【番外編】うさぎとシーズンを過ごすこと
今日がキスの日だと聞いて突貫で書き切りました
銃兎がシーズン中のお話です.本編では#2と#3の間となります
うさぎが飼い主の口の周りにちゅっちゅしてくるのは愛情表現なんだとか,可愛いけれど衛生面では気を遣いたいところですね……
この小説におけるうさぎバースの説明
→novel/13644558
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銃兎がシーズンに入ってから三日が過ぎた。元々口数の多くない彼は、シーズンに入ってから寝ては起きてを繰り返してばかりいる。起きた合間に食事を摂らせてはいるのだが、首を振って拒否することの方が多い。理鶯曰く、シーズンに入ったフラッフィは飲まず食わずのまま性行為を行うことが多いらしい。そのため、食べなくとも生命維持は不可能ではないとのことだったが、不安なものは不安だ。無理強いはしたくないが、栄養は摂取しなければ元気になるものもなれない。
「じゅーとー。昼飯オムライスだけど食うか?」
ベッド脇のテーブルにできたてのオムライスを置いて、眠っている銃兎に声をかける。浅い眠りだったらしく、すぐに目を開けた銃兎はスンと部屋の匂いを嗅いだ。
「オムライス、食う?」
もう一度聞いてやるとピクリと耳が動いたが、むずがるようにもぞもぞと布団の中に逆戻りしていこうとする。
普段であれば夜にとも思ったのだが、昨日から左馬刻は仕事で外に出ていたのだ。その分の食事も用意してはおいたのだが、殆ど口にした形跡はなかった。つまりは丸一日、何も食べていない状態である。流石に拙いだろうと考え、左馬刻は布団を捲った。
「おいじゅーと。眠いのは分かるけど食事はちゃんとしろって。元気になるもんもなんねーぞ」
不満げに瞼を持ち上げた銃兎に左馬刻は声を上げる。ちらりと匂いのするオムライスを見た銃兎は、渋々といった表情で上半身を起こした。
「ほら、熱いから気ぃつけろよ。トレーは持っててやっから」
スプーンを持たせ、オムライスの乗ったトレーを布団の上に置いてやる。漸く寝ぼけていた頭が醒めてきたのか、緩慢だった銃兎の動きも普段どおりに戻ってきた。オムライスがやはり熱いらしく、おっかなびっくりといった様子で口に運ぼうとしていたので、手を止めさせてふうふうと息を吹きかけて冷ましてやる。驚いた顔で銃兎が固まっているので食えよ、とスプーンを口の前まで改めて持っていってやると、我に返ったように口に入れた。その途端、僅かではあるが顔が綻ぶのが可愛らしい。左馬刻のオムライスは銃兎の好物の一つで、それが分かったのもつい最近のことだ。
二口目からは自らスプーンを差し出してきた。冷ませということらしい。同じように息を吹きかけてやると、小さく笑って自分の口に入れる。何にせよ、食事をしてくれただけでも充分だ。
結局、銃兎が口にしたのは皿の半分ほどだった。多めに盛ったのもあるが、やはり久々の食事で胃が多くを受け付けないのだろう。
「もういらねえ?」
オムライスを指さしてそう尋ねると銃兎はこっくりと頷いて、その皿を左馬刻の方に差し出した。そしてスプーンで一口オムライスを取ると、今度は左馬刻の口元まで運んでくる。
「なに? 俺の分も残しといてくれてんの?」
笑みが抑えられずそう言うと、銃兎は口を尖らせてん、というように強引に捩じ込もうとしてきた。
「わーったって、食うから。ありがとな」
左馬刻が口を開けると銃兎はその中にオムライスを放り込む。そして満足そうに微笑む銃兎に、ぎゅうと左馬刻の庇護欲が刺激された。
「なあじゅーと、俺様もベッドで寝てーんだけど」 オムライスを食べ終え、左馬刻が尋ねる。まだ昼間だが、夜通し動いていた左馬刻もそろそろ体力の限界なのだ。左馬刻の言葉にピコンと耳が動いて、銃兎は控えめにベッドの場所を空ける。どうやら寝ても良いらしい。礼を言って寝転がると、銃兎が擦り寄ってきた。あてつけのような行動を取り続けてはいたが、きっと寂しかったのだろう。いくらスイッチを入れられないとはいえ、シーズン中に一人で過ごすというのは精神的にも辛いものがあっただろう。役職柄休めないとはいえ、銃兎にはどうしても我慢をさせてしまっているのは確かだ。 身体を抱き寄せてやると、銃兎は鼻を口元に寄せてくんくんと匂いを嗅いだ。歯を磨いてしまったのできっと歯磨き粉の匂いしかしないだろうに、飽きることなく嗅ぎ続けている。 「どした? じゅーと。なんか匂いするか?」 声をかけても匂いを嗅ぎ続けているのでそのまま放置していると、やがて左馬刻だと認識したらしい。しかし今度は胸の辺りに顎を何度も擦り付け始めた。これはシーズン初日の夜から見られた行動で、理鶯に言わせると所謂マーキング、らしい。左馬刻の匂いを自分の匂いに書き換えたいのだろう、と理鶯は何故か嬉しそうに答えていた。 「じゅーとー。俺様ねみぃからもう寝るぞー」 ぽんぽんと頭を撫でながらそう言うと、満足したのかもぞもぞと体勢を変えて寝やすい位置に動いていく。その中で、銃兎の唇が己のそれに押し当てられるのを、左馬刻は朧気に感じながら眠りについたのだった。