇しなくちゃいけないの。リドルさんをひと目見れただけでも嬉しいわ」
「…彼は私の後輩にあたりますが、とても優秀な子ですよ。入学してすぐに寮長になんて早々できる芸当ではない。才能ですね」

 うふふ、と長いまつ毛に縁取られた大きな目を細めて笑った。赤に塗られた口元へ手をかざし、リドルの母は言う。


「そうでないと困りますわ、ミスター。当たり前のことが当たり前にできるよう育てましたもの」


 すぐ近くにいたレオナは時の人、カメリア・ファルコと歓談しつつ2人の会話にも耳を傾けていたが、怖すぎて泣いちゃいそうだった。

「1年で寮長になるのが当たり前とおっしゃる」
「はい。私の子ですから」
「ハハハ、素晴らしいことです」

 うん。予想通りだが、子に期待している部分が全く違っている。人間というのは、ただ健やかに伸び伸びと、元気に生きていてくれればそれで良いのだと。リリアの思うそれは綺麗事に過ぎないけれど、美しいものだと。そう思っていた。
 けれど、我々に共通しているものがひとつあり、それは子に対する愛だった。

「あら、こんな時間。本当に行かなくちゃ」
「貴重なお時間をどうも」
「いいえ、ミスター ヴァンルージュ。貴方のような素晴らしい方からお褒めいただき光栄でしたわ。ごきげんよう」

 はて、わしは名を名乗っておらんが。
 初めから分かっていたのだな。遠ざかる、まっすぐ通った軸のブレない背筋を見て… リリアはサングラスをかけなおした。

 …まあこんなエゴ、よくある話のひとつだ。興味本位で覗いてみた深淵であるし、人様の家庭へ口を出す気もない。でもそれにしたって


「歪んでおるの〜」








𖣰








「ああ、君。ひとついただいても?」
「勿論!どうぞ」

 ラギーは会場内をぐるぐる回り、文字通り酒を配り続ける魔物になっていた。衣装が良いので他のボーイよりも目立ち、チップもたくさんいただいている。
 こりゃいい仕事見つけちまったな〜!と、現在はミモザ、チャイナブルー、シャーリーテンプル等カラフルなカクテルをトレーに乗せ、踊る様にフロアを歩いていた。


「ちょっと」


 チュールのエンパイアドレスを着た、慎ましやかな女性に呼び止められた。彼女はすでに満タンのシャンパンを手にしている。なるほど、両手に酒がご希望ね。仕方がない、今晩は紳士も淑女も皆酒が欲しいのだ。「いかがなさいますか?」とトレーを傾けカクテルがとりやすい位置へ持っていくと、女は露骨に嫌な顔をしてこちらを睨みつけてくる。
 え、オレなんかやっちゃいました?

「貴方、まさかハイエナ?」
「え、そうですけど」
「そうですけど、ですって?」

 女はわなわなと手を震わせ、シャンパンをこちらにふっかけてきそうな勢いだ。思わず一歩後退る。
 それだけは、なんとしてでも阻止しなくてはならない。なるべく穏便にいこう。

「あの、気分を悪くされたようでしたら…」
「ハイエナの獣人如きが、なぜこのような場所に?!」

 え?昼ドラ?この時代にまだこんな思考回路のヤツが生きてたんスか?もう絶滅したかと思ってたッス!の感情になる。しかしまずい事態だ。ヘルプを求め周りに視線を送る。が、しかし。
 悲しいかな周りの生徒、先生は皆手が空いていない。〈ラギブチやばそうだけど誰かいける?〉インカムからモストロのボーイ長の声がする。しかし応答はゼロ。ボーイ1人すら手が空いていないのかよ。

「聞いてるの?」
「あ、ハイ…」
「貴方のようなハイエナが、あんな高貴な方々と同じ学園で息をしているという事実が耐えられないわ」
「ハイ…」

 非常にまずい。コイツはオレの存在にキレている。このまま誰かが仲裁に来てくれないと、マジで酒をかけられるかもしれない。自身の種族が原因ということは、謝っても、弁解しても、何をしたって無駄なのだ。差別というのはそういうモノだから。

「よくもこのプロムに出ようと思ったわね」
「…」
「今すぐここから出て行ってくださる?このフロアにいる皆さんそう思っていらっしゃるわ」
「…」
「卑しい獣。穢らわしい」
「ハァ」

 にしても、コイツ何様なんスか?そもそもナイトレイブンカレッジには人間以外に、人魚やら獣人やら妖精やら異世界人までウジャウジャいる。それを承知の上でプロムの招待を受けて来たんスよね?そんなに嫌なら自衛して来いよ。ハイエナの1匹くらい居るかもな〜とか思わねーのか?
 なんかムカついてきたな。穏便にとかどうでもよくないッスか?

 ラギーは普段だったら「あーハイハイ笑 ハイエナdis乙ッス笑」とスルーできるのに、プロムの準備で4徹・3時間睡眠・2徹してしまったのがここにきて仇となった。

「もう、どうにでもなれ…」
「はぁ?なんです?」
「だーかーらー、何も考えず招待に応じたアンタの落ち度でしょ?って話ッスよ」

 ラギーは目の前の無礼な女を指差し鼻で笑った。もう、しーらね!レオナさん。オレ、カイジになりま〜す!












「(あ〜、まずいですねこれ)」
 
 クロウリーは視界の端にチラつくハイエナを気にかけていた。自分だけではない。このフロアにいる学園関係者全員がラギー・ブッチに注目している。
 先程までラギーは何かを一方的に言われ続けていた。しかし今は一転、ラギーが女を指差し反論し始めたのだ。何をやっているんですか!ブッチくん、貴方らしくもない。と心の中で念じつつ、クロウリーは目の前のH.ハイタワー三世の長話に付き合っている。

「して、クロウリーさん。先日見つかったアトランティス文明についての新たな文献はご覧になりましたかな?」
「アトランティス文明ですか。また古い歴史を好まれて… まあ、私も読みましたけれど。あれは人魚とは少々異なる種族になりますが、もし。今も尚文明が続いているとすればとんでもないことです」
「ハハ、そりゃそうでしょうとも!しかしですね、」

 アー!気が狂う!なぜ今そんな古い歴史の話をするんです!脳みそはひとりひとつしかないんですよ?このままだと焼き切れてしまいます。…違う違う。私の現状はどうでもいいんですよ。とにかく誰でもいいからブッチくんのフォローに行けないんですか?
 キングスカラーくん、はまだカメリアさんとドリームフライヤーの話に夢中。ドラコニアくん、は何故かアルアジームくんのお父様とご歓談中。アーシェングロットくん、はいつのまにか緊張が解け商談に必死。バーカウンター、は人が多い時間帯のようで大忙し。目に入る学園関係者は全員手が離せない!まずい、あのご婦人は目の前のハイエナに怒りを爆発させる寸前だ。もし衣装を汚すような事があれば、ナニとは言わないが白昼夢に持っていかれてしまう。


「(…おや)」


 頼り甲斐のある男がひとり、ラギーの方へ向かうのが目に入った。人混みをかき分け行くのが大変そうだ。ウンウン、あの勇敢な男… まあ、少々不安ではありますが。手助けをしてあげましょう。私、優しいので。
 クロウリーはいつも通りグリップを強く握り、今までにないほどに強く、杖を床へ打ちつけた。ダン!と大きな音が鳴り、ビリビリと反響していく。一瞬、会場の視線がクロウリーに向いた。


「これは失礼」














「普通わかりません?この学校獣人も通えるんスけど。ハイエナくらい今どき珍しくないッスよ」
「貴方、失礼だわ!」
「その言葉そっくりそのまま返しますよ。もういいッスか?この時間人生の無駄なんで」
「な、」
「じゃ、サヨナラ!生きるのしんどそうッスけど、頑張ってくださいね〜!ファイト!」

 えいえいお〜!と振り付けまでして煽ってしまった。オレに理性があったことに感謝して欲しいッス。もしオレが3時間睡眠なしの7徹だったら愚者の行進(ラフ・ウィズ・ミー)使ってお前にもえいえいお〜!させてたからな。
 言いたいことも全部言ったので、スッキリしてそのまま立ち去ろうと さらに一歩下がった。しかしそううまくはいかないのだ。


「言わせておけば、このッ…!」


 ま、そりゃそッスよね。こんだけ言いたい放題したんだから、この結末は当たり前だろう。けど、コイツにハイエナを侮辱されたままではいられなかった。
 女はなみなみと注がれたシャンパンをこちらへぶちまけようとしている。その予備動作のまま、勢いよく腕を振った。迫り来るシャンパンがスローモーションに見えて、目を瞑る。ばあちゃん、レオナさん。悪い、おれ死んだ────


 しかし、一向に濡れる感覚がしない。


 アレ、おかしい。と思い目を開けると、ラギーと女の間には白と黒がトレードマークの男が立っていた。


「ク、クルーウェル先生」


 かわいい生徒を守るため、頭から酒を被った色男。デイヴィス・クルーウェルは、お気に入りの毛皮を台無しにされ、長いまつげからはシャンパンが滴っている。
 え… 今の今まで頭のおかしいドサド教師だと思ってたけど、もしかしてデイヴィスって、おイケ…?インカムも〈おいデイヴ最高か〉〈恋?〉〈NRCが誇るヤバ教師が来たぞ〜!〉〈同級生が四散するとこ見なくて済んだわ〉など大盛り上がりだ。
 彼は、事を冷静に対処するため駆けつけてくれたのだ。

「…」

 クルーウェルは顔に掛かったシャンパンごと髪をかきあげた。普段白と黒でキッチリ分けている髪のセットもお構いなしに撫でつける。
  …おい、待てよ?コイツ今、髪のセットもお構いなしに撫でつけたのか?この完璧主義者が?……これは事態が悪化したかもしれない。

 ラギーはビシャビシャの毛皮越しに、そー…っと女の様子を伺う。と、蛇に睨まれた蛙のように動けずいるのが見えた。いやそりゃそうなるって。絶対クルーウェルに睨まれてるでしょ。もしくは無の表情を向けられてるでしょ。

「…」

 一言も発さないこの男には、とてつもない凄味があった。
 インカムは先程と別の意味で盛り上がり始める。〈デイヴ、ブチギレてね?〉〈四散するのは女の方だったか〉〈何しに来たんだよコイツ〉〈おい振り出しに戻った!誰かフォローいけないか!?〉〈千年の恋も冷めちゃった〉

〈ハァ、静かに。私が行く〉



「失礼。ご婦人、なにかありましたか?」
〈モーゼス〜!!!〉
〈この学園で信じられるのはトレインだけ〉
「…チッ」
〈いまデイヴィス舌打ちした?〉
〈ブッチ!クルーウェル連れて引け!〉

 インカムを聞きラギーはハッとする。と、クルーウェルは、シャンパンの被害がなかった右手でラギーの腕を掴んだ。〈少女漫画?〉とインカムでフロイドが茶化してくるが、そんなのに構っている暇はない。途中すれ違ったモストロのボーイ長が「おつかれ」と言いながらラギーのトレーを持って行ってくれた。
 腕を引かれる方へ進み、クルーウェルと共にバックヤードへ入る。



 スタッフオンリーの扉を抜けた先は、まさに舞台袖のような感じだ。薄暗い通路になっている。ラギーは、会場の明るさも人々の喧騒もない静かな場所へ来てやっと気持ちが落ち着いてきた。と同時にどんどん頭が冷えていく。
 あー。オレ、何で言い返したんだろ。あんなの慣れっこなのに。今の状況が気まずくなって、自分から口を開いた。

「…あの、すいません。オレがカッとなって言い返したから面倒なことに」
「は?」

 クルーウェルは今まさに、懐から出したタバコを咥えようとしたところだった。
 シャンパンに濡れた状態でフロアにいるのは注目を集めると思い、バックヤードまで早足でやってきた。が、先程まで威勢の良かった子犬は何故かセンチメンタルになっている。馬鹿か、コイツは。

「お前なあ。お前が言い返さなかったらRSA(ロイソ)に転校させるところだった」
「あぶね〜!言い返して良かった〜!」
「それに、勘違いするなよ。俺は白昼夢の衣装を守っただけだ。お前を守ったわけじゃない」
「え、キモ… じゃなくて!三十路のツンデレきついんでやめてもらっていいですか?」
「"じゃなくて"の意味が全くないが?」

 ラギーの言葉に、クルーウェルは柄にもなくケラケラ笑った。何はともあれ無事ならそれでいい。シャンパンに濡れた手袋を脱ぎ、地面に捨てた。そのままタバコを咥えて火をつける。

 あの時クルーウェルは周りの来賓客に緊急事態を悟られぬよう、エレガントに人をかき分け進んでいた。しかしそれでは確実に間に合わなかったのだ。だからクロウリーはクルーウェルにすり抜けの魔法をかけた。そのおかげで人の合間を縫って行く必要がなくなり、直進ガンダで現場へ駆けつけたというワケである。
 まさか自分を直進させるために生きている人間を透かすとは。相変わらず恐ろしい魔法をサラッと使う男だ。


「よお、白黒王子サマ。うちの姫は無事か?」


 クルーウェルがタバコを一本吸い終わる頃、バックヤードにレオナが現れた。

「白黒王子?他にもう少しなかったのか?プリンス・デイヴィスで頼む」
「ジョイマンかよ」
「レオナさん、ご心配おかけしました」
「は?別に心配なんてしてねえけど。…ったく、今日はもう俺様の側から離れんなよ」
「それ素ッスか?だとしたら最悪なんスけど」
「王族ジョークに決まってんだろ」

 いつものような軽口を叩くレオナだが、髪をサイドで緩く結い王子のような衣装を纏っている。ザ・王族の装いだった。不思議と暗がりでもキラキラして見える。
 これが、"オーラ"ッスか…

「てかあの女、どこの国から来たんだよ」
「顔に覚えがある。赤いお花の国だな」
「あそこの国は狂った女しかいないんスか?」
「俺らのジャパリパークは慈愛に満ちてるのにな」

 クルーウェルは2本目のタバコが短くなり、吸い殻を携帯灰皿に押しつける。そのまま着替えに一旦戻ると言うので、再度礼を言い別れた。

 プロムはあと2時間ばかりで終わる。ラギーは、この後酒に酔った紳士淑女を馬車(タクシー)に押し込み家へ返すという重大な業務が残っているのを思い出し気が滅入った。が、お家に帰るまでがプロムなのだ。
 そうだ、トレインにもお礼を言わなければならない。後のことを押し付けてバックヤードに駆け込んでしまった。フロアで話す時間があるかどうかは分からないけれど… 2人は再び会場へと戻るため、ドアを開けた。















「おや?何やら事件ですか」
「いえいえ!ちょっと、我が校の者とお客様がぶつかってしまったみたいで。お騒がせしましたね」
「ハハ、お騒がせなのはいつものことでしょう。ああそうだ!クロウリーさん。私はあなたに一つ聞きたいことがあったんです」
「はい、なんでしょう」
「今日はディ・セル教授はお見えになっていないのですか?この天井に輝くような、メテオーレのお話を伺いたかったのですがね」


 クロウリーは目を細め、目の前のゲストに微笑んだ。


「彼はもう当校の在籍ではないのです。しかし噂によると、どうやらあの夜から旅へ出てしまわれたようで」
「旅ですか?」
「なんでも、天体旅行だとか」
「天体!それはまた彼らしく、素敵ですな」
「ええ、とても」











𖣰











 シルバーは、ヴォルケイニアのカウンターキッチンに立っていた。鍋の中ではぐらぐらと海水が煮えたぎっている。これはシルバーに与えられた最重要任務であった。

 トレイの薔薇を塗ろう(ドゥードゥル・スート)で魚料理の味を変えるとはいえ、人は塩分を補給しないと死ぬ。そこでルーク指導の元、海水を煮詰め塩を作っているのだ。簡単そうに見える塩作りだが、エグ()を取り除く作業をしたり、最終工程ではいい具合で火を止め濾過する作業があったり、かなり高度な調理を任されている。ルークお手製の濾過装置を側に置き、シルバーの目つきは真剣そのものだった。
 そんな塩職人のすぐ横ではセベクが水を煮沸して飲料水を作っており、トレイは蒸篭でタイを蒸している。



 時は少々戻り、時刻は16時半のこと。海底探索を終えたチーム・筋肉はイデアとオルトの喝采を浴びながら地上へ帰ってきた。海底では死を覚悟したが、アナウンスで指示されたタイムリミットは守ったし、海産物もたくさん採れた。そして、発電機の鍵もある。
 皆、達成感にわはは!と笑いながらヴォルケイニアへ帰ってきて、重大な事実に気づいた。

 脱出どうする?、と。

 しかしヴェスタは未だに謎ばかり。夜に探索するのは危険だと皆で話し合い、ヴォルケイニアでの一泊が確定したのだった。

「戻りました〜!お先にありがとうございます」
「おう、おかえり」
「ちゃんとお湯は出たかい?」
「出ました!バッチリでした!」

 監督生はレディーファーストをしてもらい、一足先にシャワーを浴びてきた。朝から着ていた服は一旦ハンガーにかけ、宿舎からお借りした服に着替えている。
 宿舎には、バスタオルやブランケット等使えそうなものが山ほどあった。しかしそれらは100年前から放置されていたものであり、カビが生えていたり、煤だらけだったりと酷い有様だった。タオルなんて絶対に肌に触れさせてはならない緑色をしている。が、ヴィルは「汚れてるなら、洗浄魔法を使えばいいじゃない」と言い、全てをホテルのアメニティのようにピカピカにしてくれたのだ。

 よって、清潔なタオルといい匂いの借りた服(パジャマ)のおかげでとっても良いバスタイムを過ごせたのだ。監督生はニッコリご満悦である。

「お魚おいしそうですね!お手伝いします」
「じゃあこの食器をテーブルに並べてくれるか?終わったらヴィルとジャックを呼んできてくれ」
「はーい!」

 監督生はキッチンから出て、地熱発電機のある食堂へ向かった。無事に作動した巨大なタービンはぐるぐる回り、この島全体の電力を担っている。
 料理を運んでくるならキッチンに近い方が良いかと、食堂に入ってすぐの場所で4人用の四角いテーブルをくっつけた。その上をタオルで良く拭いてからお皿を並べていく。

「シルバーくん、お鍋の様子はどうだい」
「ああ、こんな感じだが。どうだろうか」
「トレビアン!焦げないように注意して、もう少し火にかけてくれ」
「分かった」

 魚を捌いていたルークは手を止め、シルバーの様子を見に伺う。もう少し煮詰めれば最終工程に移れるだろう。優秀な塩弟子である。

 監督生は人数分のフォークとスプーンを置きながら、キッチンからうっすら聞こえてくる会話に耳を澄ます。なんだか調理実習を思い出して面白いな。トレイが持っていたオリーブオイルも大活躍のようだし、監督生は魔法で味を変えなくてもいいんじゃないかと思い始めた。でもピザ味は食べたいな…
 とにかく、おいしい匂いが部屋いっぱいに充満している。

 まずい、ここにいると無限にお腹がすいてしまう。監督生はテーブルセッティングが終わったので、残る2人を呼びに行くことにした。


「ご飯ですよ〜! …あれ、」


 ヴィルとジャックの2人は、いくらか電波の良いヴォルケイニアの外でイデアとリモート会議をしているはずだった。今日は時間も遅いし、探索を一時中断したが。我々は脱出を諦めたわけではないのである。明日どう動くかを決める作戦会議中…のはずの2人が見当たらない。
 監督生はあたりをきょろきょろと見渡すが、人影もない。まさか何かあったんじゃ。

 一気に脳が冷え、冷静になった監督生が お料理組に報告するためヴォルケイニアへ戻ろうとした時だった。ノーチラス・ギフトの横あたり、プロメテウス火山の麓にある未探索の洞窟から2人が出てくるのが見えた。2人とも、だいぶ険しい顔をしてこちらへ戻ってきている。それに、本を数冊づつ抱えていた。

「おふたり〜!ご飯ですよ〜!」

 監督生はホッとして、少し早足で2人へ駆け寄った。

「すまん。遅くなったか」
「ううん、ピッタリくらい。ちょうど呼んで来てって言われたの」
「じゃあ良かった」
「アンタ着替えたのね?」
「はい!お先にシャワーいただきました!」
「その緑の服… こうしてみると悪くないわね」

 監督生がヴォルケイニアから借りて着ている服はダークグリーンで、所々レッドオレンジの差し色が入っていた。上下セパレートのつくりをしたそれは、運動着のような見た目をしている。
 ヴィルはこの服をパジャマにしようと思い宿舎から持ってきたが、明日の探索もこれで良いかもしれない。

「ところで、どうして火山に?」
「ちょっとな… でも悪い話じゃない」
「夕飯の時にでも話すわ」
「分かりました!」






 









「食感はふわふわの魚!って感じなのに、味はピザってすごいおもしろいね」
「いや、今食べたいモノの味になるってトレイ先輩言ってたろ?ピザを感じてるのはお前だけだ」
「あ、そっか!じゃあジャックはナシ味?」
「…見た目魚で味がそれはキモい」
「そっか〜」

 私は初めてトレイ先輩のユニーク魔法を体験した時、マロンタルトがピザになったけど嬉しかったよ… という事実を隠しつつ、監督生はアジのオリーブオイル焼きを口へ運ぶ。夕飯のお魚料理は、ドゥドゥったものは勿論のこと オリーブオイルと塩で味つけたシンプルなものもとっても美味しい。ルークのワザマエによって捌かれた魚は骨がひとつも残っておらず、食べやすさが抜群と言うのも美味しさの秘訣だ。
 皆に大反対されたが、絶対にお刺身もいけたはずである。う〜ん、カルチャーショック。

 それにしてもサイエンス部というのは、いよいよ何でも屋さんなのかも知れなかった。テーブルに並んだ豪華な食事たちをいただく前に写真に納め、イデアに送ったところ『ボキより良い食生活で草』と返信があったくらい。
 だってまさか、ほぼ無人島サバイバルなのにワカメとホタテのスープまで出てくるなんて…


「ところで、監督生もアフター・プロムは出るのよね?」
「え!?」


 監督生は持っていたスプーンを落としかけ、大きなメガネの奥で目をぱちぱちさせた。周りもその反応にビックリして、こいつマジかよ。みたいな顔で見ている。

「アフター・プロムってなんですか!?」
「おい、嘘だろ監督生。学園長が寮長会議で… まさかピザに夢中で聞いてなかったとは言わないよな」
「いや〜… 夢中でしたね…」
「トリックスター、アフター・プロムというのはね。我々がS.S.コロンビア号で帰る日の晩にNRCの学園関係者と生徒のみで行われる、ちょっとしたパーティのことさ」
「や、やばいです。何もない。身ひとつしかないんですけど」

 まさかそんなものがあるなんて知らなかった… というか聞いていなかった。この感じだと1年生もみんな出席するっぽい。やばい、着る服も持つ鞄も履く靴もない。今からAmazonで買えば間に合うか…

「Amazonで買おうとしてるだろ」
「学園長がプライム会員なんです。寮長用端末で買えばギリ間に合いますかね」
「それ、そんな使い方できるのか」
「1度、ピザソースを頼んだことがあります」
「お馬鹿ね… 無事に脱出してアタシたちもアフター・プロムに間に合うと確定したら、帰宅次第ポムフィオーレにいらっしゃい」

 そんなことだろうと思ったわ。と、ヴィルは肩をすくめた。今からイデア経由でマネージャーに連絡すれば、知り合いのデザイナーにXSサイズの衣装を譲ってもらえるはずだと言う。XSとか、XXSとかのサイズは売れ残るのだ。
 監督生は神に祈るように胸の前で両手を組んだ。

「か、かみさま…」
「拝まないで。第一Amazonで安く買えるペラッペラの衣装で出席するなんて許さないわよ」
「グリムにつけるお揃いのリボンも欲しいです…」
「当たり前でしょ?アタシを誰だと思ってるの?」
「天上天下唯我独尊、ヴィル・シェーンハイト様…」

 できたらパンツドレスがいいなあ… 主役は4年生だし、ドレスで目立つのは嫌だった。監督生はすっかりわがままファッションガールズモードの気持ちでいる。















「少しいいかしら」

 ヴィルは皆の食べるペースが落ち着いてきたのを見計らい、声のトーンを落として本題に入った。監督生はおいしいスープを飲みながらそちらへ体を向ける。

「イデアと話したことなんだけど… まず結論から言うと、"うまくいけば"明日脱出できるわ」







𖣰







───先刻、ヴォルケイニア前にて。


『ハ〜〜……、ホントに。無事で良かったよ』
「一時はどうなることかと」
「アンタたちのおかげで無事に… サブクエ?もクリアできたわ。ありがとう」
『アッハイ。ド、どういたしまして…』
「オルトもな。操縦凄かったぜ」
『えっへん!』

 陽は沈みかけ、辺りは山の陰影が刻まれる。青み掛かった陰りと空のオレンジはうまく合わさり、どこか哀しげだった。青紫のコイルがついた街灯が暗み始めた道を照らす。人の気配はしないのに、監視されているかのような不気味さが闇を引き立てている。
 穏やかな波の音、風のざわめき。全てが交わった独特の雰囲気は、幻想的でいて恐ろしく感じる。

『ヴィル氏?』
「、何?」
『いい知らせがありますが』
「…それ本当?」
『モチ』

 ヴィルは疲れからか、らしくないことばかり考えてしまっていた。だって、深海で死にかけている。
 ルシファー海溝の底へ落ちた時。死という感覚よりも、寮長として。後輩4人すら無事に帰せない自身の力不足を、無力さを、悔しいと思った。クラーケンのことだって知っていたのに。…100年前の文献だからと安易に考えていたし、楽観的すぎたのだ。このメンバーならどうにかなるだろうと安心していたのかもしれない。
 操縦もうまくいかず前方は真っ暗。焦燥感でどうにかなりそうだった。そんな自分の感情ばかりに気を取られ、監督生の不調にもすぐ気づいてあげられなかった。

 勿論みんなが自分を責めるわけがないし、そんなこと微塵も思っていないと分かってる。だけどアタシが納得いかないの。所詮アタシの自己満足。でも、挽回のチャンスが欲しかった。
 だからイデアの言う"いい知らせ"に、強い期待をしてしまう。

「いい知らせってなんですか?」
『まず、ジャック氏は知らないかもだから共有するけど。寮長用端末は魔道式なんだ。所有者の魔力がある限り永遠に電池は減らないし、ネットも繋がる』
「は?じゃあ持ってるだけで魔力消費してるってことっすか?」
「そうよ。だから、あの夜以降常に携帯することになって驚いたわ。まあ魔力消費は微々たるものだけど…」

 ジャックはまさか、寮長用端末がそんな仕組みであると思ってもみなかった。たしかにいつ見ても充電は100%なのでおかしいと感じてはいたが… しかし、もしそうなら矛盾する点がある。

「でも監督生は魔力無いですよね。それは?」
『アー、それは学園長がこう… 魔力をグンッ!って入れてるから。なんていうのかな、僕らが持ってる端末は自分の魔力で今充電しながら使ってる感じ。監督生氏のはクソデカバッテリーが最初からついてる感じ?』
「な、なるほど…」
「で、その端末がどうしたの?」
『はいはい。てなわけでね、魔道式だし、深海とはいえなんとかGPSログ探れないカナ♪と思って漁ったら、これがいけちゃったんすわ〜!!!』

 タハー!(それがし)って、天才?と大盛り上がりしているイデアだが、置いてけぼりの2人は話の本筋が見えてこず「?」を浮かべてしまう。

「つまり、なに?」
『ア、スマセン。つまりですね。チーム・筋肉が落ちたルシファー海溝にある、生き物の住処?街?があった場所が、ヴェスタの防御魔法バリアの外だったって話』

 ヴィルもジャックも、目を見張った。
 海溝に住む生き物たちは、あの光る青い街と海底遺跡を自由に行き来していたはずである。彼らは防御魔法も、その内にあるもう一層の膜も無効化できるのか?

「あっと、え?ちょっと待って。思考が追いつかないわ」
『先ほど拙者も同じ状況に陥ったのでわかり哲也なんですよね』
「ってことはっすよ。またあの生き物がいる場所まで潜って、ヴェスタの外に出してくれって交渉すりゃいいってことっすか」
その通りでございます(イグザクトリー)

 ヴィルは頭の中で、今日起きたこと、イデアの言う話、ジャックが簡潔にまとめた今後すべきことをまとめて… これはまずいと確信した。手で額を覆う。


「まずいわ。今日何度目かわからないくらいに。だってアタシたち────」






𖣰







「アタシたち初回無料を使っちゃってるのよ」


 ヴィルの話を聞いて、先ほどまで和気藹々と魚を食べていた一同は静かになった。トレイは「ほらな?初回無料が1番怖いだろ?」と、一度眼鏡を外して拭いている。冷静に見える彼もまた、気が気じゃないのだ。皆考えていることはひとつ。

「対価… ですよね?」
「そういうこと」

 恐る恐る発言した監督生に、ヴィルは微笑み指をパチン!と鳴らして、人差し指をこちらに向けた。ファンサで言うところの「バーンして!」である。

「人魚?魚人?が対価に求めるものってなんですか?」
「それは、金… 利益、地位、名誉」
「富、名声、力…」
「それは全部アズールだろ」
「あの子たちがNRCじゃなくてRSA寄りだった場合、また無料でいけませんかね!…いや、ハハ… それはないか」
「自己完結するな」

 人魚は怖い。そして対価を求めてくるもの。NRCで3日も過ごせば分かる事実であり、(ことわり)だ。対価を払えないのなら死あるのみ。
 考えていくうちに、無人島に遭難している自分達が対価に差し出せるものなど無いと分かり、ズン… と気持ちが沈んだ。

「勝手に気を落とさないでくれる?ジャック、例のアレ」
「ウス」

 ヴィルはジャックに声をかけ、先ほど火山から戻った際抱えていた本をテーブルの上に出させる。5冊あるそれは、手記のような小さなものから図鑑サイズの大きいものまで様々だ。

「イデアがね。海底のことを研究している場所があるなら、火山にも同じような場所があるんじゃないかって言うから… さっきジャックと試しに行ってみたの」
「そしたら、マジであったんすよ。あの火山の下には地底世界が広がってるらしいです」

 ジャックが広げた本には手書きの地図や未知の生物のスケッチ。見たことない爬虫類?や虫、巨大なキノコ。光るクリスタルや、マグマのこと。
 たしかに、海底に住んでいる彼らは地上のものを知らないのかも。海底にないものを沢山持って交渉に行けば、何かしら当たりを引けるはず。これはまさに、

「地底で色々手に入れて、数打ちゃ当たる作戦よ」
「投げやりすぎないか?」
「じゃあ他に作戦はある?」
「ない」
「でしょう?」

 黙って聞いていたルークが「ヴィル」と口を挟んだ。

「アンタも反対なの?」
「何を言うんだい?もちろん賛成だ。私はあのプロメテウスの地底探索に行きたくて仕方がなかったんだ!明日は地底走行車に乗り込むのだね!」
「アンタ、地底世界を知ってたみたいな言い方するじゃない。…セベク?」

 ヴィルの目つきがさらに鋭くなり、ギッと睨まれたセベクは気まずそうに目を逸らした。数秒後、観念したようにカトラリーを静かに置く。
 ヴィルはわざと「怒ってますよ」みたいな雰囲気を出してセベクを睨んでみたのだが、うまくいったので笑いそうになった。ルークも笑いを堪えて下唇を噛む。先輩は後輩の一喜一憂を面白がる生き物なのだ。

「ノーチラスギフトから、火山の洞窟の奥に光が見えた気がしたんだ。ルーク先輩は洞窟へ行く気しかなく… 時間も余っていたので向かってしまった」
「ルークの手綱を握れるワケないもの、仕方ないわ。けど、報告受けてないわよ」
「…研究所の内容は、先輩やジャックが言うように地底世界についてだった。海底には関係のないことだ。だから、後で報告をしようと思っていたんだ!…すっかり失念していたが」
「ヴィル!…ふふ、セベクくんを責めないでくれ!私が口止めしたんだ」
「うふふ、別に責めてないわ。怒ってもない。ただちょっと、可愛がってみただけよ」

 ちょっとだけしょんぼりしたセベクの誠実さに、リリアが「セベクはめちゃオモロいぞい♪」と言っていた理由がわかった。
 ヴィルもルークもうふふと笑うので、セベクは眉根を寄せる。なんなんだ、この人たちは。

 ようやく眼鏡がピッカピカになったトレイはその様子を見て微笑ましいと思った。デュースも似たようなところがある。あ、しまった。…デュースといえば、またもやケイトにワンオペさせている。エースもグリムも良い子にしているだろうか。エペルはあれでいて漢前なところがあるから問題ないが、エースは最近"大変"だからな…
 戻ったらきっとどやされるだろう、と険しい表情になりつつヴィルの方を見た。

「なあに。名案が浮かんだ?」
「いや、俺は最初から反対なんて言ってないよ。明日やることはヴィルの言う通り地底探索でいいと思う。それに、例のアナウンスに従い続けてもここから出れる確証はないしな」
「そうなのよね。明日またアナウンスがあったとして、それが脱出につながるかと言われればYESとは答えられないのよ」
「では方針が決まったね。明日は地底探索だ、ふふ 楽しみだねシルバーくん」
「この図にある光るキノコをジェイドへの土産で持って帰ろう」
「正気か?」

 島内に鳴り響く不気味なアナウンス。たしかにあれを過信しても良いことばかりとは限らない。そもそも誰がアナウンスを流しているのかも不明だ。自分達で突破口を見つけたのなら、確率が低くても賭けに出るしかない。

 一方監督生は、スープ皿のホタテをつっつきながら明日は地底探索か〜と、ワクワクし始めていた。海底は綺麗で、可愛い生き物にも会えた。深海版富士サファリパークみたいなもんだったけれど、個人的には楽しさ2割恐怖8割というかんじ。
 監督生は、
お砂糖(豪運)スパイス(度胸)・すてきなもの(ピザ)をいっぱい。で構成されている生き物なので、朝トレイに宣言した通りこの旅を全力で楽しむと決めている。だから明日はもっと楽しい日になるよね、ツノ太郎…と、あの盛れていないマレウスを思い出しつつホタテを食べた。おいしい。







 さて。無事夕飯も食べ終わり、皆順番にシャワーを浴びに行っている。監督生は先にシャワーを浴びさせてもらったので、ひとりで洗い物をしていた。コップは水洗いでなんとか落ちるが、オリーブオイルがついているお皿はダメだな… これは洗浄魔法で何とかしてもらおう。
 コップを濯いで綺麗なタオルで拭いていると、ヴィルとルークが戻ってきた。

「あ、おかえりなさい」
「ただいま」
「おや、洗ってくれたのかい?メルシー、監督生くん」
「ありがとう。まとめて魔法でやろうと思っていたけど、正直助かるわ。何があるかわからないし、魔力は温存したいから」
「洗浄魔法が理由でオバブロはダサいですもんね」

 監督生は濡れた手をタオルで拭った。ヴィルとルークもお揃いのダークグリーンの服を着こなしている。等身が長いので足首がチラッと見えていた。私は捲っているのにな…
 ヴィルはそんな監督生の顔をじっと見つめる。美人にまじまじと見られてしまい、なんだなんだと眼鏡を上へあげた。

「アンタ、アタシと同じメイクミスト使ってるわね?」
「! わかるんですか〜!?」

 実は監督生、こっそりヴィルのマジカメをフォローしており、彼のおすすめコスメをチェックしていた。

 以前、雑誌のインタビューでヴィルが「アタシ、コスメの広告とかマジカメでやりたくないの。自分が使って本当にいいと思ったものをみんなに共有したいわ」と言っていたのを見た。信用できすぎるインフルエンサーだと思い日々チェックしているのだ。そんな彼の投稿に、メイクが72時間キープできるミストというものがあり、今朝はそれをつけていた。
 これは専用のクレンジングバームで落とすか、72時間経てばお湯でもメイクオフできるようになるという不思議な作りのミストである。なのに肌の負担も少なく、72時間の間は擦っても濡れても泣いても化粧が落ちない。

「ホテルに戻らないとクレンジングバームが無いので、明後日の朝にならないと化粧落とせないんですよね。良いんだか悪いんだかって感じです」
「スキンケアもできないし… このミストをつけてるんだったら、メイクつけたままの方がマシって感じよ。長時間メイクオフできないのは最悪に変わりないけどね」
「このミストの力を信じて肌荒れしないことを祈ります」
「困ったときは神頼りよね。アタシも祈ろうかしら」

 ルークは「日焼け止めならあるから言ってくれ」とANESSAのゴールドを出した。ヴィルと監督生は、ここに神がいた!とキラキラした目でルークを見つめる。明日絶対に使わせてください!

 そうこうしていると、残りの5人も帰ってくる。時刻は19時過ぎ。少し早いが、今日は色々あって疲れているだろう。明日も何があるかわからないし、宿舎から借りた大量のブランケットを敷いて就寝しようとヴィルが提案する。
 すると、トレイが顔に影を落とし手を挙げた。

「どうしたんだい、トレイくん」
「いや、あのな… すまん!」

 トレイはカバンから自身の歯磨きセットと、ミラコスタのアメニティの歯磨きを3本出してテーブルに置いた。
 監督生は「いよいよ始まったぞ…」と思い、置かれたそれを見る。

「え?なに?」
「俺はな。歯磨きをせずに寝るぐらいなら、舌を噛みちぎって死ぬ」
「怖」
「死を… 選ぶ?」
「…トレイくん、後輩たちが怖がっているのでその顔をやめてくれ」

 トレイは神妙な面持ちで、ミラコスタのアメニティをスッ…と差し出した。ジャックはなぜアメニティを持ち歩いているのかもわからないし、なぜそんなに申し訳なさそうな顔をしているのかも分からなかった。

「ミラコスタの歯ブラシが良すぎてな。そういえば鞄に3本入れてたのを思い出したんだ。人数分は足りないが… これはお前たちで使ってもらって構わない」
「先輩もそういう庶民的なところがあるんすね」
「あ、ありがとうございます」
「俺は歯を磨かせてもらう!」
「…別に良いわよ。勝手に磨いてくれる?」
「すまん…!」

 もうどうでも良いわと言う風なヴィルに対し、真剣なトレイが対象的でおもしろかった。
 正直なところ監督生は、お魚を食べたし歯を磨きたい気持ちもわかる。でも無人島だし、しょうがなくない?と思っていた。たくさん口をゆすげば、1日くらい…と。けど、歯磨きに命を掛けている人はこういう感じになっちゃうんだ…

 すると今度はセベクが手を挙げた。彼もまた、複雑そうな顔をしている。

「ちょっと、今度は何?」
「すまない!!!!!!」

 セベクはカバンから、自身の歯磨きセットと、Zigvolt Dental clinicと書かれた個包装の歯ブラシと思われる袋を3つ出してテーブルに置いた。

「僕も歯磨きセットを持っている。申告が遅くなり申し訳ない」
「だから、別に良いわよ。要するにただの歯磨きでしょ?」
「この島についてすぐ、持ち物を確認したとき…!皆がトレイ先輩の歯磨きセットを見て引いていたので、咄嗟に隠してしまった…」
「それはそうだけど」
「僕の実家は歯科医院だ。何かあった時のために予備の使い捨て歯ブラシを携帯するのが日課でな。これで人数分足りるはずだ!使ってくれ」

 セベクは真剣な顔で、実家で販売もしている使い捨て歯ブラシをスッ…と差し出した。「獣人でも妖精族でも使えるものだ。ジャックはこれを使うと良い」と言い、1本は本人に手渡しをする。
 トレイは衝撃のあまり、言葉を失った。

「俺もそれがいい」
「ハ?アンタは自分の歯磨きセットがあるでしょ?」
「そんなとんでもないモノがあったなんて…!セベク、この使い捨て歯ブラシには歯磨き粉もついてるのか?」
「勿論だ」
「絶対にそれが良い!」
「自分の使いなさいよ」
「イヤだ!」

 トレイが柄にもなくちいかわみたいに騒ぎ始めるので、セベクは彼にも一本渡した。まるでお菓子を買ってもらった子供のように目を輝かせている。監督生はこんなにピュアな先輩は貴重すぎると思い、トレイくん(5さい)の写真を撮った。シャッター音に気づかないほど感動している。

 トレイが自分の歯磨きセットを使わないのは本当に意味がわからないが、人数分は足りているので別に良いか… とヴィルは思った。というかこの会話は何?1日の最後に脳が疲れた気がする。
 シャコシャコと歯を磨きつつ、思考を明日の地底探索にチェンジした。










𖣰











 監督生は、パチ。と目を開けた。周りの迷惑にならないように、コッソリと端末画面を見れば、23:12。布団に入ってから3時間は経っている。

 ヴォルケイニアは入ってすぐの場所にキッチンがあり、食堂が左右に分かれている。監督生たち7人は左をそのまま食堂として使い、右を寝床に改築して使っていた。宿舎にベッドはあったのだが、さすがに劣化が著しく… ベッドを魔法で改修するより、ブランケットをたくさん重ねて即席布団を作った方が良いという結論に至った。
 それに奥にある宿舎より、入り口に近い食堂で寝てしまった方が何かあった時安心というのもある。
 監督生は男子6名と少し離れた場所に1人で寝ているのだが、寂しいとかそういうワケではなく、ただただ寝付けずにいた。目を瞑ると、今日見た海の青がフラッシュバックして、嫌なことばかりを連想してしまう。加えて今日は
抱き枕(グリム)もいない。寝よう寝ようと思うほど寝付けないのは一体なんなのか。

 こうしてあっという間に3時間が経過したというわけである。これはもうダメだ。
 埒があかないと思い、監督生は起き上がった。







 監督生はブランケットを肩から引っ掛けて、入り口前の地面へ座った。ヴォルケイニアのドアは開けたままにしているので、穏やかな夜風が入ってくる。室内よりひんやりした空気をいっぱいに吸うと、ほんの少し潮の香りを感じた。入り口はガラス張りになっているため、大きな窓のようだ。遠くに星空まで見えた。

 体育座りをしながら、今日のことを一旦忘れようと楽しいことを考えてみる。が、しかし。メンタルリセットはどうにもうまくいかない。
 結局、何をしたって思い出すのはあの夜だ。


「はぁ…」


 おかしいなあ。海とか、湖とか、特定のものが怖いなんて今までなかった。おばけだって平気だし、虫もわりと平気な方。自分でも気づかないフリしてたのかな。気持ちに蓋をしていただけで、私はやっぱり帰りたかったのか。
 明けない夜の出来事に、その蓋をこじ開けられた気がする。母のフリをした何かは監督生の精神を大きく揺さぶった。今もその揺れは続いている。

 あー、どんどん悪い方に思考が進んでいる。こんなはずじゃなかったのに。ただ早く寝たいだけなんです…

「…おい」
「、びっ…くりした」
「驚かせたか。すまん」

 監督生が気づかぬうちに、何故かセベクがやってきていた。同じくブランケットを手に隣へ座る。え、何。どういう状況?セベクも寝れない系?
 監督生が混乱していると、彼はこちらに話しかけてきた。


「お前は眠らなくて良いのか」


 いつもより声色をおさえたセベクは、彼なりの優しさだろうか。こちらを気遣って声をかけてくれる。
 あれ…これ昨日もやったな。監督生はまさかと思う。

「今度こそ寝かしつけにきたの?」
「そんなことはしない。ただ、」

 セベクは、ヴォルケイニアの外を見る。

「僕は静かな海が好きだと言った」
「うん」
「だが、同時に恐ろしくも思う。お前はどうだ?」
「…」

 監督生はぐっと言葉に詰まった。

 ああ、全部バレている。潜水艦でのやりとりで察したのかと思っていたけど、この感じだとトランジットスチーマーラインでばったり出会(でくわ)した時。あの時から薄々気付いていたんだろうな。
 セベクは何も言わずに私の返事を待っている。喉に何かが引っかかっている感じがして、自身が緊張しているのだと分かった。

「あのさ」
「ああ」
「その、別に… 私も海は好きだよ」
「…」
「好きだけど」
「…」
「今は、こわい」

 セベクは横目に、監督生が膝に顔を(うず)めたのが見えた。よほど知られたくなかったのか、自分から言いたくなかったのかは分からないが、確かに彼女が弱みを見せるのは珍しい。限界だったのかもしれない。
 少し前から違和感を感じていたが、今日の海底での様子を見て確信に変わったのだ。どうしようもなく何かを恐れている。それは普通ではなく、異常なほどに。あの夜から様子がおかしいのはエースだけかと思っていたが、やはり当人にも弊害が生じていた。

「海だけか?」
「…ううん。なんか。湖とか、青い水面とか、沈むのとか… ぜんぶむり」
「そうか」

 言わずもがな、あの夜何かがあったんだろう。セベクは地下で何があったかまで知ろうと思っていない。が、同級生の友人として彼女を心配しているのだ。
 監督生は黙って顔を埋めたままでいる。しばらくそのままにしていると、足音がひとつ。近づいてきた。


「お前らまだ寝てないのかよ」


 やってきたのはジャックだった。彼もまた、監督生を心配してここへ来た。証拠にブランケットを手にしており、話を聞く気満々だ。そのままセベクとは逆側へ腰掛ける。
 この島にいる1年生が3人揃う。監督生は
同級生(ムキムキ)に挟まれてしまった。

「あー、その。…悪い。全部聴いてた」
「獣人だし、耳良いもん」
「そりゃそうだけどよ。お前ら何やってんだ?」
「セベクのおなやみ相談室」
「そうだ」
「ハハ、なんだそれ」

 ジャックは寝ている先輩に悪いと思い、声を顰めて笑った。















「ねえ。これアタシたちが聞いてていい話?」
「仕方ないだろ、聞こえるんだから」
「そうさ。我々はたまたま起きていただけだよ」

 一方3年生。バッチリ起きているし、超小声で会話をしている。

 実は監督生が起き上がった時から目を覚ましていた。無人島生活はかなり快適なので順応しつつあるが、一応遭難しているわけである。少しの物音でも起きるほど警戒していた。
 それに、寝床に使用している場所と監督生たちが話をしているエントランスの間には仕切るドアがないため、話が筒抜けなのだ。よって3年生は、寝ている風を装って聞き耳を立てていた。

「アンタのとこの1年も大変そうだけど。あの子もやっぱり抱えてたのね」
「ああ、エースはな…。デュースあたりが上手いこと、奇跡的にやってくれると信じてるんだが…」

 今NRCで話題になっているのは、エース・トラッポラはヤバいのに1番怖い思いをしただろうユウが何も変わっていないということだった。相変わらずピザを食べ、わはわは笑っている。少しばかり痩せた気がするが、それは仲が良い生徒しか気づかぬ微々たるものだった。
 だから一般生徒から見れば、監督生はいつも通り。やっぱり猛獣使いってつえ〜んだな〜。となるわけだ。

 しかし彼女の、海底での怯え方はハッキリ言って異常であった。少し怖いだけではああならない。呼吸が止まるほど、動けなくなるほど。親しい友人に相談するのも嫌になるくらいの、そんな体験をあの夜したんだろう。
 元々何か抱えているはずだと思っていたが、実際目の当たりにするとフォローも入れにくい。どうしたものかと考えていた矢先、やはり動いたのは同級生だった。

 年長者は大人しく見守っているとしよう。

「そういえばアズールが、監督生がモストロに来る頻度がおかしいと言っていた気がする」
「っ、ちょっと!びっくりさせないでくれる?」
「お前よく起きてたな」
「先輩方は俺をなんだと思っているんだ」
「文字通りお寝坊さんさ」














「ねえ」
「なんだ」
「エースにもデュースにも。グリムにも言ってない話があるんだけど。していい?」

 顔の見えない監督生は言う。ジャックとセベクは、彼女を挟んで顔を見合わせる。
 エースとデュースにも言っていない話?俺たちが先に聞いたってあいつらにバレたら絶対に面倒なことになる。僕たちがこの話を聞いたという事実を黙っていよう。2人は目だけで会話をした。

「あの3人に言ったら絶対騒ぐもん。大事(おおごと)になっちゃう。2人は静かに聞いてくれそうだから…」
「聞こう、何でも話せ」
「この際全部言っちまえ」
「ふふ、そうしちゃおっかな」

 監督生は顔を上げて、ちょっぴり笑った。しかし変わらず目線はこちらへ向かない。体育座りのまま遠くを見ており、目線の先には星があった。

「ファンタジアを還すために地下に行ったでしょ。湖に着いて、本を沈めたの。そしたら、青かった湖は金色に光った。それが合図みたいに見えて… あー、これで解決した!早くみんなのところに帰ろ!って思った」
「…」
「そしたら、すごく懐かしい匂いがしたの」
「匂い?」
「そう。あのね、元のセカイの匂い」
「…マジかよ」
「ウン。お母さんが毎朝作る味噌汁… スープの匂いと、リビングに置いてあるルームフレグランス。使ってたお化粧品とか、洗剤とか、他にも色々… 全部が混ざって、完璧だったの」

 監督生は、肩に掛けていたブランケットを寄せる。

「そうしたら、ユウ?って。お母さんの声がした。すぐ後ろから。まるで私の後ろが、元のセカイに繋がったみたいに。おかしい話でしょ?」
「…」
「でも絶対に違うって思った。そんなわけない、こんなおいしい話あるわけないよねって。これは全部嘘だから。だから振り返らないぞー、って… 思ったんだけど…」
「…」
「っ、帰れたかもしれない」

 参ったな〜、視界が滲んできた。泣きたくないよ。こんなみっともない話をしてるのに、泣いちゃったら余計に心配させちゃうし。2人は優しいから、こんな深夜に私を心配して来てくれてる。
 …でも、それでも話したいと思った。その優しさに甘えようと思ったから、いま泣きそうになりながら話してる。泣きたくない気持ちも、涙ながらに話したい気持ちも、全部本心だ。

「帰れたかもしれないって、思っちゃった自分が怖い。みんな待っててくれてるのに、わたし… あの時!、ツノ太郎の祝福がなかったら、っセベクの声が届いてなかったら、お、お別れも。ッお礼も、何も言わずに… 振り返ってたかも、っしれない、」

 とうとう涙がこぼれ落ちてきた。両手で顔を覆う。鼻の奥がツンとして、スン。と啜る。すると、両側から無言でポケットティッシュとハンカチが差し出された。
 こ、こいつら!私が泣くと思って用意してやがったな!もうどうにでもなれ!と思い、静かにシクシク泣いてやる。存分に心配するといいさ。

「でも、俺も怖かったぞ」
「…ジャックが?」
「いや、まさかそんな壮絶なことが起きてたとは知らなかったけどよ。…考えてみろ、それしか手段がなかったとは言え、お前みたいなちっさい人間に全部背負わせて穴に押し込んだんだぞ」
「虐待だよね」
「グッ…、言うんじゃねえよそういうことを」
「わはは、うそうそ」

 ジャックはやっと監督生と目があった。彼女はどこか吹っ切れたように、いつもみたく笑う。泣き始めた時はどうしようかと思ったが、今の様子を見て少し安心した。
 しかしセベクはまだ、真剣に監督生を見据えている。

「お前、どうした?」
「?」
「いや、監督生じゃなくて。セベクだよ」
「僕か」

 セベクは名指しを受けて、下ろした前髪を鬱陶しそうにかきあげた。

「いや、僕は別に…」
「言いなよ〜」

 監督生は調子に乗ってきたので、隣に座るセベクの上腕二頭筋をツンツンする。腕を組んでいるからか、硬くて突き指するかと思った。

「分かった、言うからその攻撃をやめろ。…全く。お前たちはあの事件が怖いと言うが、僕は違う。僕があの夜感じたのは"成長"だ。あんなことは2度と体験できないだろう?()いことも悪いことも、全ては僕の経験となる」

 違うか?とこちらに問いかけてくるものだから「騎士〜!」と小さく拍手をする。小さな喝采を受け満更でもないセベクを見て、ジャックは「ちょろいな」と思い笑った。

「でも、そっか。たしかにそうかも」
「どれのことを言っている?」
「今聞いたこと全部。こんなに強いジャックが怖かったってことはさ。他の先輩とか、みんなもきっと私を送り出すの怖かったはずじゃない?」
「当たり前だろ。ただでさえ学園に1人しかいない女子だぞ。あと、お前自分の体格を考えたことあるか?」
「あるよ!ツノ太郎の横に並ぶと、私の頭が
鳩尾(みぞおち)なんだって。…え?鳩尾?ツノ太郎デカくない?」
「低俗な言い方をするな。若様は身も心も寛大なんだ」

 監督生は自分で言って驚いてしまった。いやデカすぎるってツノ太郎。ワンピースの世界線じゃん。

「まあ、それは一旦置いといて」
「若様を一旦置くな」
「私だけじゃない。皆それぞれ、死んじゃうかも、とか。このままどうなるんだろう、とか怖いって思う気持ちがあったし、セベクみたいに成長できたって思う人もいる。私もあの最悪な思い出を経験に変えたいな」
「それ以上メンタル強くしてどうするつもりだよ」
「わかんない、なんだろ… 人身掌握?」
「怖えよ」

 そのまま少し談笑していると、突然眠気がやってきた。ジャックも流石に眠たいようで、ふわ〜と欠伸を零す。監督生も釣られてしまった。

「…なんか眠くなってきたね」
「僕はずっと眠いが?」
「めっちゃゴメンじゃん、それは」
「冗談だ」
「お前冗談言えたのか」

「ふたりともありがとうね」

 今度モストロのリハビリに付き合ってね。あとこれはエーデュースたちにも先輩たちにも内緒ね。そう言えば、セベクのちょっと偉そうな了承と、ジャックの尻尾がたすたす揺れる音を聞いて、良い友達を持ったな〜と。心がじんわりあたたかくなった。

 今日はよく眠れそうである。










𖣰









「ほわ〜」

 監督生はアホみたいな欠伸をして起き上がった。時計を見ると、6:46。毎朝起床している時間だ。体内時計は狂っていなかった。メガネをかけると少しばかり思考が冴える。まだ寝息が聞こえるので、おそらく起床レースは一等賞だろう。
 どうせ顔を洗ってもお化粧は落ちないし、洗面所へ行こうとのろのろ立ち上がる。…宿舎の洗面所まで行くの面倒だな。キッチンの水道でいいか。そちらへ向かいつつ、髪を高い位置で括ってお団子にした。

「おや、早いね」
「わっ。おはようございます」
「おはよう」

 キッチンへ着くと、ルークが椅子へ腰掛け本を読んでいた。彼も先程目が覚めたらしく、監督生はおしくも二等だった。
 ルークがキッチンにいるならちゃんと宿舎の洗面所へ行こう。監督生は寝ぼけ眼で宿舎へ向かい、顔を洗った。そのまま歯磨きも済ませてしまう。
 鏡で顔を見れば、ミストのおかげで化粧は完璧。そして昨日泣いたのに目は腫れていなかった。やったぜ。身なりを軽く整え、本を読むルークの元へ戻る。

「昨日の本ですか?」
「ウィ。楽しみでね… 予習をしているんだ」
「私も楽しみですよ!最強チームですし」
「最強チーム?」
「そうです!寮長のヴィル先輩に、副寮長のおふたり。すぐ寝ちゃうけどムキムキのシルバー先輩と、ムキムキの同級生ふたり。そして私は、」
「?」
「豪運です」
「アンタ、それを自分で言ったらおしまいよ」

 背後から聞こえた声に振り返ると、ヴィルが立っていた。

「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう、早いのね」

 3番目に起きたヴィルはタオルを持って、宿舎へ消えていった。おそらく先ほどの自分と同じルートを辿るんだろう。

「ハ〜… まだ少し眠いです」
「二度寝してくるかい?」
「いや!ちょっと朝日でも浴びてきます!」
「ふふ、いってらっしゃい」

 ルークは本に視線を戻した。5冊あるうちの3冊はもう読み終えているし、よほど楽しみらしい。ルーク先輩によるガイドツアーも夢じゃないな。ラジオ体操を終えたら、地底ツアーの見どころを教えてもらおう。
 今日の予定を考えつつ、監督生は眩しい朝日に目を細めながらヴォルケイニアの外へ出た。


















「ぎゃーーー!!!!!!!!」


 トレイは、監督生のものと思われる叫び声に飛び起きた。
 メガネを手にして食堂を出ると、ルークが先頭になりヴォルケイニアの外へ出るのが目に入る。セベクとシルバー、ジャックも後を追うように飛び出ていく。自身もそれに続いた。


「人間!!」
「監督生くん!一体何が、」
「あの、これ」


 目の前に広がる光景に、完全に目が覚めた監督生は指を指す。トレイはメガネをかけ、指差す先を見た。

 昨日まで低かったはずの、カルデラ湖の水位。自分達がいるヴォルケイニアが建つ一階ギリギリまで上昇していた。上陸してきた地点である岩場はカルデラ湖の底にあり、乗ってきたはずのガレオン船は沈没している。スロープも、地下の洞窟にあった研究所も、全て上昇した海面に覆われてしまった。

 ノーチラス号だけは知らん顔で浮上しており、カルデラ湖を彷徨っている。







『アテンション、アテンション、島内の全クルーに告ぐ。次回予定されていた任務の大規模変更にともない、各クルーの担当業務を一部修正。本日13時までに、地底走行車に乗り込み地底探索、および火山活動を調査せよ。』

 


















続く

・エースの狂気(PTSD)
フェティッシュ
→対象:マブ、同級生、仲の良い人物

・監督生の狂気(PTSD)
恐怖症
→対象:海、湖、川、青く沈むもの


ヴェスタの旅情②
5作目です◎プロムのシーンで名前のないモブが少し出ます&リドルのお母様を捏造しておりますのでご注意ください。
⚠︎6章ネタバレを含みます。お気をつけください。

Twitter開設しました◎
進捗などはそちらに🍕

以下あらすじと注意書。

𖣰②のあらすじ
自身らが漂流した場所がヴェスタだと判明したチーム・筋肉は、未知の島を探索すべく動き出す。外と内を繋ぐ唯一の存在イデアに冒険の島・お客様サポートセンターに連絡をしてもらいつつ、ヴェスタ内部で奇妙な現象が起こり始める。一方その頃チーム・ホテルは、主治医エペルがエースの現状に診断を下していた────。

チーム・プロムも頑張るヴェスタの旅情②
想定していたよりだいぶ長くなりました

𖣰注意書
・捏造に捏造を重ねた捏造です。

・ピザが大好きな女監督生が出ます。名前はデフォルト名のユウを使用しています。

・腐、CP要素は無いものとして書いています。が、そう見えることもあるかもしれません。

・前作のせいで狂気(PTSD)持ちのキャラがいます。ご注意ください。

・ゲームプレイ済。
パーソナルストーリー等回収しきれていないものもあります。時系列など本編と矛盾等ある場合があります。ご了承ください。

・誤字脱字等見つかりましたら、コメントにてご指摘くださると助かります。(訂正次第削除させていただきます。)

どうぞ宜しくお願いします🍕
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2022年6月30日 14:05
魂
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