うさぎと共存すること
かなり時間が空いてしまいましたすみません……
更に前回より更に習作と呼べないレベルになっております.さすがにいつか加筆修正するかもしれません……
前作に沢山のブクマ・いいねなどありがとうございます!この場を借りてお礼申し上げます.
タグのCPは主に絡んでるだけなので,恋愛要素は皆無です.必要に応じてタグは編集してください┏○))
※注意事項
☆一人称・三人称改変
☆原作完全無視の人間関係・職業改変.世界線が違うと思ってくださいパロなので(言い訳)
☆捏造まみれだしみんな仲良し
この小説におけるうさぎバースの説明
→novel/13644558
Twitterやってます.こっちにしか載せてない話もありますのでよければどうぞ┏○))
https://mobile.twitter.com/tali_aoitto_eb
※一次創作との共用ですのでご注意ください
- 111
- 101
- 2,616
朝食の支度を終えた左馬刻は寝室の扉を叩く。返事が無いことを確認してから、そっと扉を開けた。部屋の中にはきっちりと閉められたクローゼット、それに飲みかけのアイスティーが乗ったナイトテーブルがある。昨晩から変わらないそれらを一瞥して、膨らんでいるベッドに近づいた。 「銃兎、起きろって」 「んん…………」 もぞもぞと動いた後、再び夢の中へ引きずられていく。ため息をついた左馬刻は布団を捲った。 「こーら、起きろ」 枕を抱きしめた銃兎は恨めしそうに目を開けたが、すぐに朝食の匂いに目を煌めかせる。可愛い。可愛いが、食事の匂いに釣られて起きるというのはどうなんだろうか。 「ご飯、何?」 起き上がりながら尋ねる銃兎は機嫌が良い。キッチンに移動して食器や食事の乗った皿を運んでいると、銃兎はいつものようにくんくんと匂いをかいだ。 「ほら、これ持ってけ」 皿を渡すともたもたとしながらもテーブルに運ぶ。大分慣れた作業だが、いつも銃兎は繊細な硝子細工でも持つように扱う。それは食器だけに限らず服でも、買い与えたアクセサリーでもそうだ。元来の性格がまめで細やかな質なのかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。自分が眼鏡をどこに置いたか覚えていないことがあれば、だらしなく床で寝ていることだってある。 そんなことを考えながら、左馬刻はコーヒーを入れたマグカップを運んだ。先に椅子に座っていた銃兎が手を伸ばす。その手にカップを握らせてやると、すんとコーヒーの匂いを嗅いで首を傾げた。 「豆、変えた」 「おう、出先で貰ったやつ」 納得したように頷き、マグカップをそっとテーブルに置く。ぱちぱちと瞬きをしているのはやはり、いつもの匂いと違うことに戸惑っているからだろうか。 「いただきます」 「……いただきます」 テーブルに着くと、いつも最初に声をあげるのは左馬刻だ。銃兎がその後に小さく続く。そうして、やっと朝食の時間が始まる。 銃兎がこの家に来た頃は、食事に手をつけることもあまりなく落ち込んでいるような、黄昏れた顔をしていることが多かった。無理もない。親に近い存在であろう、理鶯と突然引き離されたのだ。事情があるとはいえ、その心労は大きかっただろう。埋められない寂しさと一人で闘って、ここまで心を明け渡してくれただけでも良い方だ。 黙々とサラダを口に運ぶ銃兎をじっと見つめる。小さな口を動かして野菜を咀嚼するのはまるで兎そのものだ。言ったら怒られるだろうけど。 「……今日、出かけるけどなんか欲しいもんあるか」 「買い物?」 「仕事の帰りにな」 ふうん、と言うように頷いて、今度はベーコン入りのスクランブルエッグを皿に取る。もぐもぐと口を動かしては目を細めるのが、銃兎なりの『美味しい』の表現だとわかったのも最近のことだ。 「で?なんか欲しいもんあんのか?」 なかなか返事をしない銃兎に焦れて、思わず急かすような声を出してしまう。左馬刻の方を見た銃兎は、考え込むように首をこてんと傾げた。 「………………あ」 何か思いついたのか小さく声をあげたが、すぐ気まずそうに視線を逸らしてしまう。左馬刻がなんだよ、と笑って聞き返しても、ふるふると首を振るだけだ。わがままを言うのが苦手な銃兎は、何か言いたいことがあってもそれを口にしないことが多い。こういう時は、無理に言わせない方が銃兎を追い詰めないことを左馬刻も学んでいるので、何も言わずに朝食を食べることに戻る。銃兎も左馬刻が追及してこないことに安心したのか、コーヒーを飲んで僅かに顔を綻ばせた。
■ □
「そんじゃ、行ってくる」 「ん、いってらっしゃい」 玄関まで見送りに来た銃兎の頭を撫でる。照れたようにそっぽを向いた銃兎を横目に、左馬刻はドアを閉めた。目の前で笑うと怒られるので、ドアを閉めるまで必死に堪える。 車に乗り込み、シートベルトを締めれば車は静かに動き出した。窓の外を見ながら、考えるのはやはり銃兎のことだ。 銃兎が左馬刻の家に来てからずっと、銃兎は外に出ていない。勿論左馬刻が出ないようにと言っていたのもあるが、何より本人が外を見ることを嫌がった。特に雲が暗い日や雨の日は大きな窓があるリビングすら駄目で、寝室で一日を過ごしたこともある。しかしどうやら暗いのが苦手なわけではないらしい。寝るときは部屋を暗くしているが、眠れていない様子でもない。ただ、朝になって左馬刻が起きると、一人になった銃兎はよく左馬刻の枕を抱きしめて寝ている。さっきまで隣にあったぬくもりが急に消えるのが嫌なのだろう。そういえば、寝ているときでなくても銃兎は何かに抱きつくことが多い。テレビを見るときはソファーのクッションに抱きついているし、理鶯と電話をした日は寝るまで端末を握って離さない。 そこまで考えたところで、今朝の銃兎を思いだしてつい笑みが零れる。何かを欲しがる銃兎も珍しく、さっきは食い気味に聞いてしまった。しかし、少しでも欲しいと思えるものが見つかった、というのは純粋に喜ぶべきことだと思う。なんとかして聞き出せば良かったのだろうが、あまり詮索し過ぎると怖がってしまう恐れもある。ただでさえ捨てられたフラッフィはロトゥンという種族に敏感だ。折角ロトゥンに慣れてきたというのに、その関係性を壊してしまうのは本意ではない。なるべく圧力をかけないように接していかなければ、最悪の場合心を閉ざしてしまうだろう。 「…………兄貴? 兄貴!」 舎弟の声に、左馬刻は現実に引き戻された。 「事務所、着きましたけど……」 「おう」 返事をして車を降りる。ドアが閉まると車は走り出した。そういえば今日は洗車をしに行くとかなんとか言われた気がする。車に対する愛着があるようで、出させた車は何かと彼が洗ってくれているらしい。というのも別の舎弟が話しているのを小耳に挟んだだけなので、真偽は定かではないが。 ────ん? 事務所は目と鼻の先。そこで見つけたのは大きな兎だった。ショーウインドウに飾られたそれは、可愛らしくも胸に紅い首輪を巻いている。こんな店あったっけかと記憶を辿ったが、やがて最近閉店した店の跡地だったと思い至った。左馬刻は行ったことがなかったが、うまい弁当屋があったとかで舎弟が悲しんでいた、気がする。 買ってやるか、と思うよりも先に左馬刻の足は、店のドアへと向いていた。チリンチリンとカウベルがなり、一瞬にして左馬刻はポップな雰囲気に包まれる。 ショーウインドウの兎は店内の奥の方に置いてあった。少し濃いグレーの毛に黒い瞳が特徴的なその兎は、なんだか見たことがあるような気がした。少し考えて、銃兎に似ているのかもと納得する。目の前のコイツは眼鏡をかけていないし耳も立ってはいるが、少し幸薄げというか守ってやりたくなるような表情なんかそっくりだ。大きさ的にも抱き枕にちょうど良いぐらいで、抱きしめて眠る銃兎を思い浮かべて笑みがもれる。 「そのうさぎさん人気なんですよ~!」 「うおっ⁉」 いきなり店員に話しかけられ、思わず声が出てしまった。寧ろ、咄嗟に手が出なかったのを褒めてほしいくらいだ。一瞬の迷いと隙が命取りになる仕事柄、どうしても手が出てしまいがちになる。 「あっすみません……! すごく熱心にご覧になってたので……」 「いや……」 そこまで熱心に見てたのかと思うと、少し恥ずかしい気もする。 「プレゼントか何かですか~?」 「まあ……」 左馬刻が曖昧に返事をすると、嬉しそうに店員は説明を始めた。申し訳程度に相槌を打ちながら、心の中でこの兎を見て目を輝かせる銃兎を想像する。 結局、店員にニコニコと笑って見送られおもちゃ屋から出てきた左馬刻の腕には、大きな包みが抱えられていた。
■ □
ヤク絡みの売人共を根こそぎバラしたのが一ヶ月前。あれからフラッフィ愛好家の噂は聞かない。理鶯もここ最近は、ヨコハマで捨てられたフラッフィの情報を聞いていないらしい。しかし専ら全国にいる仲間と連携を取りつつ仕事に勤しんでいるそうで、彼は彼なりに忙しい日々を送っている。あの後一度理鶯の家を訪れたのだが、そのときに銃兎も理鶯の仕事をある程度理解したらしい。以前は理鶯と一緒に暮らしたいと涙した銃兎自ら、左馬刻の家に住むと言い出した。もちろん左馬刻も理鶯も驚いたが、銃兎本人がそうしたいと言うのだからその通りに、と以後も左馬刻の家で過ごすことに決まった。
それを抜きにしても、銃兎はそこそこ家の暮らしを気にいってくれたようで、料理だったり掃除だったりを楽しそうにやっている。元来物覚えが良いのだろう、特に料理は器具の使い方を覚えてからは、簡単なお菓子なども作っているようだ。もっとも、本人が納得するレベルのものができる方が稀なので、味見すらさせてもらえないことが多いが。
変わらず理鶯とはよく電話しているようだが、最初の方に比べれば頻度は減ったように思う。最近はそれこそ料理を教えてもらったり、安否確認のために向こうからかけてきたりすることもある。少しずつではあるが、自立をはじめているのは良い兆候だ。
──今度外に連れ出してみるか
今の銃兎なら、少しは外に慣れる余裕があるだろう。左馬刻も自由業とはいえ、組織に属する人間だ。今は時間があるのである程度は構ってやれるが、繁忙期や緊急の呼び出しのときはやむなく独りにしてしまう可能性だってある。それまでに少しは外の世界に慣れていなければ、いざ外で何かあったときに銃兎を不安にさせてしまうだろう。
思考がふらふらと浮いていると、舎弟のノックの音に内心驚かされる。慌てて入れ、と言えば恐縮した顔の舎弟が顔を覗かせた。
「兄貴、乱数さんがいらっしゃってますが……」
「ああ?」
何か約束でもしていたかと首を捻ったが、乱数ならきっと気まぐれで遊びに来たのだとあたりをつける。退紅に気に入られているのを良い事に、事務所に入り浸るような人間だ、あいつは。
「いい、通せ」
「はい」
舎弟が出ていくのを尻目に、煙草に火をつけた。暫くすれば、跳ねるような足音が聞こえてくる。
「やあやあ左馬刻〜! お久しぶり〜!」
豪快にドアを開ける乱数を、左馬刻は自覚なく睨みつける。
「こっわ〜い左馬刻! まさか銃兎にもそんな顔してるんじゃないでしょーね⁉」
「するかボケ」
何しに来たんだ と言えば乱数はそうそう、と鞄から何かを取り出す。
「これ、銃兎にと思って」
「なんだこりゃ」
机にぽんと、小さな箱が置かれた。両手に収まりそうなそれは黒い紙で覆われ、銀のリボンが結ばれている。
「ネックレスっていうかチョーカー? 銃兎モチーフに考えたから一番に本人につけてもらおうと思って。理鶯のとこ行ったら左馬刻のとこにいるって言うからこっち来たの」
「いやだからってなんで事務所来んだよ、こんなとこにアイツ連れてくるわけねえだろうが」
「ねーねーこれ銃兎へのプレゼント?」
いつの間にか乱数は、隅のソファに置いてある包みの前にいた。あ、と思う間もなくスマホで写真を撮る。
「オイコラてめえ! なに勝手に撮ってやがる!」
「なんだ〜左馬刻サマ銃兎に甲斐甲斐しいじゃん! 理鶯に教えてあげなきゃ〜!」
にやにやしながらメッセージアプリを起動して、理鶯に写真を送る。左馬刻は慌てて携帯を取り上げようとしたが、乱数は手の届かないところへひらりと逃げていってしまった。
「クソ! 乱数てめえ!」
「きゃー左馬刻サマこわひ〜!」
全く怖がっていなさそうな声で乱数は笑う。クソ、と悪態をつく左馬刻に、乱数は嬉しそうな顔をした。
「……なんだよ」
「いや? 幸せなんだな~と思って」
にこにこと笑う乱数はどこか寂しそうでもある。眉を顰めた左馬刻に、乱数は手を振ってみせた。
「じゃあ僕は帰るから! 銃兎に渡してあげてね〜!」
嵐のように去っていった乱数を目だけで見送り、左馬刻はまた新しい煙草に火をつける。そして机に置かれた箱を手に取ると、大事そうに自分の包みの横に置いた。
■ □
「……ただいま」 左馬刻が家のドアを開けると、部屋の電気が全て消えていた。普段であればリビングの明かりがついているか、銃兎の機嫌が良ければ玄関まで迎えに来てくれる。 「銃兎?」 不安になって、呼びかけながらリビングの電気をつけた。暗闇に慣れた目に電灯が眩しい。そんな中でも聞こえる、小さな衣擦れの音。 ──寝室? 気づけば自然と息を殺して、そっと寝室のドアの前に立っていた。ドアに耳を寄せると、僅かに開いたそこから布が擦れ合う音と一緒に、呻き声のようなものが聞こえる。 「銃兎っ!」 慌てて足を踏み入れると、そこにあったのは丸まったシーツ。白い饅頭のようなそれは微かに震えている。 「どした、銃兎?」 そっとシーツを剥いでやると、不安げな顔をした銃兎がこちらを向いた。しかし、はくはくと口を動かすだけで声が聞こえない。 「どうした? 声が出ないのか?」 「…………あ…………さま、とき……」 辛うじて左馬刻の名を呼んだ銃兎は、こちらに手を伸ばしてきた。だが触れるより前に、躊躇うように自ら行先を逸らしてしまう。その一連の行為には見覚えがあった。それは銃兎がこの家に来たばかりの頃の、何かと人の温もりを求めたときのものだ。人を求めるのは寂しがり屋のドロップにとっては当たり前の行動で、もちろん左馬刻も理解している。しかし銃兎は左馬刻に手を伸ばしかけては、怖がるように引っ込めてしまっていたのだ。左馬刻がそのことに気がついてからはこちらから手を取ってやるなど、なるべく寂しさを感じさせないように取り計らってきた。最近では日中の留守番くらいできる、と銃兎自ら豪語していたぐらいだ。そんな銃兎が急に始めの頃に逆戻りしてしまったこと、声が出ないということ。これらから導き出される推論は一つ。 「……お前、もしかしてシーズンか」 ピクリと兎の耳が動く。はたはたと瞬きをして、銃兎は呆然と左馬刻を見つめた。 「銃兎、こっちおいで」 そっと銃兎の身体を抱き寄せる。向かい合わせで膝の上に乗せ、頭を撫でてやると力が抜けていくのがわかった。おずおずと背中に回された腕が、力無く左馬刻を抱きしめる。 ──銃兎は自分がスイッチを入れられないからか、シーズンを怖がる。おそらく捨てられる前のシーズン中は、惨憺たる扱いを受けてきたのだろうな……。 一月前、理鶯に言われた言葉が脳内で繰り返される。銃兎にとってシーズンは、心ないロトゥンに陵辱されるだけの時間だったのだろう。無理やりに犯され、欠陥品だと罵られるだけの地獄のような時間。それを彼は、たった一人で耐えてきたのだ。 「大丈夫だから。何もしねえよ、ただそばにいるだけ。それならいいだろ」 あやすように背中を叩いてそう言うと、肩に乗せられた顔が縦に動くのがわかった。一人でよく頑張ったな、という気持ちを込めて一層強く抱きしめる。 寂しさが埋められたことで本格的なシーズンに入ったのだろう。暫くすれば銃兎は完全に声を発さなくなった。その代わり、離れたくないと訴えるようにしっかりと左馬刻の服を握っている。 「床寒いだろ、運んでやるから掴まっとけ」 無言でしがみつく銃兎を抱え、ベッドまで移動する。抱いたままベッドに乗り上げると、銃兎はぐりぐりと頭を肩に擦り付けてきた。素直に寂しさを伝えられない、ドロップらしいの健気なアピールだ。 「……じゅーと、お前にって買ってきたもんとかがあるんだけどさ、一瞬だけ離れられるか?」 落ち着いてきた頃を見計らって言うと、銃兎は小さく頷いて手を離した。ベッドの上に残し、リビングに向かう。帰ってきたときに置きっぱなしにしていた箱を抱えて寝室に戻ると、銃兎はシーツを被ったままの格好で座っていた。シーツがウエディングベールのように垂れているのが可愛くてつい、笑みがもれる。 銃兎の足下にかしづくように座り、まず乱数が持ってきた箱を手に取った。 「これ、乱数がお前にって」 手にそっと箱を載せると、こてんと首を傾げながらも自ら手を伸ばす。リボンをそっと引っ張って箱を開ける所作は、やはり硝子細工を扱うように丁寧だ。 中から取り出されたのは細いリボンのチョーカー。チャコールグレーのそれは、中心付近に小さな三角形の金属チャームがついている。 「へえ、いいじゃん」 銃兎はチョーカーをまじまじと見つめて、それから今度は左馬刻をじっと見る。使い方を知らないのだろうか。ちょっと貸せ、と銃兎の手からチョーカーを受け取る。被っていたシーツを外してから、抱き込むようにして首の後ろで結んでやった。 「ん、似合ってる」 首筋を撫でて身体を離すと、銃兎は小さく息を吐き出した。首に冷たいものが当たるのが気になるのだろうか、カリカリとチャームを弄っている。 気に入ったか、と尋ねると銃兎は小さく頷いた。嬉しそうにふわりと笑う様子はまるで小さな子供のようで、左馬刻も微笑む。 「……あとこれは俺様から」 今朝なんか欲しがってたから、とゴニョゴニョ言い訳を並べながら包みを差し出した。ぴこんと銃兎の兎耳が揺れて目が輝く。 遠慮がちに、しかしせっかちに包みを破る様子は子供が誕生日にもらったプレゼントを開けるときのものだ。乱数の包みを開けるときとは真逆なそれに、思わず笑ってしまう。しかし、銃兎は意に解することなく兎を取り出した。 大きな兎は、銃兎が抱えるとそこそこの大きさだ。暫くぬいぐるみを見つめた銃兎は、やがてそっと抱きしめる。 「満足か?」 兎に頬ずりをする銃兎に話しかけたが、もちろん返事は無い。しかし、くうくうと鳴くような音が微かに聞こえた。フラッフィはシーズン中は声が出ないが、嬉しい時や怒った時に喉を鳴らして感情を表現すると言う。懐いた人間にしか聞かせないというそれは、心を許された証だ。その事実に嬉しくなって顔を綻ばせると、銃兎もふわふわと笑う。 ぽんぽんと、不意に銃兎がベッドを叩いた。隣に来てほしいらしい。そっとベッドにあがると、ぬいぐるみを抱いたまま身体を寄せてきた。肩を抱いてやって暫くすると、銃兎はうつらうつらと船を漕ぎ始める。 「飯作ってきてやっからちょっと寝とけ。疲れただろ」 初めて近くに誰もいない時にシーズンに入った銃兎は、肉体的にも精神的にも疲弊しているだろう。何を食べさせようか、と買ってきた食品と冷蔵庫の中身を脳内に思い浮かべる。 いよいよ本格的に眠りに落ちている銃兎をそっとベッドに寝かせると、銃兎はきゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
■ □
夜ご飯は結局、銃兎が好きなオムライスにした。さっと炒めて作ったケチャップライスを薄焼き卵で包む。更にその上からケチャップをかければ完成だ。初めて作ったときに、銃兎が目を輝かせて食べていたのをよく覚えている。
付け合せにサラダでも作るか、と野菜室からレタスを取り出そうとしたとき、寝室のドアが開く音がした。銃兎が起きてきたらしい。音のした方向を見ると、ぽやぽやした顔の銃兎がいた。すっかり相棒になったらしい兎は、銃兎の腕でしっかりと抱えられている。
食事中もふわふわした顔のまま、時折手が止まったと思えば寝かけている。これは風呂は無理だなと感じて、仕方なく寝間着だけ着替えさせて寝室に運んでやった。
寝こけながらも左馬刻の服とぬいぐるみを握って離さないので、左馬刻もどこにも行けない状況に陥る。仕方なく枕元に座って頭を撫でていると、銃兎が服の袖を引っ張った。
「なぁんだ」
無言で服をくいくいと引っ張ってくる銃兎は、不服そうに左馬刻を見上げている。一緒に寝たいのか、と聞くと頬を染めて頷いた。
銃兎がここに来た時に買ったベッドはセミダブルで、二人と一匹が並んで寝るには狭い。銃兎が抱いているぬいぐるみを身体の上に抱えさせ、やっと人が二人寝転がれるぐらいだ。
銃兎が身体ごとすり寄って来るので、そっと頭の下に腕を差し入れてやる。頬を撫でていると、安心したように息をついた銃兎はゆっくりと眠りに落ちていった。