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この作品「うさぎと考えること」は「ヒ腐マイ」「うさぎバース」等のタグがつけられた作品です。
うさぎと考えること/立葉 葵灯の小説

うさぎと考えること

8,594文字17分

うさぎバース,すごくお久しぶりです
もう少しで和解できるはずなので,もうしばらく銃兎の左馬刻に対する献身(?)にお付き合いください……
※少しだけモブ→銃があります

タグのCPは主に絡んでるだけなので,基本恋愛要素は皆無です.必要に応じてタグは編集してください┏○))

※注意事項
☆一人称・三人称及び口調改変
☆原作完全無視の人間関係・職業改変.世界線が違うと思ってくださいパロなので(言い訳)
☆捏造まみれだしみんな仲良し

この小説におけるうさぎバースの説明
novel/13644558

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 理鶯が寂雷の家にやってきたのは夜も更けた頃だった。左馬刻から連絡が来て、帰るのが翌朝になりそうだから銃兎を連れて帰ってくれと頼まれたのだ。事情を聞いた銃兎は少し悲しそうな顔をしたが、次の瞬間には笑って頷いた。 「じゃーね また話そー」 「ええ、また」 「伊弉冉、観音坂、世話になったな」  一二三と銃兎が別れを告げ合う横で、理鶯の言葉に独歩が頭を下げている。その光景が、寂雷にはひどく明るいものに見えた。 「理鶯、これ……」 「ん」  理鶯が寂雷の差し出した袋を受け取る。中をちらりと覗いた理鶯が険しい顔をした。寂雷に目を合わせると、真剣な顔をした彼がこくんと小さく頷く。しかし、それは一二三の声ですぐにいつもの表情に戻った。 「センセ、次銃兎ちんと会えるのいつ」 「えっ どうだろう……銃兎くんの用事もあるし」  困ったように眉を下げる寂雷の助け舟を出すように、理鶯が後の言葉を引き取る。 「また小官が連絡しよう。それでいいか」 「うん りおっちありがとう」  理鶯に抱きつきそうな勢いの一二三を、慌てたように独歩が止める。すっかり慣れきった二人の動きに、銃兎はくすっと笑った。その表情を見て、理鶯は密かに胸をなでおろす。 「……そろそろおいとましよう、銃兎」  理鶯の言葉に素直に頷いた銃兎は、少し名残惜しそうな顔をした。それほどにこの二人と打ち解け合えたなら何よりだ、と理鶯は思う。 「はい……あの、先生、ありがとうございました……一二三さんも、独歩さんも」 「気をつけて」 「いーえ またね」 「また話しましょう」  三者三様の言葉を返され、二人は寂雷の家を出た。理鶯の車に乗り込むと、それは静かに発車する。助手席に乗った銃兎は、ぼんやりと外を見つめていた。 「銃兎、帽子を被った方が良い」  理鶯の言葉に銃兎は首を傾げる。しかし何となく警戒心を感じ取ったのか、黙って帽子を自らの頭に載せた。その様子に理鶯は知れず息をつく。  寂雷の表情からして、あの資料はおそらく愛好家の情報だ。もしもこの辺りにいるとするなら、銃兎の外見は危険極まりない。  今日は車も今まで通り助手席に乗せていたが、いつかはまた隠れて生きなければならないかもしれない。理鶯は歯噛みをする思いだった。なぜフラッフィはいつまでも、ロトゥンを恐れながら生きなくてはならないのだろう。フラッフィも意思を持ち感情を持つ、ロトゥンと同じれっきとした人間だ。同じように幸せになる権利があるはずなのに、フラッフィに与えられたものはロトゥンに搾取されること。法律が施行されていたとしても、人の考え方が変わらなければ意味が無いのだ。 「……ね、理鶯」 「ん」  声を出したのは銃兎だったが、その声はどこか空虚だった。運転しているために銃兎の方を向けない理鶯は、ひたすらに彼の言葉に耳を傾ける。 「もしも…………私が働こうと思うって言ったら、どうします」 「…………伊弉冉たちに言われたのか」 「ええ、まあ…………何かやりたい事は無いのかって……それで、やりたいことって何だろうって……」  銃兎の口はぽつぽつと言葉を紡いだ。自分で言いながら言葉が纏まっていない。しかし、理鶯は何も言わず銃兎の言葉を待った。 「……何か、役にたてれば良いのになって、思うんです。理鶯でも、左馬刻でも。してもらってばっかりだから、何かお返しがしたくて……何すればいいのかわかんないんですけど……」 「……それで働きたい、と」  返事は無かったが、理鶯は銃兎の首が縦に動いたのを目の端に捉える。 「…………悪いとは全く思わない。実際、フラッフィを雇っている企業も増えてきているしな」 「はい……その、今まで、人に頼ってきたばっかりだから……なにか、自分でもできないかなって……」  銃兎の言い分はとてもよく分かった。自立して生きている一二三たちは、銃兎にとってはこうあるべきという見本であり、また願望でもあるのだろう。 「何かやりたい仕事はあるのか」  問いかけながら理鶯は考えを巡らせる。銃兎の考えからして自分の元で雇うのが一番なのだろうが、残念ながら人手の空きは特にない。左馬刻の元でこれからも暮らすのなら、別のエリアに派遣するのも憚られるものがある。 「………………銃兎」  静かになった銃兎に声をかけるが、返事がない。ちょうど赤信号になったところで助手席の方を見ると、窓に頭を預けた銃兎が眠っていた。仲良くなったとはいえ、一日慣れない人々と過ごしたのだ。疲れるのも当然だろう。  ふと冷蔵庫の中身を思い返してそういえば、と呟く。今日は時間が無かったので真っ直ぐに寂雷の家に来てしまったが、冷蔵庫に残っていたものは少なかったはずだ。せめて卵程度の物は買い足しておきたい。  スーパー、は流石に開いていないと踏んで近くのコンビニを目指す。銃兎は帽子を被っているからフラッフィだとはわからないはずだ。  駐車場には車が数台停まっているだけだった。銃兎が見えにくい位置になるところに停車させる。助手席側の鍵を閉めて、理鶯は外に出た。

■ □

「…………りおう」  目を覚ました銃兎は自分が暗い場所にいることに気がつく。嘗ての記憶が蘇り一瞬凍りつくが、よく見るとそこは理鶯の車の中だ。ひとまず安心した銃兎は、運転席側から外を覗いた。どうやらコンビニの駐車場に停められているらしく、店の明かりが眩しい。  と、その時のことだった。人影が銃兎の顔に落ち、窓が叩かれる。銃兎がそちらを見ると、フードを目深に被った何者かが顔をのぞき込んでいた。 「やっ……⁉」  思わず後ずさる銃兎の頭から帽子がずれ落ちる。露わになった耳を見たその男は、ニヤリと不気味に笑った。  男の手が車のドアに伸びる。銃兎は必死に鍵を閉めようとしたがそれよりも早く、男の腕がドアを開けた。そして、ゆっくりと、フードを落とす。銃兎は身体中に鳥肌が立つのを嫌でも感じた。 「……へえ、まだ飼われてんのか。ヤッてねえの」 「…………ちが、そんなんじゃ」  かつて自分を甚振っていた愛好家の言葉に、銃兎は必死に反論する。違う、理鶯とは、左馬刻とは、そんな関係じゃない。 「飼い主に聞いたのかよ ヤりたくねえの、って あーでもお前はカマトトぶってるもんなあ、そんなことも言い出せねえか。そんな身体でいつまで持つだろうなあ」 「ちがう、そんなこと言わない……」  銃兎は不安でぎゅうと目を瞑った。それはきっと半分以上が、願望だっただろう。 「飼いウサギとヤりたくなんねえ男なんざいねえだろ。お前の飼い主がインポかなんかじゃなけりゃあな。良かったじゃねーか、欠陥同士お似合いだぜ」  銃兎は思わず目を見開く。あり得ないといった顔の銃兎を男はせせら笑った。 「ま、俺にゃカンケーねえんだがな。せっかくドロップだってのにウサギとしての価値無しなお前だもんなァ……一生飼い主とオママゴトして死ねよ」  そう言う捨てた男はバタンとドアを閉めた。男の背中が遠ざかっていくのを、銃兎はぼんやりと眺める。  鈍器で頭を殴られた気分だった。自分は何ともないが、左馬刻は曲がりなりにもロトゥンの男なのだ。それなりの性欲だって抱えているだろう。それなのに銃兎のために、いつも早く帰ってくる。  そういえば、左馬刻は自分の事をどう思っているのだろうか。文句も言わずに世話を焼き、ともに暮らしているがその気持ちを聞いたことは無い。聞く機会もなかった、と思う。そもそも左馬刻は、銃兎の身体について知っている。その上で一緒に暮らしている時点で、許されているように思っていたのだ。でももしかしたら、自分よりも良いフラッフィがいたら、そのときは追い出されるのだろうか。それは仕方がないことなのだろうか。分からない。 「…………銃兎」 「え」  銃兎が顔を上げると、ドアを開けた理鶯が立っていた。その手にはビニル袋が握られている。 「どうした、何かあったのか」 「……いえ、起きたら理鶯がいなくて…………」 「ああ……すまなかった」  おずおずと助手席に戻ると、理鶯が運転席に乗り込む。持っていてくれ、と袋を渡されたので膝の上に置いた。中には卵などの食料品が入っている。  そっと理鶯の方を見ると、悩むような表情でエンジンをかけていた。何か言われるのかと銃兎は身体を強張らせたが、理鶯は黙ったまま車を発進させる。その様子を見て、銃兎は唇を噛み締めた。

■ □

 銃兎にとって理鶯の家は第二の家のようなものだ。数ヶ月ぶりに踏み入ったその場所は、依然として閑散としていた。もともとミニマリストな理鶯に習って、銃兎もの部屋も物は少ない。更に一部が左馬刻の家に移されたことで、嘗ての自分の部屋はベッドと机、あとは椅子くらいのものしか残っていない。 「銃兎、先にシャワーを浴びるか」 「…………え、ええ……」  どこかうわの空な返事を少し気にしながら、理鶯はバスタオルと着替えを出してやる。力なく微笑んだ銃兎はそれを受け取ると、バスルームへと消えていった。 「ふむ…………」  ため息のようなものが理鶯の口からもれた。決して気が付かなかったわけではない。 ──やはり、一人にさせてはいけなかった  何があったかは分からない。だが、今の銃兎はあまり良くないことを考えているように見えた。  丸一日全く違う環境で過ごせば、当然心持ちも弱くなる。それは寂しがりやのドロップに限ったことでもなく、フラッフィどころかロトゥンだってそうだ。銃兎はいつも自分がフラッフィだからと自分を卑下するが、精神的な面から見れば銃兎は充分に強いと理鶯は思う。  小さい頃から虐げられて来た人間の中には、心を病み自殺を図る者だって少なくない。そんな中ここまで生きてこられたことこそが証左である。それなのに銃兎はまだ自分は弱いと思い込んでしまって、自分に対する自信を失い続けているのだ。理鶯はもちろん、左馬刻だって銃兎を捨てることなどありえないのに。  左馬刻が銃兎を見る目には、必ず慈愛が含まれていた。性欲の捌け口にするでもなく、愛玩動物のように飼うでもなく、ただ純粋に、まるで家族と住んでいるかのように接していた。甲斐甲斐しく世話を焼いている左馬刻は幸せそうで、左馬刻と共にいる銃兎もまた、同じくらいに楽しそうに笑っていた。楽しく過ごせているなら良いだろうと思っていたが、問題は思ったより根深いらしい。  せめて何か眠れるものでも作ってやろうと、台所に立った。買ってきた卵を冷蔵庫にしまい、代わりに戸棚から瓶を取り出した。中には自家製のカモミールティーの葉が入っている。銃兎はこれをいたく気に入っていて、この家に住んでいた頃は毎晩のように飲んでいた。  遠くからパタン、とドアを開ける音がした。銃兎がバスルームから出てきたらしい。茶を入れるのならば、早めにしなければ間に合わない。  急いで湯を焚き、ポットに茶葉を流し入れておく。沸騰したら熱いうちに湯を注ぎ、蓋をして蒸らせば完成だ。 「銃兎、カモミールティーを入れたぞ」  リビングのドアを開け、ちょうど廊下に出てきていた銃兎に声をかける。飲みたいです、と言ってついてくる彼を確認して、理鶯は心の中で安堵の息を吐いた。 「すまないが、カップを」 「ええ、これで良いですよね」  うんと頷いた理鶯を見て、銃兎は花柄のついたカップを二つ取り出す。ポットを二・三度揺らした理鶯は銃兎からカップを受け取って、そこにカモミールティーを注いだ。独特の香りがふわりと漂う。すんと鼻を鳴らした銃兎が、安心したように息を吐き出した。 「変わらないですね」 「ああ、劣化が少ないように保管しているからな」  へえ、と微かに笑みを浮かべた銃兎に少なからず安心する。両手でカップを持った銃兎が椅子に座ったのを見て、理鶯も同じように腰掛けた。 「……懐かしい、ですね」 「そうだな……」  カップを見ながら銃兎が呟いた言葉に、そっと同意の声をかける。銃兎の瞳は心なしか、瞬きが多いように感じた。 「…………銃兎」 「えっ」  物思いに沈んでいるらしい銃兎に話しかけると、銃兎はハッと顔をあげる。 「……何か、あったのか」  緩慢に目を瞬かせる銃兎に、理鶯は慎重に言葉を選んだ。隠し事はしたくないが、今は何か察している事を知られない方がいいだろう。きっと銃兎は余計に気を遣ってしまう。 「…………いえ、美味しいな、と。理鶯の作るものは、何でも美味しいですから」  小さく笑った銃兎はまた一口、カモミールティーを飲んだ。 「家でも飲みたかったら持っていくといい。……左馬刻も気に入ってくれると良いが」  そうですね、とまた笑った銃兎は飲み終えたカップを持って立ち上がる。 「これ洗っておきますね」 「ああ……いや」  キッチンに向かう銃兎の顔は幾分か明るくなっていた。しかし、やはり疲れが見え隠れしているのが分かる。 「明日の朝にしよう。今日は疲れただろう そろそろ休んだ方が良い」 「…………じゃあ、そうします。おやすみなさい」 「ああ、おやすみ」  自分の部屋に入っていく銃兎を、理鶯はそっと見送った。

■ □

 自分の部屋に入った銃兎は、知らず止めていた息を吐き出す。理鶯に何か勘付かれただろうか。理鶯は勘が良いから、何を考えているかなんて割と簡単にバレてしまう。  理鶯はいつも優しい。それが銃兎だけに与えられているものではないということも、分かっている。一二三も独歩も、理鶯のことは口を揃えて『優しい』という表現をした。独歩はドロップだったのだから、余計銃兎と同じ感情を抱いているだろう。  それなのに、今は自分ばかりが理鶯に頼りっぱなしなのだ。銃兎がいる限り、理鶯は新しいフラッフィを預かることができない。理鶯から離れるために左馬刻のところに住むようになったのに、結局重荷になっている。  左馬刻にしても同じことだ。銃兎が来てから帰宅が早まり、家で仕事をすることが増えた。夜中に一度起きてしまった時、リビングで部下らしき人物に電話で怒っていた事を銃兎は知っている。そのときは驚いたまま眠ってしまったが、少し考えれば当たり前のことだった。家事は銃兎がやるようになって助かった、と左馬刻は笑って言う。だが、それすらも銃兎にとっては枷をつけているようにしか思えなかった。  銃兎がいなければ、左馬刻は今まで通り自由に生活できるのだ。仕事帰りに飯を食べたり歓楽街に寄ったりと、普通のロトゥンのように食欲だったり色欲だったりを発散することができる。せめて普通のフラッフィなら色欲の発散につきあってやれるのに、銃兎の身体ではそれすらも叶わないのが悲しくて堪らなかった。 ──欠陥同士、お似合いだぜ  車内で男に投げられた言葉が脳内で響く。左馬刻は優しいから銃兎を責めないだけだ。左馬刻が欠陥だなんて、そんな事があるわけがない。  それでも、我慢させているのは事実なのだ。銃兎がいなければ、左馬刻は今よりも幸せになれる。きっとそのことに左馬刻はまだ、気がついていないだけだ。  銃兎は強く、唇を噛み締めた。遅かれ早かれ決まっていた未来だ。きっと、少し近くなっただけ。  出窓の鍵を開けて、銃兎は身を乗り出した。南向きのこの窓は、銃兎が理鶯家にいた頃には完全にカーテンで覆われていたものだ。外を見ることを嫌った銃兎に配慮して、理鶯が遮光性のカーテンをつけてくれていた。  涙が出そうになった銃兎は、ぎゅうと奥歯を噛みしめる。沢山の優しさに別れを告げるのは辛い。それでも。 ──さようなら  口の中で呟いて、銃兎はそっと素足を地面に載せた。


 自室に戻った理鶯はパソコンでメールを打っていた。左馬刻が帰ってくるのは恐らく翌朝。それまでに仕事を片付けておきたいところだ。  寂雷から貰った資料はシンジュクで起こった『愛好家』の事件の一覧だった。ヨコハマから移ってきた連中もいるようで、警戒は怠れない。資料と自分のデータベースを見比べ、同一人物をピックアップしているとスマホが鳴った。 「もしもし」 「私だ。さっきの資料に補足があるんだけど、今大丈夫かい」  寂雷の声に理鶯はふ、と顔を緩めた。大丈夫だと答えれば良かった、と安心したような声が返ってくる。  補足はそこまで大したことではなかった。愛好家の情報は逐一更新される。全国にいる理鶯の仲間たちはお互いに連絡を取り合ってデータを更新しているが、寂雷はシンジュクにいる仲間からも得られないデータを持ってくる。理鶯はそんな寂雷を密かに頼りにしていた。 「そういえば、銃兎くんは大丈夫」  一通り情報交換が終わったあとで寂雷がふと尋ねた。寂雷は初めて銃兎に会ってからずっと、銃兎のケアを担当している。そういった意味では、理鶯以上に銃兎のことを知っているであろう人物だ。銃兎の様子が気になったのは必然かもしれない。 「今は落ち着いて寝ているようだが。昼間に何かあったのか」 「うん……何もなかったならいいけど……。少し彼の今後に関わるかもしれない、から」  いつになく歯切れ悪い寂雷の言葉に、理鶯は密かに首を傾げた。 「伊弉冉や観音坂と仕事について話したのではないのか その話は聞いたが」 「ああ、うん…………。それもそう、なんだけどね。銃兎くん、ちょっと人生に迷っちゃってるみたいだから……」  寂雷の心配そうな顔が目に浮かぶようだ。確かに先程の様子を見ると、銃兎の様子は尋常とは言えなかった。しかし、これからについては銃兎が自分で決めるべきなのだろうと思うと、理鶯はああしろこうしろとは言えない。 「銃兎くんは、こう言ってはなんだけど自己否定的な考えをしてしまいがちだろう だから心配だったんだ……早く、やりたいことが見つかると良いのだけれど」 「そうだな……」  電話越しに重い空気が流れる。銃兎のやりたいことは、銃兎にしかわからないし、銃兎にしか見つけることができない。理鶯たちにできるのは、その手伝いだけだ。 「……ごめんね、こんな遅くに。また何かあったら教えて。いつでも手伝うから」 「あ、ああ……分かった」  曖昧な返事をしたまま、理鶯は電話を切った。悪い空気を振り払うように切れた電話は、どこか不安を助長させる。  ふと、銃兎の部屋の方角を見やった。彼はきっともう眠ってしまったのだろう。明日また少し話してみようかと、理鶯はパソコンのディスプレイに目を戻した。

■ □

 ドンドン、と何かを叩く音で理鶯は目が覚めた。どうやら玄関のドアが叩かれているらしい。手元にあったスマホは朝の八時を指していた。更にはいくつか着信が入っている。左馬刻からだ。どうやら彼がドアを叩いているらしい。 「おう、理鶯」 「ああ、おはよう左馬刻」  急いでドアを開けると、焦った顔の左馬刻があった。外は雲が晴れ始めた頃で、ほかに人気は無い。 「電話しても出ねえからビビったぜ」 「すまないな。寝落ちてしまったようだ。上がってくれ」  ああ、と頷いた左馬刻は大人しく理鶯の言葉に従って中に入る。銃兎はきっとまだ寝ているのだろう。部屋の中から音は聞こえない。 「コーヒー それともカモミールティーか」 「コーヒー」  即決で決める左馬刻に思わず笑みが零れた。人に気を遣って考えすぎる銃兎とは真逆だ。そんな彼も銃兎も理鶯には、同様に愛おしく思える。 「銃兎はまだ寝てんのか」 「ああ、昨夜は疲れていたようだったからな。だが、そろそろ起こしてやったほうが良いかもしれないな。生活リズムが崩れすぎるのは良くない」  できたてのコーヒーを左馬刻の前に置いてやると、礼を言って左馬刻は口をつけた。左馬刻とはコーヒー好きという点でも気が合う。 「俺んちだと起こしに行くまで寝てるぜ。たまにコーヒーの匂いにつられて自分で起きてくっけど」  コトン、とカップを机に置いた左馬刻は勝手知ったる顔で廊下に出ていった。おそらく銃兎を起こしに行ったのだろう。簡単ではあるが朝食を用意してやろう、と調理器具を取り出しているとバタバタと足音がして、左馬刻が帰ってきた。 「銃兎が、いねえ」 「なんだと」  焦った顔の左馬刻にとにかく来てくれ、と言われて銃兎の部屋に向かう。ベッドは使われた形跡は見えず、一つだけ取り付けた窓は開いたままカーテンがはためいていた。 「……まさか、外に出たのか」  考えられる可能性はそれぐらいしか無い。しかし、この部屋には靴は置いていなかったはずだ。まさかとは思うが、素足のままで出ていったのだろうか。 「とにかく、まだ近所にいるかも知れない。探してみようぜ。親爺にも連絡する」 「……そうだ、な」  先に我に返った左馬刻に続いて、理鶯も慌てて玄関に向かった。家を出たところで、二手に分かれて捜索することにする。街の方角に向かった左馬刻を見送り、理鶯も反対側へと足を進めながら仲間に電話をかけた。

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