default

pixivは2023年6月13日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴

この作品「うさぎと話すこと」は「ヒ腐マイ」「うさぎバース」等のタグがつけられた作品です。
うさぎと話すこと/立葉 葵灯の小説

うさぎと話すこと

9,670文字19分

※左銃と言いながら左馬刻殆ど出て来ません.お互い根底に愛しかないので左銃.

やや別CPが出てくるように見えるかもしれませんが,やはり恋愛感情はゼロです.CP以外でも抱きつく,程度の接触あります.苦手な方はバックしてください……
とても更新が遅くなり大変申し訳ないです……

タグのCPは主に絡んでるだけなので,基本恋愛要素は皆無です.必要に応じてタグは編集してください┏○))

※注意事項
☆一人称・三人称及び口調改変
☆原作完全無視の人間関係・職業改変.世界線が違うと思ってくださいパロなので(言い訳)
☆捏造まみれだしみんな仲良し

この小説におけるうさぎバースの説明
novel/13644558

Twitterやってます.こっちにしか載せてない話もありますのでよければどうぞ┏○))
https://mobile.twitter.com/tali_aoitto_eb
※一次創作との共用ですのでご注意ください

1
white
vertical

「じゃあ行ってくるからな。帰りは理鶯に迎えに来てもらえよ」
 寂雷の家の玄関先で、左馬刻は銃兎に話しかける。やや寂しそうな顔をした銃兎は、しかしぐっと唇を噛みしめて頷いた。その後ろでは、寂雷が銃兎の様子に苦笑している。
「……いってらっしゃい」
「ん、いってきます」
 どうにか絞り出した銃兎の言葉を聞き、左馬刻は頭を撫でてやった。ドアを閉める寸前は顔を見ないように。見てしまうと銃兎が悲しそうな顔をするからだ。
「……さ、戻ろうか」
 寂雷が声をかけると、銃兎はやっとドアから目を離す。ぼおっとした顔でテーブルにつく銃兎を見て、また苦笑いがもれた。
 左馬刻から銃兎を預ってもらえないかと連絡が来たのは、一週間ほど前のことだ。退紅の所用に付き合って一日家を空けるらしい。深夜には帰ってくるので、それまで銃兎を預かっていてほしいということだった。夜には理鶯が迎えに来てくれるらしいので、それまでの間の世話を頼まれたのだ。
 銃兎が襲われてから二月ふたつきが経っていた。結局、彼のシーズンが収まるまでにはまるまる半月かかった。今もまだ情緒不安定になることはあるが、人と一緒にいればそこまで問題はないらしい。それに、初めてここへ来たばかりの頃の銃兎とは、明らかに違いがあるのがわかる。時に怒り、悲しみの涙を流し、そしてよく笑うようになった。半年前、病院で虚ろな顔をして横たわっていた彼とは似ても似つかない。
 それは愛を受け入れた証なのだろうと、寂雷は思った。感情をかおに出しても受け入れてくれるのだと、銃兎が認識してくれたのはとても嬉しい。お互いに信頼関係が築けているのだから。 「はい、どうぞ。まだ熱いから気をつけてね」  クッキーと一緒にカフェオレを出すと、ぺこりとお辞儀をする。向かいに寂雷も座り、自分のカップに口をつけた。 「彼らももうすぐしたら来るはずだから……もうちょっと待っててね」 「……はい」  彼らとは、以前から寂雷が銃兎に会わせたかった人たちのことだ。二人を会わせても良いかと尋ねたところ、害がなければ良いとのことだった。その場で銃兎本人にも聞いて了承はもらっている。とはいえ銃兎はやはり緊張しているようで、さっきから不安そうにきょろきょろと目を動かしている。 「……緊張する」  尋ねると、こくんと頷きが返ってくる。手を温めるようにカップに手を添え、銃兎はふうと、一つ息を吐き出した。  それからしばらくして、寂雷のコーヒーが無くなりかけた頃だった。ピンポーン とチャイムが来客を告げる。 「ああ、来たかな。銃兎くんはここで待っていてね」  何かあったら危ないから、と言い残して寂雷が玄関に向かう。言われた通りテーブルに着いて待っていると、何やら玄関の方から賑やかな声が聞こえてきた。 「わぁ この人」  ひときわハッキリ聞こえた声に振り向くと、そこには表は金色で裏側に黄緑色が入った髪の男性がいた。頭には短くピンと立った兎の耳。ネザーのフラッフィだ。 「ちっちっちっす 俺は伊弉冉一二三っていいまーす よろしくね」  その男はぱちんとウインクしてみせる。戸惑った顔の銃兎がなんと言えばよいのかと迷っていると、一二三の後ろからぐいと腕が伸びてきて前のめりな身体を引き戻した。 「一二三 あんまがっつくなって お前の距離感近いんだから自覚しろ」 「なんだよ独歩ちん〜良いじゃんかフレンドリ〜な感じで〜」  独歩ちんと呼ばれた男はやれやれと頭を抱える。あまりの展開の速さについていけない銃兎を見かねたのか、寂雷が助け舟を出してくれた。 「とりあえずお互いに自己紹介しようか。独歩くんから、ね」 「はっはい……ええっと、観音坂独歩です。宜しくお願いします」 「…………銃兎、です。宜しくお願いします……」  独歩と名乗る男の方は赤毛で、裏には青緑が入っている。そして、頭には耳がない。それに気がついた銃兎がすいと寂雷の方に寄ると、寂雷は安心させるように銃兎の肩を抱いた。 「大丈夫だよ、独歩くんは怖い人じゃないから……君と同じだから、気が合うんじゃないかなと思ってね」  銃兎は首を傾げながらそっと独歩の方を見る。そうは言われても、目の前の男性の外見は明らかにフラッフィのそれではない。そんな目の前では一二三と独歩が言い合いをしていた。いや、じゃれていると言ったほうが正しい。 「独歩ちん暗いって 会社の挨拶じゃねえんだからさぁ〜」 「うるさいなー 俺は緊張してんだよ…… むしろお前も緊張感をだな……」  目を丸くして二人の会話を聞いていた銃兎に気がついて、そこで独歩は居住まいを正した。 「あっ……すみません また俺は……」 「大丈夫だよ独歩くん。銃兎くんは嫌がってるわけではないから……」  寂雷の言葉に慌てて頷く。嫌がっているとかそういうことではなく、ただ単に驚いたのだ。フラッフィとロトゥンらしい人が言い合うように話しているのを、銃兎はこれまで見たことがなかった。今までであればフラッフィはロトゥンより格下であり、むしろ今銃兎の周りにいるのは変わり者のロトゥンなのだという認識だ。 「さあ、じゃあお昼ご飯を作ろうか。何が食べたい」 「俺っちハンバーグ」  真っ先に一二三が手をあげる。 「おい一二三 ほかの意見も聞けって」 「じゃー独歩ちんは何がいいのさ」  やいやいと言い争う二人を見て、銃兎はついふふっと笑った。その声に一瞬驚いた一二三と独歩は、同時に吹き出す。 「なんだ 銃兎ちん笑えんじゃん」 「良かった……嫌われてなかった……」 「独歩ちんそれはネガティブすぎー」  笑い合う三人を見て、寂雷は嬉しそうに微笑んだ。 「じゃあハンバーグでいいかい 銃兎くんも独歩くんも、食べられる」 「はっはい、大丈夫です お願いします」  返事をする独歩の横で銃兎もこくんと頷いて見せる。それじゃあ作ってくるから待っててね、とキッチンに消える寂雷を見送って、三人は思い思いの席に座った。 「銃兎ちんもドロップなんだね~、ミミふわふわ」 「こら一二三 勝手に触られると嫌だからやめろって」  銃兎の耳に興味を持った一二三の手首を独歩が掴む。銃兎は突然伸びてきた手に思わず身を強張らせるが、独歩の言葉にふと疑問を覚えた。その不思議そうな視線に気がついたのか、独歩が銃兎の方に向き直る。 「えっと、寂雷さんから聞いたかもしれないんだけど……僕、ロトゥンじゃないんです」 「えっ……」 「僕も、もともとドロップだったんです。だけど……耳、取っちゃったんです」  ぽつぽつと話す独歩は笑ってこそいるが、苦しそうだった。黙って聴いていた一二三が、元気づけるように話し出す。 「でもまーおかげで俺っちは独歩と暮らして幸せだから良いんだけどね」 「いやお前は住む先が見つかっただけだろ」  ぐりぐりと頭を独歩に押し付ける一二三を見て、銃兎はクスリと笑った。幸せそうな一二三も、満更でもなさそうな独歩も、人生が楽しそうだった。 「銃兎ちんはなんかしたいこととか無いの」 「したいこと」  銃兎は首を傾げる。 「そう、俺っちはりおっちのとこでお仕事してるんだけどね。りおっちが仕事を探してくれたとこもあったんだけど、やっぱりおっちのとこが一番安心だなって」  一二三はニコニコと笑って言う。その爛漫さが今は羨ましく思った。きっと、理鶯にも可愛がられてきたのだろう。ネザーが甘え上手でみんなを元気にしてくれる存在だというのは、銃兎でも知っていることだ。自分の性が少しだけ恨めしくなる。 「……僕は先生……あ、寂雷先生のことです。先生に探してもらったところで働いているんですけど。そこ、すごい良いところで。俺みたいな奴でもちゃんと扱ってくれて。でも耳って珍しいじゃないですか、だから外部の人とかが来ると怖くて」 「俺っちは結構気に入ってたんだけどねぇ、独歩の耳」  一二三の発言にしょうがないだろ、と独歩が言う。 「まあ、だから……なんていうか……フラッフィとして生きるのが嫌なんだったら、そういう生き方もありだと思うんです……」  テーブルに置いた両手を見つめながら、独歩はぽつりぽつりと話す。 「私は……」  話しだそうとして、声が止まった。今、自分は何を思ったのだろうか。フラッフィとして生きることの恐怖か、愛されなくなることの恐怖か。  耳を取るというのは、以前に理鶯から聞いたことがある。それでもその時の銃兎には、そんなことを考える選択肢など無かった。フラッフィでなければ、きっと理鶯は銃兎を拾うことをしなかった。良いフラッフィでいないと、捨てられてしまう。もう、あんな目には遭いたくないのだ。 「…………銃兎ちん 大丈夫」 「え」  一二三の声に、銃兎は現実に引き戻された。 「大丈夫 なんかすごいぼーっとしてたけど」 「あっはい……大丈夫、です……」  必死に首を縦に振って大丈夫だとアピールする。しかし、それは独歩には見抜かれていたようだった。 「何か、あったんですか」  僕たちそんなカウンセラーみたいなことはできないですけど、同じフラッフィとしてわかることはたぶん普通の人より多いですから。驚いた顔の銃兎に、そう独歩は笑って言う。  耳を切除したとはいえ、独歩の本質は銃兎と同じドロップだ。甘えたくても制御がかかって甘えられない、複雑な感情が理解できるのだろう。ドロップは無理に我慢しすぎると身体を壊して最悪の場合、死んでしまう。独歩もそれで瀕死状態になっていたところを、一二三と理鶯に助けられた身だ。だからこそ、銃兎にはちゃんと向き合いたかった。 「頼りないかもしれないですけど僕でよければお話、聴きますよ」  そう言う独歩の穏やかな表情は、銃兎の涙腺を決壊させるには充分すぎるほどだった。 「えっちょっ、銃兎何泣いてんの⁉」  目を見開いたまま固まった銃兎の瞳から、一筋の雫が零れ落ちる。慌てた一二三の声に必死に大丈夫、と首を振るが堰を切ったような涙は止まらなかった。 「だい……大丈夫……だからっ……」 「全然大丈夫じゃないって もう」  ぴょんと立ち上がった一二三が銃兎の元に歩み寄り、その身体を抱きしめる。とんとん、と優しく背中を叩いてやるが、銃兎の涙は一向に収まる気配を見せなかった。 「銃兎くん どうしたの⁉」  泣き声を聞きつけたらしい寂雷が、キッチンから出てくる。独歩が狼狽え、一二三が銃兎を抱きしめているのを見て、寂雷は首を捻った。 「わからないです……話してたら急に泣いちゃって……」  青ざめた顔で必死に独歩が状況を説明しようとする。寂雷はとりあえず理解したという顔で、一二三に抱きしめられている銃兎の元に寄った。 「ごめんね銃兎くん、顔見せられる」  一二三の腕からそっと銃兎を受け取り、その身体を抱き寄せる。ぐすぐすと涙を流す銃兎は、寂雷の服に縋るように抱きついた。寂雷がその手をそっと撫でる。 「…………ごめ、ごめんなさ……い……」 「大丈夫……謝らなくていいから……」  寂雷の手が優しく背中をさすった。一二三と独歩はお互いに顔を見合わせる。 「ごめんね、二人とも。ちょっとだけ待っていてくれるかな」  二人の方を見てそう言うと、寂雷は銃兎を連れて隣の部屋に入っていく。そこは寂雷の寝室だった。ベッドの上に銃兎を座らせると、自分もその横に腰掛ける。 「……………………すみません」 「……何が」  長い沈黙の後、銃兎がぽつりと零した言葉に寂雷は首を傾げる。 「…………わかんなくて」  ぱちぱちと、涙を我慢するように銃兎は何度も目を瞬いた。寂雷は何も言わず、黙って話の続きを待っている。 「独歩さんから、耳取ったって聞いて……そんなこと考えたことなくて、何したいのって言われてわかんなくて。だって、ちゃんと生きなきゃいけないのに、できないから、そんな何かやりたいなんて言えないし。良いフラッフィにならなきゃダメ、だから……」  自分でもごちゃごちゃになってきたのか、尻すぼみになる言葉。寂雷はときおりしゃくりあげる背中を撫でながら、銃兎の言葉をじっくりと聴いていた。 「……銃兎くんはフラッフィでいるのが辛い」 「辛い……」  質問の意図が汲み取れていない銃兎は、こてんと首を傾げる。 「良いフラッフィっていうのがどんなのか私にもわからないけど、少なくとも今の銃兎くんは充分ちゃんとした人間だと思うのだけど……でも、もっと銃兎くんが求める姿があるのなら、みんな協力してくれると思うよ」  ゆっくりと、言葉を選びながら話す。何が銃兎を傷つけてしまうかは、まだわからない。 「…………だって、シーズンなのに、全然うまくいかないし、今は左馬刻も、理鶯も優しいけど、いつかまた、捨てられちゃうかもってっ……」  止まったはずの涙がまた溢れる。必死に擦ろうとする銃兎の手を押し留め、寂雷の手がそっと目を拭った。  心の傷は一生消えない。いくら今が幸せでも、その幸せが永遠でないと思いこんでしまう程には、彼の心は切り裂かれているのだ。今朝、左馬刻が出ていったときも内心捨てられるのではないかと恐怖していたのだろう。ぐずぐずと泣いている銃兎の背中を、一層優しく撫でる。 「そっか……うん、話してくれてありがとうね。でもね、銃兎くん。左馬刻くんも理鶯も、君が思っているよりずっとずーっと、君のことが大好きだと思うよ」  もちろん私も、あっちにいる二人もね。そう付け加えれば、驚いたといった表情でこちらを見つめられる。ふふ、と寂雷が微笑むと銃兎があ、と声をあげた。 「理鶯が……」 「理鶯」  寂雷が尋ねると、銃兎は申し訳なさそうな表情をする。 「理鶯に、また言われる……」  拳を握りしめてそう言う銃兎の頭を、寂雷はそっと撫でた。唇を噛み締めて震える身体は痛々しい。握られた手を上から包み込むように、何度も何度もさする。 「せんせ……」  銃兎が悲痛な声を出したときだった。 「せんせーー どうしよう‼ ハンバーグが……」  突然扉が開いて、一二三と独歩が雪崩れ込むように入ってきた。その手には何かが乗った皿がある。 「あ」 「えっ……」  真っ黒に焦げた、もはやハンバーグではないただの黒い塊に寂雷が絶句する。銃兎も涙を引っ込ませ、目を瞬かせた。 「すまない……火をかけたままにしていたのを忘れて……」  申し訳なさそうに謝る寂雷に、独歩と銃兎は驚いた表情をした。しかし一二三だけがぱっと目を輝かせる。 「じゃあじゃあ、みんなで作ろーよ」  えっ、と声をあげたのは寂雷と独歩だ。しかし突飛な提案に声が出ない二人とは対照的に、銃兎は目を輝かせている。 「ほら 銃兎も作りたいでしょ」  視線に気がついた一二三が目ざとく話を振る。こくり、と頷いた銃兎に一二三は人懐っこい笑みを浮かべた。

■ □

 昼食後、寂雷は仕事先でトラブルがあり、三人に留守番を任せて出ていってしまった。三人で食べていいからね、と寂雷が置いていったクッキーとコーヒーをテーブルに並べて話は進む。 「銃兎は誰と住んでるの」 「えっ……」  一二三に突然話を振られ、銃兎は困惑した。 「りおっちと住んでるわけじゃないもんね」 「ええ、まあ…………」  銃兎は逡巡した。左馬刻のことを話して良いものか、分からなかったのだ。左馬刻は銃兎の事を決して他人に話すことはしなかった。それを自分の口から話して良いのか、銃兎には自信がない。 「理鶯さんの知ってる人ですか」 「えっ、あっはい……」  独歩の助け舟に、銃兎は慌てて頷いた。 「なら安心だね ねね、どんな人」 「こら一二三 あんま深入りすんなって」 「……別に、大丈夫ですよ」  もはや見慣れた光景に、銃兎はふふっと笑う。目をキラキラと輝かせた一二三と驚いた顔の独歩を前に、銃兎はゆっくりと話し出した。 「……とても、優しい人なんです。朝はご飯を作ってくれて、とってもコーヒーが美味しいんです。それで、夜はぎゅってしてくれて、それでいつも寝るんです……」  はにかむように話す銃兎を見て、一二三と独歩の表情が和らぐ。実のところ、二人とも銃兎の態度に内心不安を抱えていたのだ。寂雷からおおよその性格は聞いていたものの、彼はかなりロトゥンに対して恐怖心を抱いている。それこそ理鶯に出会った頃の独歩よりもずっと。だからこそ周りの環境が気がかりだった。 「そっか…………うん 幸せならいいと思う」 「……そうですね…………」 しかし、そう言う銃兎の表情がふっと曇った。 「そうだけど、どうかしたんですか」  独歩が少し遠慮がちに尋ねる。誰のせいでもないとはいえ、一度は泣いてしまった銃兎を独歩は心配していた。自分と似ているからこそ分かる、一種の連帯感だ。 「………………あの、お二人は……シーズンって、どう…………」  急な話題転換に二人は一瞬首を傾げる。不安そうな銃兎は目を彷徨わせて、すみません、と小さく縮こまってしまった。 「うん 別に謝ることないって 急に話変わったなーってびっくりしただけで」  けらけらと笑う一二三の顔を見て、やっと銃兎は表情を崩した。 「僕は先生から抑制剤を処方してもらって、近くなるとそれを飲んでます。仕事先で急になっちゃうと大変なので……だからシーズンはここ最近は経験してなくて……」  申し訳ない、と独歩は本当に申し訳なさそうに笑う。 「俺っちはもう家に籠もっちゃう 独歩はフェロモン感じねーし、りおっちも勿論知ってるから休みにしてくれるしで全然モンダイナシ」  イエーイ、とピースをする一二三を、独歩がそっと手で窘める。銃兎の顔が再び曇ったことに気がついたのだ。 「シーズンのときに、何かあったんですか」  ロトゥンの中には、シーズン中のフラッフィを上手く世話できない者も多い。パートナーでもない限り、性行為に及ぶのは許されない行為だ。例えフェロモンがもれてしまったとしても、ロトゥンも予め抑制剤を飲むなどして阻止するのがお互いの為であった。 「いや、そういうわけではなくて…………あの」  口ごもる銃兎を二人はそっと見つめる。初めてここまで話をすることができたのだ。きっと精神的にも辛いことだろうが、ここで聴かなければもっと辛くなってしまう。 「……あの…………私…………シーズン、が………………その、無いっていうか…………全然、発情期、来なくて……怖くて…………」  目をまん丸に見開く二人の前で、銃兎の声が尻すぼみになる。先に声をあげたのは一二三だった。 「えっ大丈夫なのそれ 病気」 「えっと……たぶん先天性のものだから治るか分からないって、寂雷先生が……」  そっか……と一二三は椅子に座り直す。代わりに独歩が口を開いた。 「それで、いつか捨てられたらどうしようって考えちゃうんですね」  独歩の言葉に同意するように、銃兎は首を縦に振る。その眼から涙が溢れて、銃兎は必死に涙を拭った。そんな銃兎の頭をそっと、一二三が撫でる。 「俺っちロトゥンじゃないからわかんないけどさー、銃兎みたいなかわいー子いたら絶対好きになっちゃうと思うけど」 「かっ、かわいい……⁉」  信じられないといった顔の銃兎に、一二三の方がとんでもないといった顔をする。 「なにいってんの 銃兎はもっと自分が可愛いって自覚持ったほうがいいって」 「そんなこと、無いから……」 「なくない 銃兎は可愛いんですー‼」 「違う だって私は……‼」 「二人とも落ち着けって」  静かな独歩の声に、一二三と銃兎はピタリと動きを止める。独歩は小さく息を吐くと、二人の方に向き直った。 「まず一二三、お前は何でも自分の考えを押し付けんのはやめろ。お前にそんな気がないのはわかってるけどさ、今のはお前のが言い過ぎだったと思う」 「うん……ごめん、銃兎」 「え、あ、いや……私も…………」  なんとなく気まずい雰囲気のようになってしまい、銃兎は視線を彷徨わせる。しかし独歩は全く気にしていないように、今度は銃兎の方を向いた。 「それで、銃兎さんは可愛いって言われるのは嫌ですか」 「え…………」  突然の質問に銃兎は目を瞬かせる。 「一二三にとって、可愛いっていうのは褒め言葉なんです。だから、気を悪くしないでほしいんですが」 「いえ、そうじゃなくて」  銃兎は勘違いを訂正しようと声をあげた。しかし思ったより大きな声になってしまい、慌てて口を噤む。 「……あの、そうじゃなくて。可愛いって、そんな、私にそんな言葉、似合わないから……」 「どうしてです」  独歩が不思議そうに首を傾げる。銃兎からすれば、その反応自体が不思議なのだが。 「だって、可愛いっていうのは伊弉冉さんみたいな、ネザーとか、そういう人たちじゃないですか。特に私なんて、可愛げもないし一緒にいたって何もいいことないのに、なんで一緒にいるんだろうって……」  ぽつぽつと話す銃兎の顔はくらい。何か言いたげな一二三を制して、独歩は銃兎の眼を覗き込んだ。 「別に、フラッフィだからってロトゥンを満足させなきゃいけないわけじゃないんですから。銃兎さんの好きに生きたっていいんじゃないですか」  独歩の言葉に、銃兎は伏せていた目をぱっとあげる。そこには不安と心配が渦巻いていた。 「…………好きに……生きる……」  うろうろと瞳が動く銃兎を、独歩はじっと見つめた。はくはくと口を動かしては唇を噛みしめる銃兎は、言い淀むような言葉を絞り出す。 「そんな、こと…………」 「していいんですって。僕たちだって自由に生きてるじゃないですか。銃兎さんだけ駄目なんて、絶対そんな事ない」  はっきりと言い切る独歩を、銃兎はぽかんと見つめる。そんなことを言われたのは初めてだった。小さい頃から搾取の対象として見られて、それを幼心に理解してずっと生きてきたのだ。それなのに今更好きに生きろ、だなんて言われて手放しで喜べるわけもなかった。 「……好きに、って言われても、わかんない…………」  小さな声で呟くように言う銃兎が身体を丸める。 「なんでもいいんだってー 料理でもなんでも」  我慢できなくなった一二三が口を挟む。ぴくん、と驚いたように肩を跳ねさせた銃兎が一二三の方を向いた。 「銃兎料理好きじゃん だから料理作る仕事とかいいと思うけど」 「料理…………家で作ったりはしますけど」  銃兎はこてん、と首を傾げる。 「そんなら家事代行っていってさ、料理の作り置きとか掃除とか。そういう仕事もあるし。それだったらいいんじゃない」  わかる、一二三が善意で言っていることは。それでも、銃兎はそれをやる気にはなれないのだ。 「……ほかの人の家で働くのが怖いのなら」 「働きたくないわけじゃない……けど…………」  妥協案を出そうとしてくれている独歩の気持ちは嬉しい。しかし、銃兎の心は変わらない。  左馬刻が喜んでくれるから、それだから頑張れるのだ。家で待っていて、そこに左馬刻が帰って来て。ご飯ができていると嬉しそうに笑って、褒めてくれるから。  そんな銃兎の心の中を察したように、ふと独歩が笑った。 「…………それでもその人と、一緒にいたいんですね」  一緒に。その言葉がストンと胸に落ちた。そうだ。左馬刻と、ずっと一緒にいたいんだ。だから。 「…………はい……」  銃兎は深く、意思を持って頷いた。

コメント

コメントはまだありません
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
© pixiv
人気のイラストタグ
人気の小説タグ