抱殺
永瑠の闇を覗きたい影十の話
永瑠視点→novel/15913954
登場人物紹介・設定など→illust/83353405
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※二次創作もかいてますのでご注意ください
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抱かれるのが好き。そう言い放った顔は愛なんて知らない顔だったと思う。知らぬ人間に抱かれて全てを暴かれて、何が良いのかよくわからなかった。 だが、実際に抱いてみて分かった。どうやら感じる、なんてことがこいつには無いらしい。どこに触れてもうんともすんとも言わないし、無理に犯しても平然としている。不感症かとも思ったが後ろから肩を叩けばそれなりに反応を見せるし、こちょこちょなんて四人の中でトップクラスに弱い。ただ、そういう行為に対してはなにも感じないだけらしい。 本人は性欲が無いだけだとか言うが、本当だろうか。確かにこうやって抱いていても胸の中で本を読んだりスマホをいじっていたりするだけで、何もしてこようとはしない。今、何もしないという意味では自分も多分にもれないのだが、それはさておき。 「いい加減に下りてくれ」 「やーだ」 この子供っぽい物言いはどうにかならないのか。膝に乗せた永瑠に、僕は非難がましい目を向ける。こいつは普段はいかにも物分りの良い大人です、なんて顔をしているくせに、偶に年齢が三分の一になったんじゃないかってぐらい幼い言動をする。言っとくが自分のほうが年下だぞ、とくだらない事をぼんやりと考えた。 「ねえ、なんでお前抱かれてんの」 ぽろりと出た、何度目かの質問。永瑠も一瞬驚いた顔をしたが、いつもの質問だとわかると目を伏せる。 「だから言ってんじゃん、抱かれるのが好きだって」 「なんで、感じないくせに」 いつもは言わないところまで突っ込んで訊いてみる。純粋に気になっているのだ。性欲は無いくせにレイプ願望でもあるのか? 「…………馬鹿が見れるから」 「はあ!?」 小さい声だったが、明らかに挑発発言が聞こえて思わず聞き返した。なんつったこいつ。お前に幻想を抱いてる人間全員敵に回したぞ今。 「……だから、人を見た目だけで見て抱きたいなんて思う馬鹿が逆ギレする滑稽な姿が見れるからだよ。脳がキレイなものにしか反応できなくて自らの姿が見えてない憐れな動物が見れる、ははっ」 永瑠はいつの間にかいじっていたスマホを閉じ、今度は自らの髪をいじっている。それなりに付き合っているからわかるが、話しながら髪をいじるのは嘘を言っているときだ。そしてそれを見逃してほしいとき。だから今はこれ以上聞かない。納得した、フリをする。 「そーかよ」 「なんだよ、がっかりしたか?」 僕は別に、と頬をふくらませる。 「……別にこの身に誇りも何もねえんだよ。回数なんてわかんねえぐらい人間に抱かれてきた身体だ。今更抱かれたくないだなんてさ……大事にしてるって思われたくないし思いたくない」 ぽつりと永瑠が呟いた。本当に、つい口が滑ったように。 「だから、せめてお前だけはさ、この淫らな身体を大事にしてやってくれよ」 それは、永瑠の中に長年押さえつけられていた心の叫びだったのかもしれない。見た目の良さで襲われ、無理やりひん剥かれて狂ったように犯され、何もレスポンスが無いとまるで誘ったのが悪いと言うように罵倒されて。身体だけじゃない、心まで押し付けられて泣き言ひとつ許されなかった環境を、こいつは常に受け入れて生きてきた。自らが悪いと理不尽な自覚を植え付けられ、それに異議を唱えることもできず助けを求めることすら諦めていたのだ。 永瑠の右手首をそっと掴んでやった。そこには自分がつけたいくつもの傷痕が残っている。これを見るたび生きてるってわかると言う永瑠の気持ちはよくわからない。独占欲や執着心に勝てず影十が永瑠に向ける刃は、幸か不幸か永瑠の生きる糧にもなっているらしく、つくづく哀しい関係だと思う。 愛を乞えないこいつと愛を正しい形で渡せない自分。いや、愛なんて聞こえの良い言葉じゃない。もっとどす黒い感情に支配されたこいつと自分の欲情表現だ。それは人間を外れた自分たちにとって最も人間臭い感情なのかもしれない。 「…………変な奴」 「お前に言われたくないよ」 そう言った永瑠の顔は笑っていたし、自分もきっと頬が緩んでいるのだろう。